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88話 ソフィア復活⑥

私の目の前には信じられない姿の師匠が立っていました。


「し、師匠・・・、そのお腹は・・・?」


「ふふふ・・・」


とても嬉しそうな表情の師匠が私を見つめています。

こんなに可愛い師匠なんて見た事がありません!


「あなたには言っていなかったけど、私、結婚していたのよ。」



(マジ?)



あの師匠が結婚していたなんて・・・

あのロリっ子師匠が結婚相手なんて、事情を知らない人が見れば犯罪よ!




目の前の師匠が妊婦になっていましたぁあああああああああああああああああああああああああああ!




信じられません!


「そんな訳でしばらくはここに来られないから、少し宿題を残しておくわ。」


グッと師匠が構えをとりました。


「良く見ていなさい。」


師匠から少し離れ横からジッと見つめました。


あれ?いつもの師匠の構えと違います。

普段は右足と右腕を前に出して体は相手に対して直角に向け、体の中心の急所は絶対に相手に向けないでいるのに・・・

今の構えは今までと逆でグッと腕を曲げ脇を締めて構えています。

左足を前に出し右足を後ろへ下げた構えは始めて見ました。今までの構えとは真逆です。


ゾクッ!


(何!この寒気は?)


「しっ!」


師匠の口から短い言葉が聞こえました。


体が回転したかと思った瞬間に、とてつもない衝撃波が師匠の右腕から発せられていました。

右腕を真っ直ぐに伸ばしていましたが、師匠の目の前の地面は・・・


「嘘でしょう・・・」


衝撃波で真っ直ぐ延々と地面が抉れています。


(風圧だけでここまでの破壊力が・・・)


今の師匠の攻撃をこの身に受けると考えると・・・


あまりにも凄すぎて恐怖しか感じません。


「どう?ちゃんと見た?う~ん、今はお腹が大きいからあまり無理が出来なかったけどね。」


師匠が私に微笑んでくれましたが、正直真似が出来るなんて思ってもいません。


「これが『マグナム・ブレイク』、今、あなたに教えている白狼神掌拳をベースに私が考えたオリジナル・フィニッシュブローよ。これよりもっと強力な技もあるけど、今のあなたには無理だけどね。この技は私が戻ってくるまでに身に付けてよね。」


「し、師匠・・・、いくらなんでも私には・・・」


そう、ここまでの事はさすがに人間である私には無理です!非常識過ぎます!


「何を言っているの?あなた、強くなりたいって言っていたじゃないの?これくらいの力を見せられてビビってしまったの?とんだ期待外れだったわ。」



「あなたならマスター出来ると思っていたのに・・・」



師匠がとても寂しそうでした。

そんな顔をさせてしまったなんて・・・


師匠は私ならマスター出来ると言っていたわ。

それなら・・・


「師匠、申し訳ありません。私は弱気になっていました。」

グッと拳を握り締めます。

「師匠がお帰りになるまでには必ず!今の必殺技をマスターします!」


「頼んだわよ。次は可愛い赤ちゃんと一緒にくるからね。」


師匠が嬉しそうに私の拳を握ってくれました。




それから必死に頑張りました。


来る日も来る日も・・・


あの構えは今まで教えてもらった構えと真逆に見えても原理は一緒です。


踏み込み ⇒ 足の回転 ⇒ 腰の回転 ⇒ 肩の回転 ⇒ パンチ


要は踏み込む際の回転力を拳に乗せるのですが、どんなに頑張っても師匠のような破壊力が出ません!

どうしてあそこまで?

私の目の前で見た師匠の動きと全く同じだと確信していますが、肝心の破壊力が雲泥の差です。

確かに衝撃を発生させる事は出来ましたが、地面の抉れ方が全く違います。


(どうして?私と師匠とは何が違うの?)


スピードもタイミングも師匠の域まで辿り着きました。だけど・・・


「師匠の動きは?」


頭の中であの日見た師匠の動きを思い出します。何度も思い出していますが・・・


「はっ!もしかして・・・、師匠は・・・」


師匠は魔力を使い身体能力や技の破壊力を増しているのは分かっています。

私も聖魔法しか使えませんが、この魔力を使って技の破壊力を上げていました。


だけど・・・


あの技は全身に魔力を纏わしているだけではありません。記憶の中に微かに見えました。

師匠の黄金の魔力が右腕を中心にし渦を巻いていたのを!


「もしかして?」


グッと構え魔力を全身へと巡らせます。この魔力操作はずっと行っていましたので、今では息をするように簡単に魔力を纏わす事が出来るようになりました。

頭の中で魔力をグルグルと回すイメージを行います。


まずは足元から・・・


魔力を細い螺旋にし足元、膝、腰、と順々に少しずつ体内の螺旋状の魔力を大きくします。

その螺旋に体の回転を加え、更に!


