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聖女ですが  作者: さんか
第一章
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05 静かな夜

「君の事を知りたいんだが、話してはくれないだろうか」


「・・・」


* * * * * * * * *




バサッと空から竜が6頭降りてきた


「はぁ、、」

「おつかれさまです、ジェイドさんとアイラさんは・・・」

帰りを待っていた従者が駆け寄ってきた、

「いや、今回も街には入れなかった」

「カイザはそんなにお強いのですか・・・」

「いや、カイザは出てこなかったが代わりに・・・」

「ん?女性がなぜ?」

「俺もまだわかっていないが、先に手当をしたい、いいか?」

「ああ、そうですね、わかりました・・・あ、でも部屋の用意が・・・」

「いい、俺の部屋に運ぶ、起きたら話を聞きたいがいつ起きるかわからないだろうし」

「わかりました、では・・・服が汚れてますから着替え用意しておきますね」


運んでくれた竜にお礼のあいさつをすると男は街の中心にある大きな建物の中へと入って行った



男はヨルを自分のベットに寝かせて、自分の身支度を済ませると窓の外を見るように寄りかかりながら考え事をはじめた

心地よい風が入ってくるが夕刻に敵地に向かって帰ってきたから時間は夜中を回っていた

先ほどの戦場とは真逆で夜の虫たちや草木が風で揺れる音が静かに響く

疲れがたまっているせいかうとうとと眠くなっては起きていたが

心地よい風に勝てずに椅子に座ったまま窓辺に寄りかかり眠った


「・・・ん」


ヨルは気が付いて、ここはどこだろうと寝たまま視線で場所の確認をした

そして、またここでも気が付くことがあった


”また死んでいない”


何がそんなに私を生かすのだろう、殺されに行ったのにまたしても生きている、心臓を一突きされるようにまでして殺されに行ったのに。

・・・そういえば傷は?


ヨルが刺された場所を触ると傷がふさがっていた、それどころか痛みもない「なぜ?」と心の中で怪訝な顔を浮かべ「ああ、そうか異世界だからか」と思うと涙がぼろぼろとながれおちた



また死ねなかった



生きてきたすべてを思い出したくなくて、苦しんで、心がボロボロで、もう何も無くなってほしいのにどうして・・・



部屋の中を見渡すと窓辺に男の人がいる、月明りが照らされる髪が時折アメジストに光る髪、座ったまま眠っている・・・

あまりに綺麗な身なりに見とれていると、気配を感じて男が起きてヨルに近づいてきた


「気分はどうだ、ここは俺の家だ、誰も来ないから安心してくれ」


えっ、それって危なくないですか・・・とは思いつつも声が出ない上に綺麗な彼に見とれていると「どうした?」と首をかしげてベットの淵に座った


「俺はスイだ、君の名は?」

「・・・・ョ・・・ル」

「ヨルか、そうよんでもいいかい?俺の事はスイと読んでくれ」

ヨルはコクリとうなづいた

この人はスイという名前・・・また私なんかに名前を教えてくれる人がいた、それに私の声を拾ってくれるなんてそんな人がこの世にいたんだ、と些細な事に傷ついた心がうずいて嬉しい事なのに痛い・・・裏切りがあるかもしれないと今までの経験に見返りのない優しさなど経験のないヨルには恐怖で体がこわばっていた


「少し、君の話を聞かせてほしいのがだ、一方的に聞くのはフェアじゃないし連れてきてしまったのはこちらだから、少し俺から話をしてもいいかな」

ヨルは小さく頷くと、スイはヨルの頷きを確認すると少しは気を落ち着かせてくれたようだと安心して、少しはにかんだ顔をみせた

元々整った美しい顔立ちなのにそれがはにかむとやはり見とれてしまう。

それでも全てを信頼できることができないそれは仕方のないこととあきらめる


「ここはススキの街、俺はここの長の子供だ、長は俺の親だけどここにはいないんだ、半年前に君のいた街に両親はさらわれたんだ、情けないことに生きているかさえもわからない、何度か街に潜入しようとしたがカイザの魔力で俺たちが近づくことが気づかれてしまって手出しができない、正面突破しか方法がないから昨日も君と剣を交えた」

