53話 王女様がやってきた⑦
「弱ったなぁ~、まさかテレサがこの町に来てるなんて想像もしなかったよ。」
いくら何でもタイミングが良過ぎる。
フローリア様の意思を感じるのは気のせい?
何でテレサと引き合わせたのだ?しかも王女様のおまけ付で?
(ん?)
どこからかくしゃみをする声が聞こえた気がする。
それにしても・・・
テレサは騎士になって、しかも王女様の護衛だなんて、一体どんな称号を得たのだろう?
たった1年でここまでになるって、余程の称号の持ち主に間違いない。
確かに、昔から天才肌で勉強も運動もトップレベルだったからな。それに見合った称号がもらえたのかもしれない。
「レンヤ・・・」
ラピスが俺の隣に寄り添ってきた。
「ラピスか。」
「まさか王女が来るとは想像してなかったわ。ごめんね、私のせいで気付かれてしまって・・・」
申し訳なさそうに俺を見ているが、そんなラピスの頭を撫でてあげた。
「気にするな。いつかはバレる事だしな。それが少し早くなっただけだよ。しかも、ソフィアまで復活すればもっと大騒ぎになるだろしな。」
「そうね。」
ニコッと微笑んでくれた。
「国だけでなく教会も騒ぎ出すでしょうね。500年前の英雄が3人、この時代に現れるんだからね。それでフローリア様はあの2人を聖女と導師にしたのかもしれないわ。まぁ、あの2人なら称号に値する資格もあるし、それに少しでもソフィアが教会から自由になれるようね。」
「多分そうだろう。ラピスにソフィア・・・、そして俺か・・・、信じられない話だよな。さすがにアレックスの復活まではないだろうけど、あいつが使っていたミーティアの後継者が現れるってフローリア様が言っていたな。しかも既に会っているって話だし、ホント誰なんだろうな?」
「そうね、私も誰か教えてもらっていないわ。」
「いまだに正体も分からず動きのない魔王だが、魔王を倒す為にはミーティアの存在が不可欠だ。そしてミーティアは王城で厳重に保管されている。こうして王女様に会ったのは偶然ではないかもしれない。俺とアンのようにミーティアを巡って運命付けられている者が王都にいるのかも?」
「その可能性が高いわね。ミーティアの後継者・・・、一体誰なんでしょうね・・・」
(まさか王女様って事はないだろうな?どう見ても剣を扱えるような体の動きではなかったし・・・)
「レンヤ、それじゃマナに新しい指輪を渡してくるわ。ついでに説明もしてくるね。」
「そうだな、そうしないとギルドに使いが来ても連絡が取れないから頼むよ。」
「任せて。」
ラピスがスッと消えた。転移で移動したのだろう。
「レンヤさん・・・」
今度はアンが俺の隣にやって来た。しかし表情がとても沈んでいる。
「アン・・・」
「レンヤさんが頑なに国との接触を避けているのは私の為なの?私の正体がバレるから?私がいると迷惑がかかるのかな?」
そんなことは無い!
確かにアンは魔族ではあるけど心優しい魔族に間違いない。
俺はそんなアンの優しさに惹かれた。
人間?魔族?そんなのは俺には関係ない!
