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82話 王都へ④

「あなた達を呼んだのは分かっていると思うけど、どうなの?」


ラピスが緑の狩人メンバーを見ていると、ララノアさんが片膝を着いて頭を下げた。


「ラピス様の仰りたい事は承知しています。暗部より最新の情報を得ましたので早速行動に移らさせていただきます。まずは目の前にいる彼らを王都の我々の拠点にしている宿屋へ移動させます。」


「よく分かっているわね。さすがララノアね。」

満足そうにラピスが頷いていた。

「王都の『木漏れ日亭』なら十数人の人間でも問題無く泊める事は可能ね。従業員も暗部の人間だし、魔族が泊まっても情報は漏れることは無いはずよ。まずはそこで匿っておきましょう。」


「はっ!」


「それと・・・」

ララノアさんが返事をするとガラドミアさんが話し始めた。

「王都のスラムに集まってきた冒険者崩れの連中だけど、内緒で1人とっ捕まえてゲロさせたら、とんでもない事を計画していたよ。やっぱり新しい魔王絡みだね。」


「魔族と手を組んでこの国でクーデターを起こそうとしているのか?」


俺がそう言うとララノアさんが頷いてくれた。


「勇者様の仰る通りです。魔王が王城で騒ぎを起こすので、その隙に王都の貴族街を襲うつもりでしたね。ついでに強奪も予定していたみたいですよ。貴族が貯め込んだ金品を奪う。それが本当の目的みたいですね。」


(はぁ~~~、ゲスの集まりだな。まぁ、そんな事しか出来ないから冒険者としてもまともにやっていけなくて犯罪に手を染めるのだろうが・・・)


「ララノア、ガラドミア。」


「「はっ!」」


ラピスが2人を呼ぶと同時に返事をした。


「あんた達はもう1組のSランクパーティー『白の沈黙』と組んで制圧をお願いするわ。王都全域を調べてもらっているナルルースからも連絡があったわ。王都のあちこちに召還の魔法陣を設置しているみたいね。クーデーターと同時に魔獣の召喚も行って更に王都を混乱させる目的でしょうね。設置場所は把握しておいたから、その魔法陣は私が何とかしておくわ。」


そしてラピスがニヤッと笑う。

「ふふふ・・・、この私を出し抜こうなんて甘いわよ・・・、誰に喧嘩を売ったのか身をもって教えてあげるわ。対価はあんた達の命だけどね。全員1人残らず捕まえるかその場で殺してあげるわ。どうやっても反逆罪でもれなく死刑だけどね。アレックスが頑張って大きくした国に手を出すとどうなるか・・・」


「レンヤ」

そして俺の方へ向いた。

「今度の魔王も500年前にあなたの里を襲ったやり方を踏襲しているわね。最大戦力で先制して真っ先に相手の出鼻を挫くなんてなかなかの手腕よ。だけど、今回はあなたの里のようにさせないわ。魔王、はっ!あんたを袋のネズミにしてあげるから覚悟しなさい!」


ラピスがとても頼もしいよ。


魔王よ・・・

やっと動きを見せたな・・・


「レンヤさん・・・」


アンが俺をジッと見つめている。

「私も覚悟を決めないといけないようね。」

そしてエミリアに視線を移した。

「私は何者になりたいのか?その答えをこの子が教えてくれたわ。私は魔王になる・・・、」


そしてしばらくジッと黙っていた。


「私の目指す魔王は・・・、歴史の中で繰り返されてきた恐怖の象徴の魔王ではない・・・、みんなが楽しくいられる国の象徴・・・、私は『優しい魔王』になるわ。」





「それが私の夢・・・」





「そうだな・・・、俺もそんなアンの力になるよ。」


「ありがとう、レンヤさん。」


ニッコリとアンが微笑んだ。今まで笑顔の中でも最高に眩しい笑顔だ。


「どれだけ苦しくても、私はやり遂げる。絶対に・・・」


そしてキッと真剣な眼差しで俺を見つめた。


「そうだよ。」

俺の腕の中にいるエミリアも微笑んでいた。

「私達ダンタリオン家もお姉ちゃんの力になるからね。そして、マルコシアス家も絶対に仲間にするわ。私も頑張るから・・・」


「「「我々もです!」」」


再びダンタリオン家の者全員が臣下の礼を取った。



「私達も忘れないでよ。」


ラピスが俺の隣に立つ。


「ラピスさん・・・」


アンが潤んだ瞳でラピス達を見ている。

そんな表情のアンへニコッとラピスが微笑むと、緑の狩人メンバー2人も微笑んだ。


「アン、あなたはもう私達の大切な家族よ。あなたが国を興そうとしているのなら、私達エルフ族も全面的にバックアップするわ。」

そう言って、ラピスがアンへウインクをした。

「だからね、安心して『優しい魔王』を目指しなさい。」


「あ、ありがとう・・・、ラピスさん・・・」


涙を流しながらアンがラピスへ抱き着くと、優しくアンの頭を撫でていた。


「あなたは私の可愛い妹・・・、その妹が頑張るのよ。ふふふ、姉として応援しないとね。」




「それじゃ、ララノア、彼らを頼むわ。」


「はっ!」


ラピスの前でララノアさんが膝を着き頭を下げている。


(こうして見ると、ホント、ラピスってすごい立場なんだな。冒険者の中でも雲の上の存在であるSランクの冒険者すら平伏しているし・・・)


