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67話 王女様とデート①

「兄さん」


テレサが不機嫌な顔で俺の前に現われた。


「ど、ど、どうした?」


(何もやましいことはしてないはずだが?)



朝食を済ませてから家の外に出ると、テレサが外で待っていた。

腕を組んで眉間にしわを寄せて『私は機嫌が悪いのよ!』と、思いっ切り訴えている。



(本当にどうした?)



「な、テレサ、何があったのだ?」


恐る恐るテレサに尋ねると、急にニコッと微笑んだ。


「ちょっと兄さんにお願いがあってね・・・」


(だから、何でこんなに機嫌が悪いのだ?その理由が知りたいんだよ!)


「殿下の事なんだけど・・・」


「姫様に何かあったのか?」


「う~ん、どう言えば良いのか分からないけど、どうも殿下がね、兄さん達の凄さで自信を無くしているみたいなのよ。自分は王家の血筋に乗っかっているだけで何も価値の無い人間では?ってね。」


う~ん・・・

困ったな・・・

何でこんなに王女様が落ち込まなくてはならん・・・


(そんなに俺達って規格外過ぎるのか?)


「兄さん」


むっ!テレサがまた睨んでいる。


「兄さん達はもっと自覚しないといけないわよ。私みたいな平民だと『スゴイ!』ってだけで済むけど、王家や貴族は常に自分達の存在価値も考えるからね。自分達よりも遙かに高位の存在が現れてしまうと、自分達が排除されてしまうのでは?と考えるものなのよ。私はこの1年、王宮にいて貴族達の事が良く分かったわ。貴族なんて基本的に派閥争いは当たり前だし、ちょっとでも弱みを見せるとあっという間につけ込まれて没落してしまうからね。それに、兄さんはとってもお人好しだから、ハニートラップにかかる可能性はとても高いわよ。私はそれが心配で・・・」


一緒に出てきたアンとラピスを見ると・・・


思いっ切りうんうんと頷いていた。


(俺ってそんなに女に弱い?)


ちょっとショックだ。


貴族世界はこんなにも苛烈だったなんて・・・

そうなると、俺達がこの国の誰か特定の貴族にでも付いてしまえば、貴族の勢力図も一気に切り替わってしまう事なのか?

辺境伯の親父さんみたいな貴族だったら問題はないだろうけど、野心家の貴族にでも目を付けられ言質でも取られたら本当にヤバいかもしれん。寄ってくる女性には特に気を付けないといけない。

ラピスが俺を国から距離を置こうとしているのはそんな事だろう。


でもなぁ~

正直、王女様は個人的には助けてやりたい気がする。アレックスと重なって見える事があるからだろうな。


「レンヤ」


ラピスの声だ。


「今日は王女様とデートしてきなさいよ。そうすれば王女様もレンヤとの距離が縮まるだろうし、王都まではまだまだかかるから、たまには息抜きもしないとね。まさか、2日目でこうなるとは予想外だったけど・・・」


「デートって・・・」


「あら、そんなに難しい事じゃないでしょう。」

ラピスがニヤニヤしている。

「転移で行けばザガンの町まで一瞬だからね。それとも空の旅が良いかも?アンも馬車に関しては酔わなくなったし、もう心配しなくても良いからね。」


「分かったよ。」


「それと、行ったついでにローズマリーのお店にも寄って欲しいわ。例の王都で販売する商品の試作品も確認してもらえると助かるわ。王女様にも意見をもらって、改良出来る部分は改良したいのよ。」


(さすがはラピス、しっかりしているよ。)


「それでは兄さん、殿下をよろしく頼むわね。」


テレサは王女様とは仲がとても良さそうだし、ラピスも王女様を気に入っている感じがする。男には厳しいけど女性には優しいからな。

2人から頼まれると断れない。


「レンヤさん」


ん?アン?


