91話 ソフィア復活⑨
「勝った・・・」
思わず右手を上げガッツポーズをしました。
「はっ!」
急いで急降下をし冷華さんの隣へ降りました。
「エクストラ・ヒール!」
気を失っていた冷華さんが目を覚まします。
(良かった・・・)
「ふぅ・・・」
冷華さんは起き上がらず、そのまま座り込んでしまっています。
「見事ね・・・、完敗よ・・・」
そう言って私を見つめてニコッと微笑みました。
とても素敵な笑顔です。
「そ、そんな・・・、私なんか・・・」
「何を謙遜しているのよ。そんなのは私にとって嫌味よ。」
「す、すみません!」
思わず頭を下げてしまいました。
「いいのよ、私も課題が見つかったし、これからはまだまだ強くなれるって分かったわ。創造神、超越神の補佐をしている凍牙の妻として恥ずかしくないように頑張らないと・・・」
「と、凍牙さんの奥さんだったのですか?」
あの凍牙さんの奥さんって!
冷華さん程の美人ならあの最強クラスのイケメンの人に釣り合いますね。絶対にお似合いだと思います。
「そうよ。」
冷華さんが再び微笑んでくれます。私もこんな素敵な笑顔をしたい・・・
「あの雪もだけどね。」
(はい?雪さんも?)
「事情は聴いたわよ。あなたが強くなりたいって理由をね。それは私達と同じよ。好きな人と一緒になりたい、隣で一緒に戦いたい、その気持ちは良く分かる。神界と呼ばれている私達の世界も何だかんだで最後は武力で決着を着けるからね。」
そう言って右手を私へと差し出しました。
ギュッと握り冷華さんを起こします。
「ありがとう。」
ニコニコしながら冷華さんが私の手を取り起き上がりました。
「本当にあなたは人間なの?まぁ、私の知っている人でも人間から神の仲間入りをした人はいるし、あなたが神の力を使えるのも不思議ではないわね。天寿を全うしたら神の仲間入り間違いなしね。」
「そんな事があるのですか?」
「そうよ、神に認められた人間は寿命を全うすると、神として生まれ変わりこの世界の住人になるのよ。あなたはその資格を得たようね。将来を楽しみしているわ。神界に来たら良いお友達になれそうだしね。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げます。私が認められるなんて・・・
(こんな嬉しい事はありません。)
「だけど・・・」
そう言って上空を見ました。
「まだ雪が残っているわよ。」
そうです!
私も上空を見ました。真っ白な4枚の翼を広げた雪さんが佇んでいます。
「雪は私よりも強いわよ。気を引き締めて戦いなさい!今度、雪と一緒にあなたの世界へ遊びに行くわ。案内は宜しくね。それと、凍牙も一緒に連れていくから、あなたの好きな人を紹介してね。頼んだわよ。」
いやいや!凍牙さんを連れていくなんてマズいです!
あんなイケメンを連れて行っていったら大混乱間違いないです!
私はレンヤさん一筋だから、どんなイケメンが来ても動じませんけどね!ふふふ・・・
「さて、私は邪魔ね。美冬と一緒にあなたの戦いを見物させてもらうわ。」
フワッと冷華さんが浮かび、師匠の隣まで飛んで行き並んで立ちました。
「さて・・・」
上空の雪さんが呟きます。
「第3ラウンド開始ですね。」
私が呟くと雪さんが頷きました。
ダン!
右足を地面へと踏み込み構えます。
(気合!注入!)
「アロー!レイン!」
雪さんが叫ぶと矢が放たれました。
「何!」
上空から1本の矢が放たれましたが、一瞬にして数十本に増え私へと迫ってきます。
先程の大量の矢もこの方法で放ってきたの?
(だけどね・・・)
魔力の矢なら今の私はどれだけの数を放たれようとも関係ありません。
1本1本が全て把握出来ます。
「はっ!」
目の前まで迫ってくる矢の1本を横に弾きました。
カカカカカッ!
弾いた矢が隣の矢を弾き、その弾かれた矢がまた隣の矢へと次々に連鎖して弾かれていきます。
パァアアアアアアアアンッ!
