08 エメラルドの宝石
「街に入る方法がないと助けに行っても無駄になってしまうな」
「内側からあいついの魔力を抑えられれば侵入できるんじゃないのか?」
「だとして、誰かが街の中にはいらないとだろ?」
ご両親を助ける相談だろうか、あの街には強い魔力をもった人間がいるという話だ、きっとカイザだろうとヨルは思った
あの時は召喚され頭の整理ができないまま連れまわされたから記憶が断片的になてしまっているが、確か牢に閉じ込められているときに紫色の髪をした綺麗な女性と話をしたのを思い出した
* * *
「はじめまして、私はアイラと申します、あなたのお名前は?」
暗い部屋の中、向かい側から綺麗な声が聞こえた
「・・・」
ヨルは声が出ないし人の目を見ることもできないから下を向いたまま声がする方を向くことしかできなかった
「急にごめんなさい、話だけでも聞いてもらえるかしら」
優しい声で話しかける言葉に対しコクリと頭を縦に振った
「私はこの街の人間ではないの、ススキの街からここに連れてこられてしまったの、何とかしてここから出られたらいいのだけど・・・」
「あなたもここの人間じゃないのね、ごめんなさいさっきの話が聞こえちゃって」
アマギとの会話を後ろで静かに聞いていたのでヨルがどんな人間かは知っているのだろう、ならば利用する価値があると思って話しかけてきたのだろうか、まあ価値がなければ必要のない扱いしか受けてこなかったから何かに使いまわされるか、この牢に入ったまま口で叩きつけられるか・・・みんな最初は優しいんだよ、そんな事を考えながら話を聞いていた」
「戦場に行かれるということは、もしかしたら私の息子かもしれないの、紫色の髪をした子よ、もしそうなら敵ではないわ」
私に敵も味方もない・・・この人にとってはそうかもしれないけどこの世界になにもない私に勝手に押し付けられる相手に意思・・・もうやめてほしい、私は私で考えて決めたい
「もし会う事が出来たらこれを渡してくれないかしら、はじめてあった人にお願いされるなんて嫌かもしれないけど・・・」
ヨルはそこまで汚い心をもってはいない、首を左右に振り嫌ではないよと伝えて手を出した
「・・・」
言葉が出なくても綺麗な宝石だなと見とれてしまった、形見にしたいのかな、まだ死んでないのに渡したら見殺しにしたとか言いがかり付けられそうだな・・・
ヨルは人間を信用することができない、どうしても卑屈に物事をとらえる、が、断ることをしないのが彼女の優しさだろう
* * *
「ちょ、ヨル!何してるの!?」
ラルが顔を赤くして飲んでいたお酒を噴出した
ヨルはゴソゴソと自分の胸に手を突っ込むとアイラから受け取ったエメラルドグリーンの宝石をスイに渡した
スイは宝石があった場所が場所だけに顔を赤くして恥ずかしい躊躇いをしながら宝石を手に取るとハッと何かに気が付いた
「これは母の宝石だ・・・ヨル、これは?誰から・・・俺と似た髪の色の人にもらったのかい?」
スイはヨルが声を出せない事を知っているから首を振るだけで答えられるように聞いた
ヨルはそうですと頭を縦にふった
「アイラさんはまだ無事っすね」
「ああ、ならば助けに行かないわけにはいかないな」
意思は固まっているけど策がない、そもそも戦いなどするような人たちではないのだろう
店を出て3人の男が歩く少し後ろをヨルが歩きながら考え事をしていたが、やはりこれしか答えがないと思い自分自身に頷いてラルの吹くの袖を引っ張って立ち止まった
「ん?どうしたヨル」
ヨルは思い立っても行動するにも声が出ない・・・魔力の使い方を教えてほしい・・・けれど「教えてほしい」という声が出ない・・・情けない、この世界にはもうあいつらはいないのに・・・
「魔力を教えてほしいのかい?」
ラルに用事があるとしたらそれしかないだろうと考えたスイがヨルに変わって説明した
ヨルもそうですと激しく首を縦に振った
「なんだ、そんなこと、全然いいよ!」
「でもこんな街中じゃだめだろ、少し街を出ようか」
街を抜けてススキが広がる川へと向かった