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力の一部を解放しよう

 中二病、それは人が成長過程で避けては通れぬ厄介の1つであり、誰しもが毒される可能性を持つ恐ろしい病とされている。

 この病魔に見いられた者は魔王の片鱗を見せるかの如く無限大の驚異を秘めており、未熟な者だと粗末な変人として扱われる末路を辿るという。

 然り、この病魔を飲み込むほどの強大な力を持つものならば、それを克服し更なる進化を見せるであろう。そう私は信じている。


『そうやって自分を正当化するのはいいんだけどさ、アンタ、かなりヤバイよ? もうね、中二病の真っ只中にいる重症患者だわ』


 誰もいない真っ白な不思議空間に女性の声が響き渡る。そもそもここは何処なのかというのが当然の疑問というやつで、答えは至ってシンプルだ。

 ある日の下校途中、私こと高杉夢(たかすぎのぞみ)は手鏡で自分の容姿を入念にチェックしていたら、居眠り運転のトラックに跳ねられたのだ。

 無情にも私は即死。そして見知らぬ妙な空間に捕らえられているというわけさ。ああ、跳ねられる直前、安らかな顔で眠っていた運転手の顔が忘れられ――いや、そのうち忘れるだろうな、うん。


『はいは~い、回想はその辺にして、話を進めていい?』

「それは構わんが、中二病を病気と捉えるのは止めていただきたい。これは1つの進化なのだよ。不肖(ふしょう)な人間を脱し、魔王の化身である私をより強調し――」

『長くなりそうだからサクッと説明するね。まず貴女は死にました。でもってここはイグリーシアっていう剣と魔法のファンタジーな世界。今後はこの世界で生きていく事になったから。OK?』


 いや、全然OKではない。私の輝かしいJK生活を返して欲しいくらいだ。


『あ~無理無理。だってアンタ、地球では死んだことになってるし。完全物理法則の世界で死人が生き返るのはおかしいでしょ? だから諦めなさい』


 この女神、私の心を読んだだと!? まさか魔王の化身であるこの私を手のひらで転がそうと? 何と恐ろしい存在よ……。


『そりゃ神だもん、読心なんてチョロいもんよ。っていうか魔王とかより神の方がよっぽど強いんだから勘違いしないでよね』

「……ツンデレ?」

『デレた覚えはないんだけど……。まぁいいわ。とにかくアンタは()()()()()()()()()()から、どちらにしろ地球には戻れないの。これからはイグリーシアの人間として生きていくことね』

「フムフム、魔王の力を――」



 え? 魔王の力? マジで?



「魔王ってあの魔王!?」

『多分イメージしてる奴で合ってると思うわ』

「フィギュアスケートで喝采を浴びたあの!?」

『全然違った……。それは浅○真央! もっとあるでしょ他に! サタンとかルシファーとか。そういう類いの能力を偶然にも引き寄せちゃったの、アンタが中二病なせいで!』

「なるほど!」


 つまり魔法も使えまくりで身体能力も抜群となったわけだ。うむうむ、至れり尽くせり。


「ホントのホントのホントに!? マジに手に入れちゃったの!? 絶対に無理だと思ってたから、せめて形だけでもと思って一生懸命中二病っていう流行り病(←流行ってはいない)を勉強し、それを取り入れて自画自賛して生活する毎日だったんです! ありがとう御座います、女神様ーーーっ!」

『ええっ!? ちょちょちょちょちょっと、いきなりそんな畏まられても……』


 困惑する声を無視してひたすら頭を下げ続けた。何故かって? 誰しもが力有るものに屈するのは至極当然だろう? ならば少しでも煽てて媚を売っておくのが得策というもの。よく言うじゃないか、長芋(ながいも)の煮物には巻かれろ(←それを間違えるのは恥ずかしいからやめろ)と。


『でも読心ができる女神の前じゃ無意味だけどね』




「しまったぁぁぁぁぁぁ!」


 おのれ女神め、姑息な手を使いよってからに。やはり恐ろしい相手だ。


『でもね、長芋の煮物には巻かれろ(←お前もかい……)って考えは間違いではないわ。平和な日本と違って法の及ばない部分が多いから、悪いとは分かっていても逆らえない場面も出てくる』

「うむ、実に世知辛い世の中である」

『でもアンタには力が有る。庶民じゃ逆立ちしたって手に入らない力が。どう使うかは自由だけど、世界を混沌に突き落とす真似だけは止めてちょうだい。いいわね?』

「是非もない」


 うん、やはり女神に逆らうのはよろしくない。不興(ふきょう)を買って目を付けられるのはナンセンス。素直に従うのが吉だろう。


『よろしい、じゃあ最終すり合わせね。この映像を見てちょうだい』



 ブゥン!



