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昼下がり、銃撃戦

「──んじゃ、そういうわけだ。サバゲーやるぜ」


「そういやちょっと前に言ってたわな……。やるんか」


「あぁ、やる。俺がやりてぇ」



昨日に引き続き、お昼すぎ。僕たち四人は圭牙に誘われるまま、裏山のなかにある、小さな広場のようなところにやってきた。膝から背くらいまである高さの雑草と、庭先に敷かれているような砂利石が転がっている。ところどころにトタンや廃材、タイヤだの、なにやらよく分からないガラクタが、壁のように立てられていた。



「おー! これがモデルガンってやつですか?」


「いや、これはエアガンだ。弾が出るか出ないかの違いでな。持ち歩いてるのはだいたいモデルガンだが、たまにエアガンも触る。お前らに初めて会った時はエアガンだった。何発か足元に撃ってたの、覚えてるか」


「言われてみると、そうですね……」



そう言って圭牙は、足元に転がっているタイヤのなかから、エアガンを何丁も取り出していく。ハンドガンやらアサルトライフルやら狙撃銃やら、十個近くの銃がここに隠されていたらしい。なぜこんなところに……? しかしどれも、昔に流行ったものだ。好みなのだろうか。



「わざわざ隠しといたの?」


「あぁ、いつでも遊べるように置いてある。と言っても、ここに来るのなんか俺しかいねぇけどな」


「ウチもたまに来るで。このフィールド、元々は単なる草っ原やったんやけど、圭牙が何を思ったか、適当なゴミをかき集めてサバゲーフィールド作り始めたんよ」


「これなら誰でも遊べるだろ。つったって、ガキにゃこんなの触らせらんねぇけどな。親父とかジジィ世代じゃもう何もできやしねぇし、マジで俺くらいだ」



趣味で遊ぶ場所はあるけれど、遊ぶ相手がいない……ということだろうか。それは確かに、暇というか、辛い。



「……VRゲームとかやらないの? 僕はやってる」


「お前もそういうのやんのか。俺もたまにやるが、やっぱり実際に動かした方がおもしれぇぜ」


「でもでも圭牙っ、弾が当たると痛いんですよね……? 確かに楽しみにはしてましたけど、そこだけ心配です」


「お前くらい着物で厚着してりゃあ痛くねぇよ」


「よしっ! マスター、やっちゃいましょう!」



そう言って、満面の笑みで白波は銃を物色し始めた。割と乗り気になっている彼女に合わせて、僕も何を使おうか改めて確認してみる。FPSゲームやVRゲームでのガンアクションは、よくやっていた。というか、どっぷりハマっている。これは白波にしか言ってないけど。



「……ん。じゃあ、僕はこのやつ」


「私はこれですっ!」


「そんなら、ウチはこれ。たまに見るし」


「俺はこいつだ」



それぞれの装備を確認する。簡単に言ってしまえば、僕が中・長距離主体のアサルトライフル、圭牙が完全後方支援の狙撃銃、凪が小回りの効く接近戦メインのハンドガン、白波が前線向けのサブマシンガンだった。今回のサバゲーはペアで行うと聞いていたから、どう組んでもだいたいバランスは良くなるだろう。たぶん。



「んじゃまぁ、もはやペア組む必要もねぇけど……俺と凪、夏月とポンコツで対抗戦だ。フィールドのど真ん中──あっこにフラッグが置いてあるから、あれを先に取ったチームの方が勝ち。弾が当たったらダウンだ。二人ともダウンした時点で負け。どこに当たっても痛くねぇようには調整したが、顔にはぜってぇ当てんなよ」


「それ、お笑い芸人のフリですかっ?」


「しばくぞテメェ」





「よーしっ、やってやりますよっ!」


「静かに……位置がバレるでしょ」


「あ、そっか……。えへへ、ごめんなさい」



いよいよゲームが始まった。トタンのバリケードで射線を切ったところから、お互いに前進していく。とはいえどこに圭牙たちがいるのかは分からないから、慎重に動かざるを得ないのが辛いところだ。バリケードの隙間からあたりを伺ってみても、大きな気配はない。


銃を構えるなんて、ゲームでは散々やってきたことだけれど、いざ現実でやるとなると、少し緊張する。白波はそんなことすら考えず、純粋に楽しんでいるようだった。片膝立ちになりながら、進行方向を指さしている。



「私が障害物に隠れながら進んでいきますから、マスターはどこにいるか見張っててくださいねっ」


「うん。……今ならいいと思う」


「りょーかいですっ」



──と駆け出した彼女は、ひとまず手近な障害物、山積みになったタイヤの陰に隠れようとした。しかし着物のせいで、それほど早く走れない。ちょこちょこという擬音が聞こえてきそうなほどにちょこちょこした動きだ。


流石にこれは向こうが顔を出してくるかもと思ったけれど、逆に警戒されたのか、動きなし。ひとまず白波はこんな感じで前進していけば良さそうな気がする。



「マスターマスター! ブイ! ですっ」



移動できて偉い、のブイサイン。楽しそうだ。僕も適当に返しておく。誰も見ていないし、恥ずかしくはない。昔とは違って活発的な白波を見ていると、本当に年相応で、同級生の少女──いや、気心知れた幼馴染という気すらしてくる。不覚にも、可愛いと思ってしまった。


