プロローグ
生徒たちが春休みを満喫している中でも、私たち教職員は新学期の準備で大忙しだ。
今日は高等部新一年生のクラス編成会議。中等部教員も混じえて内部生の情報を提供してもらい、期末テストの成績や外部生と仲良くやっていけるかどうかといったことを判断材料にして各クラスに新一年生を割り振っていく。
大会議室がある校舎の二階は生徒の立ち入りを完全に禁止にしている。向かい側に生徒会室があるが、生徒会のメンバーですら立ち入ることはできない。星花女子学園は良家の子女や有名人の娘が多く、生徒本人も芸能人のように社会的ステータスがすでに一般人より高い場合もある。そういう特殊な学校だから万が一会議の内容がリークされるとおおごとになりかねないのだ。
厳重な雰囲気の中ではあったが生徒の編成はトントン拍子に進み、最後にクラス担任と副担任を決めることになった。商業科と服飾科、今年から創設される国際科はあらかじめ各々の専門科目の教員が担当することになっていたのですぐに決まったが、普通科四クラスについてはくじ引きで決めることになった。
担任の決め方は学年主任によって一任されているものの、大概はくじ引きで決める。くじ引きじゃないとこのクラスをやりたい、このクラスだけは勘弁してほしいという話が出て揉めるのを防ぐためだ。
「それでは担任団の方は右手のくじを、副担任団の方は左手のくじを引いてください」
学年主任がこよりにしたくじを右手と左手に四本ずつ握りしめている。私は一組を引きたかった。八年間の教師生活の中でまだ一組に一度も当たったことがなかったからだ。
私は他の担任に先に引かせて、一番最後に残ったくじを学年主任の右手から抜き取った。どの順番で引こうが確率は1/4、あれこれ悩んで引くだけ無駄だ。
「みなさん引きましたね? それではお開けください」
こよりを開くと、「1」の数字が現れた。よっしゃ。これで一から四組全てコンプリート。
「よっしゃー!!」
唐突な大声に、私は心臓が飛びたすかと思った。
「また巨勢先生と一緒だ!」
ジャージ姿の教師がバンザイしている。体育教師の綿式玲だ。
「これで五年連続ですよ巨勢先生! わー嬉しいなあ!」
「えー、また?」
「何かおっしゃいましたか!」
「いいえ。今回もよろしくお願いしますね、綿式先生」
私は笑顔を作った。
「はいっ!! 一年一組を盛り上げていきましょうね!!」
目玉はギラギラと輝いているが、私はこの綿式玲という教師のくじ運の強さに驚愕し、若干辟易もしていた。
教師としては申し分ない。何事にもポジティブで明るく、メンタルの強さが要求される教職向きの人物だ。だけど五年連続でコンビを組むのはさすがに新鮮味がないというか何というか……。
「おやおや、相変わらず仲が良いですね」
学年主任も他の教師たちもニヤニヤしている。
「そ、そんな仲じゃないですからね決して!」
「そうは言っても綿式先生って入職して以来ずっと巨勢先生の副担任やっているでしょ? もはや運命ですよこれは」
綿式玲が五年前に入職したときは私が教育担当ということで、自動的に私のクラスの副担任になった。二年目からくじ引きになったが、今現在含めて四回連続で私のクラスの副担任になっている。一緒になる確率は1/4で、四回連続となると1/256か……。
WIN5をぶち当てる確率よりかは高いが、ここまで続くと何か見えない力が働いているとしか言いようがなかった。
体育教師綿式玲。実は単なる同僚ではなく私、巨勢悠乃の大学の後輩にして……まあ、とにかくいいヤツにして変なヤツである。私が言えたことじゃないが。
新年度も賑やかな一年になるのは容易に想像がついた。
確率計算間違ってたらごめんやで(数学苦手)