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96話 王都決戦④(テレサ①)

SIDE  テレサ


「くっ!」


(こいつは強い!全く隙が無いなんて、まるで兄さんと戦っているみたいよ。)


「はぁあああああああああ!」


剣を横薙ぎに振ります。


ガキィイイイイイイイイイイ!


「ふふふ・・・、少しヒヤッとしたぞ。ここまでの剣閃、さすがの儂も肝を冷やしたわ。」


私の剣が受け止められています。

ダメ!まだこいつに私の剣が届かない!

剣聖の称号を得てから誰にも負けた事が・・・、いえ、兄さんには何をしても勝てなかったわね。


そして目の前にいる魔人を睨みました。


(こいつが兄さんに匹敵する相手・・・、私が越えなければならない壁!)


「どうした?来ないのか?」


ゆっくりと魔人が私へと歩いてきます。


「はっ!」


一気に駆け出し剣を下段に構え一気に切り上げました。

「飛燕斬!」

切り上げた剣を手首の返しですぐに袈裟切りで相手を切り伏せようとしましたが・・・


ガキッ!


ザンと名乗った魔人が私よりも早い切り上げで私の上からの剣を受け止めました。



キィイイイイイイン!



(そ、そんな!)


剣が根元から折れてしまいました。

いえ!あの黒い魔剣が私の剣を切ったのです!


背筋にゾックっと悪寒が走りました。


一気に床を蹴り後ろへ飛び退きます。


「がはっ!」


脇腹に痛みが!


慌てて手を当てるとヌルっとした感触がありました。

生暖かい液体が脇腹から流れています。


(いつの間に切られたの?)


私の剣を切られた瞬間は見えていたのに、それから私が切られた瞬間は全く見えなかった・・・


ギリッ!


悔しくて思わず歯ぎしりをしてしまいます。


(あいつは今まで遊んでいたっていうの?こんな屈辱・・・)


だけど脇腹の傷が思ったよりも深い。ドクドクと血が流れていくのが分かります。

ゆっくりとザンが私へと歩いて近づいています。

これで私の人生が終わってしまうの?


(兄さん・・・、助けて・・・)


これ以上何も出来なくて情けなく思い涙が流れてきます。


「ふはははぁああああああああああ!剣聖の娘よ!その剣が儂の魔剣程に強力ならこうはならなかったのにな。残念だが、これで終わりにさせるぞ!久しぶりに楽しませてもらったよ。せめてもの情けだ。苦しむ間も無く苦痛を感じさせる前に冥土へと送ってあげよう。」


剣を両手で握り上段に振りかぶりました。


「さらばだ!」


一気に飛びかかり剣を私へと振り下ろします。

もう諦めて目を閉じてしまいました。



(兄さん!ごめんなさい・・・)



「もう1度会いたかった・・・」





ガキィイイイイイイイイイイ!





「えっ!」


(何が起きたの?)


何で剣が合わさる音が聞こえるの?


恐る恐る目を開けると・・・



そこには・・・



「兄さん!」



右手に聖剣を握りザンの太刀を受け止めている兄さんの後ろ姿が・・・


「夢じゃないのね?本当に兄さんなのね?」


剣を合わせたまま兄さんが振り返りました。

そしてニカッと笑ってくれました。


「遅れてすまん。酷い目に遭わせてしまったな。」


そしてザンへ顔を戻します。


ブワッ!


兄さんから大量の殺気と魔力が溢れています。

こんなに怒った兄さんは初めて見ました。


「貴様は楽に殺さん!俺の大切な妹をこんな目に遭わせやがって・・・」



ギャリィイイイイイイイイ!



兄さんが無造作に剣を横薙ぎに振りました。


「ぐはっ!」


ザンが兄さんの力に耐え切れず吹き飛ばされます。


「裂空斬!」


再び兄さんが横に剣を振りました。


シュバァアアア!


剣の軌跡から三日月の衝撃波がザンへと飛びました。


ガシィイイイイイイイイイ!


「ぐっ!ぐはぁああああああああああああ!」


ザンは衝撃波を剣で受け止めましたが、あまりの衝撃波のパワーに耐え切れず、またもや吹き飛ばされゴロゴロと地面に転がっていました。


(兄さん・・・、圧倒的過ぎる・・・)


これが兄さんの本気の力・・・


「ヒール!」


兄さんの左手の掌が私へと向き緑色に光りました。

脇腹の切られた傷がみるみる治ってしまいます。さすが兄さんの回復魔法です。最下位である『ヒール』の回復魔法なのに回復力も尋常ではありません。

そして殿下の方に視線を移すとアン姉さんと・・・

もう1人は誰?


そんな事よりも兄さんは・・・


うふふ、とても嬉しい・・・


「兄さん・・・」


「テレサ、どうした?」


「ありがとう。真っ先に助けてくれて・・・」


兄さんがニコッと笑いました。

「俺はお前の兄貴だからな。どんな事があっても俺がお前を絶対に守るに決まっているだろう。」


キュン!


