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強盗(単話)

黒いダウンジャケットの男は震えていた。うつむくと顔覆っていた大きめのサングラスがズレて白いタイルの床に落ちた。男はついでに水を吸って着心地が最悪となった黒マスクも捨てた。二十代前半の若い顔があらわになる。


無数の水滴が天井から降り注ぐ。スプリンクラーだ。男は震えていた。寒さも理由のひとつだが、この状況下での興奮、そして恐怖心もその要因であった。


男はキョロキョロと辺りを見回す。奴らはまだ侵入していない。まだ勝機はある。そう言い聞かせながら弾薬の切れたリボルバーを床に投げ捨て、千切りにされたキャベツの横においてある包丁を右手に取った。


男が居たのはキッチンであった。カウンターや鍋、フライパンには作りかけのハンバーグ、チャーハン、サラダなどが並ぶ。水滴により冷めてボロボロに崩れ始め、食べても美味しくなさそうだ。最も、彼に味見出来るほどの余裕は残っていない。


(クソ、まさか奴らがここで飯を食べているとは思わなかった…)




__________________________________



「金を出せ。」

銃を店員に突き出しながら命令したところから事は彼の思わぬ方向へ向かった。ファミレスの角の席から歩いてきた二人組の女。茶髪の女は拳銃を構え、もう一人、黒髪にマッシュルームヘアの女は自身の両手のひらを男に向けていた。男は、いや、強盗は、光り輝く手のひらを見て二人が何者かを一瞬で悟った。


男は、左手を出し、二人に向けた。何か、液体が手のひらから流れ出ている。血だ。その血は、妙に粘度が高く、オレンジ色に変色し、光りながらゆっくりと垂れている。男のサングラスの後ろからも白い光が覗いていた。爪からは火花。そして、勢いよくその手を握った。


火花とともに爆炎が男の左手から放出される。


そのときだ。


黒髪の女の右目の結膜が黒色に染まり、瞳が白く変色し、光った!



黒髪の女に向かって放たれた炎は彼女の手のひらから避け、消えていく。まるで、エネルギーを受け流されているようだ。


二人組は、「異能力者」だった。


「警察だ!手を上げて跪け!」

小さめのオートマチック拳銃を構えて叫ぶ茶髪。二人の女は警察だったのだ。茶髪の女はデスクワークが仕事のOLが着るような動きにくそうな服を着ており、もう一人、黒髪は、藍色の、確かに「警視庁」の文字の入ったジャケットをを着ている。だが強盗が入店したとき、そのような服を着た客は居なかった。裏表逆に着ていたのだろうか。


「『クレア』」!伏せろ!」


三回の銃声。


黒髪は茶髪をかばうようにして仰向けに倒れ、背中に三発の弾丸を食らった。男は拳銃を構え直し、黒髪の下にいる茶髪の頭に拳銃を向けた。茶髪は黒髪の背中に将棋倒しにされるも彼女もまた拳銃を構え、躊躇なくトリガーを引いた。


銃声が嫌に静かとなった店内に響く。銃弾は男の右肩をかすり、ダウンジャケットを傷物にした。そして、今度は更に大きな、脳みその詰まっている「的」に狙いをつけた。


男は、少しの間呆然としていた。警察が、しかも女が、自分に向かって平然と銃を撃っている。彼は、自分が法執行機関を舐めていたことを今、自覚した。


またもや銃声。パンという音と共に男は屈み、レジの後ろから店の奥の方へと走っていった。


___________________________________



(なぜもっと早く逃げなかった?なぜ人質を取らなかった?)

男、いや、強盗は自身の脳の足らなさを後悔しながら次々とガスコンロの調整ノブを点火寸前のところまで回し、止めた。そして今度はシンクの後ろに隠れた。シュー、という音がかすかになり、ガスの匂いも強くなってくる。


(服は通りすがりのやつから奪えばいいな)

強盗はそう思った。あとは奴らが入ってくるのを待つだけだ。


「あーあーあー、聞こえてる?犯人さん。」


店内放送だ。


「今、ガスを開けたね?」


強盗はビクッとした。さっきの女、茶髪の女がこっちを見ている。だが、どうやって。強盗は更に辺りに注意した。この間にも奴の仲間が侵入してくるかもしれない。


「私はすべてが見えるよ。犯人さん。あなたが包丁を持っていることもね。」


強盗は包丁を鉛筆のようににぎった。そしてすでに数本の傷の入った左手のひらに可能な限り薄く、だがある程度深く、包丁で線を描いた。少しずつ流れる血が赤黒い色から段々と橙色へと染まっていく。その傷のうちのひとつは十分ほど前に作ったものだったのだが、もう癒えている。


「大人しく両手を上げて出てくれば命だけは助けてあげるよ。あなたの件については、もう殺害許可が出てるんだ。こんなことで大事な大事な命、捨てたらもったいないよ?」


強盗は自身の左手を何かを鷲掴みにするかのように開く。粘度の高い、オレンジ色の血が傷から滴るが、しずくは落ちない。五本の指からは火花が散っている。


「ねぇ、マジで良くないよ。今ね、ウチの所属する第四課の精鋭部隊総勢三十人くらいが店を取り囲んでんの。あなたは戦いたいらしいけど、ムリよ。全員能力者だもん。」


強盗は戦うつもりはなかった。今はこの状況から逃げたい。だが捕まりたくもない。レジから奪い取った70万円はほとんどが服とともに焼き焦げてなくなるだろうが、爆発のどさくさに紛れれば、なんとか逃げられるだろう。


(だが、逃走経路に自分と同じように特別な力を持つものがいれば、邪魔されかねない。焼け焦げるレストランの残骸の中でチャンスを待つという方法もある。)


男はかがんで裏口へと歩き、ゆっくりと小窓から外の様子を、利き目である右目で確認した。







ガウン!


