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中二病JK,異世界転生で更に悪化する!  作者: 北のシロクマ
最終章:無秩序のカタストロフ
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カタストロフとその後

 ラーカスター邸が真っ暗な闇に包まれてしまう。昼間だというのにランタンでも灯さなければならないと、邸のメイドたちが走り回っていることだろう。

 だが心配ない。メイドの中には元魔王ダイダロスのレッドや戦闘メイドロボのユラがいる。あの二人がスレイン子爵やアルス姉さん伝えているだろうからな。



 バタン!



「敵襲ですメグミさん! 外に異常が!」

「落ち着けフロウス。往生際の悪い(しぼ)りカスが這いつくばっているだけだ。ほれ、アレが正体よ」


 窓から外を見下ろしつつ庭先を指す。周囲の常闇(とこやみ)が1ヵ所に練り固まって行き、やがて人の形へと変化する。それは数日前に見たスクリーン上の魔王カタストロフの姿であった。


「……で、出てきてやったぞ、魔王ルシフェル……ゴホッゴホッ!」


 まるで病人のようにフラつく様を見たグレシーとフェイは頭にクエスチョンマークを掲げ、フロウスに至っては本当にアレが敵なのかと目で訴えていた。

 見かねた――というわけではないが呼んだのは私だし、奴の目の前へと着地する。


「みすぼらしくなったなカタストロフ。どうだ、千年振りの肉体は?」

「最悪だよ。二度と受肉はしまいと思っていたのだけどね……。だが――ゴホッ! こ、この肉体はすぐに捨てるのだから。新たな肉体はお前のを――ゴホッゴホッ!」


 まだ諦めてないらしい。


「おおかた僅かな思念をゴトーに練り込ませて脱出したのだろう。急であるが故に大幅に魔力を削いだ状態での受肉だ、その貧弱な肉体では長くは持たん。今のお前ではゴブリン程度にしか勝てんだろう。それでも私に挑むだと? フン、夢物語だな」

「そうでもない。理由は知らないが、この邸には魔力溜まりが多く存在する。そのお陰で受肉ができたのだよ。後は少しずつ思念を溶け込ませてお前を取り込むだけ。既に一部の思念による同化は始まっている。余裕ぶっていられるのも今のうちさ」


 余裕ぶってるのはコイツのほうなんだがなぁ……。


「あ~、うん。まぁそうだろうな。()()()()ではな」

「なんだ、負け惜しみか? 恨むなら詰めの甘い自分を恨むんだな」

「負け惜しみではない。つまり――」


 改めて私は姿()()()()()――いや()()()



 グィィィン!



「――()()()()()ですわ」

「!?」


 メグミだったはずのわたくしがトワの姿に戻って見せましてよ。そう、今までのはカタストロフを誤認させるための茶番。わたくしとキル子、ウワベとハントの提供でお送り致しました。

 ちなみに天井を突き抜けたゴトーの役はウワベが引き受けて(←強制です)くれましたわよ。


「ど、どういう事だ……、貴様……メグミではなかったのか!?」

「ええ。万が一にも貴女が潜んでいる可能性がありましたから。魔偽製造(マギプロダクト)で偽っておりましてよ」

「で、では私の送った思念は……」

「ええ。認証不備により消滅致しましたわ」


 ゴトーからの念話でカタストロフの思念が個人を対象として操れることを予め知っておりましたの。弱点として相手の性格や思想に合わせなければ上手くいかない事も。

 カタストロフはメグミの性格を知った上で思念を送った。そして長い年月を掛けてゆっくりと性格を歪めていくつもりだったのでしょう。ですが中身がわたくしなら上手くいかずに消えるだけ、こんなところかしら。


「クッ……クソッ!」



 ダッ!



 失敗を悟ったカタストロフが逃走を開始しました。


「そんな弱った身体でどこへ行くつもりです?」


 まぁ逃げたところで()()()()()()()()逃れられないのですけれど。



 バクッ!



「ぐわぁ!? か、身体が――」

『ウケケケケケ♪ どこに逃げようっていうのよ? アンタみたいな()()()を逃すわけないじゃない』



 バクッ!



