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78話 閑話 ギルドの受付嬢③

2か月後


「ご苦労様。」


今日の販売が終わり、アンジェリカさんから労いの言葉を言われました。

彼女は冒険者の仕事をしていない時は、こうしてお店の手伝いをしています。だけど、アンジェリカさんも含めてレンヤさん達はこの前、王都でとんでもない事を・・・


まさに、この国を救ったのです。


そして、新しい婚約者も私に紹介していただけました。

その婚約者は・・・


(ははは・・・、一庶民の私にはとても付いていけません・・・、本当にすごい人ばかりよ!)



ガチャ



あれ?もう店仕舞いしたのにお客様?


「あ、あんたは!」


みすぼらしい格好のザックがお店の中に入ってきました。

そして、私を見てニヤッと嫌らしい笑顔を向けました。


「よぉ、エミリー、久しぶりだな。」


「もうあんたとは縁を切ったのよ!2度と私に構わないで!」


「そんな事言うなよ。まだ俺に惚れているんだろう?だからさ、ちょっとでもいいんだよ、金を工面してくれないか?俺がまた愛してやるからな。金さえあれば俺もまた表舞台に返り咲けるんだよ!だからなぁ、金をよこせ!」


とても嫌な視線で私を見ています。

2ヵ月前にレンヤさんに『ざまぁ』されてからは、ランクも大賢者様の圧力でFランクに落とされてしまいました。

大賢者様は「殺されないだけでも感謝すべきよ!」とカンカンに怒っていました。

それからはパーティーも解散になってしまい、今までの横暴な態度のおかげで誰からも見放されてしまいました。

その後、このお店にやって来て私にお金の無心をしてきましたが、そんな事をみんなが許す訳もなく袋叩きにされ追い出されてしまい、結局は誰からも相手にされなくなってしまったので、泣きながらこの町から出ていってしまったと風の噂で聞きました。


(一歩間違えれば、私も同じ運命だった・・・)


こうして生まれ変わるチャンスをいただいた私は更に頑張りました。


それなのに、またこの男が現われるなんて・・・

過去の私とは決別するつもりなのに・・

冷静になってザックを見ていましたが、こんな下衆な男に私は尽くしていたなんて・・・、本当に私はバカだった・・・



「ふん!やっぱり最後はここに来たのね。」


お店の奥からドタドタと2人の人影が出てきました。

「スタンボルト!」


「ぐぎゃぁあああああ!」


ザックがガクガクと震えて気を失ってしまいました。


「シャルロット殿下!それにテレサ様!いつの間に・・・」


「ふふふ、さすがはラピス様の情報ね。エルフの里自慢の暗部の情報網は世界一でしょうね。こいつは先日の王都で騒ぎを起こした連中の仲間の1人よ。まぁ、下っ端の下っ端だけど、1人も見逃さないわよ。折角、私達もレンヤさんと婚約したのだから、蛆虫は全て駆除するわ。ねぇ、テレサ。」


にこやかに王女様がテレサ様に微笑んでいます。


「そうね、私の実家の従業員に手を出すなんて打ち首よ!みんな!さっさと連れ出して!」


「「「はっ!姉御!」」」


入口が開き、数人の騎士の男達にザックが連れていかれました。


「エミリーさん」

テレサ様が私に話しかけてくれました。

「もう大丈夫よ。あいつは2度とシャバの空気は吸えないから安心して。まぁ、あいつの罪状は国家反逆罪だから即刻死刑確実だけどね。」

恐ろしい事だけど、そんな話をニッコリと笑いながら話すなんて・・・


「それとね・・・」


ゾクッ!


何?急にテレサ様の雰囲気が変わったわ!怖い!怖過ぎる!


「あなた、私の兄さんに色目を使ったらどうなるか分かっているの?あなたなんかに絶対!に兄さんは渡さないからね。みんなが許しても私は『絶対!!!』に許さないから・・・」


全身に針が刺さるような錯覚をする程の殺気がテレサ様から私へと発せられました。

テレサ様はレンヤさんと兄妹ではありますが、この世の中で1番好きな人がレンヤさんだと教えてもらいました。しかも、レンヤさん以外の男の人には全く興味が無い事も・・・


(ははは・・・)


先日の王都での功績でめでたく婚約者の1人になったとも・・・

そして、私が3年前に行った事も知っていました。

テレサ様の私への感情・・・


はい・・・


それは良く分かっています。私の事が憎くて憎くて堪らない事を・・・


私のレンヤさんへの罪は一生消えません。そもそも私はレンヤさんに愛される資格はありませんから・・・


ズキッ!


胸が痛みます。だけど、この痛みは私が一生かけて償う痛みです。




どんなに好きになっても叶わない夢・・・

いえ、そう望む事も許されない私・・・



レンヤさん、何で私に優しくしてくれるの?


(どうして?)


