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72話 3年ぶりの里帰り

「勇者様!是非とも我々にご指導を!」


むさ苦しい男連中が俺をジッと見つめている。


(正直、弱った・・・)


「兄さん、そろそろ降ろして欲しいんだけど・・・」


しまった!テレサをお姫様抱っこしたままだ!


慌てて降ろしたけど、テレサの顔がまだ赤いよ。

だけど、さっきまでの危険な表情は無くなり、何か清々しい感じだな。


「やっぱり勝てなかった・・・、少しは善戦すると思ったけど、兄さんの強さは底が見えないよ。」


「いや、そんな事は無かったぞ。テレサの剣筋は気を抜くと一気に倒されてしまうのは確実だったしな。しかも、全部が急所責めだ、木剣とはいえエグ過ぎる攻撃だったぞ。一歩間違えれば確実に死ぬ攻撃だったからな。」


「それを全部捌く兄さんに言われてもねぇ・・・」

満足そうな表情で俺を見つめている。

「でもね、全部兄さんには躱されると感じていたんだよ。対峙した瞬間に『あっ!これは負けたな・・・』って思ったからね。そんな勝負をした私がバカだったわ。」


テレサの頭を優しく撫でた。

「そんな事を言うな。俺は諦めずに足掻いてこの力に目覚めたんだ。お前ももっと頑張れば俺以上に強くなれるかもしれないぞ。」


「うん、分かった。私も頑張るよ。次こそは兄さんに勝つからね。」



「勇者様!」


ズイッと1人の騎士が前に出た。


(あっ!こいつらの事、忘れてた・・・)


「急なお願いで誠に申し訳ありませんでした!何卒、気を悪くされませんように!」


そう言って深々頭を下げると、後ろに控えていた騎士も揃って全員が頭を下げている。


(何で?)


「ふふふ、兄さん、彼らはね兄さんに嫉妬していたんだよ。」

テレサが面白そうな顔で俺を見つめている。


「はい?」


「だってさ、兄さんの周りの人ってどんな人だと思う?アン姉さんにラピス姉さん、マナ姉さんやローズマリー姉さんよ!そんな美人ばかりが一緒にいるんだよ。私も正直納得出来ないけど・・・」


「お、おぅ・・・」


「正直、勇者の称号も本当なのか疑問に思っていたのもあったのよ。勇者の称号は偽物でクズなハーレム野郎じゃないかってね。」


チラッと騎士達に視線を移すと・・・

とっても汗ダラダラの状態で俺と視線を合わせようとしない。


(マジかい・・・)


だけど、それは俺でも思うだろうな。

超絶美人の妻軍団が一緒にいるんだし、普通の冒険者がここまでの事をしているのはいないだろう。いくらテレサの兄だからって俺は平民だ。平民が複数の妻を侍らすのは異常だよな。何か変な事でもしない限り考えられない。

あの家もラピスのおかげだし、俺が勇者であると表だってアピールもしていなかったし・・・


「でもね、兄さんは私を負かしたのよ。それも圧倒的な強さでね。誰もこの模擬戦は作為的な事をしているとは思わないわ。真剣勝負だったのは誰の目に見ても明らかよ。」


「そ、そうか・・・」


「そうよ、それにね、彼らは騎士団の中でも特に向上心の強いメンバーを集めているのよ。将来、王女様の護衛団、親衛隊のメンバーとしてね。私が選んだからちょっと癖が多いけど・・・、まぁ、私みたいな女には教えてもらうのは嫌だったみたいよ。いくら私が強くても、男のプライドがあったのでしょうね。」


「ふ、副団長・・・」

男どもが何だ?照れているような顔をしているぞ。


(もしかして?)


ちょっと気になったので、1番前にいた騎士の隣に行って、耳元で囁いた。


「もしかして?お前達って、テレサに憧れている?」


途端に真っ赤な顔になって狼狽えているよ。

あまりもストレートな反応だったからとても面白い。

「い、いえ!じ、自分は・・・」


「俺と仲良くなれればテレサに近づけると思っている?あわよくば、俺公認でテレサとお付き合いをしたいとか?」


「ゆ、勇者様!そ、そのぉぉぉ・・・」


何だ!すっごくモジモジしているよ。まさかの大当りだった?


周りの男を見ると・・・


サッと全員が目を逸らした。



まさかの王女様親衛隊候補じゃなくて、現在進行形の(隠れ)テレサ親衛隊のメンバーかい!



まぁ、見た感じでは悪い奴はいないと思うな。


それにしても・・・


テレサは学院時代は鉄の女と言われて、どの告白も断っていたんだぞ。玉砕率100%の鉄壁な女とな!こいつらの玉砕する未来が見えるものだから可哀想に思えてきた。


(まてよ?)


今まで誰もテレサの告白に成功した者はいなかったけど、将来もずっとそうなるとは限らない。剣聖の称号のハードルは高いけど、テレサに匹敵する剣の達人ならテレサの気を引けるかもしれん!テレサには普通に恋愛してちゃんとした相手と結婚してもらいたいと思っている。

やっぱり兄妹で結婚するなんてねぇ~、妻軍団はテレサの仲間入りを既に認めているけど、やっぱり俺の中の倫理観がテレサと一緒になるのを拒んでいる。

出来れば、ヤンデレも同時に治って欲しいのだが・・・


(よし!何もしないよりマシだろう!)