それに・・・
「アン・・・、そんな事は決してないから安心してくれ。俺はお前の夢の力になりたいと思っている。それは国が介入すると出来ない事だからな。魔王を倒すのはお前の夢の第一歩でしかないし、それに、この後の事がとても大変になるだろう。何せ魔族を纏めなくてはならないからな。その為には勇者である俺とお前が一緒にいないとダメなんだよ。俺とお前が一緒にいる・・・、それが魔族の未来にも繋がると思っている。かつての敵同士が一緒にいる事が重要なんだ。どちらが敵で味方なのか、そんな考えは終わりにしたい。その元凶を作ったのが神であるダリウスに間違いないだろう。俺はその為なら神にでも立ち向かうさ。それが俺とお前が一緒にいる為に避けられない道なら神をも倒す。」
(そう、覚醒したこのデタラメな力はその為にあるのだろうな。神にさえも立ち向かえるように・・・)
「レンヤさん・・・」
アンが潤んだ目で俺を見ている。
「だから心配するな。俺はずっとお前と一緒にいると約束したんだからな。お前がそんな弱気だとどうする?ラピスもマナさんもお前の事が分かっていても黙って付いてきてくれるんだ。ローズはあんな感じだけど曲がった事は大嫌いみたいだから、アンの考えに賛同してくれる事は間違いないだろうしな。だから、いつものようにすれば良いからな。」
ギュッと嬉しそうにアンが俺の腕に抱きついてきた。
「ありがとう・・・、私もレンヤさんを信じる・・・、好きになって本当に良かった・・・」
(どうやら元気になったみたいだな。)
しばらくアンと手を繋いで町中を歩いてからケーキ屋へ入った。
テラス席に案内され2人で座ってケーキを食べながらラピスの帰りを待っていた。
「ラピスは遅いなぁ~」
「姉様への説明で少し時間がかかっているかもしれないわね。姉様は魔法が使えないから、魔道具といえいきなり魔法を使うのは難しいと思うわ。しかも伝説の転移魔法だからね。もうしばらく待っていましょう。」
「そうだな。」
「ところで、レンヤさん・・・」
アンが真面目な顔で俺を見つめている。
「ん!どうした?」
「妹さんの事だけど、今夜、領主様の屋敷に行くじゃないの。その時に私達を紹介して欲しいの。レンヤさんの両親には私達を結婚相手として紹介するじゃない?だったら妹さんにもきちんと挨拶をしないといけないと思うのよ。」
「まぁ、確かにそうだよな。」
だけどなぁ~、さっきのテレサがアン達を見ている視線が怖かった。
アレは完全に嫉妬の目だったし・・・
紹介なんかしたら血の雨が降るかもしれない。何かそんな予感がする。
アンが急に顔を近づけてくる。
「レンヤさんは気付いていないかもしれないけど、妹さんのレンヤさんを見る目は完全に恋する乙女の目だったわ。私達は彼女からレンヤさんを奪ったと思われているでしょうね。だからキチンと挨拶をしないといけないと思ったのよ。」
「やっぱりかぁ~、テレサの様子がおかしいから薄々そんな気がしていたんだよ。あいつがアン達を見る目は完全に喧嘩を売っている目だったしな。まぁ、王女様が良いタイミングで間に入ってくれて助かったけど、あのまま睨み合っていたら確実に何か起きたかもしれん。」
「ふふふ・・・、でもね、妹さんがレンヤさんに恋する気持ちは分かるわよ。」
クスクスとアンが笑っている。
(何で?)
「妹さんが言っていたじゃないの、レッド・ベアーからレンヤさんに助けられたってね。レッド・ベアーって言えばBランクの魔獣よ。そんな魔獣から助けられて、しかもレンヤさんが倒したのを目の当たりにしているからねぇ~」
「う~ん・・・、その事だけど全く覚えていないんだよな。俺が7歳でテレサが5歳の時だったのもあるけど、魔法を使ったり聖剣で真っ二つにしたってなぁ・・・、まるでアンを助けた時みたいに勇者に覚醒した感じだったのかも?俺に記憶が無いのはフローリア様が絶対に何かしたのは間違いないだろうな。」
「そうね、フローリア様が関与しているのは間違いないわ。それとね、絶体絶命のピンチに助けてくれるヒーローに女の子は憧れているのよ。私はレンヤさんに助けてもらったし、妹さんもね。そんな事されてときめかない訳がないわ。妹さんはずっとレンヤさんに恋焦がれていたのに間違いないわ。妹さんの行動に心当たりはあるんじゃないの?」
言われてみればそうだ・・・
テレサのスキンシップが過剰気味になったのはあれ以来だったしな。それと、あれだけモテていた妹だったけど、全て相手からのお付き合いを断っていた。
確か『心に決めた人がいる』って言って断っていたはずだ。
(その心に決めた人ってまさか俺の事?)
