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86話 ソフィア復活④

「それじゃフローリア、頼むわ。」


「分かったわ。」


美冬様の合図にフローリア様が返事をしました。


(あれ?)


美冬様って、フローリア様の護衛では?上司と部下の関係では?

他の3人の天使様達はそのような感じでしたが、このお2人は何でしょう?仲の良い友達のような感じに見えます。


「驚きました?」


フローリア様が私を見て微笑んでいます。もしかして私の疑問を察知されたのでしょうか?


「私は女神ですよ。それくらいの事は簡単ですからね。」



ドキッ!



わ、私の心が読まれています!


「美冬さんとは私が女神になる前からの付き合いですからね。単なる上司と部下の関係ではないのですよ。同じ人を愛し、そして失った・・・」


そして私をジッと見つめました。


「私も美冬さんも同じ気持ちですからね。どんなに苦しくても絶対に諦めないで下さい。あなたなら必ず美冬さんの修行を乗り越えられると信じています。」


「こらぁあああ!フローリア!余計な事を言うんじゃないわよ!」


顔が真っ赤になった美冬様が慌てていました。

肌も真っ白でまるで雪のような感じの美少女ですが、真っ赤になった顔も可愛いです。

女の私ですが、その表情にドキリとさせられます。真の美少女や美女は同性でも虜にさせてしまうものなのですね。


(私も女を磨いてレンヤさんを虜にさせないと・・・)


ラピスには負けないわ!



フォン!



いきなり私の前の空間が割れました。


「これは?」


「美冬さんが言っていました例の空間に通じる通路ですよ。その空間で徹底的に鍛えてもらって下さい。私は信じていますよ。あなたが『神殺しの拳』をマスターするとね。」


(本当に世界で頂点を取れるほどに鍛えてもらえるのですね。)


ブルッと体が震えました。


(どんなに苦しくても私は絶対にやり遂げます!)



(レンヤさん・・・、待っていて下さいね。)






美冬さんと一緒に空間の裂け目を通ると、目の前にはただただ広い草原が広がっていました。

そして、ポツンと小屋が1軒だけ立っています。


「ここは?」


「ここはこの神界の創造神が作った世界よ。見込みがある者を鍛える為の修行場と考えれば良いからね。」


美冬様がニッコリと微笑みましたが、急に真面目な表情になりました。


「この世界は元の世界とは時間の進み方が違うわ。外では1年が経過する間にこの世界では20年が経過するのよ。そして・・・」


「う!」


(何?急に体が重く・・・、息をするだけでもやっとよ!)


「フローリアが設定を変えたみたいね。まずは慣しでこの世界の重力を変えたわ。今までの2倍にしてあるから、体がとても重く感じるはずよ。2倍といっても常に体に負荷がかかるからとても辛く感じるでしょうね。最終的には10倍の重力でも普段通りになってもらわないと困るわ。」


(10倍!そ、そんなに・・・)


「あら・・・、嫌なら構わないわ。そのまま自分の世界に帰る選択もあるわ。フローリアから聞いたけど、彼は500年後に生まれ変わる予定みたいね。」


「そ、それは本当ですか!」


(レンヤさんは本当に生まれ変わるんだ・・・)


嬉しさのあまり涙が流れます。


「そのままジッと500年待つ手が1番現実的よ。やっぱりそうする?」


ジッと美冬様が私を見つめています。


(私は・・・)


「いえ!私はここで頑張ります!どんなに辛い日々が続こうとも私の意志は変わりません!」


「そう・・・」


美冬様が右足をダン!と前に踏み出し、右拳を私の前に突き出しました。


ドン!


「ぐはぁあああああああ!」


信じられない程の衝撃が私のお腹に炸裂し、全身がバラバラになるのではないかと思う程の激痛が体中へと伝わりました。

そのまま10m以上は確実に飛ばされてしまいました。


ゴロゴロと転がり、やっと止まった時はあまりの激痛で起き上がる事も出来ず、体を丸めるだけで精一杯でそのまま蹲っていました。

そんな私の前に美冬様が立っていました。


「げほ!美冬様・・・、なぜ?」




「覚えておきなさい。」




「はい?」


「これが力を手に入れる事よ。私の拳は神殺しの拳、その拳を受け継ぐ事は生半可ではないわよ。私の修行はこれ以上の苦痛は当たり前だからね。やる気があるならさっさと立ちなさい!」


(何?体に力が入らない!どうして?)


「どうしたの?立てないなら修行は終わり、元の世界に帰ってもらうわ。」


(負けない!絶対に私は強くなる!)


でも全身に力が入らない・・・


そんなのは関係ありません!今の私のこの体は精神体のはずです。起き上がれないという事は私がこの激痛を恐れている事よ!