「ガハッ! ――な、なぜだ、肉体だけならまだしも、思念まで食われているようなこの感覚はいったい!?」

『あ~らら。アンタ知らなかったんだ? このザルキールの街は私みたいな怨念が無数に憑依(ひょうい)してんのよ。思念の塊なんて塗り潰して終わり。反撃能力の無いアンタはただのカモってわけ』


 タワーからザルキールに憑依場所を変えた浮遊霊たちですわ。彼らが居たからこそ上手く行った作戦と言えますわね。


「クゥ……、な、ならば僅かな思念だけでも遠くへ――」

『それは無理だ。イグリーシアの脅威と分かった以上、逃がすつもりはない』

「や、やめろ、やめ――」



 バクッ!



 そして浮遊霊たちの最大戦力とも言える元アイリーン宇宙軍の守護神――リヴァイアサンですわ。最後は彼が丸飲みして終了と。


「終わりましたわよメグミ」

「うむ、そのようだな」


 終わりを宣言すると、渦中のメグミが上空からフワリと着地します。


「見事な手並みであったぞトワ。私の役割を完璧にこなしてくれたようだ。しかしカタストロフめ、呆気ない最後だ」

「そうでしょうとも。どれだけ優れた知能を持っていてもザルキールが魑魅魍魎(ちみもうりょう)の集う場所とは思わなかったのでしょう」


 あの浮遊霊もリヴァイアサンも、ついでにダンノーラ帝国の忍びまでザルキールに憑依しているのです。まともな神経の持ち主なら近寄らないと思いますわ。

 但し一般の方々には見えないでしょうから知らぬが仏でしょう。


「ところでウワベはどこ行った? 奴の発言には看過できない部分が――」

「おや? ボク、何かやっちゃいまし――」

「フン!」



 ドゲシッ!



「――ヘブポ!?」


 メグミの一撃でウワベが再び上空へ。口は災いの元と言います。落ちてくる前にしっかり学ぶと良いでしょう。


「ではメグミ、()()()()を守っていただきますわよ」

「仕方がない。トワが居なければこの作戦は上手くはいかなかったからな」

「では改めてスレイン子爵に挨拶して参りますわ!」


 無茶な要望ではありません。メグミの私生活を見て思うところがあったのです。



★★★★★



 さて、ここからはエピローグだ。私が関わった各国と友人知人がどうなったか触れていこう。



 カタストロフの一件が落ち着いてから数ヶ月後。レマイオス帝国の帝都イスカリオンにて、新皇帝ロンヴァールとペルニクス王国の代表クリエルフォート公爵が熱い握手を交わしていた。この日をもって、レマイオス帝国とペルニクス王国の国交が正常化したことが公にされたのだ。

 帝国の貴族のみならず、護衛として訪れていたオライオン将軍とその部下たちからも惜しみ無い拍手が送られている。


「内戦を沈静化させたロンヴァール新皇帝の手腕、実に見事でしたわ」

「いえ、そんな……」


 まだまだ幼いロンヴァールが照れ隠しで顔を背ける。前皇帝のロンダイトが死亡した直後、レマイオス帝国は内戦へと突入したのだ……が、すぐに収まった。

 理由は簡単、ロンヴァールに抵抗する連中を片っ端から撃破したからだ。

 そうなると「あれ、ロンヴァールに逆らったらヤバくね?」という空気になるのは当然であり、沈静化するのに時間は掛からなかった。


「此度の内戦が収められたのはボクだけの力じゃありません。メグミさんやトワさんには大きな借りを――」

「はい?」

「い、いえ、なんでもないです!」


 ちなみに暗躍したのはトワとその眷属たちで、これは私の要望によるものだ。何故かというとペルニクス王国(うちら)の国王があまりにもウザかったから。ザルキールで世界旅行がしたいと駄々をこねて王妃や娘たちにボコボコにされていたっけな。騒がなければ帝都に遊びに出ることも出来ただろうに、王妃に軟禁されて部屋で泣いている事だろう。



 続いてレクサンド共和国だ。ペルニクス王国とルバート王国の戦いを静観し、ルバート王国の陥落間際に横から掠め取った生意気な国だったが、ブチギレたペルニクス王国が破竹の勢いで攻め落としたのだ。

 そのため国内の治安が急速に悪化し、多くの国民が国外へと逃れる事となった。更に政権に対して不満を持つ集団が首都を襲撃すると議長も一緒に逃亡してしまい、もはや国内は荒れに荒れ――となる一歩手前で踏みとどまった。

 その理由は……


「あ? 獣人ごときが何の用だぁ? レクサンドの首都は俺たちオツベルトゾウ義賊集のもんだ。分かったらさっさと消えな!」

「まさか正規軍の生き残りだとか言わねぇよなぁ?」

「どっちにしろ1人でノコノコやって来るたぁバカ以外の何でもねぇ。そんなに死にたきゃ望み通りに――」

「……失せろ、雑魚共が」



 ズバズバズバズバズバズバズバズバッ!



