90話 ソフィア復活⑧
私の想いは誰にも負けません!
いえ!負けてたまるものですかぁあああああああああああ!
グッと構え2人を見つめます。
2人は真剣な表情で、さっきみたいにニヤリとも笑っていません。
完全に本気になっているが分かります。
「それじゃ、本番行くわよ。ダブル!トマホーク!」
冷華さんが両手で握っている斧が輝きます。
(何?)
「嘘・・・」
両手を広げると、今までよりは少し小振りになりましたが、両手に両刃の黄金の斧を握っています。
小振りといっても私の世界にある戦士の使うバトルアックスよりもかなり大きいです。
「この唯我独尊は全ての神器の元になった神器よ。インフィニティの技も使えるわ。」
2人がフワッと浮かび上がります。
「アヤ程じゃないけど、私が一番得意なモード・アックスで勝負を着ける!」
冷華さんが一気に急降下を始めましたので、精神を集中して構えます。
「行くわよぉおおおおおおお!」
「こちらこそ!」
猛スピードで私へと接近してきますが、さっきみたいなジグザクな飛行もしないし、どういう意図があるの?
「何!」
いきなり冷華さんが数十人に増えます!
しかも!どの冷華さんにも気配を感じるなんて信じられません!
「喰らいなさい!ゴーストォオオオ!ハウリング!」
両手に黄金の斧を構えた大量の冷華さんが迫ってきます。
「くっ!」
さすがに避けきることは不可能だったので、避けきれない冷華さんに拳を当てると手ごたえがありません。
そのままスーと消えました。
(どういう事?)
しかし、そんな私の混乱などお構い無しに次々と冷華さんが切りかかってきます。
目の前に黄金の光の線が見えた瞬間に、
ザシュ!
「ぐあっ!」
左の脇腹に鋭い痛みが走ました。
「ぐっ・・・」
慌てて手を当てると血は流れていませんが、脇腹が大きく切り裂かれています。
精神体なので痛みだけで済んでいますが、これが生身の体なら間違いなく致命傷になります。
(これが彼女の本気・・・)
分身の冷華さんが通り過ぎ、再び上昇しました。
上空でくるっと私の方へ振り向くと大量の冷華さんが1人へと吸い込まれ元の1人の冷華さんへと戻りました。
「よく避けたわね。私の本気の攻撃でも脇腹を抉るだけなんて・・・、今の技を喰らってバラバラにならなかったのは純粋に凄いと思うわ。」
そして再び両手の斧を構えます。
「だけど、もう後がないわ!覚悟ぉおおおおおおおお!」
ぶわっ!
大量の冷華さんが私に襲いかかりました。
目で追ってはダメ!感じるのよ!
目を閉じ気配を探ります!
(これは!)
分身は魔力と闘気を合わせて作ったものなの?実体のある幻なんて・・・
こんなのどうして本人を見つけるのよ!
(いえ!分身と本体はわずかだけど分身が本体よりも遅れて動いているわ!)
「見えた!」
目の前に本物の冷華さんが迫って来ます。
右腕を少し引き拳を突き出そうとしました。これなら確実に冷華さんへ当てられます!
「もらったぁあああああああああああああ!」
しかし!
「甘いわね・・・、相手は私だけじゃないわよ。」
ニヤッと冷華さんが笑いました。
ゾクッ!
背中に冷たい汗が流れました。
ヒュン!
光の矢が私へ向かって飛んできます。しかし、狙いが素直過ぎます。少し体を捻ると矢が右肩を掠めて飛んでいきました。
冷華さんが目に前まで迫って来ましたが、この距離ならまだ私の反応速度なら問題ありません。
右拳を前に突き出そうとした瞬間!
グサッ!
左肩の背中側に鋭い痛みが走ります。
「ぐっ!」
その痛みで私の回避運動が遅れてしまいました。
ザシュ!
「ぐぁあああああああああああああああああああああああ!」
私の右腕が宙に舞っていました。
(こ、こんな・・・)
ドス!ドス!ドス!
「がはっ!」
右肩に1本、右足、左足の太ももに1本づつ矢が刺さりました。しかも、雪さんが正面の上空にいるのに何で後ろから矢が飛んでくるの?さっきの矢も躱したはずなのに、何で後ろからなの?
「リフレクト・ショット!」
雪さんが私を見つめています。
「卑怯とは言わないでね。私は弓使いだし、あなたの異常な反応速度に対抗するにはこれしか無かったわ。正面からの矢は全て躱されてしまうから、跳弾を利用させてもらったわ。普段ならこれでも躱されてしまうと思うけど、さすがに冷華相手には荷が重すぎたようね。」
冷華さんが雪さんの隣へ戻り浮いています。
「私達をここまで本気にさせたのは称賛に値するわ。美冬からは聞いているけど、無理に私達に勝つ必要はないのよ。あなたの戦い方を見て判断すると言われていたし、これだけボロボロになってしまったから、これ以上の戦闘は無理だと思うわ。右腕も無し、両足にも矢が刺さってフットワークが中心のあなたは満足に動くことも出来ない。潮時よ・・・」
そして冷華さんが師匠へと視線を移しました。
でも、師匠は私を見て微笑んでいいます。
「ソフィア、これはあなたの戦いよ。今後に繋がる戦いなの。だから私に遠慮しないであなた本来の戦い方をしなさい。」
「師匠・・・」
ゆっくりと師匠が頷いてくれました。
「分かりました、師匠・・・、封印していました大聖女のスキルを開放します。」
「スキル解放!パーフェクト・ヒール!」
切り飛ばされた右腕が元の姿に戻ります。刺さっていた光の矢も消滅し、脇腹の傷も全快しました。
突然、頭の中にスキルが浮かび上がります。
(このスキルは!)
