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51話 王女様がやってきた⑤

SIDE レンヤ


テレサとの出会いの前に時は遡る



魔王城の中にある俺達の家で俺とアンとラピスはリビングで寛いでいた。

マナさんは既にギルドへ仕事に行っている。俺が転移で送って戻ってきたところだ。

ローズはラピスが送ったけど、送る前から『レンヤさんが良い~』と駄々をこねていたが、強引に連れて行ったけどな。

何だかんだいってもラピスとローズは仲が良いよ。


「マナさんの引き継ぎもそろそろ終わりそうだから、この町にいるのもあと2、3日か~」


そう、マナさんが俺の専属受付嬢になったものだから、今後は俺と一緒に行動する事になったんだよな。俺達はずっとこの町にいる訳にいかないから、マナさんの今ままでの仕事は他の受付嬢に引継ぎする事になった。


「それにしても、姉様ってとても優秀な受付嬢だったのね。他の受付嬢の倍以上の仕事をしていたから、引継ぎが思った以上に延びるなんてね。姉様がいなくなったらギルドもしばらくは大変ね。」


アンがクスクス笑っているよ。

う~ん、可愛いな。


「レンヤ、ちょっと鼻の下が伸びているわよ。もう、アンばっかり見てないで私もちゃんと見てよ!でないと・・・、拗ねるわよ・・・」


ラピスがジト~とした目で俺を見ているよ。

ちょっと怖い・・・


「すまん、すまん。ラピスは昨日は徹夜をしていたんじゃないのか?何か宝石みたいなものをフローリア様にもらって、それを加工していたんだよな?少しは休んだ方が良いと思うけど?」


「大丈夫よ。2、3日の貫徹ぐらいで根を上げる程、私はヤワじゃないからね。それ以上にレンヤ達に置いて行かれる方が私の精神のダメージが大きいの!だから、今日はずっと一緒にいてよね。もちろん、今夜はレンヤの隣で寝るからね。抱きついて眠ると安心して熟睡出来るのよ。」


そう言って、ラピスが俺の腕に抱きついてきた。



「さて、俺もこの町でお世話になった人達の挨拶回りもほとんど終わったから、次の町に移動する間の食料の買い出しだ。すぐに王都へ行ってソフィアを迎えに行きたいけど、まずは俺の故郷へ戻って父さんと母さんにみんなを紹介しないとな。ソフィアには悪いけど、俺としてはお前達とちゃんと結婚するケジメの方が大事だよ。いつまでも待たせる訳にはいかないからな。」


「レンヤさん・・・」

「レンヤ・・・」


2人がウルウルの目で俺を見ている。


「でもなぁ~、マナさんは俺達と一緒に行動するから両親に紹介するのは問題無いけど、ローズはこの町に置いていく事になるんだよな。父さんと母さんに会う前に転移で迎えに行かないといけないな。」


「それは問題無いわ。」


ラピスがドヤ顔で俺を見ているよ。

「そこで、フローリア様からもらった『竜の涙』が役に立つのよ。」


「どういう事だ?」


「ふふふ、この『竜の涙』ってのはね、魔力の結晶なのよ。しかも、枯渇する事無く永遠に魔力を供給してくれるのよ。さすがは秘宝中の秘宝だけあるわ。」


「マジかい・・・、そんなのがあれば、この世界の魔道具のあり方が変わってしまうぞ。そんなのを使って大丈夫なのか?」


「もちろん、その点はちゃんと考えてあるわ。私が厳重に管理しておくし、その魔道具は登録した人以外には使えないようにしてあるわ。まぁ、これに術式を書き込む事が出来るのは私くらいしかいないけどね。それだけ加工するのは難しいのよ。」


ラピスが収納魔法から指輪を取り出した。昨日、みんなに渡した指輪を回収したのを徹夜で加工したんだよな。

その指輪には小さな虹色の宝石が埋め込まれている。


「はいアン、返すわ。」


アンがラピスから指輪を受け取り指に着けた。

角が消え金色の瞳が青くなる。

こうして見ると人族にしか見えないよな。


「この指輪にはめ込まれた竜の涙に転移魔法の術式を書き込んだのよ。転移魔法は私とレンヤしか使えなかったけど、これで指輪を着けた者はみんな転移が出来るようになったのよ。万が一の緊急脱出にも使えるけど、念話で会話が出来る上にすぐにみんなが集まる事も可能だからね。それにね、この『竜の涙』は魔力が無尽蔵なのもあるから、今回は転移魔法を書き込んだけど、魔力に余裕があるからまだまだいくらでも魔法を書き込む事が可能よ。これから必要な魔法があったら順次追加していくわ。でも、収納魔法は個々にあったら便利ね。出発するまでに追加しておくわ。」


「ラピスさん、すごい・・・」


アンが感激した目でラピスを見ている。


「だけど、ローズマリーだけはちょっと細工をしておいたわ。あの子に渡すと時間も場所も構わず必ずレンヤに突貫してくるから、転移魔法の行先はあの子の仕事場と私の隣に設定しておいたのよ。」