私はあなたにあれだけ酷い事をしたのに・・・




優しくされればされる程、私の胸が痛みます。






1年後


「エミリー!あなた、今までよく頑張ったわね。来月から王都店で店長よ。」


ローズマリーさんから王都のお店で店長をするよう辞令をいただいてしまった。

王都のお店は、開店たった1年で王都では最大の規模を誇るお店までに成長しました。この国のあちこちにお店を展開しているローズ商会のドル箱とも言える最大級のお店なのに、私が店長?

レンヤさんの実家のパン屋で接客をしているだけの私が?


(そんな大役を・・・)


「そ、そんな・・・、私なんて・・・」


だけど、ローズマリーさんはにっこりと笑って私の手を握ってくれました。


「大丈夫よ。接客の基本は私が見る限り完璧ね。あなたはこの1年間で本当に生まれ変わったように頑張ったわ。あなたの本気の頑張りを私に見せてね。信頼しているわよ。」


そんな事を言われましたら・・・


もう!頑張るしかないじゃないですか!


ローズマリーさんの期待に応えられるよう、それはそれは頑張りました。初めて会った時に言われましたローズマリーさんの『右腕』になれるように、本気で必死に!


レンヤさんの事を忘れるくらいまで必死に頑張りました。



でも、忘れるどころかレンヤさんへの想いが更に強くなってしまい・・・



苦しくて胸が張り裂けそうになる時もありました・・・



(いくら自分で罰だと分かっていても・・・、許されない想いと分かっていても・・・、辛い・・・、辛すぎます・・・)






3年後


ある日の夜、自分の部屋へ戻ろうとした時にテレサ様に呼び止められました。テレサ様とはその後は何も言わずお互いに黙ってレンヤさんの寝室へと連れて行かれました。


「兄さん、エミリーを連れてきたわよ。私はもう許す事にするわ。これ以上すると私の方が本当に嫌な女になってしまうからね。兄さんの事が好きなのに罪悪感で告白も出来ずにいてずっと心が痛い、エミリーを見ていればどんな気持ちなのか・・・、好きなのに言えない、こんなに苦しい気持ちは私もよく分かっているから・・・、かつての私もそうだったしね。兄妹だからって好きだと告白も出来ず、言えずに心が痛かった気持ちは分かるわ。だからね兄さん、彼女はもう十分苦しんだわ、兄さんが苦しみを味わった同じ3年の期間をね。だから、これからは彼女を幸せにして欲しいのよ。でもね、私を一番愛してよね!それだけは譲れないからね!」


そう言ってテレサ様が部屋を出ていってしまった。


今、部屋にいるのは私とレンヤさんだけ・・・


「す、すみません!今すぐ部屋を出ていきます!」


そう言って慌てて部屋を出ようとしましたが、レンヤさんに手を握られました。

一瞬で顔が真っ赤になったと思います。握られている手も熱い、すぐに全身が熱くなってブルブルと震え始めました。


「エミリー、テレサから聞いたよ。俺を苛めていた事をずっと後悔していたって。その償いでずっと頑張っていたってな・・・」


「当然です!」


「エミリー・・・」


「私はレンヤさんに一生をかけても償い切れない罪を犯しました!私がレンヤさんをバカにするような事をしなければ・・・、レンヤさんはああやってみんなからバカにされる事も無かったわ。全ては私のせいなの!どんなに・・・、どんなにレンヤさんの事が好きになっても、私は・・・」






「レンヤさんに愛される資格はありません!」





レンヤさんに握られた手を振り払い出口へ駆け出そうとしました。

その時・・・


「もう良いのよ。」


「そ、その声はラピス様!」


そっと私の肩に手を置かれる感触がありました。慌ててその方向へ顔を向けると・・・


「あなたは本当に良い顔になったわ。初めて見た時とは大違いね。」


ニッコリとラピス様が微笑んで私を見ていました。


「人間は誰しも間違いを犯すわ。神に最も近いと言われているハイエルフの私もそうよ。そして神様でもね・・・、だけどね、間違いを認めて一生懸命に罪を償う。そんな事を出来る人って意外と少ないのよ。でも、あなたは実行したわ。それこそ必死にね。あの兄さん大好きヤンデレのテレサでさえ、あなたの誠意は伝わって許したくらいだからね。」


涙が・・・、何で?涙が止まりません・・・


「ラピス様ぁぁぁ・・・」


「あなたは十分に苦しんだわ。これからは自分の幸せを追い求めなさい。」


そう言い残してラピス様の姿が消えました。

今、この部屋には私とレンヤさんだけがいます。


心臓がドキドキして顔を上げる事が出来ません。


「俺ももう十分だと思うよ、それに、時々だけど辛そうにしているエミリーを見るのもな・・・、だから、顔を上げな。」


ピクッと体が震えます。



「本当に・・・、本当に・・・、私は許されるのですか?愛される資格があるのですか?」



ギュッと優しく抱かれました。

こんなに優しく抱かれるなんて初めて・・・


「みんなが君を応援しているんだ。エミリー、君は既に俺の妻達の仲間入りをしているんだよ。だから、安心しな。」


また涙が溢れてきます。


本当に?本当に?


