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77話 閑話 ギルドの受付嬢②

『ラピス』



その名前は私の子供の頃から知っている名前よ。しかも、今、目の前にいるのはエルフの女性で、しかも!絶世の美女と呼べる程の美貌・・・


そんなの・・・


周りを見ると私以外の受付嬢もガタガタ震えているか、うっとりとした目で見ているかのどちらかよ。今朝来た新人の受付嬢以外は!


ギルドマスターが無能だけじゃなくてエルフ女にも頭を下げている。

「いやぁ~~~、勇者様だけじゃなくて『大賢者様』もご一緒とは・・・、事前に言っていただければ職員全員でお迎えしたのに・・・」


しかし、そのエルフ女はギルドマスターの言葉で一気に不快な表情になったわ。

「ふん!アンタみたいなゴマスリがいるから組織がダメになってくるのよ!上の顔色ばっかり窺って、自分の任せられた組織の事を見ようとしない。こんなクズ冒険者が幅を利かすって情け無いわよ。アンタも見習いからやり直してみる?」


ゾッとするような目でギルドマスターを睨んでいる。


「そ、それだけはぁああああああああああ!」


ギルドマスターが情けないくらいに土下座をしてエルフ女に頭を下げていた。



「はい?」


(そう言えば・・・)


ギルドマスターが言った言葉で、あのエルフ女の事を、確か・・・、『大賢者様』って・・・

間違いない!あの女は!いえ!あのお方はぁああああああああああ!


「大賢者ラピス様!」


思わず叫んでしまった。


ギロッ!


「ひっ!」


大賢者様が私を睨んでいる!


ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう・・・


「あなた、名前は?」


ドキッ!


何て威圧なの!心臓を鷲掴みにされているみたいよ!

い、息が出来ない!


(く、苦しい・・・)


どうして?


『レンヤをバカにした職員はもれなく見習いに降格したわ。私が500年前に定めたギルドの規約の中に受付嬢は守秘義務があるわ。』


何であの言葉が?



私は・・・



そうか・・・



無能って事で散々馬鹿にして、彼を追い出したんだ・・・



ザックと一緒に彼を虐めて、憂さ晴らしをして・・・



私が無能ってギルド内に言い触らしたから、彼はザック以外の冒険者からも馬鹿にされ嫌がらせを・・・



全ては私がそんな事をしたから・・・



彼の人生を狂わせてしまったの?




「私の言葉が聞こえないの?」


はっ!大賢者様が私を呼んでいる!


ど、どうしよう?



「申し訳ありません!」


体が自然に土下座をしてしまった。


「私が悪いのです!全て!何で私が見習いになったのか、そんな事は全く分かっていませんでした!私が悪かったと・・・、そんな事は一つも・・・、思って・・・」


涙が止まりません。今更謝っても、どうにもならないのに・・・


「そう、あなたがエミリーなのね。」


とても冷たい視線で大賢者様が私を睨んでいます。


「あなたはクビね。」


「えっ!」

思わず声が出てしまいました。


「何でこうなったのかも分からず、今まで反省もしなかった。本来は解雇だったけど、レンヤの温情で見習いに降格で許したのにね。その意味すら分からずダラダラと1ヵ月過ごしていたのね。もうあなたは受付嬢の資格は無いわ。さっさと出て行きなさい。」


「だ、大賢者様!いきなり追い出すなんて!そんな横暴な!」

ギルドマスターが私を庇ってくれたけど・・・


「何を間抜けな事を言っているのよ。レンヤが受けた仕打ちはそんなものじゃなかったわよ。正直、レンヤが止めなければ私は全員を殺したいくらいに思っていたからね。私の最愛の人に対する仕打ち・・・、倍に返しても足りないくらいなんだから・・・」


また冷たい目で私を睨んでいます。


そう・・・

私は取り返しの付かない事をしてしまった。イジメと言う暴力を彼にしてしまった。そして、彼を笑いながら追い出した・・・

今、その罰を受けているのね。



「分かりました。大賢者様の仰る通りでした。私はちょっとモテたからと調子に乗って今までいました。冒険者からもチヤホヤされ、優越感を優先して彼、レンヤさんを馬鹿にして、私が偉い者だと・・・」


涙が止まらなくて、言葉が出てきません。

立ち上がり、とぼとぼと歩いて彼の前に立ち、再び土下座をしました。


「レンヤさん・・・、いえ、勇者様・・・、本当に申し訳ありませんでした。謝っても許されるなんて思ってはいませんが・・・」


「あなた、もうクビにしたからさっさと出て行きなさい!あなたの言う通り、謝っても許されない事をしたんだから、あなたも同じ目に遭う事ね。」


「はい・・・」


彼に謝っている最中なのに、大賢者様から話を遮られてしまった。謝る事すら許されないの?

