表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/335

48話 王女様がやってきた②(テレサの想い)

シャルロット殿下・・・


申し訳ありません。


私は嘘を付いていました。よく覚えていないどころか、あの時の光景は今でも鮮明にハッキリと覚えています。


あれは私が5歳の時・・・



「ふん!ママの馬鹿!もう絶対に家に帰らないからね!」


その時の私は母と些細な事で喧嘩をしてしまい家を飛び出してしまいました。

そのまま町の隣にある森の中まで歩いて行きました。


「ここはいつもお兄ちゃんと一緒に遊びに行くところだわ。ママが謝るまで絶対にここを動かないからね。」


しばらく森の中で1人座っていました。

後ろで突然物音がしたのです。


「お兄ちゃんでも来たのかな?お兄ちゃんなら私がここにいるって分かっているでしょうし・・・」


振り向くと・・・


「えっ!何でこんなところに・・・」


木の陰からは兄ではなく大きなレッド・ベアーが顔を出していました。

あまりの恐怖で体がすくんでしまい、全く身動きが出来ません。しかし、レッド・ベアーは私を見て舌舐めずりをしました。私の事を餌と認識したのでしょう。

ガタガタ震えるだけで動けない私にどんどん近寄り、目の前で巨大な右腕を振り上げました。

あの鋭い爪が私を切り裂くんだ・・・

その時、私は死を覚悟しました。


「いやぁああああああああああああああああああああ!」


ドン!



「あれ?何とも無い・・・、どうして?誰かに突き飛ばされた気が・・・」


慌てて周りを見ると・・・


「そ、そんな・・・」


私の目の前に背中に大怪我を負った兄さんがうつ伏せで倒れていました。爪で背中をざっくりと切られていたのです。


「お兄ちゃん!」


咄嗟に兄さんに駆け寄りましたが、兄さんが顔だけを上げて私に笑ってくれました。

だけど、とても苦しそうです。

「テレサ、大丈夫だったか?僕に構わず早く逃げるんだ・・・、もうすぐ父さん達がやってくるからな・・・」


「そ、そんな!お兄ちゃんだけを置いていけないよ!」


私の目から涙がポロポロと流れています。


「いいんだよ。お兄ちゃんはお前の為なら何でもするから・・・、お前が1番大切だから・・・、お前が無事ならお兄ちゃんはどうなってもいい・・」


「いや、いや!お兄ちゃん!」


兄にしがみついたまま私は一歩も動けませんでした。兄を置いて行くなんて、そんな事は出来ません。

しかし、レッド・ベアーはそんな事もお構いなしに私達のところまでゆっくりと歩いてきました。

確実に私達を仕留められると思っていたのでしょう。


再び大きな右腕を振り上げました。


「もうダメぇえええ!」


咄嗟に目を閉じてしまいましたが、それでも目の前が明るくなったと感じました。


「この熊野郎がぁああああああああああ!」


ドォオオオオオオオオン!


大きな爆発音がしました。


恐る恐る目を開けると・・・


背中に大怪我を負ったはずの兄さんが私の前に立っていました。そしてレッド・ベアーは私達から離れてピクピクしながら倒れています。

どうしてこうなったのか全く理解出来ませんでした。


「お兄ちゃん・・・」


「痛ってぇええええええええええええ!」

兄さんが叫びました。

「ん!ちょっと待った!俺は・・・」


そのまま何か考える仕草をしています。


「俺は確か・・・、魔王と相打ちになって死んだはずだよな?何で生きている?」


魔王?死んだ?

兄さん、何を言っているの?

それに口調がいつもの兄さんと違う。


「あぁああああああああああああああ!」


再び兄さんが叫んでいます。

「どうなっているんだ!俺の手が子供のようになっている!」


だって子供でしょう。本当に何が何だか訳が分かりません。


「まさか、俺って生まれ変わったのか?」


生まれ変わった?兄さん、どういう事?

そして振り向き私を見つめました。


「お嬢ちゃん、ここはどこだ?何か知っているか?」


はいぃぃぃ?兄さんが私の事を知らない!もう何が何だか・・・


声も出ずにブルブルと震えている私の頭を、兄さんは優しく撫でてくれました。

いつもの兄さん以上に優しい微笑みで・・・


「すまない、怖がらせてしまった。どうやら君も状況は分かっていないみたいだな。しっかし、いきなりこんな場面に出くわすとはなぁ~、子供の体でしかも背中に大怪我ときたもんだ。こんな不利な条件でレッド・ベアー相手にどこまで戦えるか・・・」

しかし、ニヤッと笑いました。

「まぁ、致命傷でなければ問題ないな。唾でも付けておけば治るだろう。ソフィアの治療魔法があればすぐに治るんだけどな。あいつのおかげで怪我を気にせず戦えたしなぁ~」


ソフィア?

まさか、伝説のソフィア様の事?

兄さんがいつも私に読み聞かせてくれた勇者の物語に出てくる人の事よね?

何で馴れ馴れしくあいつって呼んでいるの?


倒れていたレッド・ベアーがブルブルと震えて立ち上がりました。

しかもとても怒っている感じです。


「熊野郎・・・、起きやがったか。」

兄さんが人差し指を立ててクイッと動かします。

「獣ごときが俺に歯向かうとどうなるか教えてやるよ。もちろん、最後は毛皮にしてやる!」


こんな傲慢な態度の兄さんは見た事がありません。

本当にどうなっているのか?

