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94話 王都決戦②(シャルロット②)

「アベル殿下!早く避難を!」


剣を構えたテレサがアベル兄様へと叫んでいますが、兄様はリーゼロット皇女殿下の亡骸を抱えたまま呆然としています。


(このままでは!)


怖くて怖くてたまりませんが、思わず体が動いてしまいました。

同時にカイン兄様も駆け出しています。


「シャル!お前は避難していろ!」


いえ!その言葉には従えません。このままではアベル兄様が狙い撃ちにされてしまいます。


「兄様!私が障壁を張りますので、その隙にアベル兄様をお願いします!」


「心苦しいがそれしか方法は無いみたいだ!頼んだぞ!」


「はい!」


一気に段を降りテレサの隣に立ちます。


「テレサ!今のうちに皇女様の亡骸を抱いてアベル兄様と一緒に下がって!テレサなら運べるわね!」


「で、殿下!しかし!」


「テレサ!これは命令よ!カイン兄様と一緒に早く2人を!皇女殿下の事はまだ望みはあるから早く!」


ズバァアアアアアアアアア!


目の前に黒い閃光が迫ります。両手を前に出します。


「くっ!マジック・シールド!」


私の前に大きな青白い透明な障壁が出来ます。


バチィ!


閃光が私の障壁に当たり消滅しました。


後ろを振り向くとカイン兄様がアベル兄様に肩を貸し段を上って父様達のところへ走っています。

テレサも皇女殿下を抱きかかえ2人の後を追いかけていました。


(私が時間稼ぎをしないと!)


参加していた貴族達は大丈夫なのか周りを見渡しましたが、みなさん壁の奥の方へ一斉に避難しているみたいで、戦いの余波は大丈夫そうです。

だけど、どの貴族も縮こまってガタガタしています。

かつての魔王との戦いから500年も経っていて、それから今までの間は戦争らしいものはありませんでした。

特に貴族はこのような戦いなんて誰も経験していないでしょう。

この間にいる騎士達の半分が貴族の護衛へと展開しています。残りの半分は帝国の魔人へと斬りかかっていきました。



しかし・・・



「ぐあ!」「ぎゃぁあああ!」「ぐ!」


あっという間に20数名の騎士達が斬り殺されてしまっています。



たった1人の男に・・・



皇帝、いえ!今は魔王となった男の隣にいた男女の1人です。


その男がとてつもない大きな真っ黒な剣を振り回し、騎士達をことごとく切り伏せていました。


(何なのあの剣筋は?テレサと正反対!まるで野獣よ!)


「このままでは・・・」



「がはははぁああああああああああああ!」

魔王が大声で笑った後にニヤリと笑いました。とても嫌で醜悪な笑顔で思わず背筋がゾッとしました。


「アレクセイよ・・・」


「何だガルシア?」


「惨めなものだな。」


「どういう事だ?」


「お前の祖先が頑張ってきたものが、今、この瞬間に全てが塵となるのだ。何も出来ずにこの国が滅びるのを見ているがいい!」


「ふっ!」


父様が不敵な笑みを浮かべ席から立ち上がります。

そして腰に差していた剣を抜きました。


「聖剣ミーティアの使い手にはなれなかったが、私もかつては剣豪と呼ばれておった。精々足掻くとしよう!」


「ふっ!バカな・・・、人間ごときが我ら魔人に勝てると思うとは・・・、笑わせる。」


父様が剣を構えます。

「人間を舐めるな。かつては友と呼んだ仲だ、遠慮せず冥土に送ってやろう。」

カイン兄様も父様の横に並びました。

「父上、私も付き合いますよ。母上達が逃げるまでの時間稼ぎにはなるでしょう。」


父がフッと笑いました。

「報告にあった勇者殿をこの目で見たかったものだ。それも叶わぬ夢だろうな・・・」


レンヤさん!

今!どうしているのですか!

危なくなったら必ず現れると言っていたのに・・・


(まさか!)


レンヤさん達のところにも帝国の手の者が?それでここに来れないの?


(あり得ます・・・)


ギュッと唇を噛みしめます。


「私がしっかりしないと・・・、レンヤさんの仲間として恥ずかしくないように・・・」



「魔王様・・・」


女の人の声?


とても蠱惑的な雰囲気の魔人の女が前に出てきました。さっき魔王と一緒に現れた男女の1人です。

それにしても、何て破廉恥な服装なんでしょう。胸と腰に黒い布を巻いているだけで、全ての男を魅了するような目で私達を見つめています。


「リズよぉ、俺も混ぜろや。」


護衛の騎士達を切り殺した男の魔人が女の魔人の横に立ちました。


「じゃぁ、グレンはその男2人を殺してくれない?私はそこにいる小娘を殺すわ。何も苦労も苦痛も知らない王族の小娘はどんな声で鳴くのかしら?ふふふ・・・、ゾクゾクするわぁ・・・」


リズと呼ばれた魔人が私を見つめました。血のような真っ赤な目がジッと見つめています。


(怖い・・・、このまま振り返って走って逃げて行きたい・・・)


ダメ!そんな事をすればみんなが殺されてしまう!

