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45話 司祭様の秘密②

「これで私が魔族だとお分かりになられたでしょう。」


司祭様はニコッと微笑んでいるが、アンは神妙な表情で司祭様を見つめていた。


「司祭様が魔族領に戻れない理由は分かりました。魔族にとって角は命よりも大事ですからね。角を折られてしまう事は魔族にとっては死ぬよりも屈辱的なことですから・・・、そんな屈辱的な姿を見せる訳にいきません。戻れば私的なリンチが待っているだけですからね。」


「そうです。私はデスケルベロスに角を根元から折られてしまいました。両方を・・・、その時に言われたのです。『軟弱者が!ここは我の宝が眠っている。2度と近寄るなと伝えろ。貴様はその為に生かしておいたからな。来る者は死よりも苦しい屈辱を与える。』と・・・」


「父様、死してもなお私を守ってくれて・・・」

アンがポロッと涙を流した。


「生かしてくれたといっても、正直、いつまで生きられるか分からないくらいの瀕死でした。どうやって森の中を彷徨っていたのか分からないくらいに意識が朦朧として、気が付いた時にはこの町の門のそばで倒れていました。この町は人間の町、魔族である私が倒れていれば、見つかるとすぐに殺されるでしょう。指1本も動かせない私は死を覚悟しました。」


そしてヘレンさんを見つめる。


「死を覚悟した私でしたが、その時に1人の女性が通りかかりました。その女性はすぐさま回復魔法をかけてくれましたが、瀕死の身には気休め程度の効果しかなく、やっと立ち上がってゆっくり歩けるくらいです。そんな私を懸命に運び、ある建物へ運び込まれました。」


「それがこの教会ですね?」

アンもヘレンさんを見つめた。


「そうです。教会は我ら魔族にとって仇敵でもある女神フローリアの拠点。そんなところに運び込まれた私は死を覚悟しました。ここで人間の晒し者にされ女神の名の下に殺されると・・・、その為にここに連れてこられたものだと・・・」


しばらく沈黙が続いた。


「しかし、違いました。彼女は私を必死に看病してくれました。傷もかなり癒え普通に歩けるようになった私は彼女に問いました。『なぜ魔族である俺を助けた?』と・・・、そんな問いに彼女は笑って答えたのです。」


『そんなの助けられる命があったから助けただけです。魔族だろうが私には関係ありませんし、あなたは私達の町に何かしました?魔族だからという理由だけで迫害する事しません。それが女神フローリア様の教えですからね。それと、その時のあなたは死に抗っていました。何とかしてでも生き延びたいと目が訴えていましたからね。』


俺が前世の時に魔族の老夫婦に助けられた時と同じだ。あの老夫婦のおかげで魔族に対する認識は変わったんだよな。魔族は全ては人間に敵対していないって・・・、司祭様も俺と同じ状況になっていたとは驚きだ。


「その時、私は初めて泣きました。戦士として育てられ、どんな過酷な訓練でも一切根を上げなかった私が・・・、彼女の言葉でこうも簡単に今までの概念が崩れてしまったのです。人間や女神は魔族が思っているような存在ではない。我々は大きな思い違いをしているのでは?一方的に人間に戦いを仕掛けているのは我々ではないのか?幸い、私は角が無ければ人間と全く見分けがつきませんでしたので、ここで彼女の手助けをしながら一緒に暮らしていました。あくまでも教会の手伝いという形です。そこで人間を観察していました。たまにどうしようもないクズもいましたが、人間は我々魔族よりも思いやりがあるのではないかと思いました。」


そしてヘレンさんを見つめる。

「それに、彼女と一緒にいる時間が私にとってとても心地良かったのです。彼女とずっと一緒にいたい、彼女の力になりたい・・・、彼女との共同生活は魔族領では経験がなかったくらいに充実していました。」

