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81話 王都へ③

俺達の前に十数人の魔族が頭を下げて服従の姿勢を取っている。正確にはアンに対して服従しているけどな。

アンを見ると少し困った顔をしている。


「アン、大丈夫か?」


「う~ん、大丈夫と言うよりも、こうして臣下なんて付いた事が無かったからね。どうやって対応するか考えた事も無かったし・・・」


「大丈夫だよ。」

まだ俺の腕の中にいるエミリアがニコッと笑っている。

「お姉ちゃんは私達に遠慮しなくてもいいからね。死ねと言われても喜んで私達は自らの命を絶つわ。それこそが私達ダンタリオン家の忠誠の証よ。」


「そんなバカな事!私が言う訳が無いでしょう?あなた達の忠誠は嬉しいけど、魔王としての父がいない今、私は単なる魔族の女だからね。新たに魔王なんて・・・」


「いえ、そうは限らないわ。」


ラピスが間に入ってきた。


「確かに新しい魔王が生まれた情報は入っているけど、今はまだ何も動きがないわ。だけど、魔族領にはこの国を滅ぼすとの情報が回っているみたいね。そして、アン・・・」


ジッとラピスがアンを見つめた。


「アン、あなたも魔王の血筋よ。新しい魔王とは血統が違うから、あなたも魔王と名乗る事が可能なのよ。あなたにもそれだけの力があるわ。」


「そんな、私なんかが・・・」


「アン、あなたは前に言っていたじゃないの?『みんなが幸せになれる世界を作りたい』ってね。こうしてあなたがこの時代にレンヤと一緒に蘇った事、そして新たな魔王が現れた事、そして目の前にかつての家臣が現れた事、私達が向かっている王都に集まる魔族の事、どれも偶然ではないと思うわ。あなたが考える魔王像というものを考えた方が良いかもね。」


「かもしれません・・・、私がこの時代に蘇った意味?そしてレンヤさんと一緒になった意味?私にもレンヤさんと同じに何か使命があるのでしょうね。フローリア様が仰った『茨の道』がそれなんでしょう。」


「そうよ。」

エミリアがニッコリとアンに微笑んだ。

「でもね、お姉ちゃんは今までの魔王と違って『優しい魔王』だと思うよ。どの物語にある恐怖の象徴の魔王じゃなくて、みんなの心の拠り所になる女王様かな?だって、お姉ちゃんと一緒にいるとね、とっても落ち着くの。」


(しかし、何者なのだこの子は?)


俺が抱いているこの子はどう見ても3歳児くらいにしか見えない。アンが言うには成長阻害の呪いがかけられているって事だよな。両親の感じからして実年齢はかなりかもしれない。

そう思ってじっと俺の腕の中にいるこの子を見ていたら、俺に視線を向けてニコッと微笑んだ。


ゾクッ!


(何だ!この子から発せられたのは殺気だぞ!それもアンに匹敵するほどの・・・)


「お兄ちゃん・・・」


「はい?」


「女の子の歳を詮索するのは良くないと思うわよ。」


(よ、読まれている・・・)


「まぁ、気になるのは仕方ないけどね。お兄ちゃんだから本当の事を教えると、私は多分だけどお兄ちゃんよりも年上だと思うわ。でもね、どうしてもこの体に精神が引っ張られてしまうみたいなのよ。だから言動がチグハグになってしまうけど、そこは気にしなくて欲しいな。」


「分かったよ。」


そうやって俺も微笑んだけど、この子の実力は間違い無くアンやラピスと同レベルだと思う。これだけの強者が野に埋もれているとはな。こんな子がアンの下に付いて補佐してくれるのはとても助かると思う。

チラッと話に出ていたけど、アンが優しい魔王となって平和な世界にする願いを叶えるには是非とも欲しい人材だと思う。

こうして巡り会ったのも運命なのかもな。


「それとね、何で私達がこうしてコソコソとしているかというとね、やっぱりアスタロト家が五月蠅いからよ。こうして呪いまでかけてきたのだから、これを逆手に取って私達は表舞台から姿を消したのよ。表向きはダンタリオン家は断絶した事にしておいたわ。」


「そうなんだ。」


「そうよ、これで五月蠅いアスタロト家からの邪魔は無くなったし清々したわ。私達が今匿われているところはね、500年前の戦争で勇者から助けられた魔族が作った隠れ里で生活していたのよ。」


