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71話 テレサと模擬戦

翌日


「兄さん!」


テレサが和やかに俺のところへ走ってきた。

昨日、別れた時の態度と変わっていないように見える。


(どうやら、シャルとの関係はバレていないようだ。でもなぁ~、しばらくはテレサの顔を見るとちょっと怖くなってくるな・・・)


だけど、テレサが俺の事を好きだと公言してからは、やたらとスキンシップが激しいんだよな。家を出る時に喧嘩してそのままになってしまった事が気になっているのかもしれない。


(いくら兄妹でもちょっとねぇ・・・、周りの騎士連中も若干引いているぞ・・・、それに時折殺気も感じる。)




「兄さん・・・、私は絶対に兄さんを逃がさないわ・・・、今は単なる兄妹の関係だけど、最後には必ず兄さんの1番になるからね・・・、ふふふ、愛してる・・・」




テレサが俺の視界の外でニヤァ~~~と笑って、ボソッとそんな事を呟いていたのは全く気が付かなかった。





なぜか背筋がゾクッとしたけど・・・


そして昨夜は


・・・


ラピスがとてもニコニコしていた。

「ふふふ、まさか500年経っても私達パーティーの絆が続いているとは思わなかったわ。後はソフィアを迎えに行くだけね。」


(そうだな・・・)


「だから、レンヤァァァ~~~」


嬉しそうに俺に抱き着いてきた。すごく甘えた視線で俺を見てくる。


「とても嬉しいのよ。みんなの心が繋がっていると分かってね。だから、今夜は私と身も心も・・・」


うっ!こんなに可愛いラピスに迫られると・・・


ドォオオオオオン!


俺の理性が簡単に決壊してしまい、昨夜はラピスとかなり頑張ってしまった。


今朝、ベッドの中で抱き着いているラピスを見ていたけど、こんなに可愛い女の人だったのだなと改めて実感した。かつてのラピスは男の嫌らしい視線で男嫌いになってしまって、ほぼ会話無しの旅だったけど、今はこうしてちょっとした事でも話をするし、表情もとても豊かだ。

そんな可愛いラピスを抱きしめると目を覚ましてしまったので、朝食前なのにまた頑張ってしまった。


朝食時、テーブルに座るとアンが俺の前に食事を置いてくれた時に、

「レンヤさん、頑張るのも程々によ。体力が余っているなら私がいくらでも・・・」

そう言ってニコッと微笑んでいたけど、目が笑っていない。


どちらかと言えば・・・



嫉妬の視線だと思う・・・



ははは・・・


その視線が死線を越えるって事にならないように気を付けよう。



ローズは幅広く商売をしていて、宿部門関係は娼館以外にも逢い引き宿も経営している。俺達も大変有り難く利用させていただいている。今は全員が我が家で生活しているから、夜のアレはちょっと気を遣うんだよね。常に全員で頑張る訳にもいかないし、ベッドは1つしかない。しかも、もう1軒は王女様に貸し出し中だ。そんな訳で例の宿を利用させてもらっている。転移が使える俺達にとっては距離は関係ないから、隣の部屋感覚で宿まで移動出来る。

そのおかげでみんな仲良く順番に愛し合う事が出来るんだよな。



両親にちゃんと報告するまではお互いに清い関係を・・・



と、思っていた時もありました。

アンと一線を越えてしまったあの夜からは、その後はもう全員となし崩し的に・・・


やっぱりみんなの魅力の前にはねぇ・・・


いや!全員が美人度が天元突破している連中だよ!そんな連中に毎晩迫られて理性が耐えられる人間はいるのか?そんな欲の無い悟りを開いた人に会ってみたいよ。

だけど、みんなさすがに毎晩俺に求めるのは体力的にも酷だと分かっているみたいで、しっかりと順番を決めて1日おきに夜は頑張っている。


今のところは・・・


ホント、こんな時の妻同士の連携は見事だよ。





話は脱線してしまったけど冒頭に戻る。


「ねぇ、兄さん、お願いがあるんだけど良いかな?」


(ん?)


「何だ?」


「私と本気で戦って欲しいのよ。」


(何を言っているんだ?この妹は・・・、話が理解出来ないぞ。)


クスッとテレサが笑っている。

「だからね、兄さん、喧嘩する訳じゃなくて、模擬戦の事よ。私の称号は『剣聖』だからね、私の周りには互角に戦える人がいないのよ。騎士団団長でさえも私には勝てないし・・・、勇者の称号持ちの兄さんなら良い勝負が出来ると思うのよ。良いかな?」


「ほほぉぉぉ~、テレサ・・・、大きく出たな。」


「いくら模擬戦でも私は兄さんに負けるつもりはないよ。」


急にテレサの視線が鋭くなった。

「それなら、兄さん・・・」


(何だ?テレサの雰囲気が変わったぞ!)