思わず言葉が出てきました。


「レンヤさん、大好きです。私もみなさんのように幸せになりたい・・・」


「もちろんだよ。エミリー、君も愛し続ける。約束だ。」


「はい、嬉しい・・・」


レンヤさんにキスをされ、そのままベッドへ運ばれ結ばれました。

とても、とても優しく私を抱いてくれました。

幸せで胸がいっぱいです。


(こんな私を愛してくれるなんて・・・、レンヤさん、大好きです・・・)


レンヤさんの腕に抱かれてとても満足な私ですが、どうしても聞きたい事がありました。


「レンヤさん、私はあれだけの酷い事をしたのに、なぜ、レンヤさんは一言も私に文句も恨みも言わなかったのですか?それどころか、私の事をとても心配してくれて・・・」


「そうだな・・・」

レンヤさんがちょっと困った顔になっています。しまった!聞いてはいけない事を聞いたのかも?


(どうしよう・・・)


「確かに君のところへ行って笑われた記憶はあるよ。それから本当に大変な日々だったなぁ・・・、どの町でも同じ様な感じだったしな。」


「す、すみません!わ、私がそんな事をしたばっかりに・・・」

3年前のあの後悔が甦ってきます。

レンヤさんに申し訳ない気持ちで胸が・・・


「だから、気にするな。どの町でも同じ目に遭っていたんだ。別にエミリーだけが俺に酷い事をした訳じゃないからね。だけどな、エミリー、君だけは他の人と違っていたんだよ。」


「それは?」


「君はすぐに謝ってくれた。しかも本気で俺に謝ってくれたんだよ。俺はその時点でもう許していたんだけど・・・、周りがなぁ・・・」


「そうですね。そう簡単に許してもらえるとは思っていませんでした。」


「そして、君はこの3年間本気で自分を変えようと頑張ったよ。あのテレサでさえ納得させたくらいだからな。」


「そ、そんな・・・」

とても恥ずかしくて顔が真っ赤になってきます。

私はあの時、『生まれ変わる気持ち』その一心で頑張ってきました。その気持ちが周りのみなさんに認められていたなんて・・・


「エミリー、君は今ではローズ商会の顔役だよ。本当にローズの右腕になったからな。そんなのは誰でも簡単には出来ない。君だから出来た事だよ。」


チュッと優しくキスをされました。


「テレサもラピスも言っていただろう?これからは自分の幸せを求めろってな。ちょっと回り道したかもしれないけど、エミリー、俺への償いは終わりだ。これからはみんなと一緒に前へ歩こうじゃないか?まぁ、アンも今じゃこの国の代表になって頑張っているし、みんなでこの国を盛り上げていきたいからな。よろしく頼むよ。」


「はい、微力ながら精一杯がんばりますね。」


再びレンヤさんに抱きしめられました。


(ふふふ、こうして甘えても良いのかな?時々は甘えさえていただきますね。)



今ならハッキリと言えます。



大好きです・・・、レンヤさん、そして、みんな・・・



こんな嫌な女だった私を生まれ変わらせるチャンスをくれたラピス様、いえ、みなさんに感謝します。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


話はマナがギルドの受付嬢初日でレンヤと雑談をしている時に戻る。


「レンヤ君、今はこれといって特別な依頼はないわね。」


「そうか・・・、だったらいつもの薬草依頼でも?」


「ダメよ!」

マナさんがクスクス笑っている。

「レンヤ君がやっちゃうとやり過ぎてしまうしね。だからって低ランクの依頼を根こそぎ終わらせるのもダメよ!まぁ、塩漬けになっているドブ掃除はいくらでも良いけどね。」


「分かったよ。ドブ掃除は冒険者仕事の基本の基本だ。さっさと終わらせて来るよ。」


「ふふふ、まさか勇者のあなたがドブ掃除なんてね。この町の領主様が聞いたら気絶するわよ。」


「仕事を選り好みする冒険者なんて二流だからな、俺はどんな仕事でも全力で頑張るだけだよ。」


しかし、マナさんが書類を見て急に鋭い目付きに変った。


「マナさん、どうした?」


「ちょっと気になってね・・・、グレンとリズって名前を憶えている?」


「あぁ、確か黒の暴竜の2人だな。犯罪奴隷として鉱山へと送られているんじゃ?」


「それがねぇ・・・、犯罪奴隷を鉱山へと送る馬車が何者かに襲われたのよ。その馬車の人員はこの2人以外を除いて全て殺されていたわ。なぜ、この2人だけが行方不明なのか?彼らは女神様に弱体化されているし、逃げる事すら出来ないのよ。それなのに死体すら残っていないのよ。万が一を考慮して2人の手配書が回って来ていたわ。」


「確かに変な話だな・・・」


(誰かがあの2人を助けたのか?なぜ?何の目的で?)



(でも・・・、なぜか気になる・・・)






その不安は後日、最悪な形で的中してしまった。


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