「しかし、私は魔族・・・、ずっと彼女と一緒にいる訳にいきません。私の正体がバレてしまえば、彼女は魔族を匿ったとして人々から糾弾されてしまうでしょう。ここから黙って去ることが彼女への恩返しだと思い始めていました。」


「じゃぁ、どうして結婚する事になったの?」

ラピスが興味津々に割り込んできたよ。恋バナは好きそうだしなぁ~


「それは、10年前にこの町を襲った流行病です。この病で多くの人々がが亡くなりました。ダン君もそうですし、彼女も病気にかかり生死の境を行き来していたくらいです。辛うじて快方に向かいましたが、後遺症で目をやられてしまい盲目となってしまいました。その時の彼女の落胆は見ていられませんでしたよ。私は彼女に救われた身、今度は私が彼女を救う番だと・・・、彼女を支える事が出来るのは私しかいない。それまでずっと彼女と一緒にいたのですが、私の本当の気持ちを伝えられていませんでした。人間と魔族、一緒になれる訳がないと一人で思い込んでいたのですが、彼女の目となって一生助けてあげたいと思った瞬間に・・・」


「ふふふ、プロポーズされちゃったのよ。」


今まで黙っていたヘレンさんが司祭様の話に入ってきた。


「私はずっと彼の気持ちに気付いていたわ。私にとって人間も魔族も関係無いと思っていたし、彼には色々と助けてもらって感謝していたの。しかし、私はこの身を女神様に捧げた者、結婚は無理と思っていたのよ。だけどね、こんな体になって気が付いたの。彼の存在っていつの間にか私の心の中のほとんどを占めていたってね。私が病気で苦しんでいる間ずっと励ましてくれたわ。その励ましがあって私は生き残ったのでしょうね。そして目が見えなくなってしまった私に『一生あなたの目になって助けます。』って言われた時はねぇ~、私も思わずOKしてしまったのよ。」


「ヘレン、あまり言わないでくれよ・・・」

司祭様が恥ずかしそうにヘレンさんに視線を向けた。

その光景をラピスがニヤニヤ笑いながら見ているよ。ホント、お前はこんな話が好きだよな。


「それがあって、彼は必死に勉強をしたのよ。いつまでも手伝いだけって訳にいかないし、教会の司祭になって私を助けるってね。そして見事に司祭になったわ。それが私達のお話よ。だからね、私も彼もあなた達を応援しているわ。もちろん、マナも幸せにしてよね。」


「もちろんですよ。」

アンがニッコリと微笑んだ。

「私はとても嬉しいです。こうして人間と魔族が手を取り合っている姿をこの目で見れたのですからね。私の夢は決して夢物語ではないと感じました。人間と魔族は分かりえる、あなた達は私の希望です。」


「勿体ないお言葉です。」

司祭様とヘレンさんが片膝を着きアンへと頭を下げた。



『私も感動しましたよ。』



頭の中に声が響いた。

(この声は!まさか・・・)


女神像が突然輝いた。


全身が輝いていたが、光が胸の部分に集中すると、光の玉が飛び出してくる。

その光の玉が徐々に人の形になっていった。


目の前に現われたのは・・・


金色に輝く髪と同じように輝く瞳と、アンでさえも霞んでしまうほどの美貌だが、見る人全てが心から安らぐ微笑みで俺達を見つめている。

薄く金色に光る一対の大きな翼を背中に生やしていた。

勇者として覚醒した時に目の前に現われた姿と全く同じだ。


「フローリア様!」

ラピスが叫び慌てて膝を着いて頭を下げた。


「な、何て圧倒的な存在感なの・・・、目が見えない私でも姿が見えるくらいにハッキリと分かるわ。だけど、とても温かい・・・、まるで光に包まれているみたい・・・」


「これが女神フローリア様・・・、何と神々しい・・・」


司祭様とヘレンさんが膝を着き祈るようにしている。


『そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。今の私は思念体みたいなものですからね。この女神像からあなた達をずっと見させていただいていました。』