「負けた方が勝った方のお願いを何でも聞くってどう?」

ニヤァ~とテレサが笑っている。


(こ、このテレサの表情は何かヤバイ気がする。これは断った方が・・・)


「ふふふ、兄さん、もしかしてビビったの?私に負けて何でも言う事を聞く事が怖いの?」


「お、お前なぁ・・・、『何でも言う事を聞く』って冗談でも女の子が言ったらダメじゃないか。特にお前みたいな美人が言ったら、相手は碌でもない事を考えるぞ。」


「兄さん・・・」



ゾクッ!



背中に冷たい汗が流れる。今のテレサの目付きが少しヤバイ感じがする。


「私は兄さんだったらね、何をされても・・・」


「わわわわわわぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」


思いっ切りテレサの口を塞いでしまった!

(このバカ妹が!何を言っている!)


「兄さん、何を慌てているのよ。ちょっと落ち着いて欲しいわ。」


俺が塞いだ手をグイッと外し、妙に嬉しそうに俺を見ているのだが・・・

(何かやらかしたか?)


ニタリとテレサが笑った。俺は背筋がゾッとした。


「兄さん、強引ね・・・、うふふ、良いのよそのまま押し倒しても・・・」


(うぉおおおおおおおおおおおおおおい!)


何てこったぁああああああああああ!下手にテレサに手を出してしまうと、テレサにとってはご褒美になってしまうのか!


(俺限定でここまで変態になっていたのか・・・)




恐ろし過ぎる・・・




まぁ、これ以上はテレサを刺激しないようにしよう。普通に接していれば基本的に常識人だと思う。俺が変にテレサの突っ込みに反応すると過剰に反応するみたいだからな。

どうもそれを狙っている気もしないではない。


『触らぬ神に祟り無し』と同じで『触らぬテレサに実害無し』

テレサの対処法はそんな感じだろう。


そう考えていると、テレサが俺の腕をツンツンしてくる。

この仕草が俺に何かおねだりをする時の仕草だ。昔から変わっていないな。


(可愛い仕草だけど、何を要求してくるつもりだ?)


「ねぇ、兄さん・・・、私が勝ったらね、昨日ね、殿下とねぇ~、『何があったのか事細かに詳しく』教えて欲しいのよ・・・」



ドキッィイイイイイイイイイイイイイ!



思いっ切りテレサに心臓をワシ掴みされた気がした!


(ヤバイ!薄々感じている!俺とシャルの関係を!テレサの直感を甘く見ていた!)


チラッとメイド3人と一緒にいるシャルを見たが・・・



あっ・・・



シャルも冷や汗ダラダラで口笛を吹いて誤魔化しているよ・・・


何て下手な誤魔化し方だよ・・・



(ヤバイ!ヤバイ!ヤッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアイ!)



「兄さん、どうしたの?何かすごく慌てているみたいだけど・・・、ふふふ、この話は私が勝った時の事だからね。言いたくなければ負けなければいいだけだしね。」

しかし、とても怖い笑顔でニヤッと笑っている。

「だけどね。私は負ける気は無いよ。兄さんが相手だからって手を抜かずに本気で戦うわよ。」




『絶対に!絶対に負けられない戦い』だと心に誓った。






「兄さん、準備は大丈夫?」


俺から10mほど離れた場所でテレサが木剣を構えて対峙している。


護衛の騎士達もみんなテレサの戦いを一目見たくて押しかけてきている。

いつの間にかテレサを応援する横断幕まで振っている奴までいるし・・・

まぁ、王都までの旅は長いんだし、時々、こうして息抜きするのも悪くないと思う。


(それにしてもテレサは人気者だよ。まぁ、あれだけ美人で剣の腕も立つ。人気が無い方が不思議だよな。)


女性陣は妻軍団やシャルはもちろんの事、メイド3人組までも俺の応援をしている。

俺の応援は女性陣、テレサの応援は男性陣、奇妙な感じだよ。

女性陣の黄色い声援の中に男性陣の野太い声が聞こえるけど、「死ねぇえええ!」「爆発しろ!」などと物騒な声援が聞こえるのは、単に俺に対するヤキモチだけでないと思う。

「テレサ副団長ぉおおお!そんなリア充野郎なんか叩き切って下さい!そして俺と結婚して・・・」


ザクッ!


(おい!)


そいつの眉間にナイフが刺さったぞ!方向からすると・・・

ペロッとナイフを握りながら舌舐めずりしているテレサの姿が見えた。


(テレサ!お前かぁあああ!)


騎士の男はピクピクしながら倒れているけど、周りは何も気にしていないようだ。

それどころか羨ましそうな顔で見ているやつもいる!

「テレサ副団長のご褒美・・・、羨ましいぞ・・・」


・・・


まぁ、気にしないでおこう・・・

気にしたら負けのような気がする。


(多分、死んでいないだろう・・・)



気を取り直して・・・


「テレサ、それじゃ、始めるか?」


ニコッとテレサが微笑み木剣を構えた。

「いくわね・・・」


一瞬にしてテレサの姿が消えた。


(何ぃいいい!どこだ!)


