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聖女ですが  作者: さんか
第一章
12/72

12 意思を持たない街

朝食を終えたヨルは部屋に戻った


スイの家の前には馬車が出入るくらいの大きな出入り口がありその脇にはウィン専用・・・ではないが芝生が広がる広場がある、植栽は手入れされていて花も綺麗に咲いていた。

ウィンは今日街へ行くからだろうか、ご主人様に会えるのが楽しみだったのだろうか、朝早くにスイの家で待っていた。

朝食を終えたスイはウィンのところへ行きブラシで体を撫ででいた。


「スイさん、はよっす!」

いつでもどこでもこのテンションなのかと疑いたくなるほどの声でラルがスイに挨拶して、自分の乗ってた竜が着地するまでに自分から先に地に飛び降り立った。

「おはようございます。」

アスラは竜が着地するまでしっかりと乗って安全を確認してから降りて挨拶、とても礼儀がいい。

「今日は少人数で行くんだろ?ツキノセ本当に侵入できるんだろうな?」

もう一人竜に乗ってやってきたツキノセという男がラルに話し始めた

「あちらの兵士が教えてくれた、友人がカイザに殺されたそうだ、この街は誰もが桜にすがっている兵士の士気は低い、まあそれは見たままかもしれないが」

確かに階級が上の方の人間は戦いの奥で酒を飲んで戦う気がなかった、いずれ下級の者の方もそうなるとしたらあの街は終わっているな、でも街の長が機能していなかったとしても市民たちは変わらずに生活していくだろう、徐々にその生活が苦しくなったとしても気づかないふりと慣れによって「まだ大丈夫」といういい方だけを見ている、その結果、『桜が守ってくれる』となったようだと兵士が教えてくれたらしい。

「罠である確率が読めないな・・・」

「つか、なんで戦い中に兵士と仲良くなんかなれんの?」

ラルの疑問にツキノセが答えた

「泣いていた、泣きながら自分も死ぬ気で俺に向かってきた、戦いの途中で勝手に奴が話始めたんだ」


*****

『俺の独り言だ、聞き流してくれてもいい。戦いに意味はない、ここはただのパフォーマンスだ、市民は操り人形のように生気を失っている。現状が悪かろうがよかろうか何も変わらない、だからお前らが侵入したところで誰も咎める奴はいない。』

続けて確信の話を続けた

『入り口には数字を入力するボタンがある”048”と入力すれば出入りは出来る、今は門番はないから簡単に入れる、俺たちがここにいるのはお前らが来るからじゃない、街の人間に見せつけるために出陣を見せただけだ、現に後ろじゃ宴会さ、カイザだけは気をつけろ、あいつの魔力は未知数だ。あいつが来る前はこの街はもっと神美な街だったんだ。もう壊すなら壊してくれ。』

全て言い切ると剣を捨て命をも捨てようとしたが、ツキノセは剣を止めて”俺たちが行くまで生きろ”と言ったと同時にラルの撤退が告げられ、それ以上の会話も彼の所在も聞くことなく竜で飛び去った』

*****


「半々だな、ただ街に入るなら少数で行った方がいいだろう、俺とツキノセ、ラルは街の中に入り、アスラは外で竜と俺たちを待ってくれ、負傷者が出たら頼む。」

スイが配置を決め、作戦を立て始めた、昔の地図からどの辺に領主がいるのか、両親はどの辺に幽閉されているのか、全て予測で動かなければいけない本当ならもっと兵士を連れて行きたいが力で制圧するような街ではないかもしれないからたとえ失敗しても情報だけは集めようと、偵察もかねて作戦を立てた


「ヨルは連れて行くの?」

アスラがスイに聞いた

「今朝、彼女に街へ行くか尋ねたら行くと答えてくれた、彼女は街の中を知っている、もしかしたら俺の両親がいる場所まで行けるかもしれない。」


時折休憩をとりつつ話し合いは続いた



* * * * *


何時間経っただろうか、昼食は部屋に持ってきてもらって食事をしたため部屋からは一歩も出ていない。

窓辺から見える木々の緑を見ながら自分がここにいる実感を持てるように考えていた。


昨日の小鳥が窓辺にやってきてヨルの指をつついてきた

「・・・おなかすいたの?」

ヨルは昼食に残しておいたスコーンのようなパンを小鳥に分け与えた。

どうしても出された食事を全て間食すことができない、今食べたらつぎいつ食べられるのか分からない環境で育ったため少しずつ食べることが染みついてしまっている。

いまでもたまに手が震える、その度にこの世界にはあの人たちはいないからと自分で自分を説得するしていた。


”コンコン”