 何もなかった空間に金髪美少女が投影された。


『この子がアンタの転生先で、名前はフランソワ。年齢は10歳でガラテイン家の末子ね。運悪く崖から転落して意識を失っちゃったところに――』


 長くなったので省略するが、とある貴族家の末子らしい。素質を見極めるために行われた降臨祭に参加したのだが、尖った能力は特になしという判定。絶望した家族により帰り道で捨てられたのだという。

 行く宛もなく森を彷徨ったフランソワは魔物から逃げる際に崖から転落。短い生涯を終えるはずだったのだが……


「私が乗り移った――と」

『幸いにして肉体の損傷は少ないから、目覚めたらすぐに動けると思う。それから……』



 ピピピピピッ!



「ん? この音は?」

『あ~、警告音が鳴っちゃったね。フランソワに危険が迫ってるって知らせよ』


 なんと! このままでは目覚めずして終わってしまうではないか!


「女神よ、早く復活させるのだ」

『わ、分かってるわよ! じゃあ最後になるけどよく聞いて。アンタはフランソワの記憶を引き継いで転生するけど、必ずしもフランソワとして生きていく必要はないわ。別人として生きるもよし、元の鞘に収まるのもよし。そこは自由にしていいから。でも覚えておいて? アンタが世界を滅ぼすような事があるのなら……』

「あるのなら?」




『私が粛清されるのよ! いい? 絶対におかしな事はしないでよね! 国の1つや2つは滅ぼしてもいいけれど(←いいのかよ!)、世界全体を狂わすような事だけは絶対に避けるように。これは命令ね!』


 そういって何やら唱えだす女神。すると次の瞬間!



 シュピィィィン!



★★★★★



「ん……」


 どこかの森の中で目が覚めた。生い茂った木の葉が日の光を遮っているため辺りは薄暗く、いかにも何かが出てきそうな雰囲気だ。確か魔物から逃げている最中に崖から落ちたのだったか? なら魔物が回り道をしてここへ来る可能性もある。


「移動するか。と言っても……」


 右も左も分からないじゃないか。せめてどこに何が有るのかを教えて欲しかったな。


「――――!」


 ん? 遠くで誰かが叫んでいる? これはアレか、ピンチに駆け付けた主人公が敵を排除し、ヒロインと最初の出会いをする場面だな!

 同姓に興味はないが選んでいる余裕もない。情報収集も兼ねて、力の一部を解放しようではないか。


「――ソワ様ーーーッ! フランソワ様ご無事ですかーーーっ!?」


 ――と思ったら助けを呼ぶ声ではなく、誰かが私を捜しているようだ。

 声のする方向へ駆け出すと、ほどなくして1人のメイドと遭遇。フランソワの記憶を辿るとガラテイン家のメイドである事が判明。そして彼女は私を見るなり安堵の表情を浮かべた。


「フランソワ様! よかったぁ、ご無事だったのですね」

「ああ、私は無事だよ。心配をかけてすまなかったな」

「……あの~、失礼ですが、いつもの口調と違うようですが……」


 しまった! 私としたことが迂闊(うかつ)な真似を。10歳の少女らしく振る舞わねば怪しまれるではないか。もう少し若々しい喋り方で……



「ん"ん"……。度々(たびたび)すまんのぅ、メイドさんや。どうやら崖から落ちた拍子に口調が変化してもうてのぅ」

「え、え~と……少しどころではないように見受けられますが……。逆に歳を重ねすぎたというか……」


 ガッテム! またやってしまった。若くするところを逆に振り切ってしまったではないか!