私に迫っていた数十本の矢が目の前で弾け飛びました。
1本たりとも私へ届いていません。
「そんなバカな・・・、1本の矢を弾いただけで連鎖を起こして無効化するなんて・・・、私のリフレクト・ショット以上の精度の反射を出来るなんて・・・」
雪さんがブルブルと震えながら私を見ています。
今の私のこの神の目には全ての事象が見えます。私が起こした結果がある程度なら先読み出来るのです。
だから、矢をこうして弾けば連鎖を起こして無効化する軌道も見る事が出来ました。
「それなら!絶対に躱す事も出来ない程の大量の矢を放てば!遠慮はしません!」
雪さんが黄金の弓を頭上に掲げました。
「神器解放!」
背後に数十人の雪さんが出現し、全員が一斉に矢を放ちました。
「ミラージュ・アロー!そして、いっけぇええええええええええええ!アロー・レイン!」
数百本の光の矢が雪さんから放たれます。光の矢がまるで壁のようになって私へと迫ってきます。
(マジっすか?出鱈目ですよ!)
前言撤回!いくら私でもこれだけの数は避けるのは無理です。
だからといって方法が無い事はありません。
(師匠、例の技を使わせていただきます!雪さん!今の私の最大の技で応えます!)
グッと脇を締め右足を前に踏み出します。右腕も前に出し、左腕は後ろへ下げ構えました。
精神を集中します。
ダンッ!
右足を軸に体の回転を始め左足を前に踏み出しました。地面が左足を中心に放射線状のヒビが走ります。全身の魔力も併せて今まで以上に大きく螺旋状に体中を巡らせます。
「これが私の全力ぅううううううううう!」
左腕を中心にしたとても大きな黄金の魔力の渦が出来上がりました。
「唸れぇえええええええええええ!黄金の左ぃいいい!ファントムッッッ!クラッアアアアッシャーァアアアアアアッ!」
巨大な黄金の魔力のリングが衝撃波を放ちながら私の突き出した左腕から飛び出しました。
ゴシャァアアアアアアアアアアアアアア!
私の目前まで迫ってきた矢の壁をリングが木っ端微塵に吹き飛ばしています。
真っ直ぐに高速のリングが雪さんへと飛んで行き、リングが雪さんを飲み込みました。
「きゃああああああああああああああああああ!」
ドサッ!
雪さんが地面へと落ちてきました。
しかし、まだ意識がありヨロヨロと立ち上がります。
「ブルー・デスティニーがここまで破壊されるなんて・・・、さすがは美冬のフィニッシュ・ブローね・・・」
雪さんの姿は満身創痍に間違いありません。美しいはずの青い甲冑はボロボロにひび割れ半分以上が欠落しています。4枚の翼も3枚は根元から折れ、残り1枚の翼も半分が消失していました。
「だけど、勝負はまだよ!」
まだ雪さんの目は諦めていません。この闘志は私も見習わないと・・・
冷華さん・・・
雪さん・・・
本当にありがとうございます。あなた達のおかげで私は更に強くなれました。
その感謝を込めて全力で打ち込ませていただきます。
ダン!
右足を前に出し、左腕を後ろへ引き右腕を雪さんへと突き出します。白狼神掌拳基本の構えです。
「それでは行かせてもらいます!」
この言葉で私は一気に雪さんとの距離を詰めます。
師匠から教わった『瞬歩』、一瞬にして相手との距離を詰める高速の足さばきです。
「な!速い!」
しかし、雪さんも流石です。私の速さに対応して一瞬にして矢を放ってきました。
避けようと思った瞬間!
神速の動きで2射目を放ってきました。
(マズい!)
今の目の前の矢を避ければ確実に2射目の矢が命中する!これしか避けられない場所へと的確に打ち込んできました。
(避ける?いえ!私には前進しかありません!)
パシ!
目の前へと迫って来た矢を人差し指と中指で挟んで受け止めました。
そのまま手首を捻り180°の方向へ矢を放ちました。
キィイイイイイイン!
