99話 王都決戦⑦(冒険者ギルド②)
「さて、二手に分かれて行動しましょう。」
ホールにナルルースの声が響いた。
「私は白の沈黙のパーティーと一緒にアスタロト家の潜伏先に行くわ。突入は私達が行うから、サポートの皆さんは周りの警戒と打ち漏らしの討伐をよろしくね。」
「ララノア」
「はい」
ナルルースがララノアを呼ぶとガラドミア達と一緒にいたが1人歩いてナルルースの前に立った。
「あなた達は例の冒険者崩れのアジトを制圧して。彼らはもう国家転覆の実行犯として生死問わずの束縛の指示が理事長から出たわ。遠慮しないで頂戴。まぁ、全滅させると証言が取れなくなるから1人2人は殺さないでおいてね。アジトの周りにはサポートの冒険者を配置しておくから、そんなに気合を入れなくても大丈夫よ。あなた達相手だとオーバーキルになってしまうしね。」
「姉さん、分かりましたよ。」
ガラドミアがララノアの隣の立ちニヤリと笑った。
「ふふふ、久ぶりのジェノサイドだね。あたいとララ姉さんの2人でサクッと終わらせてくるよ。」
「心強いわね。ちゃんと仕事をすればラピス様も喜んでくれるわ。」
ざわっ!
「ラ、ラピス・・・」
ギルド内がザワザワとし始める。
ガッツがナルルースのところへ走ってきた。
「ナ、ナルルースさん!今の話は?あのラピス様が戻って来たのか?」
「そうよ」
ナルルースがとても嬉しそうに微笑んでいる。
「ラピス様は既に復活されたわ。先日もこの王都本部に来ていたの。今回の仕事はラピス様が立案しているのよ。だからねみなさん、ラピス様の足を引っ張らないように頑張りましょうね。」
「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
冒険者達の雄叫びでギルドの建物全体が揺れる程だった。
ラピスの復活、冒険者にとって憧れの人が甦るから、その喜びも大きい。
伝説の人がこの目で見られるかもしれない。その思いだけでも冒険者達のモチベーションはMAXになっていた。
「うへぇ~、こりゃ責任重大だな。伝説のラピス様に恥ずかしいところを見せられないな。」
ガッツが肩を竦めて身震いをしていた。
「大丈夫だよ。絶対に作戦は成功するさ。」
マックスが晴れ晴れとした顔でガッツを見ている。
「ね!エミリアさん。」
「そうよ。私が一緒にいるんだから、どんな魔族も問題ないわ。それにね、ダーリンは私が守るの。」
嬉しそうにエミリアがマックスと腕を組んでいた。
「熱いねぇ~、あんた達を見ていると私の方が胸やけしそうだわ・・・」
呆れた表情でアーシャがマックス達を見ていた。
しかし、そのアーシャもガッツに寄り添い、ガッツも優しくアーシャの肩を抱いていた。
「それじゃ、作戦開始。」
貴族街の近くにある倉庫の中
「そろそろだな?」
「あぁ、この王都に仕掛けられた魔法陣から大量のモンスターが召喚される。そうすれば、王都はパニックになるからな。しかも、今は帝国の使節団が王城へと来ているから、出席している貴族の当主は警備と一緒にいるし、おかげでこの貴族街の警備は手薄だ。家には女子供ばかりでまともな護衛はいない筈だ。金目の物だけじゃなく女子供も拐う指示だしな。」
「ぐふふふ・・・、いくらでも拐い放題だな。貴族の女を滅茶苦茶に出来るなんてウズウズする。たまらんなぁ・・・」
「おいおい、攫った女子供は帝国に奴隷として売るんだぞ。貴族の奴隷は高く売れるからな、あまり傷物にするとヤバイからな。まぁ、何十人も攫うんだ、数人は俺達のおもちゃにしても問題ないだろう。貴族の女が泣き叫びながら俺達の慰み者にされるんだ。俺達をゴミを見るような目で見てお高くとまっている連中がだぞ!こんな愉快な事はないな。がはははぁあああああ!」
「こうして俺達も運が向いてきた。魔族、魔王、そんなのは俺達に関係ないさ。金と女を手に入れて好き放題出来るんだ。こんな美味しい仕事はないな。」
「残念だけど・・・」
突然、倉庫内に女性の声が響いた。
「だ、誰だ!」
「今から死ぬあんた達に名乗る名前は無いよ。」
「女の声?」
トス!