「相手は現役のお姫様だからね。くれぐれも間違いを起こしたらダメだからね。分かった?」


アンからの圧がとても強い気がする。

「は、はい・・・」


そんな間違いなんてする訳ないだろう。


「でもね、彼女なら良いかもね。私も気に入っているし、ふふふ・・・」


アンがクスクスと笑っている。


(一体、どっちなんだ?分からん・・・)



「レンヤ」


今度はラピスが呼んでいる。


「さすがに王女様が普通に町中を歩いているとマズいからコレを渡すわ。いくつも作ったからそのままあげても大丈夫よ。」

ラピスの手には指輪が握られていた。俺達が身に着けている指輪と同じだ。


指輪を受け取るとラピスがテレサへ視線を移した。

「ちょっとテレサちゃん、左腕を出して。」


「あ!はい!」


テレサが慌ててラピスへと左手を伸ばす。薬指には先日渡した指輪が着けられていた。

ラピスがその指輪に手を添えるとポ~と指輪が輝いた。


「これで良し!」


「何があったのですか?」

テレサが不思議そうに指輪を見つめている。


「ふふふ、この指輪に収納魔法をエンチャントしておいたのよ。あなたも使えるようにしておいたわ。」


「な、な、な・・・」


テレサがあわあわと焦っている。

こんな姿を見るなんて随分久しぶりだよ。10歳頃から急に大人びて、こんな慌てる様子なんて見た事がなかったよ。

まぁ、それだけラピスの収納魔法に驚いたのだろうな。

伝説と呼ばれる魔法が使えるなんて思ってもみなかっただろうし・・・


「容量はこの家10軒分くらいと少ないけど、これだけあれば生活には困らないでしょうね。」


「いえいえ!こんなの困らないどころか、国宝級の指輪ですよ!そんなスゴイものをいただいていたなんて・・・」

慌てて指輪を外そうとしているものだから、クスクスとラピスが笑っている。


「こらこら、外したらダメよ。私はあなたにあげたのだからね。それに、あなた以外には使えないようになっているから、外したら意味が無くなってしまうのよ。あなたはレンヤの妹、だから私の可愛い妹と思っているから素直に受け取りなさい。分かった?」


「は、はい・・・、ありがとうございます、ラピス姉さん。」


ペコペコとテレサがラピスに頭を下げている。


「レンヤ、ローズマリーのところに行ったらベッドとソファーをもらってきてね。テレサちゃんと王女様のお土産にするからね。」


「そ、そんな!そこまで・・・」


「いいのよ。」

ラピスがニコッと微笑む。

「人間は一生のどれだけを睡眠と休憩に使っていると思うの?私のモットーは『良く働き良く眠る』なのよ。あなたも王宮勤めなんだから大変だろうし、私からあなたへのプレゼントだからね。これでアレックスの愛したこの国を守ってもらいたいのよ。」


「ラピス姉さん、まさか・・・」


しかしラピスはゆっくりと首を振った。

「いいえ、私が愛している男性はレンヤだけよ。アレックスは唯一の男友達ね。残念ながらあなたが思っているような恋愛感情は無かったけど、彼の子孫である王女様を私が気に入っているのだから、少しでも助けになりたいと思っているのよ。でもね、私は大賢者でありフローリア様の巫女の立場だから、特定の国には肩入れ出来ないのよ。だから、あなたにその役目を託すわ。」


そしてクルッと振り向き俺を見てニコッと微笑む。

「レンヤ、次は王女様の番よ。」


「あぁ、分かった。」



しばらくすると王女様が3人のメイドと一緒に外に出てきた。

テレサが慌てて王女様のところに行き、何かボソボソと話し込んでいる。

チラチラと王女様が俺を見ているが、テレサよ・・・、一体どんな話をしているのだ?とても気になる。


「レンヤ」


「ラピスか、どうした?」


「王女様用に渡した指輪だけど、アンと同じで偽装魔法のエンチャントをしてあるわ。さすがに王女様がそのままの格好で町中をブラブラする訳にいかないからね。この指輪で普通に町娘になっておけばデートも堂々と出来るでしょう?」


「確かにそうだけど・・・、本当に王女様とデートをして大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。彼女も弁えているでしょうし、多分ね。」


(おいおい多分って・・・)


「まぁ、あの子はちょっと王族だからって気負い過ぎの感じがするから、ちょっと自信がグラついただけで落ち込んでしまうのよ。だから、今日はそんな立場を忘れて1人の女の子として付き合ってあげなさい。好きな事をさせてあげればスッキリするわよ。王都までは3週間はかかるのだから、あの子は弱みを見せないようにしていたけど、昨日の調子だと数日のうちに体調を崩すのは目に見えているからね。」


