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54話 領主の館へ①

「まさかねぇ~、俺がこんなところに厄介になるとは思わなかったよ。」


俺の目の前には巨大な門が佇んでいる。

領主様からのお呼びを受けた(正式には王女様だけどね)から、こうして屋敷まで来た訳だ。


「それにしてもかなりデカイな。」


「そうね、聞いた話だとこの町の領主様は辺境伯で、しかもこの国の国王の2番目の妻の兄だって言うんじゃないの。かなりの地位の人物に間違いは無いでしょうね。」


ラピスが俺の横でウンウンと頷いて門を見ている。


「それに、ここの辺境伯様はとても町の人から好かれているみたいね。やはり民の上に立つ者はちゃんと下々の事も見て善政を敷かないとね。まだ見た事もない人だけど、参考にしたいお方だと思うわ。」


アンもラピスと反対側の俺の隣でウンウンと同じように頷いていた。


「そうだな、俺もこの町に来て半年経ったけど、生きるのに必死で領主とか上の身分の人達の事は全く考えていなかったよ。こうして呼ばれるって事は勇者になったと実感するよ。個人的には為政者はあまり好きでないけどな。」


「そうね、レンヤの気持ちも良く分かるわ。勇者の肩書きは思った以上に大変だったみたいだったからね。」


「あぁ、ラピスの言う通りだよ。貴族って言うのは見栄の塊みたいな者だったからな。俺やラピスを傍に置きたいってのは結局箔を付けたいだけだったしな。そんなお偉いさんの見栄合戦には巻き込まれたくないよ。」


「うんうん、それは分かるわ。そんなのは全く関係無しでレンヤの友人だったのはアレックスだけだったわね。」


「そうだな・・・」


かつてのアレックスの顔が浮かんできた。

ニカッと笑うと白い歯が零れるイケメンだったな・・・

王族の身分だったけど、そんな身分なんてあったか?っていった感じで分け隔て無くみんなと接していた。周りからは『王子らしく威厳ある態度をしてもらいたい・・・』ってよく言われていたな。

あの時、俺が死んでから生まれ変わる今までの事は歴史書の史実しか知る事は出来ないけど、アイツがこの国を大陸一まで立派にしたのには驚きだよ。魔王を倒す事以上に辛い日々があったのだろう・・・

それでも頑張って今の豊かな国の礎を作ったのだよな。俺には絶対に出来ない事だ。


(やっぱりお前は俺の最高の親友だよ・・・)


「さて、今の王族はどんな感じかな?」


「そうね、さっきの王女様のような感じならちょっと期待出来るかもね。」

ラピスが俺を見て微笑んだ。

「あなたの妹にも友達のように接していたわ。まるでかつてのあなたとアレックスのようにね。何か懐かしく感じたわね。」


「そうだな・・・、テレサも友と呼べるような友人がいれば嬉しいよ。アイツはいつも俺に付いていたから友達って呼べる人はいなかったしなぁ・・・」



いつまでも門を眺めていても仕方ないので、そろそろ中に入る事にする。

門の脇に門番がいたので声をかけると・・・


「は、はい!勇者様達の事は聞いています!」


門番が直立不動で俺に敬礼をしてくる。


(大げさな・・・)


ちょっと恥ずかしい。


門をくぐって敷地へと入ったが・・・


「デカイな・・・」


先日、マーガレットと一緒に空を飛んだ時にも上空からこの屋敷を見たけど、実際に地面から見るとかなり大きい。ラピスが消滅させてしまったけど、あの王族の保養施設より大きいのでは?

さすがは辺境伯だけある。


俺達の前に執事服を着た初老の男が立っていて、俺達を見かけると深々と頭を下げた。

しばらく頭を下げていたが、おもむろに頭を上げニコッと微笑む。

「勇者様方、初めまして。私は本日のご案内をさせていただくセバスと申します。何かありましたら遠慮無く仰って下さい。」


(この執事、出来る・・・)


なぜかあのアラグディアさんを思い出してしまった。

ただ立っているだけなのに隙が無い。昔はかなりの人物だったのに間違いはないだろう。


執事に連れられ屋敷の中に入ると、メイドが数人中で待っていた。


「女性の方はこちらへ。服はこちらで用意していますのでお着替えを・・・」


1人のメイドがラピス達の前に立ち奥の部屋へと案内をする。


「ラピスにアン、目一杯おめかしさせてもらえよ。」


ラピスもアンもニコッと微笑んでいる。

「レンヤ、キレイになった私に惚れ直しなさいよ。」

「ふふふ、どんな服を着せてもらえるのか楽しみね。」


メイド達と一緒にラピス達が奥へ移動していった。


「それでは勇者様、女性陣のお着替えが終わるまでお時間がありますので、妹様と団欒でも?別室でお待ちしています。」


執事が頭を下げそう提案してくれたので頷いた。

(どうやら、テレサには何もしていないようだな。俺の妹と分かったから人質にでも取られるかと心配していたが・・・)



案内された部屋の前に立った。


(ん?これは?)


