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赤線の先

「ここって既にレッドラインの先なんですよね? 危なくなったら直ぐに引き返しましょうね? ね? ね? ね? ね?」

「心配いらん。私の側から離れん限りはな」

「メグちゃん、もう一生離れないから!」ヒシッ

「ええぃ暑苦しいわ!」


 先ほどからビクついているグレシーを背中に張り付かせながらも、森の奥へと進んでいく。そう、先日マキシマムが発言した通りの展開だな。

 メンバーは7人。マキシマムを筆頭に私とグレシー、おまけのサトルと3Dというパーティだ。


「ハッハッハッハァ! 正面は先生に任せとけ、ここいらの雑魚なんざ朝飯前だからな!」

「そ、それだと授業にならないのでは……」

「何を言うんだライアル、戦闘を間近で観察するのも授業の一環だぞ?」

「でも私たち以外は教室で自習なんですよね? これだと公平さが……」

「かぁ~、お前もかぁ。つ~かライアルもシェスタも考えが固すぎなんだよ。これもクラス委員の特権だと思っとけって。なってて良かったクラス委員ってな感じでよ、な?」


 まったく、とんでもない不良教師ではないか。ここでの台詞をリーリスにバラしてやろうか。


「ほなワイの場合はどないなんねん。クラス委員ちゃうで?」

「「いや、お前も既にクラス委員だから」」

「ほげぇ!?」


 私とマキシマムの声がハモる。私としては面倒なクラス委員に下僕を巻き込んでやったのと、マキシマムは少しでも死傷者の出るリスクを減らそうとした結果なわけだ。正にういんウィンウィンというやつだな。



 シャシャシャシャシャシャ!



「――っと危ねぇ、さっそくお出ましだぜ!」


 木陰から針を飛ばしてきたのはEランクのウッドヘッジホッグ。巨大なハリネズミで、武器や魔法の使用が推奨される魔物だ。飛ばしてくる針には要注意だな。


「俺が注意を引き付けとく。お前たちで倒してみろ」

「っしゃあ! おいどんが行くぞぃ!」


 後先考えずにゴリスキーが殴りかかる――が、



「いだだだだだっ! コイツの全身は針で出来ておるわぃ! 皆、注意するんじゃあ!」

「「「…………」」」


 見りゃ分かるんだがな。IQの低いやつには素手で行けそうに見えるらしい。


「下がるんだゴリスキー、魔法ならボクとシェスタに任せてくれ――ストーンバレット!」

「見せてやりましょう、ウィンドカッター!」


「ピギィィィ!」


 だいぶ弱まったがまだ生きているな。


「フッ、ならばトドメは私が刺してやろう。小賢しいハリネズミなんぞ下級魔法で充分だ、ファイ――」

「トドメだぁ、熱気弾!」



 ボォン!



 決めポーズをとっている間に(←バカかお前は)マキシマムに先を越され、ウッドヘッジホッグが弾け飛んだ。


「フハハハハ! 見事な連携だったぞお前たち。素手がダメなら魔法で掛かる。この切り替えが命運を分けただろうな!」

「な~にを笑っておるか、しれっと私の出番を横取りしよってからに!」

「ハッハッハッ! メグミよ、この世は弱肉強食だ。誰よりも先に獲物を仕留める。大切な事だぞ?」

「ならば私からも教えてやろう。敵に隙を見せるのはバカのする事だぞ?」

「んん? 何を言って――」



 シャシャシャシャシャシャ!



「いっっっでぇぇぇぇぇぇ!?」


 ウッドヘッジホッグの針がマキシマムの尻に突き刺さる。別個体が現れたのだ。


「ファイヤーボール――っと。やれやれ、このような場面をリーリスが見たら何と言うだろうなぁ?」

「い、今のは違うぞ? 油断したらこうなるぞという事をお前たちに見せてやったんだ。リーリス先生だって分かってくれるさ」

「どうだか」ニヤニヤ

「メグちゃん、凄くいい笑顔だね」


 人の不幸は蜜の味――とまでは言わんが、マキシマムの場合は少し懲りた方がよいのだ。リーリスと並べば美女と野獣だからな。

 ま、邪魔はせんぞ? どうせ相手にされないだろうし、せいぜい玉砕してくるのだな。(←辛辣ぅ!)


「ぐっ……。と、とにかく先に進むぞ。我々の目的は森の奥にある砦だ」

「「「砦?」」」


 マキシマムの話によると、奥に進むと魔物が占拠する砦があるらしく、生徒が攻め込んでくるのを手ぐすね引いて待っているそうな。今回の目的はそこを攻略する事らしい。


「本来であれば三年生が卒業するための必須項目なんだがな。任された教師が戦力的にいけると判断した場合は攻略してもよいとされている」

「し、しかし、ボクたちだけで挑むのは……」

「案ずるなライアル。とっても強くて賢いメグミが居るんだ、攻略ならメグミに任せてちまえばいい。そうだろメグミ?」ニヤニヤ


 この不良教師め、私に丸投げする気か。実績を作ってリーリスにも良い顔を出来ると考えているな?