右目に風穴を開けられた強盗は仰向けに倒れた。



____________________________________



レストランの真後ろにある五階建てのビルの屋上。二本の紐のような煙が風に流されてなびく。細いのはタバコの煙。あとひとつはスナイパーライフルの排煙だ。


「右目にヒット。」


仰向けになりスコープを覗く、黒髪に黒のスーツ、その上に青いジャンパーを来た青年が無線に向かって言う。


「即死だ。運がいいな。」


咥えていたタバコをもう一息吸い、柵の根本のコンクリートに押し付けて火を消した。長大なスナイパーライフルに変形した右腕がみるみる戻っていく。


「突入してOKだ。生き返るような能力を持っているわけでもあるまい。でもとりあえず、銃は下ろすなよ。」

階段を降りながら無線と話す。カン、カン、カンという金属音がテンポ良く響く。


「ご協力ありがとうございました。」


屋上を貸してくれた大家にお礼をし、「バディ」のところへ向かう。警察官が数人、裏口周辺に集まっているのを横目にレストランの外側を周り、入口へと向かう。彼女はすでにレストランの外にでて待っていた。彼女を見つけるのは容易なことだった。なぜなら、三十名の精鋭部隊なんて、全部、嘘なのだから。


「『クレア』。」

「あ、『キリン』。おつかれー。」


短めの茶髪、防弾チョッキには「異能力犯罪対策部第四課」と書かれている。その下の服装はOLがデスクワークで着そうなもので、動きづらそうだが、彼女の役割を考えると関係のないことだ。


「へへへ、言ったでしょ、裏口から出させるって。」


ニマニマしながら親指を突き出して顔を指す動作をする。これは何かを成し遂げたときに彼女がやる仕草だ。


「確かに覗いたが、、、」

「十分警告したんだろうな、始末書はゴメンだ。」

「ちゃんと許可出たから。ログにもちゃぁんと残してるしね。」


そういいながらレストランからくすねてきたワインを飲み干した。


「まぁ、「第四課に追われたら最後」、か。」



____________________________________




キッチン。すでに複数の黄色い「立入禁止」テープが貼られている。その内側に彼らはいた。


「可哀想に、俺たちとそんな変わらない年齢じゃあないか。」


撃たれた男の顔を眺めるキリン。


「炎の能力者…しかも爪から火花が…もったいない。再教育すれば、将来有望だったろうに。」


「話せば分かるタイプの人じゃあなかったわ。それに私らは『一課』の奴らのように優しい奴らじゃあないのよ。『ゼロ』がやられた。まぁ防弾チョッキ着てたらしいけど。」

「まったくその通りよ。」


黒髪の女、ゼロがゆっくりと二人のもとに歩いてきた。ジャケットの下には防弾チョッキが除くが、その下には何も着ておらずセクシーな腹が丸見えになっている。


「すまないわね、こんな夜分遅くに呼び出しちゃって」


チョッキを直しながら言う。


「アタシがミスらなければ、ね。上手く事は行ったんだけど…」

「いや、夜勤で暇だったからいいよ。気にするな。」


彼は胸ポケットからタバコの箱を取り出しながら言った。


「吸う?」

「一本もらおうかな。」

「え、じゃあ私にも頂戴よ」

クレアが口を挟む。


「お前タバコ吸えた?見たことねーよ、吸ってんの」


そう言って右ポケットからライターを取り出し、ゆっくりとゼロの方へと近づけ、フリントに親指をかけた。


「、、、ねぇ、なんか、臭くない?」

「ああ、夜飯が餃子だったから…」

「いや、なんか、こう、科学的というか…」


クレアは忘れっぽい女であった。何かに集中するべき時でも眼の前で何かが起こったり、全く関係のないものが自身の頭へ入ると、やるべきこと、数分前に見たもの、聞いたものがそれで上書きされてしまう。


キリンはライターに火をつけた。だが、一瞬の焦げ臭い匂いで今何が起きようとしているのかを察し、死体と反対方向へとそのライターを投げ捨てた。


「ゼロ!」


ゼロの目が光る。だが光ったのは彼女の目だけではなかった。キッチン全体が光り、燃え、爆発した。ゼロは両手を突き出し、受け流すイメージで能力を展開した。『リターン・トゥ・ゼロ』。それが能力につけた名前。一同はゼロの後ろに固まり、金属片やガラス片が飛んでこないことを祈った。



____________________________________



「ゴホゴホっ…」


消防車のサイレンとホースから水が勢いよく流れる音が響く。三人は毛布をかけられ、駐車場の車止めに座っていた。使い物にならなくなったジャケットと防弾チョッキの上に上裸で座るゼロ、うつむくクレア。そしてタバコを3本咥えるキリン。


「言っとけよそれくらい。お前、見てただろ。」

「だーかーらー」


イラついた顔でクレアが返す。


「わーすーれーてーたーのー!!」


「よかったわね。誰も死んでなくて。クレアに殺されたとか末代までの恥」

「はぁーん!?防弾チョッキ以外何も来てない痴女に押しつぶされる方がよっぽどだよ!」


キリンがため息をつく。いつもの三倍の白い煙が夜のそよ風に流されて消えていく。そして空を見る。街の明かりにかき消され、星は見えない。だが彼は夜空を美しいと思った。




「まぁ、タバコに火がついたから、いいじゃん。」

初めて書いたので優しめに見てください。ですが、批評とかそう言うのはウェルカムです。ぜひお願いします。

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