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42話 孤児院での奇跡①

マリーさんから大量の串焼き肉を受け取り、今度は徒歩で孤児院まで戻っていく事にした。

荷物は収納魔法に入れてあるので手ぶらだから、俺の両手にはラピスとマーガレットが手を繋いで一緒に歩いている。


「こうやって歩いていると、周りから見れば仲の良い親子に見えるかもね?もちろん、私とレンヤが夫婦でね。」


上機嫌な表情でラピスがニコニコしているが、マーガレットの方は少し不機嫌な感じだ。


「私が子供だって見られるのは仕方ないけど、何か納得出来ないよ。早く大人になってお兄ちゃんと大人のデートをしたいな。」


(おいおい、大人のデートって・・・、そもそも、俺自身も良く分かっていなのだけど・・・)


そう言いながらでもマーガレットは俺と手を繋いで歩くのは嬉しいのか、すぐにご機嫌になって鼻歌を歌いながら歩いていた。



孤児院へと戻って来た。

建物の中に入り子供達の部屋の前に立つと何やら騒がしい。


「おや?誰かお客がいるみたいだな。中から楽しそうな声が聞こえるぞ。」


ドアを開けて中に入ろうとしたが・・・



・・・



・・・



(何でお前達がいる?)



目の前にはあの3人組が馬になって子供を背に乗せてみんなと遊んでいる。

離れたところにアンとマナさんが座って寛いでいるが、その隣にはローズさんが楽しそうにお菓子を食べながら2人と話をしている光景が目に入った。


俺達が部屋に入ってきたのに気が付いたのか、みんなの視線が集中した。


ローズさんと目が合うと彼女が立ち上がり、腰をくねらせながら俺のところまで小走りでやって来た。

「あぁ~~~ん、レンヤさぁ~ん、私だけ置いてけぼりにして帰ってしまうなんて・・・、もしかして放置プレイなのかしら?それはそれで快感かもね。うふふ・・・」

大きな胸をユサユサと揺らしながらクネクネとしている。


(はぁ~、まさか追いかけてくるとは予想もしなかったよ・・・)


ズイッとラピスが俺とローズさんの間に立った。


「ローズマリー、何しに来たの?あなたの用はアレで終わったはずよ。」


しかしローズさんはにっこりと微笑んだ。

「ラピスさん、先ほどは本当にありがとうございます。これでこの町も平和になりますし、あなた方には感謝しきれません。私がここに来たのは孤児院への寄付ですよ。マーガレットちゃんみたいな良い子がいますからね。もっと環境を整えてあげたいと思ったからですわ。」


「そう・・・、じゃぁレンヤに用は無いって事ね。良かったわ。それでは出口までお見送りしますよ。」


今度はラピスがニコリと微笑むと、サーッとローズさんの顔が青くなった。

「そ、そ、それは・・・」


「まさか、レンヤを連れて帰ろうって思っていないわねぇ~~~?」

ギロッとラピスの視線が鋭くなる。


スクッとアンが立ち上がって俺の方へと歩いてくる。

何だ?全身から黒いオーラが噴き出ているのがチラチラと見えるのだが・・・

「ローズマリーさん、レンヤさんに用ってどういう事なんですか?それに連れて帰るって?先ほど教会にたくさんの寄付とお菓子のお土産って、そんな下心があったのかしら?やたらとレンヤさんに接近しているし、どんな経緯があったのかも含めて、ちょっと詳しくお話を聞きたいですね。」