エミリアも俺から離れ両親のところへ戻っている。

ダンタリオン家の家臣団が集まって立っていた。


「それじゃ、大規模転移の準備をするから少し待ってていてね。」


ガラドミアさんがみんなへ声をかけているけど、ふいにエミリアの父親であるカイルさんを見つめていた。


「あなたも大した力を持っているね。まぁ、まだまだ未熟だけど、うちの旦那に鍛えられればSランクの冒険者に匹敵する程に強くなれるんじゃないかな?どう?頑張ってみる?」


「はっ!喜んで!」

ザッとガラドミアさんへ膝を着き頭を下げた。


「良い返事をするね。分かったわ、旦那に頼んでおくね。まぁ、旦那のシゴキは半端じゃないから死なないように頑張ってね。死なずにシゴキを耐える事が出来たら、あたいが一晩ずっと愛してあげるよ。それくらいのご褒美をあげないとね。」


そう言ってカイルさんにウインクしたけど・・・


「この馬鹿たれぇえええええ!」


ラピスが上空からガラドミアさんの後頭部へドロップキックを喰らわせた。


ドカッ!


「グヒャ!」


そのままの勢いでガラドミアさんの上半身が地面にめり込んだ。


「この色欲お化けがぁあああああ!エルフ族の恥よ!」


ラピスがはぁはぁと肩で息をしていたが、地面にめり込んでいたガラドミアさんは何事もないような感じでズボッと地面から頭を引き抜き立っていた。


「ははは・・・、ちょっと汚れちゃったね。」


「はぁ・・・、本当にこの馬鹿たれが・・・」


ラピスは海よりも深いため息をしていた。


「ラピス、気にしたら負けだよ・・・、そんな理不尽の塊のやつは存在するからな。」


「そうね、これ以上気にしたら私の負けのような気がするわ。ほんと、アラグディアはこの子を上手くコントロールしているわね。尊敬するわ。」


「ラピス様・・・」

ガラドミアさんがニコッとラピスへ微笑んだ。

「そんなに心配しないで下さいよ。あたいは旦那一筋なんですからね。本音では旦那以外の男を受け入れる気はないですからね。本当に冗談を本気にして・・・」


だけど、俺に向かってウインクをしてくる。


「でもあんたなら・・・、ふふふ・・・」


タラリ・・・


背中に冷や汗が大量に流れた。


(これはマジな方だろう・・・、無視するに限る・・・)


「勇者様、うちのバカが申し訳ございません。」


ララノアさんが俺へ頭を下げてきた。


「そうよ、レンヤはあのバカの事は本当に気にしないでね。」


「むぅ!」

ガラドミアさんが頬を膨らませてプンプンしていた。

「みんなであたいの事をバカバカって!バカのふりをするのも大変なんだから!」


(マジかい?)


「そうだよ。」

とても優しい笑顔のガラドミアさんが俺を見ていた。

それ以前に、俺の心を読んだのか?

「あたいみたいなアタッカーはね、こうしてバカのふりをすれば相手は意外と油断するんだよ。その隙をこの獲物でズバッとね。あたいの力なら目にも見えないくらいの速さで振れるから、意外と簡単に勝負は付くわね。ちょっと恥ずかしいけど、こんなセクシーな格好をしていると男は変に勘違いするのよ。ホント、男ってバカね。」

自分の身長よりも長いバトルアックスを片手でブン!と振っている。

あれだけ大きくて重い武器を軽々と振り回せるとは・・・


並みの実力ではない・・・


さすがSランクパーティーのメンバーだけある。



「さて、準備は終わりましたので転移で移動しますね。」


ララノアさんがみんなに声をかけると全員がゆっくりと頷いた。


その瞬間、家臣団の足元に巨大な魔法陣が浮かび、全員がすっぽりと魔法陣の中に入っていた。


スゥゥゥ・・・


一瞬全員の姿が輝いたと思ったらすぐに輝きが収まり、魔法陣も跡形もなく姿が消えていた。

ガラドミアさんも一緒に転移したのか、目の前にはララノアさんだけしかいなかった。


「ララノア、後の手筈は頼むわね。」


「はっ!お任せを!」


ララノアさんが片膝を着き、ラピスに向かって頭を深々と下げていた。


「さて・・・」

ラピスがジッと俺を見た。

「これで新しい魔王の動きが分かったね。明日、行動を起こすと分かったし、私たちはその為に手を打たないといけないわ。魔王が絡むなら尚更ソフィアの力が必要ね。」


「あぁ・・・、それは間違いないだろう。魔王の圧倒的な攻撃力にはソフィアのバフやデバフが必須だしな。それにあの聖域結界が無かったら、500年前の戦いは俺達が破れていただろう。」


