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部活と刺客

「おい見ろよ。3Dの3人、今日も森の探索だとさ」

「すっごい頑張ってるわね~!」

「ボクたちも見習わないと」

「ああ、ゴリスキー様の筋肉素敵~~~!」


 砦を陥落させてから数日。己の未熟さを感じ取った3Dの面々は、放課後も自己鍛練と称して探索に繰り出す日々を送っていた。彼らにとっては今年が最後。このままだと卒業が危ぶまれる事に気付いたのだろう。

 聞いた話だと、卒業できる生徒の割合は全体の3割にも満たないらしい。つまり7割の者は戦闘員としては役立たずというレッテルを張られて学園を去ることになる。

 一部はエリート戦闘員の道へ、残りは非戦闘員としての日常に戻る。果たしてどちらが幸せなのか、こればかりは捉え方によるだろうな。


「ねぇメグちゃん、あの3人は無事に卒業できるのかなぁ?」

「大丈夫だろ。何せ()()()()()()()()()が付いているのだからな」


 砦を陥落させたあの日、クレセント学園を含む周辺はダンジョンで構成されている事を知ってしまったのだ。森に巣くう魔物は全てダンマスの管理下にあり、生徒の育成を強力にサポートしていたのだ。

 なるほどと思った。これまで死人が出なかったのは、あのカイザー4世とかいう奴がコントロールしていたからだと。

 ちなみにダンマスに関しては口外しないよう口止めされている。この事実を知るのは砦を制圧した者だけだからというのが理由だ。そして担任のマキシマムはカイザー4世に説教食らってたな。肩入れし過ぎだと。あの筋肉マッチョには良い薬だろう。


「メグちゃんは探索に出ないんだよね?」

「うむ、理由がないからな。グレシーは探索に出たいのか?」

「ううん、出ないよ? でもぉ~、そろそろ部活動には参加したいな~って。ね、メグちゃん♪」


 グレシーの笑顔がウザ――じゃなかった、怪しく写り込む。少し前から一緒に参加しようと誘われているのだ。


「言っておくが参加はしないぞ?」

「そんなぁ……」

「仕方なかろう、気に入った部がないのだからな」


 実のところクレセント学園には5つしか部が存在しない。内訳は……


 経済部、商業部、武道部、魔術部、防衛部


 以上の5つだ。

 さぁお前たち、これを見てどう思う? 私は失望した。くっそも面白くなさそうだからな。(←これには同意せざるを得ない)

 このラインナップから選べと言われるのは大変苦痛であり、正直どうでもよくなってくる!


「ね~~~ぇ、一緒に魔術部に入ろうよ~。メグちゃんなら得意でしょ~?」

「得意というより苦手なものがないからな。そんなに入りたければサトルを誘えばよかろう」

「誘おうと思ったけど逃げられちゃったの! だから~、ね?」


 そのウィンクと猫なで声は異性に対しては効果抜群だろうけどな。同姓の私からすればウザいだけだ。


「他にもいるだろうが。見てみろ、男子共が仲間になりたそうな顔でこちらを見ているぞ」

「え~? でもぉ、お友達とかに見られたら恥ずかしいし~ぃ」

「お前は藤崎○織か。だったら出てくるなと、大半の男が叫んでおるわ」

「む~ぅ……。あ、だったら新しく作っちゃうっていうのはどう?」

「新しく……だと?」

「うん。メグちゃんがやりたいと思った事をそのまま部活動にしちゃうの。魔王部とかどう?」

「ふむ」



~~~~~



「諸君! 私が何者か分かるか!?」

「「「魔王の化身、ルシフェル様で~す!」」」


「その通り、私がルシフェルであ~る! では私が目標に掲げている事は分かるか!?」

「「「世界中をルシフェル様バンザ~イというコールで埋め尽くす事で~す!」」」


「そうだ、世界中にルシフェルの名を(とどろ)かせるのだ! さぁ叫ぶがいい、お前たちの声で大地を揺るがすのだぁ!」

「「「ルシフェル様バンザ~イ! ルシフェル様ちょ~バンザ~イ!」」」


「それだけではない! 今の私は美少女だ、もっと誉め称えてプリーズ!」

「「「ルシフェル様バンザ~イ! メグミ様とってもキュ~~~ト!」」」


「ベリグ~~~ゥ!」