ラピスの方へニコッと微笑む。

「ラピスさんもそう思いますよね?」


にたぁ~とラピスが笑う。

「そうね、私も詳しいお話を聞きたいわ。アン、それじゃ別の部屋で3人でゆっくりとお話しをしましょう。あなた達、ちょっとローズマリーを借りていくわね。」


背中に子供を乗せたままの3人組の顔もサーッと青くなった。

「は、はい!お手柔らかに・・・」


「大丈夫よ、普通にお話をするだけだからね。レンヤと一緒にいたいのなら、その心構えをじっくりと教えてあげるだけよ。じっくりとね・・・、ふふふ・・・」


ブルブルと震えているローズさんの肩をガシとアンとラピスが掴んだ。そのままズルズルと部屋の外まで引きずられてしまった。


「いやぁぁああああああああああああああ!レンヤさぁああああああああああああああんっっっ!助けてぇええええええええええええええええええ!」


ローズさん・・・

いくら勇者の俺でも絶対に手を出せない存在はいるんだよ。今のあの2人に太刀打ちできる自信は全く無い!俺でも瞬殺される結末しか見えない。


安らかに眠ってくれ・・・


合掌・・・



「女の嫉妬って怖いわねぇぇぇ~~~、お兄ちゃんも大変ね。」


「あぁ、そうだな。あの2人のパワーには俺も敵わないよ・・・」


「ふふふ、今のうちにお兄ちゃんを独占しちゃおう。えへへ・・・」


あの2人の迫力で呆然と立ち尽くしていた俺の手をマーガレットがギュッと握った。ニコニコ笑っている顔を見ているとホッとするよ。

天使ってマーガレットみたいなものなんだろうな。


3人組の方に視線を移す。

「お前達も大変だな。付き合いで子供達の相手をさせられるとはな。」


しかし3人組がフッと笑う。

「良いのさ。俺達は姉御が喜ぶなら何でもするからな。ろくでなしだった俺達を拾ってくれた姉御には感謝しきれないくらいなんだし、それにな、あんなに嬉しそうな姉御を見たのは初めてだよ。レンヤ、姉御の事は頼んだぞ。」


(いやいや、そんなお願いをされても・・・)


マナさんが俺の隣にやってきた。

「レンヤ君、ローズマリーさんってあのローズマリーさんなの?話をしたけどとても気さくな人だったし、まさかあの人がこの町の裏社会のボスだとは思わなかったわ。最初は同じ名前の別人だと思っていたくらいよ。ローズマリーって言えば、敵には容赦しないってギルドでもかなり恐れられているのよ。そんな人までたらし込むなんて、レンヤ君、一体何をしたのよ?」


(たらし込むって・・・、俺はナンパ野郎かい?)


「まぁ、ちょっと成り行きでな・・・、決して俺の方から口説いた訳ではないからな。」


「分かっているわよ。」

マナさんがニコッと微笑んだ。

「レンヤ君の事だから、たまたま人助けをして、そこから気に入られたんじゃないの?まぁ、レンヤ君なら普通の人助けのレベルを超えているのでしょうけどね。なんせ規格外の勇者だからね。」


(うっ!マナさんも鋭い。というか、俺はそこまで規格外ではないと思うよ。)


しかし、隣のマーガレットがマナさんの言葉に深く頷いているよ。

ちょっと悲しくなった・・・



夕食までまだ時間があったしアン達が戻ってきていないから、しばらく子供達と遊んでいたけど、いやはや、子供達のパワーって凄いよ。遊ぶ事に関しては俺よりも体力があるのではないのか?


ガチャッ!


部屋のドアが開くとアンとラピスがニコニコしながら部屋に入ってきた。


(あれ?ローズさんがいない・・・、何かしたのか?)


遅れてローズさんが入ってくるが、心なしか少しやつれている感じがする。大丈夫なのか?

アンが俺の横に立つとニコッと微笑んでくれた。

「レンヤさん、ローズマリーさんもあなたの婚約者の仲間入りをOKしたわ。さすがに一緒に旅をする訳にはいかないけど、その点に関してはラピスさんが色々と手を回してくれるみたいね。ローズマリーさんの交渉術は将来は必ず役に立つと思うし、私の理想に一歩近づいたわ。」


ラピスも反対側に立った。

「ふふふ、この町って辺境だから荒くれ者が多いのよ。だからね、酒場や娼館は繁盛しているからお金はたくさんあるのよ。ローズマリーが私達エルフ族のスポンサーの1つになってくれたし、これで暗部の活動も前よりも予算が多く取れるようになったわ。レンヤとローズマリーが夫婦になればお金の面でも困る事は無いしね。」


(おいおい、ローズさんは金蔓かい?お前ら、意外と腹黒いぞ・・・)