「そ、そんな里があったのか?」


知らなかった・・・

確かに当時、人族に虐待されていた魔族を助けて魔族領に帰る手助けをしていたが、その魔族達が隠れ里を作っていたなんて・・・


「そうよ、その里は魔族も人族も協力して平和に過ごしているのよ。その里では勇者が神様になっているけどね。」


そう言ってエミリアが俺にウインクしてくれた。


「私の目にもお兄ちゃんが勇者の生まれ変わりって見えていたしね。そしてこうして実際に会えて良かったわ。お姉ちゃんと同じで温かいの・・・、大賢者のお姉ちゃんも同じだけどね。」


「レンヤ・・・」


ラピスが潤んだ目で俺を見てきた。


「あなたが500年前にしてきた事は無駄じゃなったのね。そして、あなたの優しさはちゃんとみんなに伝わっていたって・・・」


感極まった表情で俺に抱き着いてくる。


「やっぱり私の想いは間違えていなかったわ。好きになって良かった・・・」


「お、お姉ちゃん・・・、ちょっと痛い・・・」


俺の腕の中にいるエミリアも一緒にラピスに抱かれているし、かなりの力で抱き着いてきたから俺は大丈夫でも彼女は大丈夫じゃなかったみたいだ。


「ご、ごめんね!」


慌ててラピスが離れたけどちょっと恥ずかしそうだ。


「だけど、レンヤが神様なんて・・・、その里の人達は余程レンヤに感謝していたんだね。」


「そうだよ。元々は老夫婦がいた家から始まった集落だったけど、その夫婦が流れ着いたみんなを自分の子供のように育てたって聞いているわ。人間に奴隷にされ角を折られ、魔族領に戻る事も許されない人々を助けたってね。その老夫婦もそうやって人々を助けたのは勇者のおかげだったってね。かつて侯爵家に奉公に行った一人娘だけど、奉公先の侯爵家の跡取りに殺されたんだって・・・、散々と酷い目に遭わされて無惨に・・・、弱肉強食の世界である魔族の序列のおかげで、娘が殺されても老夫婦は何も出来ない。だけど、その跡取りを倒してくれたのが勇者だと伝えられているわ。仇を討ってくれた勇者には感謝しかないと伝えられているわね。だからなのよ、この里では勇者が神のように祀られている理由はね。」


そうなんだ・・・

あの老夫婦は何も語ってくれなかったけど、そんな事情があったのか。


(ありがとう・・・、絶対にその里へ行ってお礼を言わせてもらいます。)


「その老夫婦のおかげでその里に流れ付いた者は迫害もされずに自由に生きる事が出来たのよ。確かに楽な生活ではなかったけど、みんなが思いやりのある集落よ。私もずっといたいと思っていたわ。それくらいに温かい人々なのよ。その里にも私達ダンタリオン家がアスタロト家に狙われているって話がは入ったから、私達にアスタロト家を欺くように話が来たのよ。それからずっと匿ってもらっているわ。」


「だけど、どうして里を出たのだ?」


「さっきも言ったよ。この国を滅ぼす為に魔王が現われるとね。そして、アスタロト家もマルコシアス家もこの国に集まっているのよ。滅びた後に新たな魔族の国にする為にね。かくれ里とは言っても外界の情報収集能力は魔族領一じゃないかな?この500年間、誰にも気付かれずに存在するほどだし、情報統制は完璧よ。そんな情報が里に入ってきたものだから私達も動いたのよ。ご先祖様からお聞きしたアンジェリカ様がそんな事をするはずが無いと思ったけど、本当にアンジェリカ様が甦ったのかも確認したかったからね。」


「だけど私はここにいる・・・」


ボソッとアンが呟いた。


「そう、アンジェリカ様は噂の魔王ではなかったから、この国に現われると言われている魔王は別人と確定したわ。私達はもうこの国には用は無いけど、アスタロト家に踊らされているマルコシアス家がちょっとと可哀想に思っているけどね。今のマルコシアス家の当主はかつての四天王の名前をもらってシヴァと名乗っているわ。そうやって名乗る程には実力があるのでしょうね。まぁ、私よりも弱いけど・・・」


そう言ってエミリアが俺を見て微笑んだ。


「呪いを受ける前の小さい時にシヴァとはよく遊んだし、私もマルコシアス家とは無関係じゃないからね。このままアスタロト家の思惑に通りに動いている彼女達の目を覚まさせてあげないと可哀想だわ。」


「分かったわ。」

ラピスが頷いた。

「ララノア、仕事よ。」


「「はっ!」」


いつの間にかラピスの後ろにエルフの女性2人が立っていた。


(ホント、緑の狩人はびっくり箱みたいな連中だよ・・・)