扉が開くと中は大きな部屋になっていて、中央のテーブルの前にテレサが立っていた。


「テレサ・・・」


「兄さん・・・」


しかし、何だ!このテレサの服装は!

薄いピンク色のドレスを着ている。しかもだ!胸の部分が大きく開いていて、胸の谷間がバッチリと見える!

誰だ!テレサにこんな破廉恥なドレスを着せた奴は!


(だけど、テレサって意外と胸が大きいんだ・・・、スタイルも抜群だし、こうして佇んでいると貴族の令嬢と言われても違和感がないぞ。)


いやいや!


思いっ切り頭を振って煩悩をかき消す。

テレサは妹だぞ!妹をそんないやらしい目で見るなんて兄貴失格だ!


それにしても・・・


テレサは本当にキレイになったよ。赤い顔でジッと見つめられているけど、俺の方が赤くなってしまうくらいに恥ずかしいな。


「兄さん・・・」


恥ずかしそうにしていたテレサだったが、キッとした表情で俺を見つめた。


「分かっているよ。部屋に入る前から感じていたからな。」


人差し指をテレサの後ろの壁にかかっている肖像画に向ける。指先からパリッと小さな電が飛んだ。

「覗き見するのはいい趣味じゃないな。このままライトニングを受けるか?心配するな。黒焦げになって心臓が止まるだけだからな。」


壁の裏から小さく「ひっ!」と悲鳴が聞こえた。

直後に部屋の周りにいた数人の気配が消えたところで、テレサも表情が柔らかくなった。


「兄さん、ゴメン・・・、監視されるなんて思ってもいなかったわ。兄さんの勇者の肩書きってそれだけ重視されるのね。何人かいたのは分かったけど、私でもやっと1人か2人の気配しか気付なかったのに、兄さんは全員気付いていたの?」


「あぁ、こういう気配察知は昔から得意な方だったからな。伊達に3年間も無能と言われ続けても冒険者として生き残っていただけの事はあるさ。自慢出来る事ではないけどな。」


「ううん・・・、そんな事は無いよ。」

ゆっくりとテレサが首を振っている。

「冒険者はまず生き残る事を考えないといけないからね。死んだらそれで終わり。兄さんが昔、私によく言っていた事よ。」


「そうだな。冒険者に憧れていた時に心構えの事をテレサによく言っていたよな。懐かしいよ。」


お互いに微笑んでいる。

こうして笑い合うのも久しぶりだよ。


「で!テレサ、その服装はどうした?いくら3年ぶりに会えたっていっても、ちょっと気合を入れ過ぎていないか?」


途端にテレサの顔が再び真っ赤になった。

「兄さん!私だってここまで派手なドレスにしようとは思ってなかったわよ!殿下が『テレサなら似合うわよ』って言って選んでくれたドレスなのよ。やっぱり似合わないのかな?」


「そんな事はないよ。俺もテレサにはとても似合っていると思うよ。王女様のセンスは凄いと思うな。このまま貴族のパーティにでも出れば、高貴な貴族の娘と見られても不思議ではないと思う。それだけお前がキレイなんだからな、自信を持てよ。」


「本当にぃいいい!」

グイッと嬉しそうな顔でテレサが近づいてくる。


(近い!近い!)


「あぁ、本当だよ。それにな、テレサがあまりにもキレイになっていたから、最初はお前だとは気付かなかったぞ。昔っからお前はキレイだったけど、この3年間でとんでもないくらいにキレイになったものだよ。男なら見逃さないぞ。」


「兄さんからそう言ってもらえるなんて嬉しいわ。でもね、私は男の人には興味が無いのよ。そのおかげなのか、授かった称号は女らしくないし・・・」


テレサが少し沈んだ感じになってしまったよ。

どうする?