「分かったよ。全身全霊をかけて王女様のリフレッシュに協力するよ。」


「お願いね。」

パチンとラピスがウインクをしてくれた。



王女様の前まで歩いていく。テレサがサッと前を開けてくれた。


「姫様、左手を・・・」


俺がそう言うと恥ずかしそうに王女様がソロソロと左手を差し出してくれた。


(やっぱりみんなと一緒で薬指だろうな。ここに着ける意味は分からないと思うが・・・)


ラピスからもらった指輪を王女様の薬指に着けてあげると、とても嬉しそうに指輪をさすっていた。

そして俺に向かってニッコリと微笑んだ。


「勇者様、こうして左手の薬指に指輪を着ける意味は分かっているのですか?」


(マジかい!王女様は意味を知っている?)

タラリと頬に冷や汗が流れる。


「ふふふ、もう2度と外しませんからね。責任は取ってもらいますよ。」


(うっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!)


「冗談ですよ。でも、今日1日だけは夢を見させて下さいね。」


王女様が微笑んでくれたけど、なぜだ?目が笑っていない気がする。どうもやらかしてしまった気がハンパないのだが・・・


(まっ!その時はその時か・・・、とほほ・・・)


「姫様、この指輪にはラピスが収納魔法と幻影魔法を組み込んであります。収納魔法は後程教えますが、今は幻影魔法を使用して下さい。今のこの姿ではさすがに町中では歩き回るのは危険ですからね。」


「分かりました。どうすれば良いの?」


「ご自分のなりたい姿をイメージして下さい。その姿を保ったまま魔力を指輪に流せば姿を変えられますよ。」


「そう・・・、なら・・・」


王女様が目を閉じ精神を集中している。

全身が一瞬輝くと王女様の姿が変化していた。

腰まであった金髪縦ロールの髪型が栗色になってテレサと同じくらいに変っていて、目の色も空色から髪の毛と同じ茶色になっている。服装もどこでも見かける服装だ。

とんでもない美少女は変わらないけど、こうして見ると誰も王女様とは思わないだろう。


「兄さん、コレって凄いね。収納魔法といい、兄さん達ってホント何でもありの集団になっていない?殿下の言葉じゃないけど、私達の常識は全く役に立たないわね。殿下が落ち込むのも分かるわ。」


「テレサァァァ~~~、それは言わないでよぉぉぉ~~~」

王女様が真っ赤になって恥ずかしがっている。

素直に可愛いと思うし、テレサとこれだけ仲良くなってくれているのは本当に嬉しいよ。


全員が外に出たので家を収納魔法で収納しておくと、メイド3人衆が唖然とした顔で今まで家があった場所を見ていた。

しばらくするとショックから回復したのか、今度は俺をチラチラと見てくる。よく聞こえないけど、3人がコソコソと何かを話しているのが聞こえた。

突然テレサが慌てて彼女達のところに走って行き、『こらぁあああ!兄さんは渡さないわよ!』と叫んでいるが・・・


(何を言っているのだ?テレサの言っている事が分からない・・・)


しかし、アンもラピスもマナさんもニヤニヤ笑っている。


「勇者様、自分が周りからどう見られているのか少し自覚した方が良いですよ。」


王女様もクスクス笑っているよ。


だってなぁ~、称号を授かってから無能と言われ3年、冒険者としては最低のランクでずっといたし、前世は復讐だけで生きていたしなぁ~、そう考えると冒険者としては少し普通の基準がずれている気もしないでもない。



ちょっとショックを受けた・・・



王女様が右手を差し出してくる。

「勇者様、エスコートをお願いしますね。」


「分かりました。不慣れですがご満足されるよう努めます。」

そう言って手を握ると微笑んでくれた。


(うわぁ~、目茶苦茶可愛いよ。余程楽しみなのかな?)


【ローズ、そっちの方はどうだ?】


【大丈夫よ。ラピス姉さんから連絡は受けているわ。さすがに王女様同伴で娼館に転移はマズイから、商会の方へ移動して。私もここいいるわ。】


【分かった。】


「それで姫様、転移で移動しますので・・・」


「お任せしますよ。楽しみですね。」



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