だけど何も言えません。悪いのは私・・・

彼は勇者となって戻ってきたけど、それは彼が本当に頑張ったからだと思うわ。そして、あんなキレイな人達と一緒になっているのね。逆に私は男に遊ばれて捨てられて、そして、職場からも追放か・・・、自業自得とはいえ、私自身がこんな事になるなんて・・・



何だろう?

急に空しくなったわ。生きる気力も出てこない・・・



彼もこんな気持ちでこの町を出て行ったの?



何も考えられない、呆然としてギルドの出口へ自然と足が動いてしまいました。




「ちょっと待ちなさい!」


大賢者様が私を呼び止めた?


(何で?)


何か紙切れを私に渡してくれた。

見てみると、その紙には地図が書いてある。

この場所は?


「あなたは少し接客というものを身に着けた方が良いわね。相手を心から喜ばせる、これを身に着けるには最適な場所よ。後はあんたの頑張り次第ね。これ以上は私は面倒見ないわよ。分かった?」


「は、はい・・・」



とぼとぼとギルドを出て、その地図に書かれたところに行ってみる事にしました。

この場所って、確か・・・


目の前には大行列が出来ていました。

お店には2人の女性が忙しそうにお客の相手をしています。

このパン屋って・・・


確か昨年までは看板娘のテレサって娘がいたパン屋だわ。

昨年、剣聖の称号を授かって王都の騎士団へ行ってしまったと・・・

そしてつい最近、新しいパンを販売して飛ぶように売れているお店だと聞いているわ。新しい看板娘もテレサに負けないくらいに美人だって話も聞いているわ。

私も1度は行ってみたいと思っていたのよ。


「地図はこのお店に間違いないけど・・・、どうして?」


行列が落ち着くまで待っていました。

本当に繁盛しています。

かなり待ちましたけど、商品が完売となって、やっと空いてきたのでお店へと入りました。


「すみません・・・」


「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、もう販売する商品が無くなってしまって・・・」


とてもキレイな女の人がいました。何てキレイなんだろう・・・

女の私でも見つめられると顔が赤くなってきます。

その隣にはテレサに似た女性がいました。多分、彼女の母親だと思います。この人もキレイ・・・


「すみません、私はお客じゃないです。大賢者様からここに行くように言われまして・・・」


恐る恐る地図を渡しました。


「あぁぁぁ、分かったわ。ラピス様から話は聞いているわ。ここで働くってね。私はローズマリーよ、これからは私の右腕として働いてもらうからね。」


(はい?何で?)


いきなりの話で何が何だか分かりません。


「そう、ラピス様から言われて来たのね。ふふふ、そういう事はあなたは見所があると思われたみたいね。どうしようもなかったら見捨てるとも言っていたからね。今までの受付嬢は降格になった途端に辞めていったか、クビにして放り出してしまったかしかなかったのにね。」


「どういう事ですか?」

私以外にも同じ処分を受けている受付嬢がいたなんて・・・

それは他の町のギルドの事?

大賢者様はそれほど彼にされた仕打ちに対して怒っていた訳?


(そうよね、あの方は彼の事を最愛の人と仰っていたわ。私も大好きな人が酷い目に遭えば絶対に許さない・・・、誰1人も・・・)


だけど、目の前にいるローズマリーと名乗ってくれた女性は、私を見ながらニヤニヤしている。


「どうやら、あなたは自分がやった事に対して心から反省しているみたいね。その気持ちが本当かどうか、その見極めを私が行う事になっているのよ。今までの自惚れた自分を捨て、謙虚に人々に感謝出来るようになれるかどうかはあなた次第だけどね。でも、ラピス様はこうして私のところにあなたを寄越したわね。という事は、あなたは生まれ変われると期待されているのかもね。ふふふ、生まれ変わった気持ちで頑張りなさい。」


どういう事なの?