グレンと呼ばれた魔人がとてつもなく大きな剣を肩に担ぎながら父様や兄さんの方へと歩き始めました。


「儂は剣聖の娘かな?少しは楽しめるだろう。」


最初にテレサと切り結んだザンと名乗った魔人がゆらりとテレサへと歩き始めました。


「テレサ!」


しかしテレサは不敵に笑っています。

「殿下、心配しないで下さい。王国一の剣士を名乗っているのですから、そう簡単にはやられません!それに、兄さんと結婚するまでは絶対に殺されませんよ!」


そうね、テレサはレンヤさんと添い遂げる夢があるのですね。


「テレサ、私も同じよ。この戦いは負けられないわね!」



「ふふふ・・・、子猫ちゃん、何をやっても私達に対しては無駄な事なのよ。」


女の魔人の声が聞こえました。

慌てて視線をその魔人へ向けると、周りに黒い球がいくつもグルグル飛び回っています。


「まずは小手調べね。これが防げないようならすぐに殺されるわよ。」


人差し指を私へと向けます。


「ダーク・レイ!」


周りの黒い球からいくつもの黒い光が飛び出し、私へと真っ直ぐに向かって来ます。


「くっ!マジック・シールド!」


再び私の前に大きな青白い透明な障壁が出来ます。


ズガガガァアアアアアアア!


目の前が真っ黒に塗りつぶされました。

だけど何とか障壁が保ってくれたみたいで、魔法が届くことはありませんでした。

しかし、相手の魔法と相殺され消えてしまっています。


「へぇ~、なかなかやるわね。最低限の威力でも消し炭になるかと思っていたけどね。だけど、次はもっと強力なものをお見舞いするわよ。ふふふ・・・、すぐに死なないでね。」


リズがニヤニヤと笑っています。


(そ、そんな・・・、あれだけの威力で最も弱いだなんて!どうすれば良いの?)


「ぐあぁあああああ!」


カイン兄さんの悲鳴が!


兄さんへ顔を向けると・・・


「そ、そんな・・・」


グレンの大剣が兄さんの右腕を切り飛ばしていました。


「兄さん!」


思わず叫んでしまいましたが・・・


「あら、よそ見するなんて余裕ね。」


リズの冷たい声が聞こえてきます。


ゾクッ!


「さっきよりも威力を上げたわ、終わりよ。」


ニヤッと笑っています。




「さよならね・・・」




急いで障壁を展開しましたが、彼女の周りを回っている黒い球から発せられた光線が真っ直ぐ私へと向かって来ます。


バリィイイイイイイイン!


「う、嘘・・・」


障壁が粉々に砕け光線が私へと迫ってくるのが見えます。

不思議です。ほんの一瞬の間なんでしょうが、とても周りがゆっくりと見えます。

もう駄目だと思い目を閉じてしまいました。


(レンヤさん・・・)




【諦めないで!】




またもやあの声が!


あの光線に貫かれるかと思っていましたが、いつまで経っても何も起きません。

恐る恐る目を開けると・・・


「し、信じられない・・・」


私以外の周り全てが固まっています。

あの黒い光線も私の目の前で止まっていました。


(どういう事?)


「どうやら間に合ったようね。」


今まで私の中から聞こえていた声が隣から聞こえます。

ゆっくりと顔を横に向けると。


「あ、あなたは?いえ!あなた様は?」


レンヤさんのように真っ黒な髪と瞳の女性が私の隣に立ち微笑んでいました。

輝くほどの艶があり腰まで届く長い黒い髪が印象的です。


そして、それ以上に驚いたのが・・・


「天使?いえ、女神様ですか?」


背中に真っ白な大きな翼が生えていました。レンヤさん達の飛行魔法で生える翼よりも大きく輝いています。



「初めまして、私は女神フローリアの娘、女神アイリスよ。」



「め、女神様!」


女神様が私の目の前にいるなんて!そんなの信じられません!実は私はあの光に貫かれて死んでいるのでは?走馬灯のようなものでは?


「大丈夫よ。これは夢でもないし、あなたは死んでもいないからね。」


(本当に?)


「今のあなたはこの世界の時間軸から切り離してあるのよ。だからよ、周りの景色が止まって見えるのはね。」


こ、こんな事が出来るなんて・・・

目の前にいる女性は本当に女神様なんでしょうか?


