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62話 忘れない想い③

「はっ!」



全身が汗でびっしょりと濡れている。



「夢か・・・」



「大丈夫?」


耳元でマナさんの声が聞こえた。


段々と目が覚め、自分の状況が分かってきた。

マナさんにギュッと抱きかかえられていて、優しく頭を撫でられていた。


「マナさん・・・」


マナさんの顔を見るとニコッリと微笑んでくれた。

「ビックリしたのよ。眠っているレンヤ君がいきなり苦しみ始めたからね。どんな夢を見ていたの?すごくうなされていたわよ。」


マナさんの後ろにいるラピスも心配そうに俺を見ている。

「レンヤ・・・、まさか、またあの時の夢を見たの?里のみんなが殺される夢を・・・、かつての旅の時も時々こんな風にうなされていたし・・・」


「いや、大丈夫だ・・・、心配をかけて済まない。」


こうしてうなされるのは久しぶりだ・・・

ラピスの言う通り、かつての旅の時は今のような夢を何度も見てうなされていた。

まさか、生まれ変わった今、再び同じ夢を見るなんて・・・


ギュッ!


右手を優しく握られた。


「ローズ・・・」


マナさんに体を抱かれているが、ローズが俺の右手を握ってくれている。


「レンヤさん・・・、私はこんな事しか出来ないけど、安心してくれるなら今夜はずっとあなたの手を握っているわ。」

そしてニコッと微笑んでくれた。

「だからぐっすり眠ってね。」


(はっ!)




ローズのこの笑顔は・・・




さっき眠る前に誰かに似ていると思っていた、この笑顔は・・・






「ホムラ・・・」





思わず名前が口から出てしまった。




(いかん!ローズに対して失礼だった!いくらラピスの弄られ役でも、他人の名前を呼ぶなんて・・・)



だけど・・・




ポロッ




ローズの目から涙が溢れ出した。


「どうして?どうして私が泣いているの?初めて聞く名前なのに・・・、何で涙が止まらないのよ・・・」


そのままローズが感極まって俺の胸の中で泣いていた。

マナさんがそんな俺とローズを抱きしめてくれる。


(この温かさは・・・、今しがた夢の中で感じた温かさと同じだ。)


まるでカナエ姉さんから抱きしめられているように錯覚してしまう。


(夢で見たと時と同じで、カナエ姉さんに抱きしめられているみたいだ・・・)


「ふふふ・・・」

マナさんがニコニコ笑っている。

「こうしているとね、レンヤ君の事が本当の弟みたいに思えるわよ。まるで、ずっと昔にこうしていたように・・・、もしかして、私とローズマリーさんはかつてのレンヤさんの知り合いだったのかもね?」


「あぁ、信じられないけど、そうかも・・・」



「レンヤ!ちょっと待って!」


ラピスが慌てて俺の隣まで移動してくる。

マナさんとローズに抱かれている状態だから、さすがに2人には離れてもらったけど、とても不満そうな表情だったのがねぇ・・・


(このまま2人に抱きしめ続けられたら、夢の中のように子供の頃まで精神が戻ってしまいそうだったよ。ヤバかった・・・)


「ねぇ、今、私の耳が変じゃなかったなら、ローズマリーの事をホムラって呼んでいたわね。あの名前って、この国の城にある王家の墓所に立っている石碑に刻まれた、かつてのあなたの婚約者の名前じゃないの?アレックスに当時の経緯は教えてもらったわ。」


ラピスの『婚約者』の言葉でアンがピクッと震えるのが見えた。

そして、ジッとローズを見ている。


ラピスが言葉を続ける。

「その名前が出たってなら、レンヤが今うなされていた夢って・・・、やっぱり魔王に里を滅ぼされた時の夢だったのね。」


アンが俯いてプルプルと震えているのが見える。

(マズイ、魔王の話が出て来たからかなり気にしているのでは?)