そんな弱い私はもう嫌!そのせいでレンヤさんは・・・




2度とあんな思いはしたくない・・・




私は強くなる・・・




絶対に!



(動くわ!体に力が甦ってきたわ!)


ブルブルと震えながらですがゆっくりと立ち上がりました。


体中が痛い・・・

そんなのは関係ありません!

レンヤさんが受けた痛みに比べれば・・・


レンヤさんを失った心の痛みに比べれば・・・



ザッ!



何とか立ち上がりました!


「え・・・」


急に目の前が真っ暗に・・・

そのまま私は気を失ってしまいました。




ガシッ!


意識を失ったソフィアを美冬が抱きかかえていた。


「ふふふ、合格よ。」


そのまま抱え小屋の中に入って行くと、中にあったベッドにソフィアを寝かせた。

そして眠っているソフィアをジッと見ていた。


「よく私の攻撃に耐えたわね。精神体だから死ぬ事は無いけど、あの一撃で全身がバラバラになって霧散するはずだったのよ。それをあなたは耐えたわ・・・」


ニコッと微笑んで優しくソファの頭を撫でていた。


「これが人間が持っている想いの力なのね。どんなに苦しくても諦めない心・・・、そして最後に奇跡を起こす・・・、人間だけが持っている神々をも越える力・・・」




「私にもその奇跡を見せてね。才能を越える努力の力を・・・」





「はっ!」


目が覚めると目の前に知らない天井が見えました。


「ここは?」


「小屋の中よ。」


隣で美冬様の声が聞こえました。

慌てて横を見ると、美冬様がニッコリと微笑んで私を見ています。椅子に座って私の目が覚めるのを待っていたのでしょうか?


「どうやら目が覚めたようね。あなたの気持ちは良く分かったわ。」


「美冬様・・・」


「ここまで頑固な娘は初めて見たわ、ある意味フローリア以上かもね。それだけの意志なら私の修行に耐えられるでしょうね。頑張ってね。」


「あ、ありがとうございます。」


慌てて上半身を起こし美冬様にお礼を言いました。


「さぁ、早速始めるわよ!」



美冬様の後を追って小屋から出ました。

あれだけ全身が痛かったのが嘘のようにスッキリしています。


(これならどんな修行でも頑張れるわ!)


クルッと私の方へ美冬様が振り向きましたが、その表情はとても真剣です。


「ソフィアって言ったかしら?」


「はい!師匠!」


「師匠?何でそう呼ぶのよ。」


美冬様が何か嫌そうな感じです。


「い、いえ・・・、色々と教わりますから、やはりそう呼んだ方が良いかと?」


「まだ早いわ。あなたはまず基礎の体作りから始めないと話にならないわ。その期間は多分、5000年はかかるでしょうね。本格的な修行はこれからよ。」


(え!何、今のは・・・)


「ご、5000年ですか?」


とてつもなく信じられない言葉が出てきましたが・・・

私の耳が変になったの?


「そうよ、間違いないわ。さっきも言ったでしょう?この空間は外界との時間の進み方が違うってね。彼が転生するまでの500年は、この世界では1万年くらいになるのよ。これでも私の技術をマスター出来るのかは微妙だけどね。」


(い、1万年・・・)


「それくらいにあなたには絶望的に才能が無いのよ。だけどね・・・」


ニヤリと美冬様が笑いました。何でしょう?嫌な予感がするのは気のせい?


「今のあなたは精神体でこの神界に来ているから、睡眠も食事も必要無いのよ。24時間365日、ずっと休まずの修行も可能よ!しかも、本体の体はフローリアが封印してくれているお陰で肉体はずっと若いままよ。今のあなたの精神体を徹底的に鍛えれば、肉体に戻った時も同様の力を出せるはずだわ。よく言われるじゃない?『精神が肉体を凌駕する』ってね。まぁ、いくら精神体でも疲れは感じるでしょうし、この小屋で休めばリフレッシュ出来るようになっているわ。これで安心して徹底的に修行に励む事が出来るわね。」


(マジっすか?)


どんな修行でも頑張ると心に決めていましたが、美冬様の言葉でとても激しく後悔している自分がいます。


(だけど・・・、才能が無いと断言されている私ではこの方法でしか強くなれないの?)


私が求めているのは普通の強さじゃない!

あの魔王以上に強くなりたい!

あの時、魔王の呪いが解けなかったのは、私が魔王よりも弱かったから!

私が魔王以上に強ければ呪いでレンヤさんが亡くなる事もなかった!


(全ては私が弱かったから・・・)


もう迷いません!