はぁ~~~~~、テレサが重度のブラコンだったとは・・・
テレサのブラコン度はマナさん以上かもしれない。アンとラピスへの態度から見てもかなりの危険人物だと思うよ。
衝撃の事実だ・・・
「私達がレンヤさんと結婚を前提としたお付き合いをしているって分かれば、妹さんがどんな行動を起こすか想像出来るわ。その時はレンヤさんも覚悟を決めないといけないかもね。」
(マジかい・・・)
「やっぱりテレサは暴れるのかな?『そんなの認めない!』って・・・、あいつは意外と独占欲が強かったからなぁ~」
「う~ん・・・、その可能性もありそうだけど、一番可能性が高いのは『私も一緒に!』って言い出しそうね。」
(やっぱりか・・・)
「でもテレサは妹だぞ。さすがに妹は恋愛対象に見れないよ。」
アンがクスッと笑った。
「だから言ったでしょう?覚悟を決めなさいってね。」
思わず腕を組んで考え込んでしまう。
(う~ん・・・、覚悟といってもやっぱりテレサだぞ!それ以前に父さんも母さんも納得する訳がない!)
「まぁ、テレサがブラコンだっていう話は推測の域だから今は保留な。出来れば直面したくない問題だよ。」
「そうね、だけど、レンヤさんが思っているよりもすんなりいくかもしれないわね。」
「私もそう思うわ。」
「どわっ!」
いきなりラピスの声が隣から聞こえた。
(いつの間に戻って来たんだ?)
「ふふふ、レンヤが腕を組んで何か考え事をしていた時に戻って来たわ。深刻そうに考えていたから、私が現れた事にも気付かなかったみたいね。」
ニヤニヤとラピスが俺を見ている。
俺から一本取った感じで嬉しいのだろうな。
「大体、どんな話か想像出来るわね。レンヤ、あなたのハーレムに妹が入るのは間違い無さそうね。そんな話をしていたのよね?」
(何でそこまで分かる?)
「そんなのすぐに分かるわよ。私達に宣戦布告をしている目つき・・・、気に入ったわ。さすがはレンヤの妹だけあるわ。まぁ、後は本人の意志次第ね。なかなか素直じゃない感じだけどね。」
「それと、レンヤ・・・」
ラピスが指輪を1個俺に差し出してくれた。
「何だ?俺は既に指輪を着けているぞ。何でもう1個指輪を渡してくるんだ?」
「あなたの妹の分よ。」
そう言って俺の掌に指輪を置いた。
竜の涙が埋め込まれている改修型の指輪だ。
「おいおい、気が早いぞ。」
ラピスがさっきまでのニヤニヤの表情でなく、何か考えているような感じの表情に変っている。
「あの子は私達を敵視しているから私からは絶対に受け取る事は無いわ。でもね、レンヤからのプレゼントだと喜んでこっそりと内緒で身に着けるのに間違いないわ。あの子は王女の護衛よ。王都まで帰る旅の間に何が起きるか分からないわ。あなたの妹と分かったから私達は全力でサポートさせてもらうわよ。この指輪があれば居場所も状況も分かるからね。当たって欲しくはないけど何か嫌な予感がしているの・・・、そんなに遠くない未来に大変な事が起こる予感が・・・」
「そうか・・・、それなら尚更受け取ってテレサに渡さないとな。」
ラピスの予感か・・・
用心に越したことはないだろう。ラピスの言う通りテレサにこの指輪を渡したら、こっそりとウキウキしながら身に着けている姿が想像出来るよ。
ラピスも合流し3人で雑談をしているとマナさんから念話が入ってきた。
【レンヤ君、領主様からの使いが来たわ。】
【早いな。もう来たのか?】
【えぇ、王女様の印が入った正式な招待状を持って来たわよ。さすがに王女様が相手だとギルドも無下に出来なかったわ。】
【すまない、マナさん。まさか王女様が来ているのは想像してなかったし、俺の妹まで一緒とはなぁ・・・】
【ラピスさんから聞いたけど、まぁ仕方ないわね。レンヤ君が1人で行く訳でもないから余程の事は起きないと思うわ。ここの領主様は貴族の中では常識人だから、いきなり部下になれってとか失礼な事は言わないと思うわ。時間は夕方の6時からよ。】
【分かったよ。適当に話を合わせて、そんなに遅くならないうちに帰って来るよ。】
【分かったわ。こちらも軽く食べる物を用意して待っているわね。】
さて・・・
とうとうお呼びが来てしまったな。
王女様は適当にはぐらかしておくけど、テレサに関してはどこまで正直に話すか?
まぁ、その場で考えよう・・・