「かつて一緒に旅をしていた時に、時々あなたは今みたいな感じで夜うなされていたわ。あの光景はずっと忘れないって言っていたわね。でも、最後の方は全く見ることは無くなったと言っていたけど、こうしてまた見るなんて・・・」


ラピスがローズの手を取った。

「ローズマリー、ちょっと悪いけど、あなたを少し見させてもらうわ。どうしてなのか気になるのよ。」


そして目を閉じ静かに佇んだ。

「フローリア様、少し力をお貸し下さい・・・」

しばらくするとカッと目を開け、マジマジとローズを見ていた。


「そんな・・・、こんな奇跡があるなんて・・・」


「ラピス、そんなに驚いて何があったのだ?」


「レンヤ・・・、驚かないで・・・、ローズマリーの前世をフローリア様のお力を借りて調べてみたの。」

ジッとラピスが俺を見ている。


「もしかして?」


ゆっくりとラピスが頷いた。



「えぇ・・・、ローズマリーの前世はねぇ・・・、勇者の里は覚えているわね。」


「あぁ・・・」


もしかして、さっきの夢は?


「魔王と魔族に滅ぼされた勇者の里に彼女は住んでいたわ。その時の彼女は殺されたあなたの婚約者だった『ホムラ』よ・・・、間違いないわ。」




(そ、そんな・・・)




ホムラの生まれ変わりがローズだと?偶然にしてはタイミングが良過ぎる。俺が転生したタイミングでホムラまで生まれ変わるなんて・・・


「だけどね、レンヤ・・・、生まれ変わりはあなたみたいな転生とは違っているのよ。魂の記憶が全てリセットされてしまうの。それなのにローズマリーはあなたへの想いを忘れていなかった。」


「それに・・・」

そう言って、今度はマナさんの手を握ると再び驚きの表情になった。

「マナまで・・・」


「まさかと思うが、マナさんはカナエ姉さんなのか?」


「えぇ・・・、信じられないけど・・・、多分、フローリア様がレンヤに気を遣ったのではないかと思うわ。どうしてか分からないけど予想はつくけどね。それは私の口からは言えない・・・」


「何で俺に気を遣う事がある?」

正直、いくら何でも俺に対して女神様からの干渉が多過ぎのような気がする。神々は世界に干渉は出来ないはずなんだけどなぁ~


(そういえば・・・)


俺が勇者に目覚めて白い世界に連れて行かれた時に、女神様は何か俺の事で言いかけていたよな。それと関係あるのか?


「それでもよ、完全に真っ白な状態の魂なのよ。魂の記憶を全てリセットして生まれ変わる、それが神々に課せられた絶対の決まりであり『輪廻』なのよ。それなのにマナもローズマリーもあなたの事は覚えていなかったのに、想いは忘れていなかった。特にローズマリーはあなたに一目惚れだったしね。ここまであなたに入れ込んでいたのには納得だったわね。まぁ、フローリア様にとってはある意味賭けだったかもしれないわ。こうして出会う事なんて天文学的な低確率よ。それなのに出会って、かつての想いが甦った。本当に奇蹟よ。」


「私がかつてのレンヤさんの婚約者だったなんて・・・、好きな気持ちはずっと忘れていなかったのね。」

ローズが真っ赤な顔で俺を見ている。


「ふふふ・・・、これで私がレンヤ君の事が可愛くて可愛くて堪らない気持ちが理解出来たわ。私ってレンヤ君の本当のお姉さんだったのね。嬉しい・・・、そして、今の私とレンヤ君は血が繋がっていないから遠慮はしなくて良いのね。」

マナさんがペロッと舌舐めずりしながら俺を見ている。


ゾクッ!


何だ?マナさんの視線が肉食獣の視線になっている。今にも襲われそうな予感がしたのは気のせい?