~~~~~



「いい! 実にいい! 何という甘美なる響き! まるでそこに山があったから登ったかの如く沸き上がる衝動! マジでキタコレ! 絶対作る、私は魔王部を作るぞぉぉぉ!」

「だよねだよね! じゃあ私がマネージャーね♪」




「…………」

「何でテンション下がるの?」

「いやだって……グレシーが居たら逆ハーレムにならないではないか」

「逆ハーレムって、メグちゃんは何を作ろうとしてるの……」

「いたって普通の魔王部だが?」(←普通とはいったい……)

「それ、絶対に許可されないやつだから」


 う~む、良かれと思ったのだが、普通というのは難しいものなのだな。(←哲学だなぁ)



『ルシフェル様、ラーカスター邸に()()()が現れたようです』

『客人だと?』


 私の脳裏にイケメンボイスが響き渡る。使い魔からの念話だ。彼には私の周辺で変化があった際に報告するよう命じておいたのだよ。


『で、()()()の方だ?』

()()()()()方です』


 ついに来たかと口の端を吊り上げる。ペルニクス王国に亡命して3年、そろそろレマイオス帝国が私の所在を掴んでもおかしくない頃合いだからな。


『分かった。客人の対応は私がやろう。お前は引き続き王宮を監視するように』

『御意』


 うむ、やはり魔王ともなれば優秀な配下を持つべきだからな。奴にはクレセント学園の生徒として過ごす半面、ペルニクス王国を含む周辺国の情報を集めてもらっているのだ。

 ちょうど2ヶ月くらい前だったか? 私1人だと限界を感じ、持てる魔力を使い果たす勢いで配下を造ってみたのだ。

 その甲斐あってかSランクの魔物に匹敵する存在を造り出す事に成功した。Sランクと言えば、それ1体で国1つを滅ぼせると言わせるほどの驚異であり、軍を総動員して対処しなければならないほどなのだ。


「ど、どうしたのメグちゃん、捕虜か何かを拷問して楽しんでやろうって顔をしてるよ?」


 おっといけない、つい顔に出てしまったようだ。


「何でもない。急用が出来たから先に失礼するぞ」



★★★★★



「おお、帰ってきたかメグミよ。さっそくだが客人が来ておるぞ」

「客人?」


 知ってはいるがな。わざとらしく父上に聞き返した。


「なんでもガラテイン家と縁のある御家の者だそうでな、その……是非ともメグミを引き取りたいと申しておってな、その……」


 父上が私の顔色を伺ってくる。このまま去ってしまうのではと思っているのだろう。


「フッ、心配せずともどこにも行かんよ」

「ほ、本当か? 信じてよいのか!?」

「もちろんだ。キッチリと断ってかるから安心してほしい。そして2度とここには現れないように言いつけてくるとも」


 そう、2度と()()()()現れないように――な。


「おおメグミよ、パパは嬉しいぞーーーっ!」

「だぁ~暑苦しい~~~ぃ! あぶらギッシュが移ったらどうしてくれる!」

「あ、あぶらギッシュ……」



 軽くショックを受けていた父上を引き剥がして応接室へと赴くと、身なりの整った老紳士の男とメイドの格好をした女2人が待っていた。

 3人が私に気がつくとメイド2人は黙って頭を下げ、男はにこやかな笑顔を向けてくる。


「やぁフランソワ、久しぶりじゃないか。ワシじゃよ、ヒルベルトおじさんじゃよ。ガラテイン家とは家族ぐるみの付き合いだった。こうして顔を合わせるのは10年振りになるだろうか。私のことは覚えているかな?」