「「「――――」」」


 断末魔をあげる間もなく、不当占拠した連中が斬り捨てられていく。そして一通りの駆除が終わったところで、何事かと集まった民衆たちに対して声高に宣言した。


「皆の者、心して聞くがいい。ボクは魔王ベルフェーヌ、虐げられし獣人たちを救済するため腐り切った共和国を解体し、新たな国家を築くために立ち上がった。か弱き獣人たち、そんな彼らと寄り添っても良いと考える種族たち、そして何よりボクを信じても良いと考える者たちよ、共に手を取り合い神聖レクサンド帝国を盛り立てて行こうではないか!」


 ベルフェーヌ本人も忘れかけていたことを実現するため、奴はレクサンド共和国に戻り自ら初代皇帝として立ち上がったのだ。奴の力を知れば自ずと混乱も収まるだろうし、かの国の心配は無用であろう。

 つい先日、たまには遊びに行っても良いかと念話を送ってみたのだが、「忙しいから来るな」と言われてしまった(←他人の迷惑を考えなさい)。連れない奴め。



 付き合いの悪いベルフェーヌは置いとくとして、次はアイリーンの北に位置するミリオネック商業連合国だ。

 この国はサトルの家系――正確には父親のユズルが権力を握っていたのだが、敵対するアイリーン宇宙軍と連携してペルニクス王国に対し破壊工作を行おうとしていたため、最大権力者のユズルを打倒。その後は放置していたので商人同士の争いが激化したそう。弱小商人はならず者へと身を落とし、治安も最悪だとか。事態を重く見たサトルはクレセント学園を中退し、治安悪化を解消すべく日々奮闘中とのこと。


「クソゥ、ガキの分際で厄介な……引け、引けぇぇぇ!」

「ガキは余計や! へっぴり腰のダサいオッサンがよぉ!」


 今日も今日とて得意の長棒で盗賊共をバッタバッタと薙ぎ倒していく。しかしいくら強くなったとはいえ、サトル1人で盗賊団を相手にするのは無謀だ。つまりはサトルをサポートするメンバーがいるのだ。



 バシバシドゴォ!



「んな! 俺の部下たちがぁ!」


 逃げようとする盗賊たちが不意打ちにより頭を残して倒れてる羽目に。


「貴方が盗賊団の頭ですね? 逃がしませんよ」

「な、何だテメェら!?」

「そこに居るサトルの仲間よ。残る盗賊団は貴方だけ。覚悟しなさい」

「ケッ! ガキの分際で調子に乗――」

「フンガーッ!」



 ドッゴォォォ!



「グッエェェェ……」


 ゴッツいドワーフから顔面ナックルを食らい、盗賊の頭は倒れ込んだ。ここにまた1つ盗賊団が消滅したのである。


「よし、上手く行った。かなりの数だったけど、倒したのは殆どサトルだね。やはり誘って正解だったよ」

「そんなん面と向かって言うなや」

「しかも動きが速いから偵察や回り込みなんかもお願いできるし」

「おぅ、任しとき!」

「おいどんの隣を任せられるのはサトルしか居らんわぃ!」

「むさ苦しいから勘弁な」

 

 サトルと共に盗賊を襲撃したのはクレセント学園の卒業生で、銀髪なイケメン獣人のライアル、金髪ハーフエルフのシェシタ、老け顔ドワーフのゴリスキーの3人、つまり3D(スリーディ)のメンバーだ。

