95話 王都決戦③(シャルロット③)
「今度は私がお返しをする番ね。」
先程までとは違い体から力が溢れてきます。
(この力ならみんなを助けられる!)
「はっ!」
今まさにカイン兄様へと切りかかっていたグレンへと一気に飛びかかりました。
ドカッ!
グレンの顔面に私のキックが当たり、そのまま後ろへ転がっていきます。
「兄様!」
マズイです!兄様の右腕が二の腕から切り落とされ蹲っています。
しかし、さすがは騎士団の団長です。咄嗟に脇の下に腕を挟んで止血をしています。
これなら私でも治すのは可能な筈です!
兄様へと右腕を差し出します。
「ハイヒール!」
私の掌が仄かに緑色に輝くと、兄様の切り落とされた右腕も緑色に輝き始めました。
「おぉおおおおおお!」
兄様が驚愕の声を発しています。
それもその筈ですね。無くなった右腕が切り口から生え、再び元の右腕が戻りましたからね。
不思議そうに再生した右手を開いたり握ったりしています。
「シャル・・・、この力は?それに瞳が黒色に・・・、何が起きたのだ?」
「兄様、その話は後でお願いします。今は父様と一緒に一刻も早く避難を・・・」
コクリと兄様が頷き、父様の隣まで走って行きました。
そのまま2人で段を上り母様達のところへ走って行きます。
「クリスタル・シールド!」
父様達の前にとても綺麗な水晶の輝きを持った障壁が出来ました。
今までのマジック・シールドとは比べ物にならないくらいの強度です。
みんなが目を点にして障壁を見ていましたけど・・・
(さて、父様達は一安心になったけどテレサは?)
キン!キン!キン!
あのザンと言う魔人と切り結んでいます。
「はははぁああああああ!剣聖の娘よ!ここまでやるとはなぁあああああ!この儂を楽しませるとは!」
「私にも意地があるのよ!あんたなんかには絶対に負けない!」
キィイイイイイイン!
またもや先程のようにつばぜり合いでお互いの動きが止まりました。
「殿下!ここは私が引き受けます!」
「ふふふ・・・、この威勢、どこまで続くかな?」
ザンがニヤリと笑いながら、再びテレサと剣を打ち合い始めました。
(テレサ、頼むわ・・・、死なないでよ・・・)
「このガキがぁああああああああああああああああ!」
私に蹴られ転がっていたグレンが起き上がり、私へと切りかかります。
「ダーク・フレアァアアアアア!」
リズも真っ黒な大きな火の玉を私へと打ち出しました。
「イージスの盾!」
私の前に再び黄金に輝く盾が出現します。
ガキィイイイイイイイイイイ!
ボシュゥゥゥゥゥ・・・
グレンの剣を受け止め、真っ黒な火の玉は盾に当たった瞬間消滅しました。
盾が一段と輝きます。
「ぐあぁああああああ!」
グレンが盾に弾かれるように後ろへと飛んで行きます。
そのままリズの横までゴロゴロと転がっていきました。
「くそ!生意気な盾め!」
「グレン!あのガキは盾を出す事しか出来ないみたいね。だったら、とことん攻めれば何も出来ないはずよ!私達にかかればどんな強力な盾でもいつかは壊れるわ!」
「そうだな、俺としたことが頭に血が上っていたぜ。」
(甘いですね・・・、今の私の力は防御だけでないのですよ。)
スッと右腕を上げ人差し指を立てながらゆっくりと振り下ろしました。
「ライトニング!」
ズバァアアアアアアアア!
青白い稲妻が私の指先から飛び出します。そのままリズへ直撃しました。
「ぎゃぁああああああああああ!」
リズが青白い光に包まれ悲鳴を上げました。
がっくりと膝を付きブルブルと震えています。
「そんなバカな・・・、今のは雷魔法・・・、何で勇者じゃないあんたが使えるのよ!」
ギロリとリズに睨まれました。
今のライトニングはかなり威力を絞り威嚇の効果しかありません。
だけど、私の目論見は当たったみたいですね。
2人の殺意が私へ完全に向けられました。
これなら他の人への被害は無いでしょう。堂々と戦えます。
しかし・・・
「将軍達よ!」
魔王が叫びました。
「我らの目的はこの国を滅ぼす事だ!拾い物の奴隷2人で良いと思ったが、そうはいかなくなったようだな。お前達も参加するのだ!とりあえず、ここにいる全ての人間を殺せ!」
魔王の言葉で残りの6人の魔人達が動き始めました。
「そうはさせません!」
右腕を上に掲げます。
「サンダー!レイン!」
ガガガガガァアアアアア!