あぁ・・・、もう堪りません。レッドベアーに襲われて助けてくれた時の記憶が無いと言われていましたけど、兄さんはやっぱり兄さんでした。あの時、私を虜にした言葉をまた言ってくれるなんて・・・


やっぱり兄さんが私の王子様です!

もう胸がキュンキュンしています、このまま兄さんへ飛びかかって・・・


(えへへ・・・)



「くくく・・・、この剣は間違い無い!あの聖剣アーク・ライト、この目で見られるとは儂も幸せだよ。この強さ!儂の餓えを満たすのに間違い無い!」


ザンがニヤニヤと笑っています。どれだけ戦いに餓えているの?

剣を両手に握り上段に構えています。


「ふはははははぁあああああああああああああああ!勇者よ!さぁ!思い切り儂と語り合おうぞ!」


「ふっ!どうやらデートの誘いが来たようだな。」


兄さんがやれやれといった感じで首を振っていました。



ドクン!



心臓が大きく鼓動しました。


(何なの、アイツは・・・)


私と兄さんとの至福の時間を邪魔するなんて・・・



ドクン!



(許さない・・・)


今から私と兄さんとのイチャイチャタイムなのよ・・・


このバカに思い知らせてあげないと・・・


徹底的に教育してあげるわ。



だけど・・・


アイツに剣を折られてしまったのね。


新しい剣はどこかにないかしら?



パァアアア!



「何?」


急に目の前が明るくなって・・・



「そ、そんな!」



今、私の目の前に銀色の聖剣ミーティアが浮かんでいました。


無意識に目の前の剣へ私の手が吸い込まれるように伸びました。


ガッ!


ミーティアを握ると目の前が真っ白に塗り潰されました。






「ここは・・・」


一体どこなの?


見渡す限り真っ白な世界です。足下にも影が無いなんて、私って宙に浮いているの?


そしてここにいるのは私1人だけです。


「兄さん!兄さん!どこにいるの?」


不安だけがドンドンと大きくなっていきます。



「心配しないでくれ。」



(誰?でもこの声は?まさか?あり得ない・・・)


オロオロしている私の前に2人の人影が現われました。


「そ、そんな・・・、兄さんって何者なの?」


何で兄さんがここにいるの?しかも、隣の人はどこかで見た記憶があります。


「そうか・・・、そんなに似ているか。」


兄さんがクスッと笑います。


(いえ!違う!)


確かに兄さんそっくりだけど・・・

今、目の前にいる人は兄さんをもう少し大人にした感じかもしれません。


「まぁ、俺が君の兄さんと似ているのは・・・、ちょっと事情があってな・・・」


兄さんそっくりな方がポリポリと頬を搔いています。

こんな仕草まで似ているなんて、本当に何者なんでしょうか?


「蒼太様、彼女はこの空間にあまり長くいられませんよ。」


隣の男性が兄さんそっくりさんに申し訳無さそうに話をしています。


「す、すまん。雰囲気がアイツに似ていてな。ちょっとビビってた。アレックスさんも気になっていたからな。」



(えっ!)



・・・



・・・



(アレックスさん?)



「あぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


(思い出しました!)


「おいおい大きな声を出さないでくれよ。さすがにビックリしたよ。」


(間違い無いです!私の目の前にいる方は!)


「アレックス賢王様!」


自然と片膝を付き頭を下げてしまいました。

目の前にいる方は見間違えるはずがありません!王城の肖像画そのままです!


「おいおい、そんなに畏まらないでくれないか。私はもう君の世界では存在しないんだからね。」


「い、いえ!それはさすがに・・・」


「ふっ、君があの生まれ変わったレンヤの妹なんてな。あのレンヤからは想像出来ないほどの出来た妹だよ。さすがミーティアに選ばれただけあるな。」


「ミーティアに選ばれた?」


その言葉に思わず顔を上げアレックス賢王様を見つめてしまいました。

賢王様がニコッと微笑んでいます。


「そうだよ。君はずっと昔からミーティアに選ばれていたのだよ。称号が『剣聖』なのもそういう事だ。だけど、ミーティアは待っていた、君が覚醒するまでね。」


「覚醒ですか?」


「君はまだまだ未完成だった。もう少し経験を積んでからミーティアが力を貸す予定だったけど・・・」


「だけど、魔王と魔人が攻めてきて、予定が早まったのですか?」


「そういう事だよ。だけどなぁ~、覚醒の引き金がまさかの嫉妬とは・・・」


なぜか賢王様ががっくりしている気がするのですが・・・・


「いやいやアレックスさん、その嫉妬が引き金なのは当りかもしれない。彼女からの嫉妬のオーラはアイツにソックリなんだよ。あのどす黒いオーラなんて・・・」



『だ・ん・な・さ・ま・・・』



突然、辺り一帯に女性の声が響きました。

圧倒的な威圧を感じる声です。

自然と冷や汗が全身から噴き出しました。


「げっ!フローリア!」


兄さんそっくりさんがとても焦っているのが分かります。あれだけの威圧ですからね。私は心臓が握り潰されたかと思ったくらいですよ。


『私がいないと思って悪口を言うなんて・・・、妻として悲しいですよ。今夜は私とじっくり語り合いましょうね。旦那様と私、どれだけ深く愛し合っているのかを再認識させないといけないですね。』


「フ、フローリア!誤解だ!俺はな・・・」


あたふたしながら兄さんそっくりさんが色々と言い訳をしているみたいです。


申し訳なさそうな顔で賢王様が私の前に来ました。

「申し訳ないね。蒼太様とフローリア様はいつもあんな感じだから・・・、本当に仲の良い夫婦だな。」


(はい?フローリア様?夫婦?)