「分かった。俺で良ければいくらでも教えてあげるよ。ティエラの町までの短い期間だけど、できる限りの事はしよう。」


「あ、ありがとうございます!」

グッと男が俺の手を握った!

「これからは勇者様の事は兄貴と呼ばせていただきます!」


「おい!ズルイぞ!俺も兄貴と呼ばせて下さい!」


結局、全員が俺の事を『兄貴』と呼ぶ事になった。

テレサが隣に立って嬉しそうに俺を見ている。


「兄さん、みんなに認められて良かったね。」


(いや、テレサ、お前が思ってる事とは違うと思うよ。それを言えないのが辛いよ。)




その後の旅は順調に進んだ。


今では俺とラピス、シャルの専用席になってしまった馬車の上で仲良く座っている。


「シャル、大丈夫なのか?王女様がこんなところで寛いでるなんて・・・」


シャルがニコッと微笑む。

「何を言っているの?ここは世界で1番安全な場所に間違い無いわ。レンヤさんとラピス様が一緒にいるからね。それにね・・・」


そう言って元々の王女様が乗っていた馬車を見つめた。


「あのメイド3人もどうやらレンヤさんを狙っているらしいのよ。私があの馬車にいると、3人が交代であなたのところに来ているじゃない?私の相手は1人で十分だから、その隙に来ているのよ。私がここにいればさすがにレンヤさんにアプローチは出来ないみたいだしね。」

ニコニコしている表情はとても可愛いよ。

「私はレンヤさんを好きだとテレサやアイ達には言っているから、こうしてレンヤさんと一緒にいるとみんな気を遣ってくれるから、私も堂々と一緒にいれるのよ。実際はレンヤさんとは内緒で夫婦の関係になっているけど、さすがにねぇ・・・、テレサ、抜け駆けしてゴメンね。」


そして、そっと俺の手を握ってくる。

「今夜は私の番ね。レンヤさんラピス様、よろしくお願いしますね。」


ラピスがニッコリと微笑んだ。

「シャル、任せなさい。完璧なアリバイ工作をしておくからレンヤと頑張ってね。まぁ、避妊はちゃんとしておく事!いくら私達はシャルの事は認めて応援はしていても、正式に結婚する前に妊娠するのは絶対にダメだからね。王族として貞操はちゃんと守っているフリはしないとね。分かった?」


「は、はい・・・」


真っ赤な顔でシャルが頷いているよ。

う~ん・・・、こんなシャルも可愛い・・・



「兄さん、訓練の準備が出来たわ。」


お!テレサが呼んでいる。


「ラピス、準備が出来たそうだ。一緒に頼む。」


「OK!」


俺がシャルを抱いて3人揃って屋根から降りた。


「それでは勇者様、私は自分の馬車へと戻ります。」


王女様らしく優雅な礼をしてからメイドと一緒に自分の馬車へと戻っていった。


「いやぁ~、あの姿を見ればさすが王女様だよな。」


「そうね、ちゃんと公私を分けているから、まずレンヤとの関係はバレないでしょうね。」


「ホント、俺もそう思うよ。」


ラピスがクスクスと笑っていると、俺達の馬車の中からアンが出てきた。

「レンヤさん、私も準備OKよ。今夜はご馳走ね。ふふふ、腕が鳴るわ・・・」

ニコニコと楽しそうにしている。


「それじゃ、テレサにみんな、行くか?」


「「「はい!兄貴!」」」


テレサの後ろにズラァ~っと騎士達が整列していた。




「ぐあ!か、体が重い!」

「剣がぁあああ!俺のイメージ通りに振れない!」

「う、うわぁああああああ!来るなぁあああああ!」


俺の目の前で阿鼻叫喚の景色が広がっていた。


「ラピスよ、デバフやり過ぎたんじゃない?」


「まさかぁ~、たった1/10までしか能力値は落ちていないのよ。かつてのレンヤやアレックスは1/100まで落としてもオーガと互角に戦えたのに・・・、ホント、平和になってみんな腐抜けてしまったのね。オークであそこまで追い詰められるなんて・・・」


ラピスが呆れた顔で騎士達を見ていた。


「しかし、テレサだけは別格だな。俺達の時と同じように1/100の能力値ダウン状態でも問題無く戦っているしな。あまりテレサばかり戦わせても騎士達の訓練にはならないな。」


「そうね、彼女には戻ってきてもらう事にするわ。」



俺とラピスが何をしているかというと・・・


馬車の進路上に30匹近くのオークの群れが潜んでいるのを、ラピスのサーチで発見した。普段なら普通に討伐して終わりだけど、今回は騎士達の訓練も兼ねて討伐する事にした。

