07 命を捨てる理由
街の中を歩いていると数人の男がスイのところに駆け寄ってきた
「スイさん、お疲れ様です。今日は何してるんですか?」
「ああ、彼女に街を案内していたんだ」
「・・・っ」
スイがヨルの方を見ながら説明すると、ヨルは体を強張らせて下を向いてしまった
「えっ!彼女いたんですか?水くさいなー、どこで知り合ったんですか?」
信頼している中なんだろう、踏み込まなくていいところまで踏み込んでくる話し方にヨルは嫌悪感を感じてしまい自分の手をギュッと握った
「いや、彼女は昨日俺と戦った方だ」
「え?こんなに・・・子供でしたっけ?」
ヨルはムッと口を不満そうに膨らました、胸だってあるし20歳で成人している、お酒だって飲めるのに・・・
しかし、言い訳せずに下を向いて黙り込んでいるのは変わりない、言っても否定されることが体にしみついてしまっている
「あ、ごめんごめん子供じゃないよな」
なだめるように話しかけてきたがプイっと違う方向を見て聞いてませんと態度に出した
「ふっ・・・」
スイが笑いをこらえながら肩をひくつかせた
「君がそんなに感情を出してくれるとは思わなかったよ、よかった」
感情を表に出してくれるというのは、少しは気を許してくれているのだろうと安心したら笑ってしまったらしい
それを見た男達がニコリと笑って昼食しようと誘った
「ああ、いいよ、ヨルもおいで」
参加の可否の選択肢もなく人間と食事・・・怖い・・・手をギュッと握って下を向いているヨルを見てスイは彼女の手を握った
「大丈夫だよ、俺の隣にいればいい」
優しい・・・こんな人間みたことない・・・今迄の世界は悪魔のような人間しかいなかったのに・・・
* * *
「スイさん、彼女とは話をしたの?」
「ああ、少しだけな」
「そっか、俺はラルってんだ、よろしくな聖女様」
聖女?なぜ?召喚されたことも知らないのに・・・
「魔力があるんだよね?女性で魔力を持ってる子は聖女だよな」
ああ、そうなんだ、じゃあ他にも女性で魔力があれば聖女なんだ私だけじゃなかったんだ
「でも俺初めて見たよ、女性で魔力持ってるところなんか、凄かったなあんた、あ、名前は?」
なんでこの人はこんなに馴れ馴れしいのだろうか・・・怖い・・・どういう態度をしたらいいのかわからない
笑えば押さえつけられ、しゃべれば否定される、そんな経験しかないヨルには口を動かす事すらできなかった
「水も飲んでないけど、体調悪い?大丈夫?」
「ラル、彼女はまだ慣れてないんだ、昨日も深夜に話をしててあまり体も休めてないから」
ちょっと落ち着けと言わんばかりにスイがヨルに変わって話をしてくれた
「彼女はヨル、異世界から来たから聖女であることに間違いはないが魔力の使い方はまだわからないそうだ、そもそもあの街で召喚されいるんだ、扱いも酷かったのだろう、少し気分を変えてほしくて街を案内していたんだ、お前は魔術が優れているからあとでヨルに見せてあげてほしい」
「そんなんお安い御用だよ、ヨルさん、よろしくな!」
笑顔がまぶしい・・・馴れ馴れしいのは置いといても、金色の髪に長いまつ毛、整った顔立ちに服を着ていてもわかるくらいのがっちりした筋肉、黙ていればモテそう・・・
「ヨルさん、はじめまして、俺はアスラ、戦場にもいたんだが覚えてはいないよな、普段は医者をやっている、どこか悪いところがあればいって」
サラサラのストレートヘアに黒髪が揺れる、アスラは仏頂面のような顔をしているのに周りが見えていそうな落ち着いた人、ここにいる全員がイケメン・・・
さすが異世界、そしてみんなが優しい、それを知ってしまったいま、この世界から急に前の世界に戻されたら生きていけないと思う
ヨルは名前を名乗ってくれたアスラとラルに頭を下げて初めましてと小さな小さな声で言った
それを見た2人はニコリと優しく笑ってくれた
こんなに優しい人がいるんだ、裏切られるかもしれない、でもこの優しさは凄く痛いのに苦しくない・・・
私の死にたい消えたい気持ちは消えてはいない、でも前の世界には戻りたくない
叶う事なら、私の命はここで散りたい
誤字が多いかもしれません、、