ラピスがゆっくりと頷いた。

当時のソフィアは自分が直接戦闘を行う力が無いと俺達によく嘆いていたけど、そんなのは関係なしでソフィアに感謝していた。ソフィアの回復魔法や支援魔法は桁違いの効果だったし、ソフィアが加入する前と後では戦闘における違いは明確だったよ。

たった4人で魔族領へ潜入し魔王城で魔王と直接戦える事が出来たのはソフィアの優秀な支援魔法のおかげだと全員が思っているからな。

だから、今度の戦いでも絶対にソフィアの力が必要になると思う。


「ララノア」


「はっ!」

深々とララノアさんが頭を下げた。

「ラピス様の仰った通り、教会には既に話をつけておきました。さすがにこの時間では教皇との面談は無理ですので、明日、朝一番に面会の約束を取り付けておきました。さすがは大賢者の肩書ですね。すぐにOKをもらえましたよ。」


「ありがとう。これで明日の準備は大丈夫ね。今までの話で帝国が完全にクロってなったし、王都に使者が入るのは午後一番だと情報も入っているから、魔王が行動を起こす前にこちらも手を打てるわ。王都に仕掛けられた魔法陣も役立たずにしておかないとね。ふふふ・・・、絶対の準備をして勝った気にいるみたいだけど、それを絶望に塗り替えてあげるわ。明日が楽しみね。」


「そうですね。」


ララノアさんもラピスに合わせてニヤリと笑った。


「ララノア、あなたも明日に備えて休んでおきなさい。明日、再びレンヤの伝説が蘇るわ。今度は私達が完全勝利の物語を作るからね。」


「はい、ラピス様もご武運を・・・」


ララノアさんの足元に魔法陣が浮かび姿が消えた。



それから再びアンを抱いて空を飛び、王都近くの草原へと降り立つ。

少し小高い丘のような感じになっていて、遠くには王都の城や町がうっすらと見える。


「ここなら誰にも見られずに一晩ゆっくりと休めそうね。」


「そうだな、この距離なら明日はゆっくりしてからでも教会には間に合いそうだよ。」


収納魔法から我が家を取り出し設置した。

しばらくするとマナさんやローズも転移で移動し全員がリビングで寛いでいる。


夕食後、立ち上がるとラピスが俺の隣まで来た。


「レンヤ、あまり遅くなったらダメだからね。まだ彼女との関係は内緒だし、魔王に気づかれてもいけないからね。王城に魔王の息のかかった人間がいるみたいだとも言っていたからね。」


「分かっているよ。だけど、明日の打ち合わせもあるしな。シャルからは色々と国の機密情報も教えてもらったし、シャルがいなければ今回の計画も立てれなかったから、ちょっとお礼を言いに行くだけだよ。」


「本当にぃぃぃ・・・」


ラピスが疑わしい目で俺を見てくると、他の3人も同じような視線で俺を見てきたよ・・・


(本当だよ・・・、すぐに帰る予定だしな。)



転移で移動すると、とても豪華な部屋の中へと立っていた。


「レンヤさん、こうして直接会うのは久しぶりね。いつも念話ばかりだったしね。」


俺の目の前にピンクの可愛らしいドレスを着たシャルが立っていた。

そのまま勢いよく俺に抱き着いてくる。


「シャル、すまないな。我慢ばかりさせていて・・・」


「大丈夫よ。」

そう言ってニコッと微笑んでくれたけど、やはりどこか無理をしている笑顔に見える。

「兄様の婚約式の事で忙しいから、レンヤさんの事はなかなか話が出来ないわ。叔父様からの手紙は渡せたから勇者様がこの時代に甦った事は伝えられたのは幸いだったね。」


そしてジッと俺を見つめた。


「ラピス様から話は聞いたけど、やはり明日には・・・」


「あぁ、間違い無い。」

俺はゆっくり頷いた。

「明日の皇女様との接見で帝国は行動を起こすのは間違い無いと思う。この国の王族が一同に揃うからな。この国を落とすには最高のタイミングだよ。」


ギュッとシャルを抱きしめると、「あっ・・・」と小さくシャルが喘いだ。


「すまない・・・、シャルを始め王族を囮にするような真似をして・・・、シャル、必ず君達を守る。俺を信じてくれ。」


「大丈夫よ。」

ニッコリとシャルが微笑んでくれた。

「レンヤさん、私はあなたの妻になりますから、あなたを信じています。必ず魔王を倒してくれると・・・」


「あぁ、約束する。必ず魔王を倒す。そして君を堂々と迎えに行くからな。」


「はい・・・」


ジッと俺を見つめていたシャルが目を閉じ唇を突き出した。

その唇に俺の唇を重ねた。


唇が離れ再び見つめ合った。


「レンヤさん、もう少しこのままでいて欲しいの・・・」


「分かったよ。だけど、あまり長くいられないからな。遅くなるとみんなから何を言われるか・・・」


「そうですね。私もみんなの姿が想像出来ましたよ。」

クスクスとシャルが笑った。

「それじゃ、もうしばらくだけお願いしますね。」


再びキスをしてから、お互いの温もりを確かめるように抱き合った。



「レンヤさん、愛しています。誰よりもあなたを・・・」


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