ドサッ!
うめき声を出す事も無く数人の男たちが倒れた。
「な、何が起きた!」
先頭の男が倒れた男達を見るとガクガクと震え始めた。
「そ、そんな・・・、どれも眉間に矢が刺さっているなんて・・・、声も出す間もなく即死させる程の弓の腕前はただ1人・・・」
「ふふふ・・・、良く分かったわね。」
建物の奥の暗がりの中から1人の人影が現れる。
緑色の髪を優雅になびかせて弓を肩に担ぎ、ニコニコと微笑んでいた。
「お、お前は!緑の狩人の名前の元になったファロスリエン!今世最高の弓使いと言われている・・・」
ドスッ!
「煩いわね。黙って・・・」
眉間、喉、心臓に矢が突き刺さっていた。
そのまま声も出さずにゆっくりと倒れる。
「さすがはファロスリエンね。」
いつの間にか隣にガラドミアが立っている。
「さて、次はあたいの番だね。久しぶりに遠慮しなくていいんだ、ウズウズするよ。」
背中に担いでいたバトルアックスを両手に持ち、ゆらりと構え目の前の男達を見て微笑んだ。
「気合い注入!」
ブワッ!
ガラドミアの髪の毛が一瞬逆立った。
それくらいの覇気が全身から溢れていた。
「ストレングスアップ、デックスアップ、ディフェンスアップ!」
ガラドミアの全身が仄かに輝いた。
ファロスリエンの隣にいつの間にかローブを深々と被った人物が立っている。
フードを下げると顔が露わになった。
オレンジ色の髪をショートカットにしている、まだ少女と呼べる位のエルフの女性だった。
「これだけバフをかければ、傷一つ付けられないだろうね。まぁ、傷が付いても大丈夫、私がすぐにヒールで直してあげるね。」
「アリエル姉さん、ありがとうね。これで心置きなくジェノサイド出来るよ。」
「バカめ!いくら腕が立つと言っても、たった3人で俺達100人以上いる人数に敵う訳が無い!いつもお高くとまっているお前達を目茶苦茶にしてやる。げへへ、俺が1番最初に犯してやる・・・」
「はぁ~」
ガラドミアが思いっ切りため息をした。
「ゲス男って・・・、どうしていつも同じ事しか言わないんだろうね。あたいを見れば犯す犯すって・・・、そんなんだからゲスなんだろうけど、もう少し気の利いたセリフを言えないものかな?」
バトルアックスをグッと腰だめに構える。
「そのいやらしい目付きが既にアウトだよ。さっさと死ね・・・」
一気にガラドミアが男達の方へ飛び出した。
ブオン!
「「「ぐぎゃぁあああああああ!」」」
たった一薙ぎで十数人の男達の上半身と下半身が分かれ真っ二つにされている。
「な、何だ!この馬鹿力は!こんなの人間じゃ無い!」
再びガラドミアがバトルアックスを振るうと、新たに十数人の男達が肉塊になって床の血だまりの中に沈んでいた。
バトルアックスを肩に担ぎ、男達に向かってニタリと笑った。
「ひい!ひい!化け物だぁああああああああああ!逃げろぉおおおおおおお!」
ガラドミアの前にいる男達が慌てて振り返り逃げ出そうとしている。
トス!
トス!トス!トス!
逃げ始めた男達の後頭部に次々と矢が刺さり、眉間から矢尻が飛び出し次々と倒れていった。
「逃がす訳がないわよ・・・」
弓を構えながらファロスリエンが呟く。
「うわぁあああああああああああ!助けてくれぇええええええええええ!」
「マジックミサイル!」
ズバババァアアアアアアアア!