このスキルこそ私がずっと追い求めていたスキルです。
思わずそのスキルを発動しました。
「女神の力を我に!」
全身に力が溢れます。圧倒的な魔力が私の体中を巡っています。
「神化!」
頭の中に声が聞こえてきます。称号を得た時の声?
『条件を満たしました。現在の称号【大聖女】に称号【武神】が新たに追加されます。』
(はいぃいいい!?称号が2つ?)
称号を2つ持っている人なんて聞いた事がありません!
しかも!神の名を持つ称号も初めて聞きます!
何かの間違いでは?
だけど!
これなら!この力ならあの2人に勝てる!レンヤさんと共に戦うこの力で!
「何なのよぉおおおおおおおお!あれはぁあああああああああああ!」
冷華さんが叫んでいるのが聞こえます。
「あの子に何で翼が生えるの?本当に人間なのよね?それに瞳が金色だなんて、まるでフローリア様のようじゃないの!人間が女神になれるなんて聞いた事が無いわ!」
「まぁ、普通は無いわね。」
師匠がニヤニヤ笑っています。
「それを彼女が成し遂げたのよ。異常とも言える長い年月の努力の果てにね。人間でありながら神の力を手に入れたの。」
そして私を見つめました。
「ソフィア・・・」
「師匠・・・」
ニヤッと師匠が笑います。
「思いっきりやりなさい。あの2人はタフさでは神界でも最上級のクラスだから、全力で戦ってもあの2人が死ぬことはまず無いわ。それとあなたのこの力は時間制限があるから速やかにね。」
「はい!」
グッと腰を下げ構えます。
先ほどとは比べ物にならない程に心が落ち着いています。
私の周りにある物全てが手に取るように分かります。
(どうやらあの不規則な動きの矢は、周りに舞っている羽が怪しいわね。1枚1枚かなりの魔力を感じる。)
「今度こそ、本当にトドメよ!」
冷華さんが斧を構え再び私に向かって急降下を始めました。
(今度は私から仕掛ける!)
背中に意識を集中するとフワッと浮かび上がりました。
(これが空を飛ぶ感覚!何て素敵なの!)
「ゴーストォオオオ!ハウリング!」
冷華さんが金色に輝き大量の分身が私に襲いかかります。
「さっきまでと違う!分身と実体の差が分かる!」
冷華さん本体の斧が私の目の前に迫りました。
キィイイイイイイン!
「そんなバカなぁああああああああああああああああ!」
驚愕の表情で冷華さんが私を見つめています。
「何で!何であなたが凍牙の斬魔拳を使えるのよぉおおおおおおおおお!」
黄金の闘気に包まれた私の右腕の手刀が黄金の斧を受け止めていました。
「凍牙さんに1度見せてもらいました。この状態の私なら使えるみたいですね。それに冷華さん、この必殺技を使うのは3回目ですよ。これだけ私に見せたらもう通用しません!」
ヒュヒュヒュン!
数十本の矢が私へ迫っています。
「見える!」
不思議な感覚です。もう一人の私が上空にいるようで周りの事が全て詳細に感じます。
僅かに体を動かすと全ての矢を躱しました。
それにしても雪さんの技量は凄いです。私が避けても冷華さんへ矢が飛ばないようにしているのですね。
「そんなぁぁぁ・・・」
雪さんが青ざめた顔で私を見ています。
「あの矢を全て躱すの・・・、さっきの動きとは別次元よ・・・」
ドカッ!
隙を見せた冷華さんを横蹴りで吹き飛ばします。
「げほっ!」
脇腹に私の足が食い込みクルクルと回転しながら真横に吹き飛んでいきました。
ですが、途中でピタッと止まります。
「はぁはぁ・・・、ここまで化け物だなんて・・・、防御フィールドを無視してダメージを与えるなんて、美冬と同じで容赦無しね。」
二振りに分かれていた黄金の斧が一振りに戻りました。
両手でギュッと握り締めています。
「小細工はもう無しよ。この一撃に全てを賭ける!」
斧を思いっ切り後ろに構えています。
「行くわよ!」
その掛け声で冷華さんが私へと真っ赤に輝く翼の軌跡を残しながら猛スピードで突っ込んで来ました。
私も冷華さんの気持ちを受け止めましょう。
防御シールドの魔法を私の足元に展開します。
(これで足場OK!)
左拳を前に突き出し左足を前に出します。右足を後ろへ下げグッと腕を曲げ脇を締めて構えます。
目の前まで冷華さんが迫り、斧を真上に振り上げました。
「私の全力っっっ!ファイナルゥウウウ!エンドォオオオオオオオ!」
「負けられません!マグナムゥウウウ!ブレイクッ!」
黄金の魔力が拳を中心に渦を巻いています。全身の回転のエネルギーを込めた全力の右ストレートを斧へと叩き込みました。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
とてつもない破壊音が響きました。
「そんなぁあああああああああああああああ!唯我独尊がぁあああああああああああ!」
黄金の斧が粉々に砕けていました。
その隙を私は見逃しません!両腕をグッと後ろへ振りかぶりました。
「これで最後ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!白狼神掌拳!秘奥義!金剛神掌ぉおおおおお!」
諸手の掌底突きを冷華さん鳩尾に叩き込みました。胸の甲冑を砕き、私の掌底が手首まで冷華さんの腹に食い込んでいました。
「げほぉおおおおおおおおおおおお!」
私の秘奥義を受けた冷華さんが猛スピードで地面へと落ちていきます。
ドシャァアアアアアアア!
地面に大きなクレーターが出来上がり、その中心に冷華さんがピクピクしながら倒れていました。
「勝った・・・」
無意識にグッと拳を掲げていました。