「はっ!」



「「「どうしたの?」」」


3人が俺の視線に気付いて俺を見ている。


「アンがいない・・・」



「しまった・・・」



ラピスが心底後悔した表情になっている。


「ラピス、どうした?お前の顔が真っ青だぞ。」

プルプルとラピスが震えている。


「アンの前で無神経にかつての里の話をしてしまったわ・・・、レンヤの婚約者や肉親は魔王を始め魔族に殺されてしまった事を・・・、アンがその事を気にしない訳がない。私の失言よ・・・」


ラピスが俯いて黙ってしまった。


「ラピス・・・」

俺が声を掛けるとガバッと顔を上げ俺を見つめている。


「レンヤ、アンをお願い・・・」

ポロポロとラピスの目から涙が溢れてくる。

「アンは魔王の娘という事で、マナやローズマリーの前世に責任を感じているのに間違いないわ。アンにとっては過去の話ではないのよ。自分の父親がした非道な事は娘である自分自身も許されないと感じているわ。そしてレンヤもこの惨事の夢でうなされている事も更に自分を責めているみたい・・・」


「ラピス様、大丈夫よ・・・」

ローズがラピスの手を握った。


「ローズマリー・・・」


「アンから500年前から眠っていて魔王の娘だったと告白された時は驚いたけど、私はそんなの関係無いから・・・、私の前世がかつてのレンヤさん婚約者で、魔王率いる魔族に殺された事はもう関係ないのよ。マナも同じ気持ちよ。」


ローズがマナさんを見るとマナさんもラピスに頷いた。


「記憶がある者には残酷な現実かもしれないけど、それはあくまでも過去の話よ。しかも500年も遠い昔の話なんだから・・・、今の私達は昔の話をする為に一緒になった訳ではないでしょう?魔王にしても今は全然違う新しい魔王だし、私達はこれからの未来の事を考えれば良いだけじゃないの?」


「そうね・・・」

ラピスがニコッと微笑んだ。

「まさかローズマリーに私が励まされるとは思わなかったわ。一生の不覚よ・・・」



「でも、ありがとう・・・」



「ふふふ・・・、私もいつまでもラピス様におもちゃにされ続けているつもりはありませんよ。」


「このぉぉぉ~、生意気よ!」


ラピスがガバッとローズの胸を揉んだ。

「いやぁ~~~~~」

ローズが艶っぽい声を上げて悶えている。

ホント、ラピスは自分の胸の大きさにかなりコンプレックスを抱いているよ。事ある度にローズの胸を揉んで憂さ晴らしをしている。

ローズはローズで何か嬉しそうだし・・・


(お前ら・・・、バカか?)



「ホント、この2人は仲が良いわね。」

マナさんがニコニコしながら2人の痴態を見ている。そして俺の顔を見た。

「今夜は私達はもう一つの建物の方で眠るわ。」


「アンの事をよろしくね。」


「マナさん・・・」


「私達女性陣はどんなに仲良くなっても、アンの真の心の拠り所はレンヤ君、あなたしかいないからね。私達の事は遠慮しなくていいから朝までアンと一緒にいなさい。ちょっと妬けちゃうけど頑張ってね。」



「それじゃ、ラピスさんにローズマリーさん、私達はお邪魔虫みたいだから別のところへ行きましょう。アンはレンヤ君に任せるからね。」


ラピスもローズもマナさんの言葉に頷き、スッと姿が消えた。

指輪の転移機能でもう一つの方へ移動したみたいだな。




ポツンとベッドの上に俺1人が取り残されていた。


(アンはどこだ?)


指輪の反応を探すと外でアンの反応があった。


(かなり落ち込んでいるのか?)