 利用されているようで良い気はしないが……


「まぁいいだろう。雑魚相手でつまらんと思っていたところだ、1つド派手に攻略してやるとしよう。この魔王の化身たるルシフェルが――」(←はいカット)



★★★★★



「――で、アレが砦だな?」


 全員で茂みに身を隠しつつ、開けた場所に建つ砦を確認。僅か1時間ほどで到着できるとは思わなかったな。


「やっと着いたんだね。も~くたくただよ~」

「グレシーにとっては初めての連戦だからな。だいぶ戦い方も分かってきただろう?」

「お陰さまで……」

「ハッハッハッ! なんだ、グレイシーヌはもうへばってるのか。これから砦を攻め落とすんだ、そんなんじゃ最後まで持たないぞ?」


 そりゃマキシマムとグレシーの体力は雲泥の差があるのは事実。へばるのも無理はない。

 3Dの連中だってグレシーに毛が生えた程度だ。この場でついて行けるのは私とサトルだけだろう。

 そんな状況を知ってか知らずか、マキシマムが得意気に作戦を告げる。


「いいか、よく聞くんだ諸君。我々の目的は砦を陥落させることにある。ボスを倒して砦の所有権限を奪えば任務完了だ。まず俺は砦の中にいる魔物を外に誘い出す。俺が注意を引き付けているうちに他のメンバーで砦に侵入し、速やかにボスを排除してくれ。頼んだぞ!」


 そう言い残し、マキシマムが飛び出して行った。


「ハッハッハッ、出てこい雑魚共ぉ! 俺は逃げも隠れもせんぞ~~~ぅ!」


「ガゥガゥ?」

「ギャギャギャギャ?」

「プギーップギーッ!」

「「「ギャギャ!」」」


 砦の二階で監視していたゴブリン共がオークにどやされ飛び降りてきた。正面の入口からは別の魔物も迎撃に出ている。上手く誘導できたようだな。


「うむ、これで中は手薄のはず、一気に攻め落としてくれようぞ」

「だが待ってくれ、入口からは散発的に魔物が出てきている。下手をすると前後で挟まれしまう」

「ふむ、ライアルの言うことも一理ある。ならばこうしよう――そりゃ!」

「ぬおぅ!?」


 ゴリスキーを砦の二階に放り投げ、ライアルとシェスタの手を取ると、私も二階へと大ジャンプ。背中に張り付いていたグレシーを下ろし、これで全員が砦に侵入でき――


「ちょい待てや、ワイを置いてくんやないで!」


 文句を言いつつサトルも大ジャンプ。


「お前なら自力で来れると思ったまでだ。それよりも、そこで逃げ腰になっているオークを倒してしまおう」

「ピギッ!?」

「「「おおっ!」」」


 抜き足差し足で逃げようとしていたオークに3Dが襲いかかる。オークはEランクだが3人がかりなら楽勝だ。


「幸先いいな、この調子で行こう」

「ええ、行きましょう」

「おぉう!」


 モチベの高い3Dを先頭に三階を目指す。外から見た限りは三階の小部屋が見えたからな、恐らくボスもそこだろう。



「ガゥガウ!」

「ファイアー」



 ボムッ!



「ピギピギィ!」

「ファイヤーボール」



 ボォン!



「グォォォ!」

「フレイムタワー!」



 ゴーーーッ!



「あのぉ……メグミさん」

「フレイム――っと危ない、間違えてライアルを撃つところだった」

「そ、それだけは勘弁を!」

「で、何だ?」

「どうしてそんなに魔法が得意なんですか?」


 今さらだがな。何なら魔王の化身としての馴れ初めを小一時間語ってもよいが。(←やめてくれ)


「得意という程でもないがな。直接殴ってもいいが、飛び道具の方が楽だろう? だから使ってるってだけだ」

「フフ、なるほど。得意という認識はないと。気にせず使えるメグミさんが羨ましい」


 なぜか遠い目をするライアル。魔法に関してのイザコザが過去にあったか。機会があれば聞いてやろう。


「おぉ、通路の先に階段が見えるぞぃ! それ、突撃じゃあぁぁぁ!」

「突撃やと!? 無茶すんなやゴリスキー!」

「ああもぅバカタレがぁ!」


 無策で突っ込むゴリスキーの前に私とサトルが割り込んだ。だいぶ時間が経ったからな、ボスならこちらの動きを掴んでてもおかしくはなく、入った瞬間に不意打ち――なんてことも珍しくはないだろう。

