第12話 ドック
セレストを出発してから十日目、今日やっとドックに到着する予定だ。
「デルタ、後どのくらいで到着する?」
今日、何度目かの質問をする。
『後五十六分です』
デルタの淡々とした答えが返ってくる。
俺が何度同じ質問をしようとも、決して怒ったり、鬱陶しがったりしない。
それは、客観的に見れば良いことなのだが、十日間宇宙船の中で一人ぼっちだった俺にとっては、残念なことであった。
引き篭りの俺であるが、宇宙空間に一人きりというのは流石にこたえた。
十日間の航行中なにも問題がなかった。魔力の充填も早々に終わってしまい、俺はずっと手持ち無沙汰だった。
一人で考え込んでいると、どうしても悪い方へと考えが流れてしまう。
話し相手にデルタがいて良かったと思える一方で、十日も経つと、やはりデルタは人ではないのだなとつくづく感じていた。
早くドックにつかないだろうか。
「デルタ、後どのくらいで到着する」
『後四十九分です』
さっきから七分しか経っていないのか。到着が待ち遠しい。
俺は精神的にかなりまいっていた。
『キャプテン、前方に第2857ドックが目視可能になりました』
「どれだ」
俺が前方のスクリーンを注視すると、マーカーが現れて、その先に光点があった。
その光点は徐々に大きくなっていく。
第2857ドックは、宇宙空間に浮かぶ、一片が数キロに及び立方体で、その周りには何隻かの巨大船が係留されていた。
『こちらは、第2857ドック管制室。ハルク1000Dは、直接28番ピットに進入してください』
『こちらは、ハルク1000D。了解しました。28番ピットに進入します』
どうやら、ドック側から指示があったようだ、デルタが受け答えをしている。
『ドッキングシークエンス開始。目標28番ピット、目標を確認、進入口解放を確認、進入信号グリーンを確認、微速前進』
指定された28番ピットのシャッターが開き、そこへ向けてゆっくりと進んでいく。
進入口の大きさは、200m四方といったところだろうか。
船の大きさが100mなので、十分な余裕がある。
といっても、全てデルタ任せなので、きっちりのサイズでも問題ないのだろう。
『進入を完了、接舷します。船体の固定を確認、タラップを接続……接続確認、ドッキングシークエンス完了。第2857ドックに到着しました。下船は第七ハッチを利用してください』
どうやら無事到着したようだ。
「これで、十日ぶりに人と会える。
あれ? 会えるよな。無人ということはないよな。無人でないとしても、いるのは宇宙人だよな。
言葉は通じるのか。タコみたいな奴だとしたらどうする。
ファーストコンタクトだよな。何か緊張してきた」
俺は独り言を呟きながらブリッジから第七ハッチに向かう。
ハッチを出て、タラップを渡ると、そこに小柄なむさいおっさんが待っていた。ドワーフ?
「ハルク1000Dの乗組員で間違いないか」
「はい!」
良かった。言葉は通じるようだ。
「俺はこういうもんだ」
おっさんは首から下げた胸のカードを、俺に突きつけて見せた。
俺はそれを確認する。
メンテナンスの現場責任者のようだ。
「ドノバン ロックェルさんですね。セイヤといいます。よろしくお願いします」
俺が頭を下げると少し不思議そうな顔をしたが、それは一瞬のことだった。
「乗ってきたのはお前さんだけか?」
「はい、俺一人です」
「五百年もメンテナンスをほっぽり出したままにして、何してやがった!」
いきなり怒鳴られた。
俺は反射的に頭を下げた。
「す、すみません」
「まあいい。手続きするからついてこい」
「はい!」
俺は素直に、おっさんの後に着いていくことにした。