64話 さらば、ザガンの町②
少しづつPVやブックマークが増えています。
感謝感激です。
2日後
領主様の屋敷に行くと立派な馬車が門の前に鎮座していた。
(これが王女様の馬車だな。)
さすがは王族が使う馬車だけある。
普通の乗り合い馬車でもかなりの大きさだけど、この馬車は更に大きい。普通に中で寛ぐだけでなく、簡易キッチンや野営も出来るようようになっているのだろう。
馬4頭で引く馬車なんて王族クラス以外は所持していないのでは?俺達の収納している家の馬車バージョンみたいなものかな?そう考えると、俺達の収納魔法と家は規格外過ぎると実感する。
この馬車の後ろに世話係や護衛が交代で休める馬車が数台と、周りを護衛する馬が10数頭控えている。
「さすがに王族だけあるわ・・・、こんなに派手なのに隠密で移動していると言い張るって、俺達庶民とは感覚が違うわな。」
俺達が乗ってきた馬車は馬1頭が引く幌付きの荷馬車だったりする。
王家仕様の馬車と比べたら、まぁ、何て言うか、生活水準の違いを実感するよ。
使用人達の馬車も立派だけどね。
俺達の馬車は荷馬車だ。だからと言っても荷物は収納魔法で収納してありほぼ手ぶらだから、俺達だけが悠々と乗っていくだけだし、収納魔法様々だよ。
こんな馬車だから乗り心地は・・・
う~ん、最悪だよ・・・
こればっかりは仕方ないね・・・
それでも、色々と考えて快適な移動を出来るようにしてある。俺とラピスの無限とも言える魔力があっての仕様だけどな。
そして・・・
「テレサ・・・、何でお前が俺の腕を組んでいるのだ?お前は王女様の護衛だろう?」
とても嬉しそうにテレサが俺の腕に抱きついている。その反対側にはちょっと引き攣った笑顔になっている王女様がいる。
まぁ、こんなデレデレしているテレサを見ている王女様の気持ちも分かる。
ペコリと王女様が俺に頭を下げてくる。
「勇者様、この旅の間だけでもよろしいので、私に対しては敬語はいりません。勇者様の方が我々王族よりも立場が上ですからね。」
「いやいや、そういう訳にいきません。姫様にも立場がありますから、周りの護衛や世話をするメイドの前ではそんな態度は取れません。」
横で抱きついているテレサも頷いている。
そっと王女様が俺に耳打ちしてきた。
「分かりました。でも、この馬車の中で私とテレサだけの時は敬語は無しにして下さい。私もテレサも2人の時は友達として気軽に話していますからね。」
なぜだ?王女様もテレサも俺の傍から離れようとしない。
しかもだ!護衛で雇われている筈なのに、ずっと王女様の馬車の中にいて欲しいと言われていた。
テレサは王女様の話し相手という事もあって、ここに来る際は一緒に馬車の中にいたって事だったけど・・・
さすがに俺がこんな事をすると他の護衛騎士の面子もあるから断ろうと思う。
何で2人がこうしてベッタリと離れないかというと・・・
話は少し前に戻る。
「さて、そろそろ着くぞ。」
ギルドから借りた馬車に乗って俺達は領主様の屋敷へと移動している。
この馬車はギルドからの支給品で、この町から他の町のギルドへの移動に貸してくれた。
普段の町から町への移動は徒歩か乗り合い馬車なんだけど、今回は王女様の護衛の仕事になっているので、ギルド所有の馬車を貸してもらった訳だ。この馬車の良いところは、元の町へ戻す事は必要無く、目的地の町のギルドに返却すればOKな点だ。その為戻る必要もないし、借りてほいっと返せるからとてもお手軽だよ。
だけど、この馬車は誰でも借りる事は出来ないんだよな・・・
返却の事もあるので、そこは信用問題が絡み、本来はギルド職員しか使えない馬車なんだけど、今回は特別に俺達に貸してくれることになった。まぁ、マナさんもいるし、ラピスに至ってはギルドの最高峰の人間だからな。確実に返却してくれると信頼されているからな。
しかし・・・
最悪、壊れたり襲撃にあってしまう可能性も考慮してあるから、馬車は最低限の仕様で正直乗り心地も最悪だったりする。
さすがに3日間でまともな馬車を手配するのは難しい事もあって、ギルドから貸してもらう事で落ち着いただけでも良かったよ。
そんな訳で俺が馬車の御者になって領主様の屋敷へと言った訳だったりする。
馬車なんて前世で散々乗っていたから、馬の操作もお手のものだ。それにしても、マナさんまで御者が出来るなんてビックリだよ。ギルドでNo.1の人材と言われていたのは伊達ではない。
こうして領主様の屋敷に着いたのだが・・・
門の前には王女様とテレサが待っていた。
俺達の馬車の中にはアンとラピス以外にマナさんはもちろんの事、見送りでローズとマーガレットも一緒に乗っていた。
まぁ、ローズに関してはここで別れる予定になってはいるけど、夜に俺達のところまで転移して朝まで一緒にいる予定だ。
ホント、この転移の指輪は反則な魔道具だよ。これでローズも淋しい思いもしなくて済むしラピスに感謝だ。
ただねぇ~
この馬車に乗っていたのがアンとラピス以外がいたって事なんだよな。
王女様もテレサも2人以外の事は知らない。しかも、マーガレットは別として、マナさんもローズも俺と結婚したってのも知らないから、マナさん達を見た2人の反応がとても怖かった・・・
テレサは完全に瞳孔が開き切った目で俺を見ていた。
「兄さん・・・、この女どもはどういう事?全然聞いていなかったのだけど・・・、1度、兄さんとはじっくりと話し合わないといけないかもね?兄さんを利用しようとしていたら切り殺すよ・・・」
にたぁ~と笑って、腰に差してある剣に手を添えて抜こうとしている。
(ヤバイ!テレサが暴走しそうだ!)