「私達はなかなかこの世界に干渉出来ないから、こうしてあなたに会う機会を作るのは大変だったのよ。まぁ、フローリアママならことわりも関係なく好きに出来るのでしょうが、さすがに私はここまでは無理だからね。」


そう言ってウインクをしました。

何て可愛いし、とても綺麗なんでしょう。正直、ラピス様よりも美しいのは間違いありません。


「それで、私に用とは?」


「その前に確認よ。」


「何の確認でしょうか?」


女神様がジッと私を見つめています。

「あなたの魂を通してあなたの願いを聞いてきたわ。大好きな彼の力になりたい。そして、今はこの絶望的な状況を何とかしたい。そう思っているわね?」


「は、はい・・・」


「方法はあるわ。」


そんな方法があるのですか?一体・・・


「だけどね、それにはあなたは人間を辞める事になるわ。あの魔人達のようにね。それでも力を求める?」


(そ、そんな・・・)


いくら力が欲しいと思いましたが、彼らのように人間を辞めるなんて・・・




だけど・・・



私の犠牲でみんなが助かるのなら・・・・




みんなを助けたら私はここから離れて誰にも交わる事なくひっそりと過ごせば・・・




それなら誰にも迷惑をかけないわね。




レンヤさんともお別れになるでしょう。




「レンヤさん・・・」


思わず涙が流れてきました。

大好きです、ずっと一緒にいたいです。

でも、私はこの国の王族の1人です。この国を守る義務があります。


私1人の犠牲でこの国を守れるなら!


もう迷いません!



「お願いします!私に力を!」



女神様が微笑みました。


(どうして?)


「合格よ。」


「えっ・・・」


「試す真似をしてゴメンね。それだけの覚悟が無いとあなたの力を解放させる訳にいかなかったの。あまりにも強力過ぎる力だからね。」


私の力の解放?そんな力が私の中にあるの?


「あなたの魂の中にはね、かつて邪神となって滅ぼされ砕けた私の魂の欠片が入っているのよ。でも安心してね。その欠片にはもう邪神の力は無いわ。今の私は既に浄化されて女神として生まれ変わっているから、あなたの中の欠片も女神の力を取り戻しているのよ。」


「女神の力ですか?」


女神様がゆっくりと頷きました。

「そう、私の女神としての力よ。とても強力な力だからあなたの覚悟を試したの。あなたは力を正しい事に使えると確信したわ。」


そして女神様の体が輝き始めました。


「それじゃ、私の加護を与えるわね。そうすれば、あなたの中で眠っている私の魂の欠片が目覚めるわよ。目覚めても心配しなくていいわ。女神としての力を使う時だけ女神になるだけだから、普段は人間だからね。人間を辞める事にならないわよ。」


女神様が更に輝きます。


【女神アイリスの加護を授かりました。】


(頭の中に声が・・・)


【封印されていた能力を解放します。称号『結界師』から『守護者』へとクラスチェンジします。称号『戦女神』を獲得しました。称号『雷帝』を獲得しました。】


「えっ!」


称号が変わった?しかも新しい称号が2つも?

体に力が漲ってきます。

そして色々なスキルも頭の中に浮かんできました。


(この力なら!)


「ふふふ、無事に覚醒したようね。まだ覚醒したばかりだし、最初から力を使いこなせないかもしれないけど、これからの努力で上手く使いこなしてね。」


女神様、いえ!アイリス様の輝きが収まっていました。

ニコニコと微笑んでいます。


「アイリス様!ありがとうございます!」


「良いのよ。私の力が平和に役立つならどんどん使ってね。これからのあなたの活躍を神界から見ているわ。頑張ってね。」


「はい!」


「それじゃ、時間軸を元に戻すわよ。目の前までダーク・レイが迫っているから注意よ。対処法はもう分かっているわね。それじゃ、頑張るのよ。」



その瞬間、目の前の光景が動き始めました。

しかし、先程とは違いなぜかゆっくりと見えます、少しずつ黒い光線が私へと迫っていました。


(これならいける!)


両手を前に突き出します。



「イージスの盾!」



黄金に輝く光の盾が私の前に出現しました。


ガガガガガァアアアアアアアアア!


全ての光線が盾に当たりましたが、今度は全くビクともしません。

しばらくすると盾が消滅します。


盾が消えた事で魔人のリズの姿が見えました。

驚愕の表情で私を見ています。


「今のは・・・、私の聞き違いではなければ・・・、イージスの盾なんて神にしか使えない伝説のシールド魔法よ・・・。そんなバカな・・・」


今までのお返しではありませんが、思わずニヤリと笑ってしまいました。


「今度は私がお返しをする番ね。」


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