何かとんでもない言葉が色々と聞こえましたけど・・・


「もしかして、フローリア様ってあの女神フローリア様ですか?しかも結婚されているのも本当ですか?」


賢王様がにっこりと私に微笑んでくれました。

「そうだ、君の想像通りだよ。彼女のおかげで私とセレスティアはこうして神の住む世界に生まれ変わらせてもらったけどね。ここから君たちの事を見させてもらっていた訳だよ。」


やっぱりあのドスの効いた声は女神フローリアだったのですね。

教会で聞いたイメージがちょっと崩れてしまいましたけど・・・

まぁ、目の前には賢王様もいるし、今更もう何が起きても不思議じゃないわね。


賢王様がお話を続けます。

「そして、君はミーティアの使い手になるのが、レンヤが生まれ変わった時から決まっていたのだよ。聖剣アーク・ライトとミーティアはお互い引き合い寄り添う存在だ。かつての使い手も私やレンヤのように親友だったり、時には親子、恋人や夫婦の場合もあったのだ。今回は君の番という事だよ。」


(そうなんだ・・・)


やっぱり兄さんと私は結ばれる運命だったのね。

思わず笑みが零れてしまいます。


「はぁ~、やっと解放されたよ・・・」


とても疲れた表情の兄さんそっくりさんが賢王様の隣に立ちました。


「済まないね、ちょっと乱入があって話が途中になってしまったな。自己紹介しよう。俺は水上蒼太、うだつの上がらない神の1人だよ。」


「蒼太様・・・」


何でしょう?賢王様が彼を睨んでいますが・・・


「あなたが言葉通りならこの神界の神は全てくだらない神になってしまいますよ。もう少し自覚してくれないと困ります。」


あらら・・・、怒られてしまってます。

彼、蒼太様はとてつもなく凄い神なんでしょう。

ミーティアの用なら賢王様だけで十分なはずでしょうが、彼はどのような目的で私の前に?


「ふっ、どうやら気付いたみたいだな。俺がここに来たのは彼、アレックスさんを連れてくるだけではなかったのさ。覚醒した君に渡すものがあったからだよ。」


蒼太様が右手を差し出してくれます。

その掌には青く輝く光の玉が浮かんでいました。


「君なら使いこなせるだろう。君達の仲間であるソフィアさんが美冬から奥義を受け継いだように、君も俺の力を受け継ぐ資格があるって事だ。これからの戦いに役に立つ筈だ、受け取ってくれ。」


(これは?)


不思議です。この青く輝く球を見ていると、まるで昔から知っているような感じです。

両手で受け取ると、突然浮かび上がり私の胸へと吸い込まれていきました。



【超越神 水上蒼太の加護を授かりました。剣技無蒼流をマスターしました。条件が満たされました。称号『剣聖』から『剣神』へクラスチェンジします。】



「何?この声は?」


「どうやら受け継いだようだな。」


「蒼太様・・・」


「俺からのプレゼントだ。君の世界にいるもう1人の俺を頼むよ。残念だけど、もう時間だ・・・」


えっ!今、何を言ったの?


(もう1人の俺って・・・)


急に段々と視界が真っ黒になって・・・




「はっ!」


右手にはミーティアが握られています。そして周りを見渡すと視界が白くなる前の光景でした。


(夢?いえ!違うわ!)



「ほぉ・・・」


ザンが私を見て感心した表情になっています。


「剣聖の娘よ。一体どうした?いきなり中身が変わったように見えるが・・・」


「そうね・・・」

思わずニヤリと笑ってしまいます。私の手の中にあるミーティアから意思が伝わりました。


【共に戦う、私とあなたは一心同体。】


ブワッ!


今までとは信じられない程の力が体の中から湧き出してきます。


(これが私の本当の力・・・)


ミーティアを下段に構えザンと対峙しました。

兄さんはその雰囲気を察したのでしょう。先程の場所から飛び上がり、私の後ろへと立っていました。


「テレサ・・・」


兄さんが私をジッと見つめます。


「思いっきりやれ!俺の妹は無敵だからな!」


「うん!私は負けない!この戦いに勝って正式に兄さんのお嫁さんになるね!約束よ!」


「お、お前・・・、どさくさ紛れに何て事を・・・」


兄さんが呆れた顔をしていますが、これは譲れません!もう遠慮はしないと決めましたからね!



剣との戦いだけでなく、女の戦いにも負けません!


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