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43話 孤児院での奇跡②

俺とラピス、マーガレットは外に出かけていた際に色々と食べたから、アンの料理だけでお腹いっぱいになった。

しかし、他の子供達はまだまだ物足りなさそうな顔だよ。

マリーさんのところで購入した串焼き肉を取り出しテーブルに置くと、子供達から大きな歓声が上がった。


「わぁあああああ!またお肉だ!」

「食べるぞぉおおおおおおお!」


などなど、とても嬉しそうに肉の山を見ているよ。


「焦るな、焦るな。肉はたくさんあるから、1人1本づつ取ってから食べるんだぞ。」


「「「はぁあああああああああっい!」」」


(ふぅ、これで昼の時と違ってみんな食べられるな。それにしても子供達の食欲はどうなっているんだ?普段はそんなに食べてないはずだぞ。ここぞとばかりに食い溜めが出来るのか?)


残っていた串もみるみる無くなっていく。

いつの間にかマーガレットも食べているよ。デザートもあるんだから少しは抑えたらどうなんだ?

ホント、こいつらの腹の中ってどうなっているんだ?胃の中にブラックホールの魔法でも展開されているのか?


「ふふふ、育ち盛りの子供ってすごいわね。私達にも子供が生まれたらああなるのかしら?あんな風に賑やかな家庭にしたいね。」

アンが嬉しそうに子供達を見ている。

まだ婚約したばかりなのに、もう子供の話なんて気が早いぞ。


幸せそうな顔で俺に寄り添ってきた。


「レンヤさん、ありがとう・・・」


「ん?どうした?」


「城の中の世界しか知らなかった私を外に連れ出してくれて、レンヤさんにはとても感謝してるの。外はこんな眩しい世界だったなんてね。城の中で苦労もせずに生きてきた私にとって、外の世界はとても大変だって事は分かるけど、それ以上に毎日が新しい発見ばかりでとても新鮮なの。こうやって子供達と遊ぶ事はとても楽しいし、私の作った料理でみんなが喜んでくれる。人間も魔族もみんな変わらないって思うわ。」


「そうだな。俺からすれば人間も魔族もラピスのようなエルフもみんな同じだと思うよ。昔から刷り込まれている心の壁が無くなれば、他の人も種族を超えて仲良く出来ると思うよ。それが俺達の役目だろうな。」


「そうね、それが私の夢・・・」


「あぁああああああああああ!お兄ちゃん!」


(何だ?マーガレットが叫んでいるけど・・・)


「もう!ちょっと目を離した隙に何を2人で甘々な空気になっているのよ!」


(ははは・・・)


「あっ!甘いといえば、ケーキがあったね!みんな!ローズマリーお姉ちゃんからケーキをもらったんだよ!みんなで食べよう!」


「「「ケーキィイイイイイイイイイイイ!」」」


子供達全員がマーガレットの言葉に思いっ切り食い付いたよ。一斉にローズさんのところに駆け寄ってくる。

「ねぇねぇ、ケーキって本当?」

「一生に一度でも良いから食べたかったの!」

「「「お姉ちゃん(おばちゃん)!ありがとう!」」」


ピキッとローズさんのこめかみに血管が浮いた。

「あんた達・・・、私の事を『おばちゃん』って呼んだのは誰?私はまだ25歳なのよ!おばちゃんって呼ばれる歳ではないわぁあああ!」


どうやら、子供達はローズさんに言ってはいけない言葉を言ったようだな。確かになぁ~、おばちゃんって呼ばれるのは女性にとっては嫌だろう。

それにしても、ローズさんて25歳だったんだ。とても色っぽいからもっと年上だと思っていたよ。俺もローズさんの歳を知らなかったから、いつかは危うく地雷を踏んでいたかもしれない。子供達の尊い犠牲で俺は地雷を踏むことは無くなったよ。

ありがとうな。


マナさんが俺の隣にやってきた。

「レンヤ君、ケーキまでもらったの?あのお店のケーキってとても高いのよ。まぁ、レンヤ君と結婚したい程に気に入られているから、もらえるものはもらうけど、寄付も結構な金額だったし、ちょっと気が引けるわね。」


「まぁまぁ、そこは深く考えないでおこう。彼女に下心は無いから喜んで受け取れば良いさ。みんなが思っているような悪人ではなかったからな。」


「そうなの?そうね、こうして子供達と一緒にいても嫌な顔もしていないし、根は善人みたいね。それにしても、あれで25歳ってビックリだわ。私でも憧れるくらいの女の色気よ。私は23歳だけど、あと2年であそこまで女を磨くなんて無理ね。」


(マナさんって23歳だったんだ。いやいや、今でも十分過ぎるくらいの美人だし、女らしさはローズさんと同じくらいだと思うよ。さすがはギルドで1番人気の受付嬢だけある。)