キョロキョロと周りを見渡すと椅子とソファーがあったので、座ってゆっくりと話をした方がテレサも落ち着くだろう。

この部屋に入ってからずっと立ったままだしな。


「テレサ、椅子に座って落ち着いて話さないか?どうも立ちながら正面を向いて話すと何かお前から圧を感じるからなぁ・・・」


「ゴメン!兄さん、気が付かなかったわ。兄さんに会えて嬉しくてすっかり舞い上がって・・・」


テヘッ!とした感じでテレサが可愛く舌を出してきた。

この可愛らしい仕草は昔から変わっていないな。


ソファーに座ると・・・


(おい・・・、テレサよ・・・、何をしている?)


テレサが俺の横にピッタリと寄り添って座ってくる。


(おいおい、座る場所ならいくらでも他にあるだろうが・・・)


しかも、俺の腕に抱きついて幸せそうにしているよ。


(さっきのラピスとの話ではないけど、やはりテレサはブラコン?本当にそうだと弱った・・・)


「テレサ、さっきもそうだったけど、俺に抱きついてばかりじゃないか?」


そんな話をすると、テレサが少し不満そうに俺を見つめた。

「兄さん、3年ぶりに会えたのよ。私がどれだけ淋しかったのか分かっているの?とっくの昔に兄さん成分が無くなってしまっていたから、今は補充させて欲しいのよ。お願い・・・」


(兄さん成分って・・・、間違いない!テレサはブラコンだ!しかも!久しぶりに会ったから遠慮しなくなっている!)


ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!

背中に冷や汗がダラダラと流れる。

アンとラピス達と婚約してしまったと話すとどうなるのか?

何だろう・・・、恐ろしい未来しか見えない気が・・・



「ねぇ兄さん・・・」


「どうした?」

テレサが物憂げな表情で俺を見つめてくる。何か言いたそうな雰囲気だ。


「私ね、去年、称号を授かったの・・・、女の私が『剣聖』だって・・・」


(マジかい!)


『剣聖』の称号はアレックスの『聖騎士』よりも更にレアな称号だぞ!

この国では今まで誰も授かった人はいなかったはずだ。それくらい幻の称号だよ。


そんな称号をテレサが・・・


「私が剣聖の称号を授ると教会から王都に連絡が行ったの。すぐに王都から騎士団の使いが来たわ。そしてすぐに入団になったの。入団試験は騎士団団長である第2王子のカイン殿下と模擬戦を行ってあっさり勝ってしまってね・・・、今では騎士団副団長になってシャルロット王女殿下の専属護衛騎士にもなっているの。」


「それは凄いな。そんな大出世なら父さんも母さんも喜んでいただろう。」


「ううん・・・」

しかし、テレサは淋しそうな表情で首を振った。

「兄さんが出ていって、私まで出て行く事になったのよ。やっぱり2人は淋しそうだったわ。だからね、私はなかなか家に帰れないけど、兄さんはちゃんと父さんと母さんに無事だって伝えて欲しいの。」


「分かったよ。だけど、俺も勇者になったからそう頻繁には戻れないな。まぁ、転移の魔法が使えるから定期的に父さん達に顔を出せるか。」


「やっぱり兄さんは勇者になったのね。こうして直接言われるまで半信半疑だったけど、伝説の転移魔法を片手間で使うって言うのを聞くと、私の称号以上に勇者の称号はとんでもないのね。」


そしてジッと俺を見つめている。


「ねぇ兄さん・・・、本当に私をレッド・ベアーから助けてくれた時の事を覚えていないの?」


さっきも言われたけど本当に記憶が無い。

テレサのブラコンってこの事があってから始まったのだろうな。俺がかつての勇者で生まれ変わった事も薄々感じているし、これでソフィアまでも加わったら確実に生まれ変わった事がバレてしまうだろう。



どうする?



やっぱりテレサには正直に話した方が良いのか?



ラピスは大賢者だとバレているけど、アンの事はどう説明する・・・



あっ!マナさんやローズの事もあった!

父さんや母さんには紹介するつもりだったけど、テレサに紹介して大丈夫なのか?



うわぁぁぁ~~~、どうしよう・・・



今までのテレサの行動を見てブラコンに間違いない!

しかしブラコン属性だけなのか?

あのラピス達へ向けた視線を考えると、ヤンデレ属性も入っている可能性も高い!

修羅場だけは本当に勘弁して欲しい。




困った・・・

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