男達が向かっている出口の扉がいきなり砕け、何本もの白い光線が男達を襲い串刺しにしている。
「うぎゃああああああああああ!」
「フレイム!ウォール!」
突然、男達の目の前に炎の壁が立ち塞がった。
目の前に炎の壁が出来てしまい、これ以上進めなくなってしまっている。
「な、何だ!」
「逃がす訳がないでしょう。諦めて死になさい。」
壊れた扉からララノアが現われた。
「あなた達は犯罪に手を染めたのよ。犯罪者に堕ちた冒険者の末路は良く分かっているのでは?」
とても冷たい目で冒険者達を見つめていた。
「ゆ、許してくれぇえええええええええ!」
いきなり冒険者達が土下座を始めた。
「へへへ・・・、ちょっとした出来心なんだよ・・・、報酬も良かったからついな・・・、俺達は心を入れ替える!もう2度と悪さをしないから許してくれ!」
しかし、ララノアは黙ってジッと男達を見つめていた。
「それが遺言ね。」
男達が一斉に顔を上げララノアを見つめた。
無表情な顔で男達を見つめている。
「冒険者は信用が命なのよ。人々は我々冒険者を信じてギルドに依頼をするわ。そして、私達冒険者はその期待を裏切る事が無いよう誠実に依頼を完遂するのよ。お互いに信用と信頼で成り立つ、それがギルド設立者であられるラピス様の意志、変わらず今まで受け継がれているの。」
「それを・・・」
ブワッとララノアから大量の魔力が溢れ出した。
「あなた達は私利私欲の為にその力を使おうとした。しかも!大勢の人々を害しようとした。かつての勇者様やラピス様のお仲間であられたアレックス様のこの国を!その事は我々にとってどういう事か良く分かりますよね?」
「決して許しません・・・」
ザッ!
「そういう事。だ~か~らぁ~、あたい達に素直に殺されな、」
ニヤニヤとガラドミアが笑いながら男達を見ていた。
「あ”あ”ぁあ”あ”あ”あ”あ”・・・」
男達の悲鳴が倉庫内に響き渡った。
「マックスさん、あっちの方は制圧完了よ。数人逃げ延びたみたいだけど、数日中には全員捕まるわ。暗部が後始末をしてくれるからね。」
ニコッとナルルースがマックスへ微笑んだ。
「早い!もう終わったのか?相手は確か100人以上いたんだよな?」
ガッツが驚いた顔でナルルースを見ている。
「まぁ、師匠の嫁さん達だし不思議ではないな。同じSランクの俺達とは次元が違うよ。差を感じてしまうな、とほほ・・・」
「ガッツ、大丈夫だよ。ナルルースさんがこうして僕達を信用してここへ配置してくれたんだ。その期待に応えないとね。」
マックスがニコニコとガッツに微笑んでいた。
「ふふふ・・・、大したものね。」
ナルルースが2人のやり取りを見て笑っている。
「あっちの方は同じ人族同士の殺し合いになるから私達の方が忌避感が少ない理由でこちらに回したけど、彼らなら問題無かったかもしれないわね。それ以上に彼らの落ち着きは見事ね。これまでにない大規模な討伐戦だし、相手は上位魔族なのよ。それなのに全く緊張していないとは・・・、旦那様が気に入るのも分かるわ。」
エミリアがマックスの服をクイクイと引っ張っていた。
「ねぇねぇダーリン、アスタロト家には私もちょっと思うところがあるから、私も一緒に討伐戦に同行させてよね。そして、当主のゾルダークは私が必ず殺すわ・・・、絶対に手を出さないでね。」
ギロリとエミリアが目の前にある大きな家を睨んでいた。
「この20年の呪いの恨みを晴らさないとね・・・」
マックスががコクリと頷いた。
「リーダー、そろそろ突入するか?」
「うん、もう時間だね。」
マックスとガッツが頷いたが、そぐ横でアーシャが急に慌て始めた。
「ちょっと!私の索敵に異常な魔力の反応があったわ!家の中から外に向かって出てくる!こんな強力な魔力は初めてよ!気を付けて!」
アーシャが叫ぶと家の扉が勢いよく開き、中から1人の人影が出てきた。
「「「あれは?」」」
マックス達が驚愕の目で出てきた人物を見ていた。
「エルフ?いや!あの褐色の肌はダークエルフ!」
銀髪に褐色の肌をした女性が、アイスブルーの瞳でマックス達を睨んでいた。
「あなたはシヴァ!」
エミリアがその女性に叫んでいた。