慌ててテレサの前に立ち肩を掴んだ。
「テレサ!落ち着け!お前には紹介しなかった俺が悪い!今度、お前の言う事は何でも聞いてあげるからな!だから落ち着け!」
その言葉を聞いて途端に嬉しそうに微笑んでいる。
「兄さん、何でもだよね?何をお願いしようかじっくりと考えよう。えへへ・・・」
良かった・・・、テレサが暴走せずに済んだ。
だけど、変なお願いをされても困る。
だから・・・
「常識的な範囲で俺が出来る限りの事だからな。」
「もちろん分かっているわよ。ちゃんと常識の範囲で考えるからね。」
そう言って俺の腕に抱きついてきた。
(絶対に常識ってのを考えていないだろうな・・・、こんな事を言って迂闊だったよ・・・)
テレサは何とか収めたけど、王女様は何だろう?ジッとローズを見ている。
視線がすごく忌々しそうだよ。
しばらくしてからボソッと呟いた。
「巨乳なんてこの世から消えてしまえばいいのに・・・」
おい!何て事を言っている!
そこまでコンプレックスを持っていたのか!確かにここにいる女性陣の中ではローズが1番の巨乳だろう。しかも、ただ大きいだけでなくウエストは細いし、女性にとっても憧れのスタイルなのでは?
自分の胸に手を当ててギリッと歯ぎしりしている。その顔はかなり怖い。
だけど、俺が見ている事に気付いたのか、ニコッと俺に微笑んでテレサの反対側の腕の方へとやってきた。
「勇者様、どうかしました?何でしょう?私を見る目が少し怯えていません?」
あんな怖い顔をしていたのが一瞬で余所行きの可愛い笑顔に変わるからなぁ・・・
こんなにパッと切り替え出来るのは、さすがは王族だけあると思う。
王女様の闇を見た気がした・・・
2人を紹介して冒頭に話が戻る。
ずっと離れない王女様とテレサにアン達は苦笑いをしているよ。
まぁ、さすがに相手が相手だから、みんな大人しいよな。その分、後が怖いと思っているのは気のせい?
しばらくしてから見送りのローズがマーガレットを連れて帰る準備をしていた。
王女様もテレサもいつまでも一緒にいられないし、さすがに俺の傍から離れてくれたけどね。
ローズが俺の隣にやってきて、「あなた、気を付けてね。」と言って俺の頬にキスをしてくれた。
あの夜で俺は彼女達と全員結ばれ正式に結婚となった。実際に結婚すると言っても俺達庶民はお互いに一緒になる意志があれば結婚となる。貴族みたいな結婚式や結婚に関した書類なんて面倒な事はしなくて良いんだよな。
それからはローズは俺の事を『あなた』って呼ぶようになったのだよなぁ・・・、何かむず痒いけど、呼ばれて悪い気はしない。
みんなを見渡して、本当に結婚したのだとしみじみ思った。
前世の復讐の戦いで明け暮れた日々とは違う。
今の俺はみんなを守る為に戦うのだ。もう憎しみで戦うような事はしたくない。
そして、アンが目指している種族の壁の無い平和な世界を・・・
・・・
だけど、周りの騎士達の視線が痛い・・・、いや!痛すぎる!
本当にチクチクと感じるくらいだ。
「もぅ、みんな妬いちゃって。」
嬉しそうにローズが騎士達にウインクをすると・・・
「「「はう!」」」
と、胸を押さえ真っ赤な顔でモジモジしながらローズを見ていた。
「私の旦那様をよろしくね。お願い・・・」
ニッコリとローズが微笑むと、男どもが胸と股間を押さえながらコクコクと頷いていた。
(ローズの破壊力ハンパねぇ・・・)
俺はアンやラピス、マナさんなどの美人揃いの生活で慣れてしまっていたみたいだけど、ローズの美人度もハンパないしなぁ~、しかも、色気ならローズは4人の中では最強だ。こうして男どもが腑抜けになってしまうのも分かる気がする。
「何て色気なの・・・、だけどいやらしくないし、女としての基本スペックが違い過ぎる・・・、私の負けよ・・・」
(ん?)
