つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
クラスの美少女が僕の方を見つめてお昼ご飯を食べてるので僕のことが好きなのかなと思ったら、ただ恵方巻きを食べてるだけだった。
今日はお昼休みが騒がしい。
購買になんか新しいメニューでも追加されたのか、急いで買いに行く人とかがいた。
まあよくわからないけど、僕はいいや。
僕は弁当を取り出した。
料理はそこまで嫌いではないので、ちゃんと自分で弁当を作っているのだ。
えらい。
弁当箱の蓋を開ける。
うーん。中は崩れ気味だった。
残念なことにいつまで経っても弁当を詰めるのは下手くそなのである。
まあいいんだ。
僕のお弁当を食べるのは僕だけなのだから、味さえおっけーなら何も悲しむことはない。
というわけで一口目を口に運ぼうとした時、視線を感じた。
視線の主はすぐにわかった。
クラスの美少女として名高い、瑠歌だ。
なぜ……僕を見つめているんだ。
僕はあえて気にしないふりをした。
瑠歌と目があったら、なんか気まずい気もするので、視界の端に収めておく。
いやでも、なんで僕の方を見てるんだ。
わからん。
まさか……僕のことが好きなのだろうか。
購買に行ってる人が多くて人の少ないこの教室で、こっそり僕を見つめてしまっているのだろうか。
気になる……食がめっちゃ進んじゃうわ。
とその時、瑠歌の友達が教室に入ってきた。
「瑠歌ー、お昼食べにきた」
「やっほー」
「あれ、なんでそっち見つめてんの?」
そうそう、ナイスだわ。瑠歌の友達が僕の代わりに訊いてくれたわ。
「ああ、それは今日はほら」
「あ、恵方巻きかー! え、これ手作り?」
「うん」
「え、すごい可愛いー。今年の方角こっちなんだ」
「そう。だからなんもないけどこっち向いてんの」
あ、え、恵方巻き……。
そういえばそんな日ありましたね……。あ、それで僕を見つめてらしたのですか。
なるほど。
ていうか今、「なんもないけどこっち向いてんの」って瑠歌言ってたよね?
お弁当食べてる僕がいるっていうのになんもない扱いか……。
ああ、悲しいし恥ずかしい。
自意識過剰を発揮して、クラスの美少女に見つめられてると思ってドキドキしたのがいけなかった。
僕は頭から弁当箱を被りたい気持ちになった。
と、その時、たくさんの人が教室に戻ってきた。
みんな恵方巻きを手に持っている。パッケージにはでかい50円シールが。
ああ、そうか。今日は購買で恵方巻きが50円で売ってたのか。だからみんな買いに行ってたんだ。
僕は色々と納得してしまい、疲れてしまった。
「ほい」
と、その時、恵方巻きが一個、僕の机に置かれた。
「買っといてあげた。今度ジュース奢ってね」
幼馴染の美海だった。
まあ大体雑な人で、あとは、50円の恵方巻きのお礼に100円のジュースを要求するような人である。
まあ半分冗談な訳だけどジュースは買ってあげよう。
とか偉そうに心の中で言ってた僕は、思わず冷静さを取り繕ってしまった。
「ああ、今日恵方巻きの日なんだな」
「そうだよ。ちなみに方角はあっち。はい一緒に食べるよ」
瑠歌が向いていたのと同じ方向を指さす美海。
いや、さっきの出来事があったから、そりゃ知ってるわ。
だけど、美海が恵方巻きを買ってくれたのがなんかけっこう嬉しかったから、僕は、
「お、今年はあっちなのか。ありがとな」
そう美海に返して、恵方巻きを手に取った。