放った矢が2射目の矢と正面からぶつかり消滅します。
「もらいましたぁあああああああああ!」
私の右拳が雪さんの胸へと迫ります。
「まだまだよぉおおおおお!クリスタル・シールド!」
ガキィイイイイイイイイイイッン!
私の右拳が雪さんの胸のほんの手前で止まってしまいました。
とても綺麗な水晶の輝きの障壁が私の拳を受け止めています。そのまま突き破る事が出来ません。
「最後の一手は私がもらったわ!」
黄金の弓が輝くと一瞬で2振りの剣に変化し、雪さんの手に握られています。
「まだです!この勝負!私が勝たせてもらいます!」
障壁に止められている右拳に魔力を込めると黄金に輝きました。
「通し!」
その黄金の輝きの気弾は障壁を粉々に砕き、そのまま雪さんの胸の中心へと吸い込まれます。
雪さんの胸に私の拳大の穴が開き、気弾は後方へと飛んで行きました。
「がはっ!」
雪さんの口から大量の血が溢れます。
そのままゆっくりと私にもたれかかりました。
胸に開いた穴からも大量の血が流れています。
(マズい!このままじゃ死んじゃう!)
「パーフェクト・ヒール!」
「はっ!」
雪さんが目を覚ましました。
今は小屋の中にあるベッドで休ませています。
(良かったぁぁぁ・・・)
思わず涙が流れ雪さんに抱き着いてしまいました。
「ごめんなさい・・・、ここまでするつもりはなかったのに・・・」
「いいのよ。」
雪さんがゆっくりと私の頭を撫でてくれます。
「お互いに真剣勝負だったから気にしないで。まさかここまであなたが強かったなんてね。人間だと思って油断していた私が悪いのよ。」
しばらく抱き合っていましたが、お互いに離れ雪さんがベッドから起き上がりました。
「それにしても凄い回復魔法ね。致命傷があっという間に治っているし、まるでフローリア様か春菜様みたいに温かい魔力だったわ。あなたの心の温かさがそのまま魔法に伝わっているみたいね。」
「そ、そんな・・・」
ちょっと恥ずかしいです。
「それにね、私も冷華もあなたに感謝しているのよ。」
「それは?」
「私達フェンリル族はね、戦えば戦う程に強くなるの。でもね、相手が誰でもって訳じゃ無いのよ。お互いに真剣に命がけで戦う時が1番成長出来るの。だからね、今回の戦いは私達も大幅にレベルアップ出来たわ。最近ちょっと頭打ちになっていたから、あなたとの戦いは本当に感謝しているわよ。」
チラッと冷華さんを見ると・・・
ウンウンと頷いていました。
(何ですか、この戦闘民族は?)
そして雪さんが右手を差し出してきました。
私も手を伸ばしガシッと握手をします。
とても嬉しそうに雪さんが微笑んでいました。
「これで私もあなたと友達よ。お互いに真剣にぶつかり合えば言葉は要らないわ。」
「はい!」
「困った事があったら私と冷華が助けに行くからね。本来、私達は他の世界に干渉出来ないけど、逃げ道はいくらでもあるからね。ねぇ、美冬・・・」
雪さんの視線が師匠へ向きました。
「ははは・・・」と師匠が冷や汗をかいているのは初めて見ましたけど、みなさん本当に仲が良いのですね。
「それじゃ、私達は元の世界に戻るわね。今度はあなたの世界で観光するからよろしくね。」
冷華さんがパチンとウインクをしましたけど、本当に来るのでしょうか?
まぁ、私の世界にも獣人はいるから問題無いでしょう。
2人と握手を交わした後、冷華さん達の姿が消えました。
(神の世界に戻られたのですね。)
「ソフィア」
師匠が私を呼びました。
「卒業よ。よく頑張ったわね。」
とても優しく師匠が微笑んでいました。
「し、師匠・・・」
どうしてでしょう?涙が止まりません!嬉しい気持ちと悲しい気持ちが入り交じって、どうしようもなく涙が流れてきます。
ギュッ!