ローズさんの剣幕にちょっとビビっていた子供達だったが、ケーキの魅力には勝てなかったのか再びローズさんの周りに集まった。


「「「お姉さん!ケーキ!ケーキ!」」」


ちゃんとみんながローズさんの事を『お姉さん』ってキレイに揃って言ったから、今度はローズさんも機嫌が良さそうだよ。

「そうよ、今度からはちゃんとそう呼んでね。ケーキはレンヤさんが持っているから、レンヤさん、子供達にケーキを渡して。」

そう言って俺にウインクをしてきた。


「分かったよ。」

テーブルの上に手をかざすと、大きな丸いケーキが2つ現われる。


「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


今日1番の歓声が響き渡った。

アンもマナさんも子供達と同じように目をキラキラさせてケーキを見ているよ。


「レンヤさん、こんな食べ物があるなんて驚きよ。まるで宝石みたい・・・」

そうか、アンはケーキなんて知らないんだよな。500年前にはこんな食べ物なんて無かったし興味津々だろうな。


「それじゃ、1個目のケーキは私が切り分けるから、アンは2個目のケーキを切り分けてちょうだい。私のやり方を見れば分かるはずよ。」

マナさんがナイフを取り出し、ケーキを切り分け始めた。


「わぁ~、見た目だけでも食べるのが勿体ないくらいなのに、中もキレイ・・・、ケーキって芸術品みたいよ・・・」


アンがマナさんの切り方を真似て切り始めたが、とてもキラキラな目でケーキを見ている。


「絶対にこのケーキは真似したいな。ゆっくりと味わって分析しないと・・・」


(マジかい・・・、アンの料理魂に火が付いたみたいだよ。だけど、アンがこのケーキを作れるようになれば最高だ。アンの事だ、これだけでなくて色んなケーキを作るようになるかもしれない。とても楽しみだよ。)


全員にケーキが行き渡り、子供達が一斉に口に運ぶと、お昼に食べたマーガレット以外はトロ~ンとした表情で食べている。

「美味しい・・・」

「幸せ・・・」

今のこの町にある最高に贅沢なお菓子だよ。そんなものが食べられるのだから、子供達の感動は凄いだろうな。本当に幸せそうに食べているよ。


アンの方に視線を移すと幸せそうに食べていたけど、急に真面目な表情になって一口一口ゆっくりと食べている。

「これは小麦と卵と砂糖ね。う~ん、バターも入っているかも?どんな焼き方をすればこんなにフワフワになるのかしら?要研究だわ・・・」


(おいおい、食べただけで材料が分かるなんて、どんな舌をしているのだ?目つきが研究者のソレになっているぞ。)



贅沢過ぎる夕食も終わり、食堂でそのままみんなで寛いでいる。


(あれ?)


「レンヤさん、どうしたの?」

アンが俺の表情に気付いて傍までやって来る。


「いや、マナさんが見当たらないな。どこに行ったのだろう?」


「マナ君ならダン君のところに行ったのだろう。ここに来ると必ず報告に行くからな。」

司祭様が教えてくれた。だけど・・・


「ダン君って?」


「あぁ、マナ君の弟だよ。可哀想な事になってしまったが・・・」


(そういう事か・・・)


「ねぇ、レンヤさん、私達も行かない?姉様の弟さんならレンヤさんも挨拶に行かないとね。」


「そうだな、俺達も行くか?マナさんの邪魔にならないようにそっと見に行こう。」


「うん!」



外に出て教会の裏手に回った。

陽は既に沈んで夜になっていたが、月が出ていたので思った以上に明るくすんなりと目的地に着けた。

司祭様の言った通り、そこにはマナさんがいた。

墓地の片隅にある小さな墓石の前でしゃがんでいる。


「ダン、遅くなってゴメンね。明るいうちに来たかったけど、色々とバタバタしてこんな時間になってしまったわ。」

しばらく黙っていたが、マナさんが再び口を開いた。

「お姉ちゃんね、とうとう結婚する事になったのよ。その相手がね、何と伝説の勇者様よ。驚いた?私もそんな立派な人と結婚出来るとは思ってもいなかったわ。ダンは喜んでくれるかな?ダン・・・、何であなたが死ななければならなかったの?ダンにもレンヤ君を見せたかった・・・、ダンは勇者の物語が好きだったわね。憧れの人があなたのお義兄さんになれるのに・・・、う、うぅぅぅ・・・・」


後姿からでも分かる。マナさんが泣いている。

(マナさん・・・)


突然、墓石が淡く青白く輝いた。

「な、何が起きたの?」


『姉ちゃん・・・』


墓石の上に男の子の姿がぼんやりと浮かんだ。


「ダン・・・、ダンなの?あなたどうして?」


『おめでとう、姉ちゃん。』

そう言って男の子がニッコリと微笑んだ。


(何が起きているんだ?)