 しかし、意外なことに不意打ちはなく、部屋の奥で5体のスケルトンが待ち構えていた。


「スケルトンが5体。周りの4体はEランクだが、真ん中の奴だけはDランクのスカルファイターだ」

「Dランク……」


 シェスタが生唾を飲み込む。Dランクともなれば駆け出しの冒険者では退却を推奨される相手であり、未成年者が相手にするのは無謀だと思われるだろう。

 だがこのクエストこそがクレセント学園の卒業条件に含まれており、卒業した者は漏れなく倒している相手なのだ。


「メ、メグミさん、誠に申し訳ないが、今のボクらでは不可能だ。とても倒せる相手ではない」

「左に同じ(←それ右だからな?)じゃあ。いくらおいどんでも命を投げ出すことはできんわぃ(←お前さっき無策で突っ込んだやんけ)」


 己の実力を性格に読み取った真っ当な意見だ。だからこそ伸び代もある。


「サトル」

「ほ~ん? ワイがやってもええんか?」

「うむ、任せよう。サトル以外は後方支援だ」

「だ、だがそれだとサトルくんの負担が……」

「な~に言うとるんや、これはパーティプレイであってソロプレイちゃんねん。戦いに勝ちたいんなら各々の役割を全うせぃ!」


 サトルが単身で突っ込むと、手にした長棒を……



「いくでぇ、フルスイング足払いやぁ!」



 バギバギバギバギィィィ!



 周囲の4体は脚をへし折られ転倒。しかしスカルファイターだけは飛び上がって回避、そのままサトルに向けて剣を振り下ろし……



「カカカカカカ!」



 ガキン!



「カカ!?」


 斬れると思っていた長棒が剣を防いでおり、スカルファイターは見るからに動揺している。


「フン、甘いで骨野郎。ワイの持つ棒はただの棒やない。気を練り込むことで鉄のように硬くなるんや。こんな感じに――な!」



 ブォン!



「カカカカカカ!」


 後少しのところで回避され、振り出しに戻ってしまう――が、しかし!


「他のスケルトンは仕留めました!」

「残りはそのすばしっこい奴だけよ!」


 ライアルとシェスタが魔法で撃破していたのだ。まぁ魔力上昇のバフは掛けてやったがな。このくらいの助力は許されるだろう。


「ナイスやで2人とも! 邪魔者が消えたところでタイマンといこうやないか――うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ!」

「ガ、ガガ!? ガガガガ!」


 得意の連続突きにより、スカルファイターが追い込まれていく。流石は私が下僕として認めた男。鍛えれば更に使えるようになるだろう。


「ガ……カカカカ!」



 シュバッ!



「なっ! コイツ、逃亡しよる気か!?」


 追い込んだ――と思ったのも束の間。スカルファイターはサトルの頭上を飛び越えると、出口から一目散に逃げ出して……



 ガシッ!



「ガッ!?」

「待てぃ! 何をそのまま逃げきれそうな雰囲気を出しとるんだ貴様? 魔王の化身たる私を前にして逃げられると思うたか戯けがぁ!」

「カチカチカチカチ!」


 頭をガッチリ掴むと、歯を鳴らして全身をくねらせてきた。命乞いをしているのだろう。(←キメェ命乞いだなおい……)


「グレシーよ、せっかくだから回復させてやれ」

「え、いいの? でもそんな事したら……」

「問題ない、遠慮なくやれ」

「……分かった、じゃあ――母なる光よ、か細き鼓動を強く揺らし、かの者の輝きを取り戻せ――ヒーリーーーング!」




「ガァァァァァァ……」

「え、何でぇえ!?」


 混乱するグレシーを他所に、スカルファイターは光の粒となり消え去った。


「私の回復魔法って逆効果だったの……」

「バカタレ。アンデッドは回復魔法で浄化できるのだ。まさか知らんかったのか?」

「知らなかった!」

「…………」


 グレシーは知識が豊富なはずなのだがなぁ。国語や社会科などは得意でも魔物関連には疎いのだ。これは今後の課題だな。


「素直でよろしい……」

「やった、メグちゃんに褒められた! この調子で頑張るぞ~!」


 くれぐれも空回りするなよ。


「さて、ボスは撃破したし、砦の権限を奪えば終わるのだが……」

「アレやないか? 奥の玉座っぽいやつに乗っかってる妙な玉があるで」

「おお、コレに触れればよいのだな、そりゃ!」



 ブゥン!



『砦の陥落を確認した。おめでとう諸君』

「「「!?」」」


 ゴリスキーが触れた怪しげな玉が、長身の黒髪イケメン男を映し出す。しかし男の気配は感じられない。ホログラムというやつだな。 


『俺の名はポセイド。またの名をカイザー4世という。以後見知りおけ』


 ポセイドだと? ポセイドンのパクりみたいではないか、みっともない。(←ルシフェル言うてるお前が言わないの!)


「な~にが見知りおけだ、上から目線で腹立たしい。そもそもお主は何者ぞ?」

「フッ、俺か? 俺こそがこの()()()()()の管理者、ポセイドであ~る!」


 まさかのダンジョンマスターだと!?


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