見た目は兄さんと変わらないのに、中身が全くの別人に思えます。それも大人の人みたいに・・・


右腕を大きく上に掲げました。

「喰らえぇえええええええええええ!サンダァアアアアアアア!ブレイクッッッ!」


ガカッ!


空からいきなり大きな雷が落ちてきました。


ドォオオオオオオオオン!


その雷がレッド・ベアーに直撃します。


「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


そ、そんな・・・


「あれは魔法・・・、何でお兄ちゃんが魔法を使えるの?しかも、サンダーブレイクってお兄ちゃんが読んでくれた物語の勇者が使っていた魔法よ。」


どうして?


ブスブスとレッド・ベアーが黒焦げになって煙を上げています。


「ちっ!まだ生きているか・・・、この体だと魔力が全然足りない。やっぱり直接叩っ切らないといけないみたいだな。」


しかし、兄さんが突然頭を押さえ苦しみ始めました。

「うっ!記憶が・・・、この体になってからの記憶が流れ込んで・・・」


そして私をジッと見つめました。

「テレサ・・・」


「お兄ちゃん、私が分かるの?本当にどうしたのよ!」


しかし兄さんはニコッとさっきと同じ微笑みで笑ってくれました。

「心配するな。俺はお前を守る。どんな事があっても大切なお前をな。だから安心しろ。」


どうしてだろう・・・

兄さんの笑顔を見た途端にスッと心が軽くなった気がしました。

もしかして、兄さんは本物の勇者の生まれ変わりなのかも?


「さて熊野郎、トドメといくぜ。」


再び兄さんが右腕を掲げます。

先程とは違い、広げた掌に金色の光が集まってきました。

「来いぃいいい!アーク・ライト!」


信じられない事が起きました。

これまでの事も驚きの連続でしたが、今までの中で一番驚きました。

『アーク・ライト』その名前は私も知っています。勇者しか使う事の出来ない神々が作った剣だと・・・

兄さんの右手にとても神々しい輝きを放つ黄金の剣が握られていました。


その剣を両手で握り水平に構えレッド・ベアーと対峙していました。


「これで終わらせる!光よ!我が剣に集えぇええええええええ!」


刀身が激しく輝きました。

同時に兄さんの全身も金色に輝き始めます。


「てめぇは許されない事をした。俺の大切なテレサを!テレサに何をしようとしたんだぁああああああああああ!」


ドクン!と私の胸が激しく鼓動しました。

「お兄ちゃん・・・」


「絶対に許さぁああああああああああああああああああああんっっっ!一刀両断!清流剣っっっ!」


兄さんの姿が一瞬で目の前から消えてしまい、気が付いた時には既にレッド・ベアーの後ろに立っていました。


「終わりだぁあああ!」


ズルッ!


レッド・ベアーの胴体が上下に分かれ、そのまま真っ二つになって地面に転がってしまいました。


「凄い・・・、それにお兄ちゃんがまるで神様みたいに見える・・・」


私はこの光景がまるで物語の世界のような錯覚に陥ってしまい、兄さんに見惚れてしまいました。


輝いている光が消えました。

「ぐっ!」

しかし、兄さんはその場で崩れ落ちてしまいます。


「お、お兄ちゃん!」

慌てて駆け寄りましたが、とても苦しそうにしています。


「くっ!血を流し過ぎた・・・」

心配そうにしている私の手をそっと握り、優しく微笑んでくれます。

「テレサ、心配するな。お兄ちゃんはちょっと休むだけだからな。こんな傷くらいすぐに治るさ。」



「どんな事があってもお兄ちゃんがお前を絶対に守るからな。」



そしてとても淋しそうな表情でどこかを見つめていました。

「アレックス・・・、ソフィア・・・、ラピス・・・、もうお前達には会えないんだな・・・」


そう呟いて兄さんは気を失ってしまいました。



『ふぅ、危ないところでした。記憶と能力の一時解放が間に合わなかったら最悪の事態になっていましたよ。今の記憶を消去して再度記憶を封印しないといけませんね。』


どこからか女性の声が聞こえます。

「誰?」


『ごめんなさい。聞こえてしまいました?ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?』


「何なの?」


『えっとね、この事は誰にも言わないで欲しいのよ。もし話してしまうとあなたのお兄さんが大変な事になってしまうからね。分かった?』


その頃の私は兄さんがどんな大変な事になるか分かりませんでしたが、なぜかその声に素直に応じました。

しばらくしたら父さん達がやってきて私達を助けてくれました。

緊張の糸が切れたのでしょう、私はそれまでの怖さが甦り、その日はずっと泣いていました。

次の日になると父さんや母さんから色々と聞かれましたが、私は知らないと答え続けて、しばらくすると誰もこの話題に触れる事は無くなりました。




「お兄ちゃん・・・」


ベッドに兄さんが眠っています。

大怪我でしたが命は取り留めたとの事でした。


兄さんの手を握ります。温かい・・・

「お兄ちゃん、ありがとう・・・、でもね、私には何が何だか分からなかった・・・、あれは夢を見ていたんじゃないかなって思うの。だけどね、1つだけ分かった事があるの。お兄ちゃんは私の勇者様なんだってね。」



「でもね、私もお兄ちゃんを守れるくらいになるまで強くなる。それとね、大人になったら私ね・・・、お兄ちゃんの・・・になるからね。」


眠っている兄さんの頬にチュッとキスをしました。




あの時の想いは今でも変わっていないわ。





兄さん・・・、私の勇者様。










愛しています・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