スイはヨルが怖がらないように優しい話し方で現状を教えてくれた


「俺たちはまたあの街へ両親を・・・長を取り返しに行くんだ、だからあの街がいったいどうなっているのか情報が欲しいんだ、話してもらえないかな」


ヨルには何の情報もなかった、下を向いたまま黙り込んだ



「急だったかな、もし話してもよくなったら話してくれればいいよ」


え、なんて優しい人なの、今までは言いたくない事も追い詰めて追い詰めて極限まで追い詰めて吐き出させて、やっとの思いで吐き出したと思えばその言葉を悪として追い詰めた側が正義面して叩き潰す、この光景が一瞬記憶によみがえり憤る


「大丈夫?」


またも自分なんかを気遣ってくれる、なぜ?この異世界に来てからの優しさが苦しい



「ヨルはどこからきたの?俺は初めて君と剣を交えたけどあそこにはそんな剣の使い手はいなかったよ」


「・・・異世界・・から・・・・・・召喚されました」

ヨルは小声を振り絞って伝えた

やっとの思いで発した声をスイは拾ってくれた

「そっか、あれだけの魔力を使うのはそういうことだったんだね、じゃあ君は聖女様なんだね」

「・・・・いえ、分かりません・・・」

「異世界から魔力をもった女性は聖女様と言われているんだ」

そうなんだ、じゃあ聖女なのかもしれないけど、聖女って何か幸福をもたらす者だよね、だったら不幸から死を選んだ私には聖女を名乗る資格はなさそうだ、とヨルは思い下を向いた


「話をしてくれてありがとう、疲れただろう、夜が明けるまで休んでくれ」

スイは震えるヨルを気遣いながら話を終わらせた


でも、スイは?どこに寝るの?と思うと自分が寝ているベッドだと気が付き、ベットから降り床を刺してここで寝ますと部屋の隅に行こうとした

「え、いいよ、俺は大丈夫だから気にしないで」


いやでも後で「あんたがここで寝たから」とか言いがかりをスイじゃなくて違う誰かにつけられても嫌だ、そもそもこんなに綺麗な人に恋人がいないわけがない、こんなところでのうのうと寝ていればその人に何をされるかもわからない、とヨルはかたくなに床でいいとしぐさで伝えた


「何か気にしているのかい?怯えなくていいよ、ここには君と俺しかない」

いやいや、それは問題では・・・?

「誰も来ないから安心してくれ、着替えも用意がある、服が汚れていて気になるなら着替えてからベットで休んでいいよ」

それって、なんかもう、まずい・・・

ヨルには男性の経験なんてああるわけもなく、でもそれがよくないことは20にもなればわかる、この人は何歳・・高校生とかじゃなさそうだし、異世界だし複数の女性と交際しているから問題ないってこと?それ複数の女性の標的にされかねないから無理


やっぱり床で寝ますと無理に横になった


「ダメだよ、ちゃんと休んで」


ヨルの体がふわっと持ち上がると軽々しくベットに戻されてしまった

観念してベットに・・・と思ったが、なんだか自分の服が汚いと思い慌てて降りた、


「・・・・着替えます」



汚い服では申し訳ない、借り物でも着替えないと失礼なくらい汚れている、ヨルは着替えをもって部屋の外に出ようとしたがスイが

待ってと制止した

ヨルが振り返ると少し顔を赤くしたスイが「俺が出るから着替えたら教えて」と言って扉の外にでいってしまった



ヨルは他人が気遣ってくれたり、自分の為に相手が身を削ることなんて経験がないから申し訳ないという想いが大量に沸き上がり、一瞬で着替えて扉を開けた



スイは扉を開けるとヨルに見とれてしまい、とっさに恥ずかしくなり気をそらした

ひざ下丈の半袖ワンピースに紫の刺繍で装飾されているやさしい雰囲気が漂う洋服、元々人から物を貸してもらうなんてなかったから嬉しかった、でも優しさの裏にはと考えてしまうヨルは素直に喜べない、でも嬉しい、複雑な表情にスイは気に入らなかったのかなと少し不安になっていた



「じゃあ、俺はここに座ってるからベットで休んで」


ヨルは自分だけが私だけがベットに寝ることができないと、床で寝る事であなたの気が引けてしまうなら、半分からこっちに寝るので、半分からそっちで寝てくださいお願いしますとベットの上で土下座しながらお願いした、スイもヨルが言っていることがなんとなく分かったのかフッとはにかんで


「じゃあ、半分からこっちはお借りしますね」

にこりと笑いながらヨルに言った



ヨルは顔を真っ赤にしながらスイとは違う方を向いてベットの布団にもぐりこんだ




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