 元はこの3人で冒険者パーティを組む予定だったのが、サトルが中退したのを聞き付けて勧誘しに来ているのだ。

 ミリオネックの国内が落ち着いたらパーティに加わるという約束を取り付け、日々悪党共を蹴散らしているらしい。


「ところでみんな、ミリオネックが落ち着いたらプラーガ帝国に行こうと思うんだがどうだろう?」

「ちょっとライアル正気なの? あの国はアイリーン宇宙軍の残したギアソルジャーが原因不明の暴走を引き起こしてるってリーリス先生から忠告されてるじゃない」

「シェシタは反対なのかい? ステップアップするにはより過酷な環境の方がいいかと思ったんだけど」

「あ~、それなんやけどな……」

「おん? なんじゃいサトル、何かあるならハッキリ言わんかぃ!」

「プラーガ帝国は大丈夫やと思うで? 何故か言うと――」



 次はサトルが言いかけたプラーガ帝国の現状だ。アイリーンから見て東になるな。

 リーリスの言葉通り制御不能となったギアソルジャーが各地で暴れているのだ。そこへ不満分子が集結して反帝国の狼煙(のろし)を上げているとか。宇宙軍の置き土産に帝国の連中も頭を抱えているところへ、ツェンレンを筆頭とする勇者たちが各地を併走。ギアソルジャーを破壊しまくっているらしい。


「ギギギギ……、敵……発見!」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!? 私はただの一般人ですぅ!」

「ギギ……敵は……殺……ス!」



 グシャッ!



「ふぅ。このような辺境にまでギアソルジャーが現れているとは」

「あ、貴方はもしや、今噂になっている勇者パーティの!」

「はい。大役職(リードロール)はマジシャンのツェンレンと申します。お怪我はありませんか?」

「私は大丈夫です。――あ! それよりあっちの広場にもギアソルジャーが――」

「それなら心配いらないゾ~」


 やって来たのはザ・ムーンのククルルで、彼女の指す広場には何体ものギアソルジャーが積み重なっていた。


「ありがとう御座います! 何も無い過疎地の村ですが、せめてお茶だけでも――」

「いえ、まだ他の場所ではギアソルジャーが暴れていますので」

「エ~? ククルルは一休みしたいゾ~。こういう村の茶菓子こそ美味かったり――」

『2人ともお疲れ様。悪いんだけれど至急次のところへ向かってちょうだい。ギアソルジャーを意図的に操っている魔術師が居るみたいなの』


 ツェンレンとククルルに念話が入る。送り主はリーリスで、互いに連携しながら国内の混乱を収めようと躍起だ。補足すると、一応リーリスは休職扱いとのこと。


『承知しました。ではククルル、行きますよ』

『……むぅ、なんでリーリスは単独なのにククルルはツェンレンと一緒なんダ? こんなの不公平だゾ!』

『それは貴女がサボるからでしょ!』


 分かる。いかにもサボりそうだからな。


『ククルル、文句を言ってないでそろそろ出発しますよ。ところでリーリスさん、話は変わりますが、メグミさんには正体を証さないのですか?』

『ああその話? フフ、いいのよ。何でも教えてしまうのは教師として問題ありだもの』


 残念ながらリーリス、お前の正体が隠者(ハーミット)なのはバレておるぞ。秘密にしていると思ったから黙っているだけだ。


『む~ゥ、ククルルは疲れたゾ~。どうせならルミナも連れてくれば良かったんだゾ』

『そうはいきませんよ。ルミナさんはアレクシス王国で大きな信仰を集めている存在なのですから。彼女抜きでアレクシス王国の復興は無理でしょう』



 ではアレクシス王国に移ろうか。アイリーンの西にある大国で、アイリーン地上軍と強い結び付きのあった国だ。

 宇宙軍と組んだミリオネック及びプラーガに攻められて危機的状況にあったらしいが、ミリオネックの内戦とラヴィエル死亡が重なって何とか踏みとどまったという感じか。

 そんなアレクシス王国の王都にあるフォーチューン神殿。今日もルミナは待ち受けるであろう受難を先読みしていた。


『この先……遠くない未来に待ち受けるものは何か……』

「ルミナ様」

『ここまでは何も無し。もっと先を……近隣諸国を含み、もっと広い視野で……』

「ルミナ様!」

「ひゃあ!? な、何ですか騒々しい。瞑想(めいそう)中に邪魔をしてはなりません」

「そう申されましても、国王様からの登城命令が下りましたので、お伝えしないわけには……」

「はぁ、またですか……」


 ミリオネックやプラーガ程ではないにしろ、アレクシス王国も充分に荒れていた。他国のように反乱分子が現れないとは言えず、戦々恐々の日々を送っているのだろう。


「くだらない事で瞑想の邪魔をしないこと、宜しいですね?」

「く、くだらない!?」

「だってそうじゃないですか。国政を行うのはあたしじゃないんです。謁見したところで何も変わりませんよ」

「そ、そうかもしれませんが、一応は国王命令で……」

「ア~ア~、聴こえない聴こえない。用がないなら立ち去りなさい」

「はぁ……」


 まったく……と、内心タメ息をつき、再び瞑想に入るルミナ――だったが……


「ルミナ様、メンヒルミュラー様から通信が――」

「言ったでしょう? くだらない事で邪魔をしないように」

「え!? で、ですが、メンヒルミュラー様は他国の君主で御座いますし……無視をするのは無礼にあたりませんか?」

「あの人は例外です。どこの世界に「ねぇねぇルミナっち~、今ちょ~っち暇してるからお茶しな~い?」とか言うバカ君主が居るんですか」(←居るやん)