「すまないが、まったく記憶にないな。誰かと間違っているのでは?」

「う~む、そんなことはないのじゃが……やはり幼少期の記憶は曖昧ということなのだろう。あの頃はよくヒル爺と呼んでくれたものじゃがなぁ」


 はいダウト。私はフランソワの記憶も共有しているが、ヒルベルトという人物とは接触していない。しかもこの男は偽名を名乗っているし、どちらにしろ真っ黒黒すけである。


「まぁそれはよいとしてだ。今日訪ねたのは他でもない、フランソワ、キミを引き取りに来たのじゃよ」

「ほぅ?」

「3年前の悲劇は聞いておるよ。ある日突然家族を失った悲しみ、ワシにも痛いほど伝わってくるのだ。あの日からの3年間、とても辛かったであろう? だが安心したまえ、キミの身はこのヒルベルトが責任を持って預かろう。なぁに、金の心配は無用だ。欲しい物は何でも買ってやるからな。さ、そうとなれば早く支度を済ませなさい。我々は馬車で待っておるからな」



 言うだけ言ってそそくさと退出していった。よほど連れ帰るのに自信が有るのか、はたまた単なるバカなのか。ま、私にかかれば全て後者になってしまうがな。

 そんなつまらん事を考えつつ外に出ると、先程の3名に加えて10人近くの軽装男たちが出迎えた。レマイオス帝国から来たのだよな? それなのに重装備の護衛が1人もいないのは怪し過ぎる。どう見ても機敏さを重視した編成だ。まるで室内で戦う事を想定したかのように――な。



「なんだ、手ぶらではないか。永遠の別れだというのに何も持たせてくれなかったのか。そんな薄情な家からは早く離れて正解だ。さ、馬車に乗るがいい」

「…………」

「よし、では出発だ」


 無言で馬車に乗り込むと、それが合図とばかりに即座に出発した。


「どうした、先程から口数が少ないな? やはり住み慣れた邸を離れるのは寂しいか」

「フッ、寂しくなどない。どうせ直ぐに戻るのだからな」

「むぅ? 直ぐに戻るとは……」

「ククク……分からぬか? こういう事だ――ストーンバレット!」



 ドシュ!



「がはぁ!?」


 不意に御者の男をヘッドショットで沈めた。驚いた馬が暴走し、馬車全体が大きく揺れる。


「うぉぉぉお!?」

「「キャア!?」」


「フッ、しばしの3Pを楽しむがいい」


 男とメイドがサンドイッチになった隙に馬車から脱出。外では軽装男たちがオロオロ。状況を理解する前に排除してやろう。


「軽装で山越えは冷えるだろう? すぐに暖を取らせてやろう――ファイヤーストーム!」

「「「ぎゃぁぁぁ!」」」


 成す術なく軽装野郎共は消し炭に。まだまだ本気ではないのだがな。仕方ない、残った3人は手加減してやるか。


「く、くそぅ、まさかバレていたとは。ガラテイン家を根絶やしにし、スマイリス家を罠に掛けたのは貴様だな!?」


 先程までの紳士的な態度はいずこへ。顔を真っ赤にした御老体がワナワナと震えながら小剣を構える。メイド2人も両サイドに並び、何らかの詠唱を開始した。


「おやおや御老体、さっきはお楽しみでしたね?」

「ふざけるな! このワシを……レマイオス帝国前方特殊支援部隊隊長であるこのワシをコケにしよってからに! 絶対に許さん、やってしまえぇぇぇ!」


御老体が叫ぶや否や、メイドたちの詠唱が完了。拘束魔法を放ってきた。


「「キャプチャーバインド!」」



 ガシィガシィガシィガシィ!



 両手両足にロープのようなものが絡み付く。人並の力では振りほどけない。


「グワァッハッハッハッ! バカめ、ワシを侮るからこうなるのだ。どうだ、何か言い残す事はあるか?」

「言い残す事か? フッ、短い人生だったな――」




「――()()()()()よ」

「なっ!? 貴様、なぜワシの名を! いや、そうか、貴様は鑑定スキルを持っているのだな? だから最初から分かっていたと」


 ほぅ、隊長なだけあって聡明だな。それでも五十歩百歩だが。


「分かっていたのは事実だ。散々周囲を嗅ぎ回られてはな、気付かぬ方が難しいだろう? まぁ私にたどり着いた連中は漏れなく葬ってやったが」

「ならば過去の前特隊も!」

「そうだ、全て私が殺った。中には私と同年代の少年もいたな? もちろん遠慮なく始末したが」

「――チィ、小娘がぁぁぁ!」


 悔しさに堪えられなくなったのか、ゲルザネスが小剣で突いてくる。身動きが取れないと思ったのだろうが、それは大きな間違いだ。



 バァァァン!