「「えっ!」」


2人が真っ赤になっている。

そうだろうな、仕事以外にもプライベートまで見られていたんだし、恥ずかしいのは間違いないよ。


『本来、神は世界に干渉する事は出来ません。実体として存在する事も禁止されていますからね。ラピスさんや使徒を通して神託として世界に干渉する事しか出来ないのですよ。こうして思念体としてみなさんの前に出てくる事は短時間ならギリギリセーフなんですけどね。』


『はぁ~、神って本当に面倒臭いです・・・』


「フローリア様、愚痴を言いに出てきた訳ではないですよね?用件は何ですか?」

ラピスがジト~っとした目でフローリア様を見ている。


『ごめんなさいね。』

そう言ってペロッと舌を出した。意外とお茶目な女神様なんだなぁ~


『うふふ、この熱々な夫婦にお祝いを授けに来たのよ。今まで本当に苦労していましたからね。この苦労が報われる時が来たのです。直接この世界の人を助ける事は出来ませんが、お手伝いは出来ますからね。』


突然、司祭様の体が輝いた。

「何だ?何が・・・、うっ!頭の中に声が!これは!『導師』の称号を獲得しただと!魔族である私が称号とは信じられない・・・、何!『鑑定眼』が『神眼』にスキルアップだと!』


ヘレンさんの体も輝く。

「えっ!『癒し手』の称号が『聖女』にクラスチェンジですって!何でこんな声が頭の中で聞こえるの?それも『聖女』なんて500年前にソフィア様が授かってから誰も授かっていない幻の称号よ・・・、それが私に・・・」


『驚きました?』

フローリア様がニッコリと微笑んで2人を見つめている。


『別に不思議な事ではありませんよ。これはあなた方の日頃の行いがクラスチェンジの条件を満たしただけです。全てはあなた方の行動の結果です。私はその承認を行っただけの事ですよ。』


『司祭様、新たに得た力でヘレンさんを幸せにして下さいね。』


「フローリア様・・・」


『ふふふ、今のあなたは聖女に匹敵する癒しの力を手に入れたのです。この力を使えば彼女を元に戻すのも簡単でしょう。あなた達ならこの力の使い方を間違えないと信じていますよ。そろそろ時間となりました。末永くお幸せに・・・』


スーとフローリア様の姿が消えた。


「「フローリア様・・・、このご恩は一生忘れません・・・」」


2人が女神像へ祈りを捧げていた。



『ゴメ~~~ン!』


再び女神像が輝くとフローリア様が現れた。


『ラピスさんに用があったのを忘れてたわ。』


可愛くペロッと舌を出したけど、女神様・・・、こんなので良いのか?威厳というものが・・・


ラピスの前まで歩くと右手を差し出す。

『ラピスさん、はい。使い方は分かりますよね?』


ラピスが受け取ると虹色のとても小さな宝石がいくつも掌の上にあった、驚愕の表情でラピスがフローリア様を見つめている。

「フローリア様!これって!神界の秘宝である『竜の涙』じゃないですか!しかもこんな大量に・・・」


『大丈夫よ。』

そう言ってウインクをする。

『ミドリさんが大量に生み出してくれたものなので、我が家では秘宝でも何でもないの。さすがに流通させるとマズイ代物なのは分かっているから、今はパパが厳重に管理しているわ。ラピスさんなら使い方は分かりますよね?』


「はい、これなら私とレンヤ以外でもアレが使えます。心遣いありがとうございます。」

深々と頭を下げている。


『さて、これで私の用件は本当に終わりましたのでお邪魔させていただきますね。熱々のお2人が更に熱々になるのは分かってますからね。ラピスさん達もあんまりここにいたらダメですよ。それではごきげんよう。』


ス~と姿が薄くなり目の前から消えた。


(・・・)


みんなが呆気にとられて硬直しているよ。

ジ~ンとくるお別れだったのが、いきなりガラッと雰囲気が変わってしまったしなぁ・・・

フローリア様、見事にぶち壊してくれましたよ、


この空気をどうする?

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