魔力が私の右腕に集まってくるのが感じ取れます。


(こ、これは!)


私の魔力は白色ですが、右拳を中心にして魔力の渦が出来上がっています。

パッと見は単なる渦に見えますが、この渦は並みではありません!とんでもなく高密度の魔力の渦です!


(マズい!ここまで強力になるなんて!)


「はぁああああああああ!」


慌てて右腕を突き出しました。師匠のイメージー通りに肩の回転、拳の回転も忘れません。



ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッン!



とてつもない爆発音が響き渡りました。




「これは・・・」



目の前の光景に声が出ません。


「で、出来た・・・」


あの時の師匠と同じ光景が私の前に広がっています。

遙か彼方まで一直線に地面が抉れています。


「これがマグナム・ブレイク。やっとレンヤさんとラピスの横に立てるんだ。」


余りの嬉しさに体がプルプルと震えています。

やっとみんなの隣に立てる資格を得たんだ。



「おめでとう、とうとうね。」



不意に後ろから声が聞こえたので慌てて後ろを振り向きました。


「師匠・・・」


師匠がニッコリと微笑んで私を見ていました。

そしてその腕には・・・


「か、可愛い・・・」


金髪の赤ちゃんを抱いていました。

何て可愛い赤ちゃんなんでしょう!見ているだけで心が癒やされます。


「どう?抱いてみる?」


その言葉に思わず首を何度も頷いてしまいました。

これでも私は子供が大好きなんです!特に赤ちゃんは最高です!


「うふふ・・・」


師匠から赤ちゃんを抱かせてもらいました。こうして見ると何て可愛いのでしょう!

このプルプルほっぺをツンツンしたくなってきます!


私もいつかはレンヤさんとこうして・・・


あぁぁぁ・・・


私の隣にレンヤさんがいて、2人の愛の結晶である赤ちゃんを抱く光景が浮かんできました。

レンヤさんが私の肩を優しく抱いて寄り添っています。

そしてニコッとレンヤさんが微笑んで、「ソフィア、大好きだよ。」って言ってくれて・・・


「へへへ・・・」


あ!よだれが・・・


ジュル!


「こら、ソフィア、吹雪に変な事をしないでよ!」


師匠の声で現実に戻されました。

危ない、危ない、危うく赤ちゃんの顔に私のよだれが落ちるところでした。

それにしても本当に可愛い!


「よく頑張ったわね。」

師匠が褒めてくれました。

「思ったよりも早く習得したわね。最初の予定ではこの技を習得した段階でタイムリミットだと思っていたけど、このペースなら最終奥義までいけそうね。」


「最終奥義ですか?」


「そう」

ゆっくりと師匠が頷きました。

「あなたは努力の才能だけでなくて、もう1つ才能を持っていたのね。見た事を完璧に記憶出来る才能をね。完全記憶能力と言うのかしら?」


「私にもう1つの才能があったなんて・・・」


「そうよ、でもね、どんな立派な才能があっても、それこそ数え切れないくらい才能があっても、努力の才能が無ければどれも宝の持ち腐れだったわね。あなたの1番の才能はやっぱり努力だったわね。だからここまで強くなれたのよ。自信を持ちなさい。」


「は、はい!」


思わず涙が出てきました。

師匠に認められました。こんな嬉しい事はありません!

タイムリミットまでに必ず最終奥義を覚えます!



絶対に!



私の腕の中にいる赤ちゃんが応援でもしてくれるかのように、私を見てニコニコと微笑んでくれました。





「今日が最終試験よ。」


師匠が私の前に立っています。


「まぁ、いくら強くなってもまだ私の域にまで達していないから、ここにいる3人と戦ってもらうわ。どれもあなたと同レベルの強さだから、気を抜けばすぐに負けるわよ。」



「ソフィア姉ちゃん!本気で行くからな!」


師匠のすぐ横に立っていた金髪の男の子が嬉しそうに私を見ています。母親の師匠と同じ獣人で、嬉しいのか耳がピコピコと尻尾がフサフサと動いています。


「吹雪君、私も遠慮しないわよ。」


私がグッと構えを取ると吹雪君の姿が消えました。


(後ろ!)


後ろを振り向いた瞬間に圧倒的な闘気が私に襲いかかります。


ガシッ!


右腕を曲げ肘を突き出すと、吹雪君の拳を受け止めていました。

そのまま彼の勢いを利用し体を捻ります。

まだ7歳で背の低い吹雪君の背中が私の腰の位置にあります。


「はっ!」


グイッと体を捻り腰を吹雪君の背中へ当てました。


ドン!


腰の回転だけで吹雪君を吹き飛ばします。


「どわぁあああああああああああ!」


私の腰から発せられた発勁をまともに受け、真横に吹き飛んでゴロゴロと地面を転がっていきました。


(それにしても本当に7歳なの?)