魔人達へと大量の稲妻が落ちます。
(くっ!)
しかし、先ほど魔法を撃ってきた男の魔人を中心に障壁が張られ、私が放った魔法を防いでいました。
さすがに城内ですから広域魔法は最大威力では放てません。残念ながら足止め程度にしかならないのが悔しいです。
「小癪なぁあああ!」
障壁が消えた瞬間にその魔人から父様達や貴族達へと大量の攻撃魔法が飛びました。
炎の槍と氷の槍が何十本もの数が飛んで行きます。
バリバリバリィイイイイイイイイイ!
しかし、その魔法は私が展開した障壁に全て阻まれ消滅していまいました。
まだ時間稼ぎは出来そうです。
「おらぁ!死ねやぁああああああああ!」
一瞬の隙を突いてグレンが切りかかって来ます。
「はっ!」
ギリギリに剣を躱し一気に後ろへと飛びました。
(体が軽い!)
「このメスガキがぁああああああああ!」
しかし、グレンがニヤリと笑いました。
「げへへへ・・・、確かに魔法は凄まじいけど、それだけだな。魔法を使えないくらいの手数で攻撃をすれば手も足も出ないだろな。お前は簡単に殺さないよ。徹底的になぶり殺しにしてやる!」
確かにあの剣筋は凄まじいものがあります。
以前の私でしたら簡単に殺されていたでしょう。
だけど!
「私を舐めないで下さい。魔法だけが私の全てではありません!」
「出でよ!雷槍グーングニル!」
私の足元に魔法陣が浮かびました。
ズズズ・・・
魔法陣の中から真っ白な槍が浮かび上がってきます。
そして、その槍の表面はバチバチと小さく雷が放電していました。
目の前まで浮かび上がり、グッと槍を握ります。
「ゲス男に負けるほどか弱い女ではありませんよ!」
「ほざけぇえええええええええええええええ!」
グレンが激高しながら私へと切りかかりました。
ガキィイイイイイイイイイイ!
「バカな!」
驚愕の表情で私を見つめています。
バリバリィイイイイイイイイイ!
「ぐぎゃぁああああああああ!」
グレンの全身が青白い稲妻に撃たれて悲鳴を上げました。
私のこのグーングニルは雷が物質化した神の槍です。
元々は女神アイリス様が所有している槍ですが、同じ魂を持つ私も召喚し使用する事が出来るようになりました。
称号を授かった時に私は理解しました。『雷帝』の称号は元々がアイリス様の称号だと・・・、神々の中でも最高位の雷魔法使いであると分かりました。その力の一部ですが私も使う事が出来るようになっています。
雷の化身である私とこの槍です。受け止めても槍から電撃が流れるので、今のグレンのように感電しますから本当に厄介な武器だと思われるでしょうね。
(戦うのは怖い!ですが!)
私は戦います!この国を守る為に!それがレンヤさんの妻としての務めです!
電撃の直撃を受けたグレンがブスブスと煙を上げ気を失っていました。
さすが魔人といったところですか。普通なら黒焦げになって確実に絶命しているほどの電撃です。
それを耐え抜くなんて・・・
(そう簡単には勝たせてくれないみたいね。)
「グレン!」
リズがグレンを抱きながら叫んでいます。
「よくも・・・、よくも・・・」
ゾクッ!
何です?リズから感じる恐怖は?
「私の大好きなグレンによくも・・・、よくも傷を付けたわね・・・」
メキ!
額に生えている赤黒い角がどんどんと大きくなっていきます。
しかも、その両脇からも新しく角が生えて・・・
バサッ!