目の前にテレサが現われた。

くっ!視界の虚を突くとは!妹だと思って少し舐めていた!


グッと踏み込まれ、テレサの剣の切っ先が俺の胸に伸びてくる。


(だけど甘い!)


剣を受け止めようとした瞬間にテレサの剣の手応えが無くなった。

背中にゾクッと寒気を感じた。

左脇腹辺りから殺気を感じ、咄嗟に後ろに飛んだ。


クルッと一回転してからテレサとの距離を取る。

テレサは下からの切り上げの残心を取って、すぐに剣を正眼に構え再び突進してくる。


キンキンキン!


テレサの剣は俺の目、喉、眉間、心臓と全ての急所を狙って打ち込んできた。剣で受け止め辛うじて躱している。


(俺を本気で殺す気か!)


下からの切り上げを躱すと、手首を捻り袈裟切りで俺の右肩から斬りかかろうとした。

上段から襲いかかってくる剣を俺は下段に構えた剣ですくい上げるように迎え撃つ。




ガキィイイイイイイイイイン!



俺とテレサの剣が交差した。



ミシッ!



(この音は!)



パリィイイイイイイイイイイイイン!



お互いの剣が打ち込みの衝撃に耐えき切れなくなり粉々に砕け散った。


同時に後ろへ飛び、開始直前のお互いの場所へ戻った。


「「「おぉおおおおおおおおおおおおおお!」」」


周りから大きな感嘆の声が聞こえた。


剣が根元から砕けて折れてしまっているので、握りだけを持った状態のままで俺もテレサも構えて対峙している。

ニヤリとテレサが笑う。


「兄さん・・・、凄すぎるよ。私の剣を全て受け止めるなんて・・・、初めて・・・、ここまで粘られたなんてね。勇者の称号は・・・」

突然大声を出して笑っている。

「はははぁああああああああ!ゾクゾクするぅううううう!やっぱり兄さんは最高よ!」


う~ん・・・、テレサに変なスイッチが入ったか?


「テレサ、引き分けで終わりにしないか?剣が無くては模擬戦って場合じゃないだろうが?」


「ダメよ!兄さん!今までの私は本気で戦う事が出来なかったのよ。私の全てを受け止めてくれる相手・・・、それが兄さんだったのね!剣が無くて戦えない?はっ!兄さん!そんな甘い覚悟で戦場に出るの?そうじゃないよね?」


テレサは剣の握りを捨て、手を手刀の形にし構えた。その手刀から青い白いオーラが見える。このオーラを纏った手刀だと人間の体でも簡単に真っ二つに出来る切れ味を感じる。

テレサが本気で俺と戦う覚悟を決めたと確信する。


「そうだな・・・、お前は剣士、一度剣を握ればその命さえをも勝利の為に・・・」


俺もグッと拳を握り構えた。


「テレサ、お前を妹として舐めていたのを謝ろう。お前の覚悟!俺が受け止めてやる!」


「ありがとう、兄さん・・・、私相手に本気になってくれて・・・、でもね!勝つのは私よぉおおおおおおおおおおおおおお!」


テレサが一瞬沈み込んだ。


フォン!


俺の目の前から姿がかき消えた。しかし!


「動きは素晴らしい、並の剣士などでは見切る事も出来ないだろう。残念だが俺には見えているぞ。」




「えっ!」




テレサの驚きの声が聞こえた。俺の上空で・・・


そして思いっ切り跳躍し、テレサの頭上までジャンプした。

テレサの背後に立ったような状態になり、そのままテレサの後頭部、肩を掴む。



「うわぁああああああああああ!」



テレサが大声で叫んでジタバタしているが、空中で俺に後ろから掴まれているのでどうしようも出来なかった。


地面が目の前に迫り、テレサの顔面が地面へと激突するかに見えたが。



フワッ!



クルッとテレサの全身が回転し、再び上空に舞い上がった。


ガシッ!


「えっ!」


テレサが信じられない顔で俺を見つめている。


「に、兄さん・・・、どうして・・・、本気で私を倒すつもりじゃなかったの?」


俺の腕の中で真っ赤になったテレサが呟いていた。



「確かにちょっと本気で戦ったけど、お前は俺の大切な妹だぞ。手荒な事をして一生残る傷を付けたらどうする?さすがに俺でも責任は取れないからな。悪いがこんな形で勝負はつけさせてもらったよ。でも良い攻撃だったぞ。俺も冷やっとしたよ。」



「兄さん・・・」


テレサが腕を伸ばし、俺の首に回そうとすると・・・



「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」



騎士の男共が一斉に俺へと殺到する。

そして、全員が片膝を地面に着け頭を下げていた。

テレサもビックリして騎士達を見て固まっている。


「勇者様!そのお力!感激しました!しかも、女性を気遣う騎士の手本ともいえる行為!大変失礼なお願いではございますが、この旅の間でも構いません!是非とも我々に稽古を!」


全員が顔を上げ俺をジッと見つめている。


(何でこうなった?)


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