「お願いします!」



深々と頭を下げました。


「分かったわ。もう迷いは無いみたいね。」


美冬様が右手を差し出してくれました。その右手を私はギュッと握りしめます。

正直、こんな小さな手でさっきの尋常ではない衝撃を生み出すとは信じられません。だけど、私は美冬様の技を受けました。あの魔王よりもはるかに強力な衝撃を・・・



「それじゃ、まずは基礎体力から見直さないといけないわね。」


「はい!どんな訓練でも頑張ります!」


美冬様がスッと人差し指を草原の方に向けました。


「この世界はね、一見無限に広がっているように見えるけど、ある程度のところまでいけば元の場所に戻るのよ。多分、4万キロを走ればこの小屋に戻ってくるはずよ。」


(はい?4万キロ?)


「まずは走り込みで基礎体力を作ることにするわ。今のあなたなら1周するまで何年かかるかしらね?でも、私が良いと言うまでずっと走り込みよ。分かった?」


「は、はい・・・」



それから私は延々と走り続けました。

来る日も来る日もずっと走り続けました。この世界にはこの草原以外には何もありません。危険なモンスターどころか生物は私一人です。

果てしない孤独との戦いも私の気持ちをどんどんと削っていきます。

精神体だからか、美冬様の仰った通りお腹も空きませんし眠くもなりません。

だけど、疲れだけは感じます。多分ですが精神的疲労ではないかと思われます。

疲れが限界になるまで走って、そのまま草むらの上でぐったりと大の字になって休憩をし、疲れを取ってからまた走る。


どれだけ走り続けたのでしょう・・・


「見えた!あの小屋だわ!」


地平線の向こう側にあの小屋が見え始めました。

体感でしか分かりませんが、何年もかかって戻ったのでしょう・・・


思わず涙が出てきます。


やっと小屋にたどり着くと、小屋の中に美冬様が待っていました。


「おめでとう、2倍の重力で約7年かかったわね。でもね、まだまだ走り続けてよ。10周するごとに重力が強くなっていくからね。」


(な、7年も・・・、1周だけでそんなに・・・)


「5000年の時間の中じゃ7年なんて一瞬よ。さぁ2周目!頑張れ!頑張れ!」


鬼です!ここに本物の鬼がいました!


こうなったら意地です!

絶対にこの修行を乗り越えます!






「はぁはぁ・・・、もう限界・・・」


どれだけ私は走り続けたのでしょう?もう時間の感覚は全く無いです。

少なくとも10倍の重力の中、ひたすら走る事、いえ、ノロノロと這いずり回った状態です。


ひたすら意地だけで延々と走り続けていました。


小屋に辿り着いた瞬間に私は倒れ込んでしまいました。


「おめでとう。」


美冬様がニコニコ微笑みながら小屋から出てきました。


(私がこんな酷い目に遭っているのにぃいいい!)


「しかし驚いたわ。単なる人間のあなたがここまで出来るとは予想外だったわよ。6千年も走り続けるなんてね。あの夏子や千秋でさえもクリア出来なかったのにね。創造神も酷な事を考えるわ・・・」


夏子様に千秋様?

思い出しました!美冬様と一緒にいました天使様でした!


その方々でも達成出来なかった事を私が達成出来たなんて・・・


「それじゃ、どれだけ強化されたか実感してみなさい。」


パチン!と美冬様が指を鳴らすと急に体が軽く感じます。軽いってレベルではないです。とても体がフワフワして、まるで体が無いような感じです。


「こ、これは・・・」


「重力を元に戻したわ。さぁもう1回走ってきなさい。」


「はい!」


グッと体に力を入れ一気に飛び出しました。


「嘘ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


私!空を飛んでいます!

厳密には地面と水平に飛んでいる感じです。1歩踏み出すと数キロもジャンプするような感じです。

走るというよりもスキップではないでしょうか?


気が付けばあっという間に小屋に戻ってきました。


「どうだった?」


「し、信じられません!まるで私じゃないみたいです!」


美冬様がニッコリと微笑んで私を見ています。

「これがあなたの今までの努力の結果よ。まぁ、今のあなたは精神体だからここまでの力が出せるけど、実際に肉体に戻ったらかなり制限されてしまうけどね。それでも、身体能力に関してはあなたの世界でも最上級の強さになったと間違い無く言えるわ。」


そして右手を差し出してくれました。


「よく頑張ったわ。これで第一段階をクリアね。」


美冬様の手をガッチリと握りました。


「ありがとうございます!」


しかし、ニコニコ顔の美冬様がニヤッと笑いました。


「これからが本番よ。今まではまだ生温いと思うくらいの世界が始まるわ。心が折れないように気を強く持ってね。」


(じょ、冗談ですよね?)


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