そんな声が聞こえたので、声の聞こえた方を見ると・・・
(ははは・・・)
王女様が四つん這いになって落ち込んでいた。
テレサが慌てて王女様に駆け寄った。
「殿下!大丈夫ですか?」
ヨロヨロと王女様が立ち上がった。
「えぇ、大丈夫よ、テレサ・・・、何かねぇ~、女としての自信を無くしそうになったのよ。彼女達が眩し過ぎて、私って何?ってね・・・」
「大丈夫です!殿下は殿下なんですから、もっと自信を持って下さい!」
テレサが一生懸命励ましているけど・・・
「でもね、テレサ・・・、勇者様と一緒にいる彼女達と比べるとねぇ・・・、先日お会いしたアンジェリカ様は上品さでは私の遙か上だし、大賢者様の勇ましさにはとても敵わないわ。それによ、今お会いしたマナさんはね、あの包容力はとてもじゃないけど敵わないわよ・・・、私まで『お姉様』って甘えそうになったわ。それくらい一緒にいると安心してしまうのよ。それにローズマリー様・・・、あの方を見れば見る程、私とのスペックの差を実感してしまうわ。女の私でも憧れる女らしさよ・・・、プロポーションも完璧だわ。貴族のパーティーに出れば間違いなくダントツで注目を浴びるでしょうね。しかも、愛嬌ではマーガレットちゃん、彼女にも負けるなんて・・・」
「殿下・・・」
「私ってね、単に王族に生まれただけの価値しかない女だって実感したのよ・・・」
うわぁ~、完全に落ち込んでいるよ。テレサの励ましの言葉も届いていないし・・・
(仕方ないな・・・)
落ち込んでいる王女様の手を取り見つめる。
「勇者様・・・」
俺はニッコリと微笑んだ。
「姫様、そんなに落ち込まないで下さい。姫様は姫様なんですから、他の人と比べても仕方ないですよ。」
「で、でも・・・」
「姫様は王族でありながら、それを傘に掛けるような事をしないではないですか。かつてのアレックスみたいに誰だろうが差別をしない。そんな王族なんて珍しいですよ。」
「わ、私がアレックス賢王様と同じ?」
ラピスも頷いてくれる。
「そうですよ。俺もラピスもかつてのアレックスの事を知っている。そんな俺達が姫様の事を認めていますからね。だから自信を持って下さい。姫様が元気でないとみんなの士気にも繋がりますよ。王都まで無事に帰らないといけませんから、俺も応援しますよ。」
「ゆ、勇者様ぁぁぁ・・・」
ギュッと力強く俺の手を握り返してくれた。
(これで元気が出ただろうな。良かったよ。)
「あぁ~~~、レンヤって意外とタラシなんだねぇ・・・」
ラピスの声だ。
(何で俺がタラシなんだ?)
「ふふふ・・・、これがレンヤさんなんですよね。私もレンヤさんの言葉でどれだけ励まされたか・・・、でもね、こうして自分以外の事で聞くと恥ずかしくなるくらいの口説き文句ね。」
「そうね、レンヤ君は無意識でそんな事を言っているのでしょうね。だから余計に性質が悪いわ。」
「分かるわ。これで王女様も完全にオチたわね。相手は王族よ、どう責任を取るのかしら?」
おいおい、みんな、何を言っているのだ?
俺は別に王女様を口説いたつもりはなかったのだが・・・
チラッとテレサを見ると・・・
「兄さん、殿下なら私もOKよ。もちろん私も一緒にもらってね。」
とても良い笑顔で微笑んでいた。
(何でこうなる?)
出発時間になったので俺達は自分の馬車へ、王女様とテレサも自分達の豪華な馬車へと乗り込んだ。
2人揃って俺をあの豪華な馬車へ乗せたがっていたけど、今からは仕事の時間だし公私混同は出来ない。こればっかりは仕方ないだろう。
2人揃って口を尖らせてブーブー言っていたのはとても可愛かったけどな。
出発し、ローズとマーガレットが手を振って見送りしてくれる。
ローズは夜になれば転移で俺達の家へ移動してくるけど、こうして見送る雰囲気は良いな。
門をくぐり町が段々と遠くなっていく。
ザガンの町・・・
この町での半年間は絶対に忘れない。
みんな温かい人ばかりだった。そのおかげで俺は挫けずに勇者になれた。この町には感謝し切れない。
ありがとう・・・
俺のもう一つの故郷・・・
時々は戻って来るからな。