昨日の距離感の近さということもあってか、なんだか最近、彼女のことを意識し始めている気がする。圭牙の忠告──白波と付き合わないのかというそれが、なぜか今になって思い出された。マスターとヒューマノイドの関係が、最近はやや曖昧になってきている。それはもしかしたら、ある意味で、良い傾向なのかもしれない。



「……分かんないなぁ」



集中を取り戻すために、仕方なく呟く。僕も動かなければならない。どこに誰がいるのかという把握くらいはしたいのだけれど、そこそこの広さがあるこのフィールドで、しかも障害物が多いときた。骨が折れそうだ。


頃合いを見て、僕も手近なバリケードに移動する。少し離れたところにいる白波と目線が合った。『動きがあるまでまだ待機してよう』というニュアンスを込めてジェスチャーを送る。彼女はいつになく真剣な顔で頷くと、珍しく落ち着き払った態度で、その場に留まった。



「……本当に動いてるのかな、これ」



あまりにも変化がなさすぎて、暇だ。これでも一応、警戒はしてるんだけど。姿が見えなさすぎる。迂闊に顔を出すと、たぶん圭牙に撃たれそうな気がするな──と思った矢先、軽快な音が連なって聞こえた。白波だ。



「圭牙のアホーっ! 早く出てきてください! 暇で暇で死んじゃいますー! 隠居野郎! 根暗!」



罵詈雑言の煽りと射撃のオンパレードだ。適当なところに弾をばら撒き続けている。この豹変の仕方、本当に怖いんだけど。なんなんだこれは……僕には普通なのに。


一通り撃ち終わると、白波は残弾をなくしたマガジンをそこそこ器用な手つきで取り替えて、勢いそのまま前進していく。喧嘩を売ってるのに出ていくの、ちょっと頭が弱すぎやしないだろうか──と思いつつ、僕も続く。



「──っ、凪ですね! 逃がしませんよっ」


「望むところや、ここで決めたる!」



──一気に局面が動いたのは、ここからだった。どこからか出てきたらしい凪が白波と鉢合わせる。僕のところからは射線が通らないから、ひとまず物陰に隠れて状況を伺った。どうやらあの二人は何発か撃ったけれども当たらないまま、お互いに隠れて膠着しているらしい。



「あーもー、なんで私のところばっかり撃つんですかぁ! これ絶対に圭牙ですよ! カンカンカンカンうるさいですよーっ! 隠れてる限り当たりませんからねっ!」


「うっせぇぞポンコツ! 早く出てきやがれっ」


「うるさいのはアホの圭牙です! 正々堂々とやればいいじゃないですかっ。隠れてる方が卑怯ですよ!」


「せやで圭牙! 無駄撃ちなんかやめときっ!」


「そーだそーだ!」



……また言い合いっこしてる。やっぱり圭牙と白波って同レベルの存在なのだろうか──と思っていると、ふいに彼女が僕の方を見て、いたずらっぽく笑った。「あっちです!」と口パクしながら、フィールドの端を示す。


もしかして白波、わざと圭牙を挑発させて、その声の位置でおおよその場所を割り出したのか……? だとしたら、思っていた以上に頭の回る子だ。圭牙の狙撃銃と僕のアサルトライフルなら、気付かれなければこちらに分がある。一対一で叩いてくれ、ということだろう。


僕に意識を向けないためか、それとも本当にやりたくてやっているのか──とにかく凪の隠れているらしい場所に乱射しまくっている白波を横目に、僕も動く。割と凪も短気らしく、ハンドガンながら撃ちまくっていた。



「いい加減にアンタ、考えなしにばら撒くのやめろやっ! めっちゃくちゃ怖いんよ……! ウチが出れないやん! 数の暴力で卑怯なことしてる自覚あるんか!?」


「一億総玉砕! 神風アタックの精神ですっ! 弾がなくなったら私が捨て身で特攻します!!」


「それはガチで怖いからやめろやっ! ……って、うわああぁぁぁ……! ちょちょちょちょ……! ホントに特攻する馬鹿がおるかっ! 分かったウチの負けやから……!」


「いぇーい! えへへっ、これが弱肉強食ですよっ!」



ゴリ押しで白波が勝ったらしい。凪が不憫だ……。





足元で鳴る砂利の音が、少しだけうるさく感じた。ほとんど慣れてきた白波の罵声を聞き流しながら、僕と白波は圭牙がいる──らしいところに目星をつけて、じっくりと進んでいく。トタン張りの壁に背を預けつつ、顔だけを少し出して、あたりの確認は怠らない。



「フラッグはあそこに見えるんですけどねぇ……」



少し開けた場所に、ドラム缶が一つ。その上に赤色のフラッグが立てられていた。目指すはあれだ。だけれど、どこにいるか分からない圭牙だけが脅威でもある。そこさえ裏を取って叩いてしまえば、戦況はこちらの有利。