隣のアンを見ると偽装している瞳の色が元の金色の瞳に戻っている。

【アンの仕業か?】


【そうよ、死霊術の応用で降霊術よ。あの墓石からは何かを伝えたかった残留思念を感じたのよ。その残留思念を追って魂を降臨させたのよ。それがマナさんの弟さんの魂だったの。邪悪な魂だったら浄化したけど、悪い感じはしなかったわ。】


【そんな事も出来るんだな。】


【ううん、今までの私だったら無理よ。だけどね、フローリア様の加護を得たから出来るようになったわ。普通の死霊術みたいにアンデッドを使役するのと違うから安心して。姉様とのお話が終われば、再び魂の世界に戻すわ。】


こんな事が出来るアンも十分過ぎるくらいに規格外だよ。

視線をマナさんへと戻す。


『姉ちゃんにお祝いを言いたくて、こうして現れたんだ。それと姉ちゃん、俺の事は心配しなくても大丈夫だからな。俺はあっちの世界で楽しくやっているから安心してよ。』


「ダン、本当に?」


『そうだよ。俺のいる世界は飢えも病気も無い、司祭様が言っていた天国みたいなところなんだ。もしかして、本当に天国かもしれないよ。そこで次に生まれ変わるまで住んでいるんだよ。だからね、心配はしなくてもいいし、それに、勇者様と女神様は今、姉ちゃんの後ろにいるから見ることが出来たから、俺も安心して戻れるよ。』


「えっ!勇者様と女神様?」

マナさんが慌てて俺達の方に振り向いた。

「あなた達・・・」


「すまない、黙って見る気は無かったけど・・・」


俺の隣にいたアンが驚いた顔で少年を見ている。

「私が女神様?そんなのって・・・、私は魔族なのよ。」


しかし少年はゆっくりと首を振った。

『間違いなくお姉さんは女神様だよ。だってさ、俺が死んだ時、温かい光に包まれて体がフワって軽くなったんだ。その時、目の前に女神様だと思う、とてもキレイな女の人がいたんだよ。その人に連れられて今の世界に来たんだ。その温かい光はお姉さんからも見えるんだ。目の色も同じ金色だったしね。隣の男の人も同じように感じるよ。そんな温かい光を持っている人って勇者様と女神様しかいないよ。』


もしかして、その女神様ってフローリア様なのか?

アンがフローリア様の加護を受けてから瞳と角が金色に変わった事もあるし、彼の言っている女神はフローリア様に間違いないと思う。


『姉ちゃん、だからもう俺の事は心配ないから、姉ちゃん自身の幸せを考えてくれよ。こんな優良物件の相手はいないから絶対に離れたらダメだぞ。そんな人の奥さんになれるんだ。あっちの世界でも自慢が出来るよ。それと女神様、俺を呼んでくれてありがとう。おかげで姉ちゃんと話す事が出来たよ。俺が死んでしまった事で姉ちゃんがずっと寂しがっているから心配していたんだ。死んだ俺が言うのも変だけど、あっちの世界で元気よくやっている事を伝えられたからな。もう心残りは無いよ。』


「ダン・・・」

マナさんの瞳から止めどなく涙が溢れている。


しかし少年はニッコリと笑ってマナさんを見ている。

『姉ちゃん、泣くなよ。あの時は何も言えなくて死んでしまったけど、こうしてまた会えてちゃんと話が出来たんだ。こんな嬉しい事はないよ。だから、姉ちゃん、最後は笑ってお別れしよう。』


「そうね、ダン・・・、私がいつまでもメソメソしていたらダンも安心できないわね。それじゃ、ダン、元気でね。そう言うのも変かしら?」

ニッコリとマナさんが微笑んだ。


『ううん、そんな事ないよ。姉ちゃんこそ元気でな。俺のところに来るのは出来るだけ遅く頼むよ。』

そう言ってアンの方を向いて頭を下げた。

『女神様、本当にありがとう!死んでしまった俺がまた姉ちゃんに会える事が出来たのは女神様のおかげだよ。勇者様、姉ちゃんを頼むね!』


少年の姿が少しずつ薄くなっていく。


「ダン、今度こそ本当にお別れね。」


『姉ちゃん、元気でな。』


そして姿が消えた。




マナさんが墓石の前で静かに佇んでいた。

俺もアンも声をかける事は出来ない雰囲気がマナさんから漂っている。

しばらくしてからマナさんがゆっくりと俺達の方へ振り向いた。


「アン・・・」


そう呟くとアンを抱きしめ大声で泣いている。

アンは優しくマナさんを抱きしめた。


しばらくするとマナさんが泣き止み、アンに微笑みかけた。

「アン、ありがとう・・・、ダンに再び会えた奇跡を・・・、あなたは私の女神様よ。」

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