「ま、まぁ確かに……」

「邪魔をしてはなりません。何度も言わせないでください」

「はぁ……」


 メンヒルミュラー、多忙なのかと思いきやそんな事はなかったらしい。


「ルミナ様、マリアンヌ様から通信です。明日こちらに用があるそうなのですが、天気予報を教えてくれと」

「あ、あの女、あたしを気象予報士か何かと勘違いしてませんか……」

「それで天気予報は? 私も明日は彼氏とのデートの約束が――」

「知りません! というか教えません! くだらない事で邪魔しないで! ついでにリア充爆死しろ!」


 相変わらずマリアンヌは運搬の仕事をやっているようだ。輸送機持っているのはアイツだけだしな、いい商売だろう。


「むむ? そういえばそろそろオヤツの時間では――って、とっくに過ぎてるじゃありませんか! どうして教えないのです!?」

「ええ……。ですがくだらない事で邪魔をするなと……」

「三時のオヤツほど大事なものがこの世にありますか!?(←山ほどあります) まったくもう、これからオヤツの時間ですから絶対に邪魔をしないように、いいですね!?」

「は~い」(棒声)



 多忙なルミナとは反対に、グロスエレムの教祖メンヒルミュラーは暇そう――という事はまったくない。というより空席となったアイリーンの後継者に何故か立候補し、対抗馬が出なかったためにそのまま後継者となってしまったのだ。

 アイラはどうした? と多くの者が思うだろうがそれは一旦避けといてだ、まずはアイリーンのその後を紹介しよう。


「――というわけで~、今日からウチ――メンヒルミュラーちゃんがアイリーンの後継者となりま~す! グロスエレムの民も~、宇宙の人たちも~、アイリーンに居た人たちも~、み~んな仲間になっちゃいました~! そんな感じで~、これからも応援よろしくね~ん♪」


 等と調子の良いことを言っている模様。大まかに三つの種族が一気に集結するのだ、舵取りに苦労する事だろう。

 しかし奴にとっては渡りに船だったようで、アイリーンの施設を丸ごと利用できるメリットは大きい。砂漠でチマチマ緑化するより遥かにマシと言えよう。地上軍に滅ぼされたグロスエレムが地上軍の後釜とは皮肉な話だがな。

 ああ、周辺国から反対意見は出なかったのかって? 何とも不思議な話だが、まったく出なかったようだ。というより各国それどころではなく、勝手にしろという感じだろう。



 では最後にザルキールの街だ。ここはなぁ……まぁ見てもらったほうが早いな。


「な、なな、なななな……」

「あら? どうしたのメグミちゃん、そんなに顔を青くして」

「そんなところに突っ立ってないで、メグミも一緒に茶でも飲んで寛ぐと良い」

「いや、そうではなく……」


 リビングで寛ぐアルス姉ちゃんとスレイン子爵という図。そこは良い、良いのだが、その対面に座っている人物が問題なのだ。


「……トワよ、何故ここにいる?」

「何を不思議そうに仰いますか。これからわたくしも()()()住むと言ったはずですわ」

「ここって……ザルキールに住むとは言っていたが同じ邸に住むとは聞いておらんぞ!」

「ですがスレイン様の了承は得ましてよ。メグミがいくら叫んだところで無駄ですわね」

「ぐぬぬぬ…………はぁ」


 最後には脱力してしまった。ある程度の予想はしていたからな。カタストロフを始末するためトワからの見返りとして、ザルキールに住む許可が欲しいと言われたのだ。その程度ならと安請け合いしたのが間違いであったな……。