強い・・・

私がこの1万年近くかかった事を僅か数年で追い付くなんて・・・


(さすが師匠の子供ね。)


確かにこの子は強い!だけど素直過ぎるわ。

まるでかつての私のように・・・


「は!」


吹雪君が私の足を狙ってスライディングをしてきます。


(甘い!視線で見え見えよ!)


そのまま飛び上がろうとすると、吹雪君が急ブレーキをかけ一気に飛び上がりました。

私は飛び上がらずグッと構えると、私の目の前を吹雪君がジャンプしている姿が目に入ります。


吹雪君がジャンプの頂点へ達した辺りで、私も一気に飛び上がり吹雪君よりも高く飛び上がりました。


「喰らいなさい!」


空中で独楽のように回り、回し蹴りを吹雪君へと炸裂させました。


ドカッ!


「ぐあっ!」


咄嗟に両手でガードしていましたが、そのままの勢いで吹雪君が地面へと背中から落ちました。

手加減しているから怪我はしていないと思うけど・・・


スタッと吹雪君が立ち上がり、地面へと落ちてきた私に向けて再び構えました。

あれだけの攻撃でもダメージが無いの?

タフネスさでは私には敵いません。



「参った・・・」


へなへなと吹雪君が崩れ落ちます。


「大丈夫?」


慌てて吹雪君に駆け寄りましたが、地面に座っているだけでダメージは無さそうなのでホッとしました。


「ソフィア姉ちゃん、本当に強いな。どれだけ攻撃しても当たらないし、俺の攻撃が全部読まれているなんてな。」


二カッと吹雪君が私に笑いかけてくれます。

まだ子供ですけど、この子はおじさんの凍牙さんみたいにとんでもないイケメンになりそうね。

さすが超絶美少女の母親から生まれただけありますよ。


「う~ん、吹雪君は確かにパワーがあるから、どうしてもそっちへ考えが行ってしまうみたいね。私も最初は吹雪君と一緒でお母さんに散々弄ばれたからね。その気持ちは分かるわよ。だけどね、何事もバランスは大切よ。押すだけでなく引くもの大事よ。私の言った事を忘れないでね。」


「うん!分かった!」


「あら・・・、吹雪にしては素直ね。私の言う事なんて全然聞かないのに、ソフィアの言う事は聞くんだ。」


師匠がニヤニヤと吹雪君へ微笑んでいます。

本当に仲が良い親子なんですね。孤児院出身の私にはこの光景はちょっと羨ましい・・・


「そうだよ!」


とてててっと吹雪君が私の前に来ました。


「だって、ソフィアお姉ちゃんは僕のお嫁さんにしたいからね。強くてキレイなお姉ちゃんは僕の憧れだよ。」


「へっ!」



・・・



・・・



私だけでなく師匠も固まっていました。


「大きくなったらね、僕はソフィアお姉ちゃんをお嫁さんにしたいんだよ。いいかな?」


とても恥ずかしそうに吹雪君が私を見つめています。

どうやら精一杯の告白だったみたいです。


(だけどね・・・)


しゃがんで吹雪君の目線に私も目線を合わせました。

「ごめんね、吹雪君・・・、私には好きな人がいるのよ。ずっと昔から変わらず好きでいるの。結婚はその人とするのよ。でもね、お友達ならお付き合いしても良いわよ。」


「そっか・・・」


吹雪君の目に涙が溜まっています。

本当にごめんね。


しかし、グッと拳を構えました。


「ソフィアお姉ちゃん!僕が大人になったらお姉ちゃんを奪いに行くよ!その人よりもずっとずっと強くなるから!」


(ははは・・・、何も言えません・・・)


チラッと師匠を見ると・・・


やれやれといった感じで呆れていました。




余談ですが・・・


10年後、吹雪君は本当に私のところへ来ました。

吹雪君17歳、既に成人になって修行して勝てると自信を持ってとの事で、私を賭けてレンヤさんへ宣戦布告をしました。

私はレンヤさんと結婚して子供もいるのよ!

それでも吹雪君は私と結婚したかったみたいです。

容赦無しのレンヤさんにボコボコに負かされましたけど・・・


こうして私を巡って真剣勝負をするなんて・・・

ちょっと嬉しかったです。


だけど、この事でレンヤさんと吹雪君がとても仲良くなって、吹雪君はレンヤさんの事を『師匠』と呼ぶまでになってしまったのはねぇ・・・




吹雪君との模擬戦は終わりました。


視線を師匠の横に立っている2人へと移します。

銀髪の美少女の子がニヤッと笑いました。


(この2人は間違いなく強い!私の持っている全てを出し尽くします!)


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