師匠が私を抱きしめてくれます。
「もっと胸を張りなさい。あなたは私の自慢の弟子なのよ。私の『白狼神掌拳』を受け継ぐ事を認めたたった1人の弟子なのよ。だから堂々とする事!分かった?」
「はい!」
師匠から認められました!もう私は泣きません!
「それじゃ、ソフィア、あなたの元の世界に戻すわ。」
師匠に深々とお辞儀をしました。
「師匠、本当にありがとうございました。この修行の事は絶対に忘れません。私の一生の宝物です!」
「まぁ、そう思ってもらえたら私も嬉しいわ。」
「ソフィア姉ちゃん!頑張れよ!」
吹雪君も握手をして励ましてくれました。
「吹雪君も頑張ってね。お母さんに負けないくらいに強くなるのよ。」
「う~ん・・・、母ちゃんよりも強くなるって・・・、無理かも・・・」
吹雪君が思いっ切り頭を捻っていました。確かに師匠よりも強くなるのはねぇ・・・
(私も無理だと思います。ははは・・・)
「元の世界に戻っても目覚めるのは数年先になるわ。」
「どうしてです?」
「今のあなたは精神体なのよね。そのまま肉体に戻っても今のあなたの力だと肉体が追い付かないわ。精神と肉体が馴染むのに数年かかるの。悪いけど、彼氏に会えるまでもう少し我慢してね。」
「大丈夫です!ここまで頑張ってきましたし、たった数年じゃないですか!私にとって一瞬みたいなものですよ。」
「そうね、あなたは1万年近くも頑張ってきたのだからね。それじゃ、フローリアから借りた転移石で元の世界に戻すわね。」
師匠の掌にあった空色の石が輝きました。
私の意識が段々と薄れてきます。
(師匠・・・、本当にありがとうございました。)
(ここは?)
何でしょう?真っ暗な世界ですが意識が段々とハッキリしてきます。
真っ暗な世界ですが、遠くから光が段々と迫って来るではないですか!
(この魂の色は!)
この魂は忘れません!
(レンヤさんだ!レンヤさんが私を迎えに・・・)
【ソフィア、待たせたな。】
全く音の聞こえない世界なのに声が聞こえます!
(あぁぁぁぁぁぁ・・・、この声は・・・)
レンヤさん!本当に生まれ変わって戻って来たのですね!この日をどれだけ待ち望んだか・・・
「大丈夫です。こうしてレンヤさんに再び会えたのですから、待った甲斐がありましたよ。」
【この声はソフィアか!】
「はい・・・、こうして再び巡り合えるなんて・・・」
あぁあああああああああああああああああああああああ!
嬉しさで失神しそうです!
早く!早く!レンヤさんを抱きしめたい!
・・・
(あ”ぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!)
フローリア様の結界で身動きがぁあああああああああああああああああああああああああ!
どうすれば良いのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!
目も開けられないなんてぇええええええええええええええええええええええええ!
ガシャァアアアアアアアアアアアン!
(何!この音は!)
体が動く・・・
(レンヤさんが結界を破壊してくれたの?)
ずっと閉じていた目を開けました。
そこにいたのは・・・
(ラピス・・・、変わらないわね・・・)
そして・・・
かなりのイケメンの男の人が立っています。黒目に黒髪、そして右手にはあの聖剣アーク・ライトが!
あの時のようなワイルドさは無くパッと見れば別人ですが、私には分かります!
生まれ変わって、こうして私を迎えに来てくれました!
(レンヤさん!本当にレンヤさんだ!間違いありません!)
「ただいま。」
レンヤさんが微笑んでくれました。もう涙が止まりません!
「お帰りなさい、レンヤさん・・・」
もう我慢出来ません!
早くレンヤさんを抱きしめたい!ラピスがいようが構いません!
両手を広げレンヤさんへと駆け出します。
(大好き!大好き!もう2度と・・・)
(はぁっ?)
誰なの?
レンヤさんの隣にいる見た事もない女は?
(許せない・・・)
一瞬にして私の頭に血が上りました。