まぁ、10数名の騎士達だとそれくらいのオークの数では簡単に討伐可能だ。

だけど、かつて俺やアレックスが修行した方法の1つで、自分の能力値をかなり落として戦う方法をだ。

これなら無理に強敵を探す必要もないし、相手のレベルに合わせて自分のレベルを下げればいい訳だから、短時間で基本能力値を上げるのには最適だった。

全ての魔法が使えるラピスがいるからこそ出来る訓練法だけどな。

しっかしなぁ~、かなり不利な状態で戦うから必死だったよ。死なないようにラピスが調整をしてくれたけど、本当に生きた心地のしない訓練だった・・・


それを今の騎士達へ同じようにさせてみたのだが・・・


「地獄に落ちた気持ちだからトラウマにならないかな?」


ちょっとやり過ぎのような気もしなくもなく、とっても心配だったりする。



「みなさん、頑張って下さいね!みなさんが倒したオークは私がちゃんと料理して、今夜のご馳走にしてあげますからね!私が腕によりをかけて作りますから、どんどんと倒して下さい!」



騎士達に見えるようにアンが応援をしている。


「「「姉御ぉおおお!」」」


みんなの目付きががぜんとやる気になっている。


「「「「「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


男共全員が雄叫びを上げながらオークの群れへと突っ込んでいった。

アンの応援で身体能力が3倍になったのでは?

最初は騎士達の悲鳴が多かった戦いだったが、今では騎士達がオークを蹂躙するほどに一方的になっていた。


(ホント、男って単純だよなぁ・・・)


この旅が始まってからは、アンが騎士達の分も含めて食事を作っている。

可愛いし料理上手、騎士達の心(胃袋?)を掴むのはあっという間だった。

この1週間でアンの親衛隊も出来たみたいで『『テレサ派』と『アン派』で分かれているが、『どちらも好きだ派』も意外と多い。


そんな2人がいつも俺と一緒にいるものだから、騎士達も事ある度に俺のところにやってくるよ。

まぁ、アンとテレサ以外でもマナさんやラピス達とも話せた時は・・・


(何とも言えないくらいに幸せな顔だったな・・・)


ホント、この男共は・・・、どこまで女に飢えているんだよ!






このような日常が続き、3週間が経過した。



「それでは勇者様、王都でお待ちしておりますね。」


シャルがペコリと頭を下げてくれた。


「兄さん、父さんと母さんによろしく伝えてちょうだいね。今回は家に戻れないし・・・」

テレサが少し困った顔で俺を見ていたが、すぐにニッコリと微笑んだ。

「王都に兄さんが来ればすぐに会えるからね。王女様と一緒に待っているからね。」


そう言って俺に抱き着いて頬に軽くキスをしてきた。


「へへへ・・・、兄妹だからコレはセーフだよね?」


テレサの顔がちょっと赤いけど、その後ろで控えている男共の視線が俺を射殺すのでは?と思える程に殺気を含んでいた。


(テレサ、あんまり爆弾を落とさないでくれよ。)



シャル達と別れ、俺達の馬車はティエラの町へと向かった。





「へぇ~、ここがレンヤの生れ故郷なんだ。」

門をくぐり町の中へ入ると、ラピスが珍しそうに町中をキョロキョロしながら見ている。

「500年前はここに町は無かったしね。時代の流れを実感するわ。」


「今の俺はこの町が故郷だしな。3年ぶりに戻ってきたけど、あんまり変わっていないな。」


「この町がレンヤさんの故郷なのね。う~、何だか緊張してきた・・・」


アンがブルッと震え俺の腕に掴まってくる。


「大丈夫さ。俺の両親は普通の人間なんだから、みんなを紹介しても変な事にはならないさ。」




「多分・・・」




「う~、そのセリフが怖いのよ。頼むからビビらせないでちょうだい!」


ラピスが少しムスッとした顔で俺を睨む。



そんな感じで和気藹々と町の中を馬車が進んでいく。


目の前に1件の店が見えた。

そんなに大きくないけど、キレイでオシャレな外観だ。

3年前に俺が出て行った時から改装でもしたのかな?デザインが何か母さんの趣味を感じるよ。


「もしかして、あれがレンヤ君の実家?」


マナさんがどうやら気付いたみたいだ。


「へぇ~、オシャレね。あのデザインはちょっと流用しちゃおうかな?王都の店の参考にさせてもらうわ。」


ローズはローズで早速王都の店のデザインを検討している。仕事熱心なのもねぇ・・・


中に人影が見えた。


(あれは?)


馬車を止めて、俺1人だけで歩いて行く。

「俺が先に行って話をするから、それまで待っていてくれないか?」


みんなが頷いてくれた。


「ちょっと行ってくるな。」


「頑張ってね。私達の事もよろしく伝えてね。」

アンがニッコリと微笑んで俺をみている。


「もちろんだよ。」



店の前まで歩いて後ろに回った。表は店になっていて、裏は家になっている。


(家の部分は変わっていないな。3年ぶりか、懐かしいよ。)


家の玄関の扉に手をかけようとすると・・・



「レンヤか?」



懐かしい声だ。



振り向くと父さんが立っていた。


3年ぶりに会ったのに、いつもの笑顔で俺を出迎えてくれた。


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