ベッドを降り歩いて外まで出る。

魔王城の中だけど、この場所はセーフティーゾーンなので外にいても安心出来る。

入口の扉のすぐ横にアンが座り込んでいた。


「アン・・・」


声をかけたが返事が無く、ピクリともせず蹲っていて表情も見えない。

黙ってアンの隣に座った。


しばらく2人で並んで座っていると、アンがボソッと呟いた。


「私って、みんなと一緒にいても良いの?」


またしばらく沈黙が続く。


「城の中にいたから外の事は分からなかった・・・、人族がどれだけ父達に酷い目に遭っていたのかも知らなかった・・・、その中にレンヤさんの婚約者や家族もいたんだね。その事は気にしないと言われたけど、こうしてマナさんやローズマリーさんの前世が父に殺されたって聞いたら、何だろう?一緒にいる自信が無くなっちゃった・・・、生まれ変わった今では関係無いって言ってくれると思うけど、私の中では罪悪感で押し潰されそうなの・・・、父が、魔族がレンヤさんの里を襲わなかったなら、ホムラさんやカナエさんとずっと一緒に幸せに暮らしていたのに・・・、それに里の人達も死にたくなかったよね・・・、だけど、父はその幸せを踏み躙ったのよ。」


「アン・・・」


声をかけるとゆっくりと顔を上げたが、涙を流しながら俺を見ている。


「気にするなとは言わない・・・、フローリア様が言っていたじゃないか?アンの生き方は茨の道になるって・・・、今の罪悪感もそうなんだろ・・・、だけどな、決めるのはアン、君だ・・・、このままみんなと分かれるのか、彼女達の痛みを背負って生きていくのか?だけどな、俺はアンの生き方を否定しない。アンがみんなから離れるなら俺もアンと一緒にいるさ。」


「レンヤさん・・・、何でそこまで・・・、マナさんやローズマリーさんの事はどうするの?」


「最初に言っただろう?俺はずっと君と一緒にいるってな。魔王の娘だろうが関係無い。俺はアンに惚れたんだ。惚れた女がこうして泣いているのは俺も心が痛い・・・、だからさ、アンの痛みは俺の痛みと一緒だ。逃げる時は俺も一緒だよ。だけどなぁ~、ラピスからは逃げられないかもな。」


「そうね、レンヤさんとラピスさんは完全にセットの存在よね。」

クスッとアンが笑っている。

「ごめんね、ちょっと弱気になっていたわ。私は女神様と約束したんだよね。どんなに苦しくても逃げないって・・・、レンヤさんと一緒ならどんな苦難でも乗り越えられるって・・・」


「もう迷わない・・・、これが私の選んだ道だからね。」


ギュッとアンが俺の腕に抱き着いた。



「だから・・・、もう少し一緒にこうしていて・・・」



「アン・・・」




しばらくアンが俺の腕に抱き着いていたけど、ゆっくりと離れた。


「ゴメンね、夜中なのに私に付き合わせちゃって・・・」


「大丈夫だ、みんなあっちの方で眠るって言っていたぞ。朝まではアンと2人っきりだ。」


アンを抱きかかえると「キャッ!」と可愛く悲鳴を上げた。

そのまま転移の魔法で寝室へ移動する。


「アン・・・」


ジッとアンを見つめると、アンがウルウルした目で俺を見ていた。


「こんな可愛いアンを見ているともう我慢出来ないよ。みんなには両親に挨拶をしてからって言っていたけど・・・」


「私もレンヤさんなら・・・」


「アン、偽装を解いてくれないか?ありのままの君を愛したい。」


フッとアンの姿が元の魔族の姿に戻った。

金色の瞳が俺を見つめている。

(何て美しいのだろう・・・、女神様と同じくらいに幻想的な感じで、吸い込まれそうだ。)


アンが目を閉じ唇を突き出してくる。

俺の唇がアンの唇と重なった。


どのくらい唇を合わせていたのだろう?

とてつもなく長い気もしたし、一瞬だった気もする。


唇が離れアンを見つめると、うっとりした表情で俺を見つめていた。


「愛しているよ。」


「私も・・・、この世界で1番あなたが好きです。」




そして・・・






俺とアンは結ばれた。


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