「あ、あのぅ……」

「ん? どうしたフロウス、心配せんでもこんなところで喧嘩はせんぞ?」

「いえ、そうではなく、中庭の方でまた喧嘩が始まってしまい……」

「またか」


 ここ最近の頭痛のタネとも言える現象で、憑依している浮遊霊たちと魔剣アゴレント、それから戦闘メイドのユラが度々衝突するという不定期イベントだ。

 なぜそのような事が起こるのかと言うとだな……


『コラァ! 私たちはゲストよ!? 遊びに来てやったんだから持て成しなさい!』

『そうだそうだ! 茶菓子を備えろ~!』

「……相変わらずウルサイですね? 掃除の邪魔です、とっとと浄化なさい」

「ってコラコラ~! 勝手にボクを振り回すな~!」

『まったく……。あまり人様に迷惑を掛けるでないぞ』(←もう掛けてます)


 ――とまぁこの事態にはリヴァイアサンも困惑しているようだ。しっかし騒がしい連中だな。


「フロウスよ、好きなだけやらせておけ。いずれ静かになる」

「はぁ……」



 ボゴン!



「おっと、またダンジョンかな? アイラくんも元気でよろしい!」

「フフ、そうですわねお父様」


 この2人も肝が座ってきたな。今の爆発音は何かの実験だろう。

 それでダンジョンなのだが、結局アイラは邸の地下に永住することに決めたらしい。つまりアイリーンには戻らないと言うのだ。

 理由を聞いてみたのだが……


「だって、遺産みたいに受け継ぐから身内の争いが発生したんじゃない。争うくらいなら最初から無いほうがいいわ」


 ……だと。それで一から成り上がってやると息巻いておるぞ。だが邸の地下では一からとは言えぬのではないか? という疑問に対しては……


「ノーコメントで……」


 ……と抜かしよったわぃ。まぁそのくらい図太い神経でなければ生き残れんとも言えるがな。


「むぅ? メグミにトワ、そろそろ()()()()ではないか?」

「「あっ!」」


 スレイン子爵に言われて思い出す。今日はアイリーンにてバトルロイヤル・アンジェラ杯が開催されるのだ。出場者は……


「フッ、よく来たな挑戦者たちよ。だが妾に挑もうとは百万年は早いぞ!」

「では帰ってよいか?」

「まま待て待て! 今のは冗談だから、帰っちゃ嫌なのだ!」


 見るがいい。成人した女が私やトワという未成年を前にして駄々を捏ねる姿を。そもそも定期的にアンジェラの相手をしてやらんといけないからこんな催しを行っているのだ。それがなければ誰も集まら――


「安心するといい、バハムートのアンジェラ。このゴトー、玉砕覚悟で挑ませてもらおう!」

「右に同じだ。アンジェラよ、お前は魔王ダイダロスとして復活した我を倒せる可能性。その力、見せてもらおう」


 居たよ脳筋共が……。


「キャーーーッ! 私のゴトーくん頑張ってーーーっ!」

「「「ファイトーッ! ゴトーッ!」」」

「うむ。アレが噂の魔王ダイダロスか。その実力、いかほどのものか」


 観客席ではグレシーを始めとするクレセント学園の女生徒たち、そして学園長のポセイドまで来ている。

 ちなみにゴトーはアップデートされたままで、桁違いな力は健在だ。そのためゴトーにはアイリーンにて住み込みでアンジェラの相手をしてもらっているのだ。そこへ魔王ダイダロスも加わった感じだな。

 だがいつまでも奴らだけにデカイ面をさせてはおけん。


「アンジェラよ、此度は私とトワも挑ませてもらうぞ」

「良い良い、数は多い方が楽しめる」

「正確には()()()()()ですわね」

「うん?」

「行くぞトワよ!」

「よろしくてよメグミ」


 そうしてアンジェラたちの目の前で行う究極合体。


「「魔神ルシターンここにあり!」」

「おおっ! お主ら合体できるのか!」

「「この日のために研究していたのだ。さぁ、始めますわよアンジェラ!」」

「フッ、面白い。全員まとめてかかってこい!」


 ここに四つ巴の頂上決戦が開催された。

 しかし結果に関係ないなく、この平和がしばらく続くものと願わずにはいられない。


「トワーーーッ! 俺は信じてるぞーーーっ! トワーーーッ!」


 観客席で一際ウルサイのは魔王アスタロイだ。いったい何を信じてるのやら。

 ただ1つ、間違いなく言えること。それは……


「私の中二病は治りそうにない」


 ……である。


ここまでありがとう御座いまた。ご縁がありましたら別作品で。それでは!

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