今日は色々とあり過ぎて頭が追いつかない・・・

だけど、1つだけ分かったわ。


私は今から生まれ変わる。今までの私は自分の満足の為だけに生きていた。人をバカにして自分は偉いのだと・・・、でも、これからは・・・



(こうしてやり直す機会を与えてくれた大賢者様に感謝し、その感謝の気持ちをみんなに・・・)




こうして、私はこのお店に住み込みで働く事になりました。

元々、私は孤児だったから親もいなかったので、このお店で住む手続きも簡単でした。


その日の夜・・・


(何?この夕食は・・・)


彼がいる・・・

大賢者様もいる・・・

銀髪の美少女もいる・・・

今朝ギルドに来た新しい受付嬢もいる・・・

ローズマリーさんはもちろんだけど・・・


そして、彼の両親も・・・


(このパン屋って、彼の実家だったの?)


それにしても、彼女達は一体・・・

その後、みんなが私に自己紹介をしてくれたわ。

大賢者様やローズマリーさんも、そして受付嬢のマナさんが言っていた夫は彼だったと・・・、そして銀髪の美少女はアンジェリカさんで、彼の妻の1人と・・・


(レンヤさんは妻は4人もいるんだ・・・、英雄の1人である大賢者様がその1人なんて・・・)


そして、この目の前にある食事は・・・

(こんな豪華な食事は見た事が無い・・・)


アンジェリカさんがニコニコして私に食事を勧めてくれるの。

「遠慮しないで食べてね。ここまで帰って来るついでに王女様の護衛の仕事をしていたから、途中で倒した魔物の食材が大量にあるからね。あなたがここに来るって分かっていたから、腕によりをかけて作ったのよ。」


王女様の護衛の仕事?そんな事を片手間でしてきたような感じなんて、どれだけの実力の持ち主ばかりなの?それに、今、目の前に出ている食事だけど、どれも超高級品の食材ばかりだわ。噂で聞いていた勇者パーティーの実力って・・・、本物だった。その人達が私の目の前にいるのよ。


『あなたは生まれ変われると期待されているのかもね。』


ローズマリーさんの言葉が私の頭の中で甦ってきました。


(そう、私は生まれ変わります。もう嫌な女になりたくない・・・、そして、私の一生をかけてでもレンヤさんへの償いをする事を誓います。)


住み込みとなりましたので、私の部屋は何と!レンヤさんがかつて住んでいた部屋です。

今ではレンヤさんは自分の家庭を持っていますので、自宅を構えてそこで住んでいると教えてもらいました。

だけど、レンヤさんの自宅ってどこ?何気なく疑問に思いましたけど、後で教えてもらった時は・・・

この世の人達ではない!と本気で思いました。


あまりにも規格外過ぎます。


今は1人で部屋にいます。

人生初めてですよ!ここまで贅沢なベッドは!でもとても疲れたのでゴロンと横になっています。

何だろう・・・、ドキドキする・・・

へへへ、ここにレンヤさんがいたんだ。


何だろう?こうしていると不思議ね。今日は人生で一番最悪の日だったのに、今は落ち着いています。

ここの住み込みの待遇はとても良いわ。自分は貴族様では?と思える程の最高級の家具が置いてある部屋に、庶民の家庭ではまず置いていない最高の贅沢とも呼べるシャワールームが置いてあり、いつでも自由に使って良いなんて、誰も思いませんよ。

今までの生活は何?と思える程に快適な生活なんです。


(物語にあるように、私の立場なら屋根裏部屋のみすぼらしい生活が当たり前では?)


そして、あれだけ酷い目に遭わせて追い出したレンヤさんが、私の目の前でとても幸せそうに彼女達と楽しくイチャイチャしています。伝説の英雄である大賢者様までがレンヤんさんの妻の1人になって・・・


みんな楽しそうにしているわ。

4人も妻がいるのに全員仲が良いし、私から見ても理想のカップルや夫婦に見える。

私が一緒にいても大丈夫なのか心配していたけど、それは杞憂だったわ。


ホッとしている私もいるけど、私1人だけがあの輪の中に入れない・・・、いえ、入る資格すら私には無い・・・


そう思うと胸がズキッと痛みました。


淋しい・・・


(これが私の罰なのね・・・、でも、私はこの痛みを一生背負って生きる事にします。それが私のレンヤさんに対する償いよ・・・、それだけ酷い事をしてしまったから・・・)


レンヤさんに対する後悔だけが深くなっていきました。


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