「嘘・・・」
リズの背中から蝙蝠のような大きな翼が生えてきました。
「悪魔?あの姿は教会に伝えられていた神とは真逆の存在の・・・、神への反逆者と言われた・・・」
手足も真っ黒な鱗に覆われ、鋭い爪も生えています。
ギロリとリズが私を睨みました。
「ふふふ・・・、奴隷として死ぬ筈だった私を救ってくれたダリウス様から与えられた神の力よ。まさか、ゴミくずの人間相手にこの力を見せるなんてね・・・」
さっきとは比べ物にならない量の黒い球がリズの周りに浮かび上がりました。
「もうあんたは終わりよ・・・、楽に死なせない!」
しかし、彼女の雰囲気に私も負けていられません。
「その言葉はそのまま返すわ!私の女神の力があなたの悪魔の力に負ける筈が無いわ!それを証明します!」
「カース・アロー!」
リズが両手を前に突き出すと、大量の黒い矢が飛び出しました。
(あれは掠ってもマズイ!)
咄嗟にあの黒い矢は危ないものと感じます。
呪いが具現化した矢に間違いありません。掠っても呪いを受けたら最後、あっという間に衰弱して死んでしまうでしょう。
(でも、今の私なら!)
「セイクリッド・アロー!」
私の周りに大量の魔法陣が浮かび上がり、そこから何百本もの黄金の光の矢が飛び出します。
ガガガガガッ!
私とリズの間でお互いの矢の雨が激しくぶつかり消滅しました。
「何なのこのガキは・・・、雷魔法だけでなく聖属性の魔法まで使えるなんて・・・、あんた!本当に女神の力を手に入れたっていうの!」
リズが絶叫しています。
ですが、その問いに答える気はありません。
「見ての通りです。悪魔に堕ちたあなたを浄化するのも私の役目でしょうね。」
グッと再び槍を構えます。
「くっ!」
リズが忌々しそうに私を見ていますが、この国を滅ぼそうとする相手には一切手心を加える気はありません。
「それでは覚悟してください。」
キィイイイイイイン!
剣の音が大きく響き渡りました。
「がはっ!」
その声は!
慌てて声がした方へ顔を向けると・・・
「テレサァアアアアア!」
思わず叫んでしまいました。
右手に握られていた剣が根元から折れ、脇腹から大量の血が流れています。
「ふはははぁああああああああああ!剣聖の娘よ!その剣が儂の魔剣程に強力ならこうはならなかったのにな。残念だが、これで終わりにさせるぞ!久しぶりに楽しませてもらったよ。せめてもの情けだ。苦しむ間も無く苦痛を感じさせる前に冥土へと送ってあげよう。」
真っ黒な剣を両手で握りテレサへと一気に飛びかかりました。
剣を振り上げ傷口を押さえ蹲っているテレサを両断しようとしています。
「ダメェエエエエエエエエエエエエエ!」
思わず絶叫してしまいました。
「ガキめぇえええええ!何をよそ見しているのよぉおおおおおおお!」
(はっ!)
「デス!フレアァアアアアア!骨も残らず燃え尽きてしまいなぁあああああ!」
しまった!
テレサに気を取られてしまって、リズから目を離してしまった!
真っ黒なとてつもない大きな火の玉が私へと飛んで来ています。
(マズイ!障壁の展開が間に合わない!)
「ダメ!」
思わず目を閉じてしまいました。
ガキィイイイイイイイイイイ!
ボシュゥウウウ!
「え!何ともない・・・」
恐る恐る目を開けると、私の目の前に虹色に輝く障壁が展開されていました。
「ふぅ、ギリギリでしたね。」
(この声は!まさか!)
「アンジェリカ姉様!」
私の隣でアンジェリカ姉様がにっこりと微笑んでいました。
その隣には・・・
(誰です?)
とんでもなく綺麗な女性が一緒に立っています。
その方が私を見て微笑んでくれました。
(どこかで見た記憶が・・・)
「はっ!テレサは!」
慌ててテレサへと視線を移すと・・・
急にポロポロと涙が流れてきました。
「レンヤさん・・・、来てくれたのですね・・・」
テレサの目の前でレンヤさんが黄金の剣、聖剣アーク・ライトを握ってザンの剣を受け止めていました。