 こうなっては仕方がない。このメイドにはキツく口止めを――


「ああ、愛しのフランソワ様、崖から落ちた時に頭を打ってしまったのですね、すぐに手当てを!」

「――!」


 メイドが前に踏み出すと反射的に飛び退いた。まるで相手が危険であるかのように。


「ど、どうされたのですかフランソワ様? そのように怯えずとも大丈夫ですよ?」

「…………」


 いや違う、先ほどは魔王としての勘が働いた結果、退避行動を取ったのだ。

 そして今になって気付く。目覚める前、あの女神は何と言った? フランソワの身に危険が迫っていると言っていたではないか。周囲に魔物の気配がないにも拘わらずだ。

 これらの情報を組み合わせた結果、危険というのはこのメイドに他ならない。魔王の私はそれを察知したのだ。


「フッ、ムダな猿芝居ほどつまらぬ見せ物はない」

「え……」

「隠し通せると思ったか愚か者め。貴様が心配しているのは任務を遂行できるか否かであり、確実に私の息の根を止めるのが目的。そうであろう?」

「ええ? きゅ、急に何を……」

「まだ認めぬか。だが体は正直なようだぞ? 常に左手の甲に右手を添えているのは、そこにナイフを隠しているからに他ならぬ。刺客としては二流だな」


 気付いたのはたった今だがな。偶然にも光が反射し、存在をアピールしてきたのだ。

 するとどうだ、戸惑っていたメイドはタメ息を1つつき、にこやかだった表情は鳴りを潜めた。


「バレたのなら仕方ありませんねぇ。ええ、旦那様のご命令ですから。残念ながらフランソワ様には有望と言える素質がなかった。それが貴女の人生最大の敗因です」

「ほぅ、才が無かったのが罪と申すか」

「その通り。ですがご心配なく。ガラテイン家にはブルーム様とエレクシア様がいらっしゃいます。お二人とも貴女と違って大変優秀ですからね」


 透かさず記憶を辿ると、フレデリックは5つ上の兄で剣術が得意。そしてフランシスは2つ上の兄で風魔法の資質があるらしい。対して私は何も無いのが発覚し、両親に捨てられたわけだ。

 しかも刺客を差し向けてくるという徹底ぶりからするに、是が非でも無かった事にしたいのだろう。このような親の元で埋まれたフランソワは実に不運だとしか言いようがないな。


「さて、話は終わりです。恨むなら取り柄のない自分を恨みなさいな」



 ザッ――




 ガキン!


「クゥ! ナ、ナイフが止められた!?」


 私の心臓目掛けて突進してきたメイド。しかし服の上から僅か数ミリ離れたところで、私の指がナイフを挟み込む。魔王の力を得た私からすればスローモーションのように見えたし、物理能力も桁外れな私にとって、指で挟むのは造作もない。


「良い動きだ、並の存在なら心臓を一突きにされていただろう。だが生憎とな、フフ、違うのだよ、凡人とはな!」

「ヒッ!?」


 殺気に当てられたメイドは尻餅をついて後ずさりをする。これが刺客とは(いささ)か舐められたものだ。


「つまらぬ、実につまらぬ。せっかく化身というベールを脱いだというのに、これでは興醒めもいいところではないか。おい貴様、名前は……ジャスミンというのか。ならばジャスミンよ、邸に帰って伝えるがよい。私が帰るのを楽しみにしていろ――とな。さぁ行けぃ!」

「ヒィィィィィィ!」


 ジャスミンは腰を抜かしたまま、這ってこの場から脱出していく。

 だがこれで終わりではない。そもそも奴を逃したのは自宅の場所を突き止めるためであり、決して手心を加えたわけではない。


「さて、追跡を開始しよう」


 本来なら一目散に逃亡すべきなのだがな。フッ、試したくなったのだよ、魔王の力を――な(←気持ちはよく分かる)。国を出るのはその後でも良いだろう。


キャラクター紹介


高杉夢たかすぎめぐみ

:中二病全開のリアルJKだったが、事故によりイグリーシアという異世界に転生してしまった主人公。

 転生のため見た目も金髪美少女の身体となり、名前はフランソワという。

 か弱い見た目ながらも魔王の力を引き寄せてしまった彼女は、以後どのようにして過ごすのか。世界制覇か、はたまたスローライフか。その行方は気になるところ。



スキル紹介


Eスキャン

:正式名称はイグリーシアスキャン。視点を合わせて見たものを何でも解析してしまう万能スキル。偽装をも看破するため、軽度な誤魔化しは通用しない。メイドの名前を当てたのもこのスキルである。




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