白波が教えてくれたのは、おおよそこのあたり──特に遮蔽物が密集しているところだ。どこに隠れているかが分からない。また挑発してくれないかな……と思ったけれど、あれから一向に声を上げないあたり、圭牙も分かっているのだろう。恐らく潜伏場所も変えていそうだ。


どうしたものか……と考えていると、白波に服の袖を引っ張られる。手でお皿を作って、何かをねだっていた。



「ん」


「……なに。可愛い子ぶって」


「私は可愛いので無問題ですが、もう弾がないです」


「それは自業自得でしょう」


「どうやったらエコに圭牙をおびき出せますか?」


「さっきみたいに煽ればいいじゃん」


「……それもそうですねっ」



納得したように表情を晴らしながら、彼女は軽快に笑う。凪を相手に乱発しまくったせいで、ほとんど残弾なし。逆に僕はまだ残っている。どうしたものか……。



「じゃあマスター、見ててください」


「……なに」


「いいからいいから、ですっ」



白波はそう言うと、トタン張りの壁から顔だけをひょっこりと覗かせる。危ない、と思ったけれど、その堂々とした動き方で納得した。ルール上、顔は撃てないんだ。



「圭牙がどこにいるのか知りませんけどぉー! いつまでも隠れきったままでいると面白くないですよー!」


「それしか言えないの……」


「もうそれしか言うことがないんです……」



悲しい。そして彼は一向に出てこない。



「マスター、銃、貸してください」


「また乱発するんでしょ」


「はいっ!」



清々しいほどの笑い顔だ。恐らく圭牙のことだから、物凄く撃ちたいと思っていることだろう。しかしいつも喧嘩腰に話している白波が相手とはいえ、それをしてこないあたり、優しいというか一貫性がないというか……。


まぁいいか、とアサルトライフルを白波に手渡す。彼女はそれを構え直すと、それらしいところにまた乱発し始めた。遠目に眺めていた凪は、もはや呆れて笑っている。僕も笑いたい……けど、まだ一応ゲーム中だ。



「じゃあ、僕はフラッグ狙いで」


「りょーかいです!」



少し向こうに見えるドラム缶を目がけて、僕は一か八か、一直線に走り出す。ときどき足元の砂利に転びそうになりながらも、障害物を利用しつつ近付いていく。白波は視界一八〇度すべてに弾幕を張りながら、僕の方へと弾が飛ぶのも気にしないで圭牙を煽っている。


フラッグまであと数メートルのところまできた。廃材の物陰に身を潜めながら、あたりの様子を伺う。白波に視線を向けると、自信満々の笑みで頷いてくれた。行ける、ということだろうか。深呼吸して息を整える。



「……うん」



彼女が合図したと同時に、物陰から飛び出した。周囲には誰もいない。流石にこの状態では、圭牙も出るに出られないのだろう。ここまで来れば勝ちが近い。後はそこにあるフラッグを掴めばいける──!



「──へっ? わああぁぁぁ! 卑怯ですよっ……!」



白波の叫び声が聞こえるのと同時に、僕の手に微かな痛みが走った。思わず伸ばしていたそれを引っ込めてしまう。咄嗟に彼女の方を振り返ると、白波よりも更に向こう、こちら陣地の隅に圭牙が立っていた。バリケードに寄りかかって手をつきながら、呆れたように言う。



「お前ら、ほんっと周りのこと考えてねぇのな……」


「なっ、なんで……! 卑怯ですよそういうのはっ! 勝手に裏から出てきて当ててくるのはおかしいですっ。当てるなら今じゃなくてもっと前に当ててくださいよ……!」


「接戦を演じた方が面白ぇだろ。お前の悔しがる顔が見れて、俺は今めちゃくちゃ満足してるが」



わめいている白波の様子を見るに、どうやら見事に裏を取られて、お互いにやられてしまったようだ。いつからあんなところに移動していたのだろうか……。少し向こうにいた凪も、笑いながら歩いてくる。僕も引っ込めた手を軽くさすりながら、みんなのいる位置へと戻った。



「夏月も白波も、最近は随分と仲良うなってんねぇ……。ゲーム中にイチャコラされても困るんよ」


「あの、イチャっ、いやっ……イチャコラはしてない」


「『ん』じゃねぇんだよポンコツがよ……。あの時点でぶっぱなしたくなったわ。そりゃイチャコラしてりゃ、周りなんか見えてねぇはずだぜ。クソッタレが……」


「圭牙も凪とイチャコラすればいいじゃないですか。私とマスターが仲良しなのが羨ましいんですか?」


「こいつはガチで無理だ。勘弁してほしい」


「は?」


「あ?」



まーた圭牙と凪で言い合いが始まった。それを横目に見ながら、僕と白波は顔を見合わせる。……あれはイチャついた内に入るのだろうか。というか彼女が無自覚だし。



「……マスターは私とイチャイチャしてた方がいいですか? マスターさえ良ければどうぞっ」


「そこで腕を開くから誤解されるんだよ……」



……いやまぁ、家なら少し甘えてたかもしれないけど。

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