さすがはラピス、ローズの事をよく分かっている。


「まぁ、私達がこの町を出ていったらローズが1人ぼっちになるのが可哀想だったのもあるわ。せめて1日1回くらいはレンヤに会わせてあげないと、あなたの婚約者になった意味が無くなってしまうからね。」


思わずラピスの頭を撫でてしまった。

ラピスってもっと冷たいと思っていたけど、こうしてちゃんと思いやる事も出来るんだな。

かつてのラピスは冷たい印象しかなかったし・・・

単に男嫌いで周りには男しかいなかったから、必然的に冷たい態度しかしていなかったのだろう。

俺に撫でられて嬉しそうにしている姿を見ていると、とても愛おしく感じる。


「これでみんなの紹介も問題無いな。頑張って買い物に行こう!」


「「お~!」」



町に戻り露店街を3人で歩きながら色々と買い物をしている。

先日知り合った鍛冶屋のクロエさんからも剣を数本買っておいた。

いつも聖剣ばかり使う訳にもいかないし、俺とアンは周りに人が入る場合は普通の剣で戦う事にしたんだよな。

『いかにも俺は勇者です!』ってアピールするのはねぇ~

普通の剣っていってもかなりの高級品の気がするが、とんでもなく安くしてくれたのにはちょっと気が引けたよ。


それにしても、あと数日でこの町とお別れか・・・

無能と言われ色んな町を転々としてきたけど、この町が1番俺に対して優しかった。

そんな温かい人ばかりだったから、俺は挫けずに勇者になれたんだよな。


みんなに感謝しかないよ。



「きゃぁあああ~、アンジェリカ様ぁあああ!」


露店街を歩いていると黄色い声が飛んでくる。

声の方へ振り向くと女冒険者のパーティーだった。


あの模擬戦以降、アンの人気がとても高くなったんだよな。

男のファンだけなく同じ女性からは特に人気が高い。

可愛いだけでなく俺に匹敵する剣の腕だから、アンに憧れている女性ファンも結構いるんだよな。

今、声をかけてきた女冒険者達もアンのファンだったりする。


もしかして、ギルドでは俺以上にアンの方が人気があるんじゃないのか?



「ねぇレンヤ、ちょっとあの2人組、変じゃない?」


ラピスが俺の腕を引っ張ってきた。


俺もその2人組を見てみたが確かに変だ。

男の2人組だけど、店の商品を見ている感じが全くしない。視線を見てみると通行人の荷物を追いかけている。しかも、年配の女性ばかりだ。


(間違いなくひったくりだな。)


「ラピス、アレはひったくりだろう。」


「やっぱりね。」

ラピスがコクリと頷いた。


しばらく2人を目で追っていたが、突然別々の方向に移動し始めた。

(何をする気だ?もしかして、俺達の視線に気付いたのか?)


アンが俺の隣にやって来る。

「レンヤさん、私がもう1人を尾行するわ。何かあったら連絡するね。」


「あぁ、頼む。」

アンの強さなら万が一も無いだろう。


アンと分かれ俺とラピスがもう1人の男を尾行すると、しばらくしてから離れたところで女性の悲鳴が上がった。


「きゃぁあああああああああああああああ!」


アンから念話が入った。

【レンヤさん、やっぱりひったくりだったわ。先回りして捕まえるわ。早速転移魔法が役に立つわね。】


【分かった。だけど無理するなよ。】


【大丈夫よ。素人の人間に遅れをとる事はないから安心して。】


さて、俺達が尾行している男だけど・・・


「ひったくりよぉおおおおおおおおお!誰か捕まえて!」


悲鳴を上げた女性の声がひったくりだと叫んでいる。


さっきの1人が俺達の方へと走って来ているぞ。大きなバックを抱えているから間違いないな。

その男の後ろから1人の女性が追いかけていた。

衛兵か?腰に剣を下げているけど見た事が無い人だよ。


(おや?)


いや、見た事がある気がする・・・、誰だ?


男の足も速いけど、女性の方がもっと早いな。アンの出番が無いかもしれないな。


しかし、俺達が尾行していた男がその女性が近づいてきた瞬間にヨロッと倒れ始めた。

危うく女性とぶつかりそうになったけど、その女性は華麗な動きで男を躱してひったくり犯を追いかけている。


(すげぇ身のこなしだよ。相当の運動能力だな。だけどかなり距離を空けられてしまったな・・・)


偶然かと思ったけど、そのよろけた男が悔しそうな表情をしたのは見逃さなかった。


(わざとか・・・、ひったくり犯の逃亡の手助けか?)


