第10話 デルタに聞いてみた
宇宙船に一人という特殊環境の中で、何もしていないと鬱状態になってしまう。
実益も兼ねて、俺はブリッジのキャプテンシートに座り魔力を込めていく。
この魔力は、第五層にある魔導核に充填されていく。
魔導核は、特殊な魔石によって造られた装置で、通常では考えられないほどの魔力を蓄えることができ、必要な時にそれを取り出すことができる。
いうなれば、蓄電池なのだが、その出力は原子力発電所といった感じだ。
いくつも並べられた巨大な魔導核は、これだけあればうちの国ぐらい、いくつでも買えると思える程だった。
宇宙では魔導核用の魔石が簡単に手に入るのだろうか。
一時間程魔力を込め続けると、充填率は十パーセント上昇した。
満タンに充填するまでに、まだ八時間以上かかる。
魔力は大丈夫なのだが、じっと座っているのが辛い。
何か暇つぶしになることがないだろうか?
俺はデルタを呼び出し、宇宙の情勢について聞いてみることにした。
「デルタ、最新の宇宙の情勢について知りたいのだが」
『それは無理です。現在本船にある情報は、五百年前のものです』
「五百年前だって?! 何でそんなに古いんだ」
『メンテナンスが五百年間行われていません。今回、メンテナンスを行えば、最新の情報を提供できるようになります』
おいおい! 五百年も放置されていたのか。この船、ちゃんとドックまでたどり着けるのか?
「五百年も放置されていて、大丈夫なのか?」
『大丈夫でないから、緊急シークエンスが発動しています!』
あれ、なんかデルタが怒り口調、俺、怒られてる?
「すみません」
『以後、気をつけて、定期メンテナンスは必ず実行してください!』
「わかりました。今後はこのようなことがないように十分注意します」
俺は勢いに負けてデルタに謝罪した。
『わかればいいんです。わかれば。ちゃんとやってくださいよ』
随分と人間くさい喋り方をするようになったもんだ。
そうなるとこの船は、五百年以上前に作られたことになるのか。
どう考えてもうちの星で作られた物ではないよな。
「この船はどこで作られたんだ?」
『八百年前にシリウス皇国で作られました』
作られたのは五百年前どころか、八百年前かよ。古。
そんなことより、シリウス皇国って、俺の姓はシリウスなんだけど、関係あるのか?
もしかして、八百年前はセレスト皇国でなく、シリウス皇国だった。
つまり、この船は自国製なのか?
「あの、シリウス皇国ってどこにあるんだ?」
『セクション2のシリウス星系です』
「セクション?」
『この宇宙における人類の生存圏は、九つのエリアに分かれています。それとは別に、ゲートの先にセクションと呼ばれる飛び地があります。因みにここはセクション4です」
え、ゲート? またわからない言葉が出てきたが、シリウス皇国とセレスト皇国は別物だということはわかった。
そして、セレストは、宇宙においても片田舎であると。
「ということは、この船は、シリウス皇国から買ったのか?」
『違います。シリウス皇国の者が当船で駆け落ちし、セレストに流れ着きました』
「それはまた、随分と壮大な駆け落ちだな」
『駆け落ちしたのは、シリウス皇国の皇女と本船の開発者だった男です。一緒に、侍女と牧師と臣下八名を連れて来ました』
これって、セレストに伝わる神話そのままじゃないか!
降り立ったのは十二柱の神。
一つの皇国と八つの大公領。
それと、一つの教会。
数はぴったり。
そうなると、俺はシリウス皇国の王族の子孫となるのか。
それで姓がシリウスなのか。
それにしても、高々八百年前の出来事が神話になっているのか。
どれだけ文明が遅れていたんだろうな……。
だがそうか、この船は移民船。いや、王族専用船だったんだな。
下手に色々考えるより、デルタに聞けば一発だったな。
しかし、この船を造った開発者か……。
王族専用船を造るにあたり、皇女の注文を聞いているうちに恋に落ちたのだろうか?
そういえば、リリスはどうして俺のことを好きなのだろう?
いや、自惚れてはいけない。俺に好きになってもらえるところなどあるわけないではないか。
リリスは誰にでも優しい。それだけだ。俺だけが特別だとは思ってはいけない。
政略結婚で婚約者に決まってしまったから、優しくしてくれているのだ。
リリスは今頃どうしているだろう。
不出来な婚約者がいなくなって、清々していたりしないだろうか。
もう帰ってくるなと思っていたりして。
駄目だ。思考がどんどん悪い方に流れていく。
話し相手が、姿が見えないデルタだけでは、気分が落ち込んでいってしまう。