第16話 銀行
アシスタントアンドロイドのチハルに連れられて銀行に向かう。
薄暗く閉鎖的な通路の先にあったのは、明るく開放感のある空間だった。
前世にあった、大型ショッピングモールの中といった感じだが、建物のデザインは西部劇のセットのようだ。
様々な店が並んでいる。
思わず、食べ物屋に引き寄せられるが、お金がないのであった。
フードディスペンサーの食事には辟易していたので、今すぐにでもまともな食事を取りたかったが、今は我慢だ。銀行に急ごう。
銀行はすぐに見つかった。チハルの案内は的確で間違いがない。
中に入ると案内係の女性が立っていた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「お金を借りたいのですが」
「借入のご相談ですね。ご利用は初めてでしょうか?」
「はい」
「でしたら、あちらの501ブースにお進みください。そちらでお話をお伺いします」
「501ですね。わかりました」
俺たちは501ブースに向かう。
そこはパーティーションで間仕切りされており、周りからは見えなくなっていた。
「借入のご相談ですね。そちらにお座りください。私、担当させていただくミラクと申します」
「セイヤと言います」
「アシスタントのチハル」
いかにもキャリヤウーマン風のミラクさんから、首から下げたカードを見せながら自己紹介をされたので、こちらもお辞儀をして名前を告げる。
その様子に、ミラクさんが少し怪訝な表情を見せるが、すぐに営業スマイルに戻る。
「本日は初めてのお借入とのことですが、カードを確認させていただけますか」
「すみません。カードとか持っていないんですが」
「カードをお持ちでないのですか? それですと申し訳ございませんがお貸しすることはできません」
あれ、おっさんは喜んで貸してくれると言ったけど、話が違うな。
「キャプテン、それ」
チハルが俺が持っていた書類を指差す。
そうだった。これを見せればいいのか。
「あの、これを担保に借りたいのですが」
俺は書類をミラクさんに渡す。
「拝見させていただきますね」
ミラクさんは書類を丹念に確認していく。
「これでしたら限度額80億Gまでお貸しできます」
「80億Gですか……」
これが、どの位の価値なのかわからないが、三千万Gのチハルを買うには十分だ。あと、十日間の滞在費とライセンスの取得費用も必要か。
「ハルク千型のプロトタイプということで希少価値がありますが、いかんせん、年式がかなり古くなっております。そのため80億Gが限度となります」
「あ、はい。わかりました」
考え込んで返事をしなかったため、別に80億Gに不満があったわけではないのだが、どうも、そう取られたようだ。
俺は慌てて返事をした。
「それで、今回はいかほどご用立ていたしましょうか。
カードを作っていただければ、いつでも限度額までご利用いただけるようになりますが」
おっさんが、支払いにはカードが必要だと言っていたな。
必要な借入額もはっきりしないし、その方がいいか。
「じゃあ、カードを作ることでお願いします」
「アシスタントのチハルさんのカードもお作りいたしますか?」
チハルの分もか? 買い物を頼んだ時など必要になるか……。
「それも合わせてお願いします」
「私はチップだけでいい」
「はい、かしこまりました」
チハルがチップだけでいいと言っているが、チップってなんだろう?
「それではこちらの書類にご記入をお願いします」
俺はミラクさんに渡された書類に記入していく。
名前は、セイヤ S シリウス、住所は……。住所かどうしたものかな。おっさんはロストプラネットだといっていたし、ここで、セレスト皇国と書いて大丈夫だろうか?
「住所の欄は、船名で構いませんよ」
俺が住所欄で困っているのを見かねてミラクさんが声をかけてくれた。
「船乗りさんは定住地を持たない方も多いですからね」
「なるほど、そうですか……」
住所欄にハルク1000Dと記入する。
生年月日を記入して、職業欄でまた困ってしまった。
王族と書いていいものだろうか。それとも引き篭りか。
どう書くべきか迷っていると、隣に座っていたチハルに指摘された。
「キャプテンは船長」
そうですね。船長ですね。
職業欄に船長と書き、家族カード欄に、アシスタント、チハルと記入した。
後はミラクさんに渡し、彼女が必要な箇所に記入していく。
「あの、失礼ですが、セイヤさんはシリウス皇国の王族ですか?」
「いえ、違います」
またそれか。今度からシリウスは名乗らない方がいいな。
「紛争国の王族には貸付できない決まりになっていますが、本当に違いますね!」
「本当に違います!」
違うよな?
大昔にシリウス皇国から駆け落ちして来た王女の子孫かもしれないけど、今のシリウス皇国の王族ではないからな。
「わかりました。それでは身体データを取りますので、そこの印の所にお立ちください」
身体データ? よくわからないが、素直に印の上に立つ。
すると光の輪が下から上に俺をスキャンしていく。
「はい、いいですよ。アシスタントのチハルさんもお願いします」
俺と入れ替わりにチハルが印の上に立つ。同じように全身スキャンされる。
「はい、終了です。カードができるまで少しお待ちくださいね。
待っている間にカードの利用方法を説明しますね」
そういうと、ミラクさんは冊子を渡して来た。