ララノアさんは1度一緒に仕事をしたから覚えているけど、もう1人は見た事が無い。ギルドで見た緑の狩人メンバーは基本的に深々とローブを纏っているからどんな人か分からないんだよな。

ナルルースさんとララノアさんしか今のところ知っていない。


ララノアさんと一緒にいるエルフの女性は・・・


(いやぁ~、ワイルドな人だよ。)


まるで女版のアラグディアさんのようだ。

ウエーブのかかった腰まである緑色の髪に、一切の無駄が無く引き締まっている体、抜群のスタイルを自慢するようにとても露出度の高い真っ赤なビキニアーマーを着ている。それ以上に目を引いたのがアラグディアさんのように自分よりも大きなバトルアックスを背負っていた。


「デカい・・・」


思わず声に出てしまったけど、そんな俺の声が聞こえたのか、その女性は俺を見てニコッと微笑んだ。


「あたいの名前はガラドミアって言うんだよ。ギルドで会ったけど挨拶をしないで悪かったな。」


そしてペロッと舌舐めずりをした。


ゾゾゾッ!


(何だ!この寒気は?)


「ふふふ、あんたを見ると体が疼くよ。強い、強いねアンタは!旦那以外にも本気で手合わせ出来そうだね。どう?一度本気で私と戦ってみない?楽しい戦いになりそうだよ。あぁ・・・、ゾクゾクする・・・」


マジかい!

ヤバイ!この人もアラグディアさんと一緒でバトルジャンキーだ!


(関わらない方が賢明だな・・・)


「あんた、戦いだけでもなくて夜もどうだい?激しくベッドで朝までずっと語り合わないかい?あんたなら旦那も許してくれるだろうしな。どう?早速今夜にでも?」


「ごらぁああああああああああ!」

ラピスの周りに青白い炎の玉がいくつも立ち上った。


「公開処刑しましょう・・・、うん、それが良いね。少しずつ肉体を消滅させて、生きながら自分の体を失っていく恐怖を与えましょう。魔族の処刑の中でも最も残酷な方法よ。」

アンの右手に真っ黒な剣が握られ、左手の掌にも漆黒の玉が浮かび上がっている。


ブワッ!


恐ろしいまでの殺気が辺り一帯に漂った。木の枝にとまっていた鳥もあまりの殺気で心臓麻痺を起こしたのかポトポトと大量に落ちてピクピクしている。そのまま泡を吹き出しながらピクリとも動かなくなった。

俺の腕の中にいたエミリアもガクガク震えて今にも泣き出しそうになっている。


「お、お兄ちゃん・・・、こ、怖い・・・、助けて・・・」



「ひっ!」

ガラドミアと名乗った女性が真っ青な顔でスライディングしながらマッハの速さでラピスへ土下座をしていた。

「も、申し訳ありません!調子に乗ってしまい・・・」


「「分かればよろしいのよ・・・」」


スッと2人から殺気が消えた。

良かった・・・

この一帯の生態系が消滅するのでは?と思うくらいの殺気が漂っていたけど、何とか収まったようだ。


「アンタは本当に・・・」

ラピスがゴミでも見るような冷たい視線で土下座をしているガラドミアを見ていた。

「脳筋も脳筋ね・・・、レンヤにちょっかいを出したらどうなるかくらい分かっているでしょうが!ホント、この性欲お化けのバトルジャンキーは・・・」


ガラドミアが土下座から立ち上がりカラカラと笑っている。

「まぁまぁラピス様、こうして謝りましたから、これで水に流しましょう?用があって私達を呼んだのですね?」


う~ん・・・、どうやら、さっきの失言に関しては全く懲りていないみたいだ。

どうやら悪いと思っていないみたいだな。

さすがは脳筋の中の脳筋と言われるだけあるわ・・・


「ホント、アンタの辞書には懲りるって言葉は無いようね。実力はあるけど、そこが残念なところなのよねぇ・・・、まぁ、実害は無いからこれ以上は言わないけど・・・」


おぉおおお、あのラピスが呆れるほどなんて・・・

ある意味、かなりの猛者かもしれないな。


『緑の狩人』


エルフの女性5人組のパーティーで、この国に2組いるSランク冒険者パーティーの1組だ。

このメンバーはリーダーのナルルースさんはマーガレットの教育係をしてくれていてよく知っているし、ララノアさんも一緒に仕事をしたから本人の人格はよく分かっているつもりだ。ナルルースさんと同じ魔法使いでとても思慮深いと思う。

ガラドミアさんかぁ・・・

かなり個性的だよな。

残りの2人はどんな人なんだろう?


(常識的な人であって欲しい。)

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