「そんな!」

「拘束が!?」


 拘束魔法から逃れることで小剣を回避。そのまま3人の頭上を越えて背後に着地した。


「くぅぅぅぅぅぅ……お前たち何をしている! 再度拘束せよ!」

「「ハッ!」」


 再びロープが絡み付くが結果は同じ。


「ダ、ダメです隊長!」

「我々の魔法では押さえられません!」

「バカな、このような事は一度も……」


「フッ、これまでは相手に恵まれていたのだろうが、私には通用せん。拘束魔法は相手より魔力が上回ってこそ効果があるのだ」

「ふざけた事を! 貴様のような小娘が我々の魔力を上回る事など――」




「あるのだよ」




「このようにな」



 ガシィガシィガシィガシィ!



「そ、そんな!」

「逆に拘束された――だと!?」


 相手の放つ拘束魔法をそっくり返してやった。


「さて、ここからは尋問タイムだ。お前たちの仲間はどのくらい入り込んでいる?」

「…………」

「だんまりか。残念だが、お前たちに黙秘権などない。話さぬのなら……」



 ギュゥゥゥゥゥゥ!



「あっぐ!? う"ぅぅぅ……」


 メイドの1人をそのまま縛り首に。すると効果はてきめんで、もう1人のメイドが手のひらを返してきた。


「い、言います! 我々とは別の後方支援隊が動いており、既に王族の何人かと接触を!」

「き、貴様ぁ!」


 ゲルザネスが止めようとするも、メイドの早口は止まらない。


「少なくとも3人の隊員が中枢に入り込むのに成功した模様で、時間をかけての乗っ取りを画策です!」


 ふむふむなるほど。ならば王都でのゴミ処理も必要ということか。年末の大掃除が捗りそうだ。


「よく分かった」

「こ、これで助けてくれるんですよね!?」

「ああ、その話だが――」



 ギュゥゥゥゥゥゥ!



「ぐぅ!? う"……げ……ぇぇぇ」

「――そんな約束はしておらんからな。まぁ悪くは思わんでくれよ?」


 メイドの期待も虚しく最初のメイドと同じ末路を辿った。


「さて、残るは貴様だけだが……」

「ままま待て! 取引だ、取引をしよう! 2度とお前には近付かない、だから見逃してくれ!」

「それだけか?」

「かかかか金もある! 馬車に積んだ荷物の中だ! 金貨1000枚はあるだろう! よければ全部くれてやる!」


 それはありがたい。ラーカスター家はそれほど裕福ではないからな。


「ではありがたく頂戴するとしよう」

「そ、そうか、では――」




「貴様を始末した後でな」




「――へっ?」



 ゴギッ!!



「ぐ……ぉ……ぇ」


 首を360度回してやると、すぐに何も言わなくなった。(←そりゃそうだろうな)


「さぁて、面倒だから馬車ごと持って帰るか」


 あ、馬車だけ見られたらコイツらはどうしたのか聞かれてしまうな。う~む……よし、この馬車はお土産にくれたことにするか。(←どうやって帰ったんですかねぇ……)


キャラクター紹介


ゲルザネス

:レマイオス帝国の前方支援特殊部隊隊長。ラーカスター邸を訪れた際に名乗ったヒルベルトは偽名で、フランソワの親族と偽り接触してきた。

 3年前に起こったガラテイン家の消滅とスマイリス家当主の死亡を知る重要参考人としてフランソワを連れ去ろうとするも、事前に把握していたメグミにより返り討ちに合う。

 頭の切れる優秀な人物だったのだがメグミの前に惨敗。本領を発揮することなく死亡した。

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