ノックからスイの声が聞こえた

「ヨル、そろそろ行くけど準備はいいかい?」

ヨルは静かに座っていた椅子から立ち上がりスイのところへと行った


「ヨルさん、初めまして、私はツキノセと申します、今日は一緒に街へ行きますのでよろしくお願いしますね」

栗色の髪で少したれ目の優しそうな男性だった、ヨルは、あまりに綺麗な顔に見とれて挨拶が遅れて今って何度もお辞儀をした

「よろしくだってさ、」

ラルがヨルの代わりにツキノセに伝えた

少し場が和んだところでヨルにも男たちが話し合って決めた内容を教えてもらって出発した。


ヨルには竜はいないからスイの後ろに乗せてもらった、すると、ピピっっと鳴き声が聞こえてヨルの肩に止まった

「ヨルの友達?」スイが前から話しかけてきた、ヨルは少し考えて頭を縦に振った


街の近くまで来たが兵士は出ていない、あの男が言った事は嘘ではないようだ

少し離れた位置でアスラと別れて街の入り口まで行くと確かに数字を入力する場所があった。


既に夕刻を過ぎ空は暗い、

姿が映らない鏡のような門が不気味に存在感をだしていた。

入口の横には確かに番号を入力する場所があった。

男に言われた数字を入力すると鏡がスッと消えた、少し警戒して足を入れると何も起こらずに入ることができた。

何カ月もこの門で足止めをされていたことが嘘のように簡単には入れてしまった。


「こんなに簡単に入れるなんて、俺たちの苦労何だったんですかねーもー」

身の危険が迫っているにも関わらず楽観的なしゃべり方は変わらないラルに皆が緊張で見えなかった周りを落ち着きを取り戻してみる事ができた。

気を張っていることにはかわりないが、少し周りを見渡すと、商店街のような出店が並び、買い物客もそこそににぎわっている、でもどこかおかしい。

「目がやばいっすね」

ラルの言葉通り市民の目は魂が抜けているように見える、別に誰かとぶつかってしまうとかはないが、意思のないゾンビのような感じがして気味が悪い。

道を誘導するかのように桜の木と言われているであろうきが等間隔で生えていた、樹齢50年と言わんばかりに立派な木なのに葉も花もなにもない枯れ木だった。

こんな意思のない木が街を守るわけないのに・・・



街を抜け領主がいると思われる場所へついたが、古い地図と変わりなくそこに大きな建物があった。

大きな建物、外からはヨルも初めて見た、新しく建てたのか建て直したのか見覚えのある形に少し胃がぎゅっと傷んだ。

扉にも警備の人間はいない、外部から入れないようにしていたからなのか正門から堂々と入ることができた。


見つからないように進む、中は薄暗く、廊下の道なりにろうそくが灯されていた。


見た目は普通なのに空気が重い、かなり中に進んだはずなのにまだ誰にも会わない、念のためツキノセは建物にはいらず入口付近に待機してもらっている、何かあったら助けられるように、犠牲は一人でも少なく・・・

「不気味っすね」

さすがのラルも小さな声で話しかける

「ああ、でもここのどこかに俺の父さんも母さんもいるはずだ、ここまできたんだ連れて帰りたい」

スイは両親を守れなかった怒りを抑え、救出に専念しようと心を落ち着かせていた。

「・・・っ!」

ヨルは見覚えのある通路に反応してスイの服の裾を引っ張った

「どうした?この先に何かあるんだね、いってみよう」

スイはヨルの事を疑うことなくすぐさま指のさす方向へ進んでくれた。


「これは・・・」

地下へつながる階段を見つけた、行くしかないと少し躊躇しているとヨルが先頭になって進みだした。

誰だって死ぬのは怖い・・・だったら私が先頭に立って役に立てればいい、そう思って前に進んだ

「ヨル、待って、俺が先に行く、ラルはヨルの後ろを守ってやってくれ」

「おう、任せとけ」

ヨルはびっくりして立ち止まってしまった、自分が犠牲になればみんなはつらくないのに、なんで私のためにそこまでしてくれるの・・・

「ヨル、君はもう少し自分の心を大事にするんだ、俺たちが君を守るから少しずつでいいから頼ってほしい」

今までスイは自由のない質問や問い、意見を伝えきるということはしなかったのにヨルが自分の身を挺して動いたことに不安を覚えて考えさせる意見を投げかけた。

それでも一方的に意見を押し付けるようなことはしない、後ろでラルも黙って苦笑いをしていた。


階段を降りると鉄格子の部屋がいくつもああったが、誰もいなかった、罪人は更生不要と消し去っていたからだ。

「どうする、戻るか?」

ラルがスイに支持をあおるとヨルがまだ行っていない方向へ指をさした

「・・・・・あっちにいる」

2人は驚いてヨルの方を見たが、あえてその事に触れないようにした。

ヨルは、スイが言ってくれた言葉が嬉しかった、『頼ってほしい』なんて言われたことない、偽りと分かっていて言われたことならあるが明らかな悪意ではなく純粋な善意を私に投げかけてくれたように感じた。


「母さん!」

ヨルの指さした方へ進むとスイの母親が、やはりあの綺麗な女性はスイのお母さんだったんだ

「スイッ・・・!あぁ、助けに来てくれたのね、こんな危険なところに・・・怖かったっでしょうに」

「相変わらず過保護だなアイラさんは」

ラルもスイのお母さんと顔見知りのようで場を和ませようと冗談めいて話をした。

「父さんは?」

そういえば、ヨルも見ていない、アイラさんもヨルも分からず首を左右に振った

どこにいるんだろう・・・探すまで希望は捨てちゃいけない


早くここを出よう、父さんをすぐに探したいが、まずはツキノセのところまで母さんを連れて行こう

「俺が連れて行くよ、スイとヨルはおやじさんを見つけて」

ラルは軽々しくアイラさんを抱きかかえて2人と別れた


「ヨル、俺から離れないで」

大きな扉までくると、隠れて入ることが難しい・・・立ち止まって悩んでいると扉が勝手に開いた

2人は後ずさり、いつでも攻撃が受けられる構えをした


「入っておいで」


開いた扉から出てきたのはアマギだった



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