間違いなくこの2人はグルだと確信した。


【レンヤさん、捕まえるわ。】


【あぁ頼む。だけど無理するなよ。】


【分かってるわ。】



ひったくり犯を目で追いかけると、その男の前にアンが立っていた。転移でさり気なく移動したみたいだな。

だけど、その男はアンに突進してくる。

「どけぇえええ!死にたいのか!」


あぁ~、やけになったかも?


アンは慌てず逆にニッコリと笑って男を見ているよ。思いっ切り煽っているのでは?


「このぉおおおおおおおお!舐めやがってぇえええ!」


男が激昂してアンにナイフを突き出したよ。

追いかけている女性も悲鳴を上げてしまった。


(あっ!終わったな・・・)


勿論、終わったのは男の方だ。アンに危害を加えようとするなんて・・・

倍返しどころではないぞ。殺されない事を願う。


ビタッ!


(おい!アンがまさか俺の真似をするのか!)


男が突き出したナイフをアンが片手で摘まんでいる。俺とは違うが親指と人差し指で刃の部分を摘まんでいた。


(マジかい・・・、アンが白刃取りまで出来るなんてな。ちょっとアンの実力を舐めていたかも?)


激昂していた男もアンの白刃取りには度肝を抜かれたみたいで一瞬硬直している。ハッと我に返ってナイフを動かしているけど、アンがナイフを摘まんでいる状態からビクともしていない。

慌ててナイフを手放し後ろに下がったが、アンがその隙を見逃さなかった。


「逃げられませんよ。少し痛い目に遭わないと大人しくなりそうもないですね。」


ニヤッと笑って右足を男の顎目がけて放った。


ドカッ!


アンのハイキックが男の顎を捉えた。


「ぐひゃ!」


うわぁ~、アンの足のつま先が顎に食い込んでいるよ。一撃で完全に顎の骨が砕けたな。

それにしても凄い脚力だ。男の体がアンの身長までの高さまで浮き上がっているよ。どんなパワーなんだ?

そのままクルッと回転を始めて頭から地面へと落ち始める。


「トドメ!」


落ちてくる男の胴体を今度は横蹴りで腕の肘の上からへし折って、アンのスラっとした足が男の脇腹に腕ごと食い込ませて真横に吹き飛ばしていた。


(容赦無えぇ~~~)


「うぼわぁああああああああああ!」


5、6m吹き飛んで地面に落ちてからゴロゴロと転がった。


ピクピクと痙攣しているから、何とか生きているみたいだな。

アンに喧嘩を売ったお前が悪い。『殺されなかっただけでも喜ぶんだな』と言いたかったけど、もうまともに食べ物を食べる事も出来なくなったし、腕も動かせるようになるかどうか?

これからの人生は大変だな。

まぁ、自業自得だ。


少し遅れて落ちてきた荷物をスッと左腕を横に差し出して掌で受け止める。

惚れ惚れするくらいに無駄が無い動きだよ。



「「「アンジェリカ様ぁあああ!素敵ぃいいいいいいいいいいい!」」」



アンが男を叩きのめしたシーンを見ていた女冒険者達が黄色い声を上げている。

更にアンの評価がUPしたようだ。

だけど、アンはとても恥ずかしそうだな。そんな表情のアンも可愛いよ。



「レンヤ・・・、何をボ~っとしているの?」

ラピスの声だ。

「実行犯がアンにぶちのめされたから、あの邪魔をした仲間の男が逃げようとしているわよ。」


「おっと!そうだった!」


コソコソと逃げ始めた男に人差し指を向けた。

「スタンボルト!」

青白い光が指先から男へと走った。


「ぐわっ!」


ヘナヘナと力なく倒れピクピクと痙攣している。こいつも衛兵に突き出さないとな。

「仲間がいたなんてな。追いかけられた時に偶然を装って邪魔をして、逃走の手助けをするとは考えたものだよ。」


ラピスも俺の隣に来て倒れている男を見ていた。

「そうね、ずっと挙動が変だったから目を付けていたけど、正解だったわね。」


(うん?何か視線を感じるぞ。)


感じた視線へ顔を向けると、さっきまで犯人を追いかけていた女性が俺を見つめている。

やっぱり見た記憶がある女性だ。


(誰だ?いや・・・、まさか!)


「そ、そんな・・・」

俺を見つめていた女性が涙を流しながら呟いている。


「まさか・・・、兄さんなの?」


(やっぱりぃいいいいいいいいいいい!)


とてもキレイな女性だったから最初は分からなかった。

3年前に家を出た時以来から会ってなかったしなぁ・・・


いやはや・・・

元々からかなり美人の妹だったけど、ここまで美人になっているとは思わなかった。

13歳の時だとまだ幼さがあったけど、今は確か16歳だ。

女の子の成長ってすごいと実感したよ。

アンやラピスにも引けをを取らないくらいのレベルでは?



(だけど、何でテレサがここにいる?それにさっきの動きは普通ではなかったぞ。かなりの熟練した動きだった。)



大量の?マークが俺の頭の中を駆け巡っていた。

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