「まぁ、ローズマリーが必死にレンヤと一緒になりたいって懇願していたのが1番の理由だけどね。そこまで必死にされると私達も何か可哀想になってきて・・・」


ローズさんと目が合うとポロポロと涙を流し始め、俺に駆け寄ってくる。

「レンヤさぁぁぁ~~~ん!怖かったよぉぉぉ~~~」


(あいつ等、何をしたんだ?ローズさんがここまで怖がっているなんて・・・)


2人をチラッと見ると目を逸らしたよ。


「あの圧迫面接は恐怖しかなかったわ。目の前にいるだけで恐怖で足がすくむし、色んな悪人とやりあったけど、ここまで怖かった事は無かったわよ。それから延々と2人の話が・・・、人生で1番頭をフル回転して話しをしたわ。」


そして上目遣いで俺を見てくる。

「だからね、私を慰めて欲しいな・・・、今夜、ベッドの中で傷ついた私の心を癒して欲しいの。」


(うわぁ~~~!ローズさんがメチャクチャ可愛い!色っぽいだけでなく、可愛さも持ち合わせているなんて、ヤバイ!ヤバ過ぎる!俺の心よ!煩悩を押さえるんだ!」


ガシッ!


「痛いぃいいいいいいいい!」


ラピスがローズさんの頭をガッチリと鷲掴みにしている。

「こらぁあああああ!ドサクサ紛れにレンヤを誘うな!子供達の前で何て破廉恥な話をしているのよ。ホント、油断も隙もないわね。」


アンも腕を組んで仁王立ちになっている。

「抜け駆けは禁止と言ったはずよ。虎視眈々とチャンスを狙うなんて、さすがはローズマリーさんといったところでしょうかしら?こんなタイミングで仕掛けてくるとは予想外だったわ。でもね、ちょっと許せないから、もう少し教育的指導を行った方が良いかもしれないわね。」


子供達からヒソヒソと声が聞こえる。

「うわぁ~、あれが噂に聞く修羅場っていうヤツなんだ。」

「大人の世界って怖いね。」

「違うよ、あれはハーレムって言うやつだよ。大人の男の憧れだってさ。」

「え~、それは嫌だなぁ~、私なら好きな人と2人っきりでいたいな。」

「レンヤお兄ちゃんのスケベ!」

「でも、何かローズお姉ちゃんが嬉しそうだよ。あれは痛いのに不思議だね。変態なのかな?」

「レンヤお兄ちゃんモテモテね。マーガレット、ボ~としていると置いてけぼりにされるわよ。」

「もう!ケリーお姉ちゃん!私はレンヤお兄ちゃんと将来を誓ったのよ!だから大丈夫なの!多分・・・」


(お~い、おまえら何ちゅう会話をしているんだよ。もっと子供らしい会話をしろよ。)



「まぁまぁ、みんな落ち着いて。子供達の前でみっともないわよ。」


マナさんがラピス達の間に割って入ってきた。

「ラピスさんも大人気ないわよ。ローズマリーさんもここは子供達の部屋なんだから、少し行動と言葉を弁えなさい。これ以上ドタバタするなら・・・」

いつの間にかモップを握り締め、『ドン!』と床に叩きつけた。



「即座にこの部屋から追い出しますわよぉぉぉ~~~」



ギロッとみんなを睨みつけた。


「「「ひぃいいいいいいいい!」」」


マナさんの迫力にラピスもアンもローズさんも震え上がっている。

もしかして、この中で怒らせると1番怖いのはマナさんではないのだろうか?


あり得る・・・


俺も気を付けよう・・・



そろそろ夕食の時間になったので夕食の準備を始めたけど・・・


「あのぉ~、俺達も一緒にいて良いのか?」


3人組とローズさんが申し訳なさそうな表情でテーブルに座っていた。


「良いのよ。ご飯はたくさんの人達と食べると美味しいからね。」

ヘレンさんがニコニコと笑っている。

「それに夕食時に追い返すなんて酷い真似は出来ないわよ。」


「は、はぁ~」

俺の隣に座っていたローズさんが心配そうに俺を見ていたが、ふと何か思いついた感じになった。

「そういう事ね。ここの大人の人がしっかりしているから、マーガレットちゃんを始めみんな良い子なのね。ずっと汚い世界で生きていたから、人の善意がこんなにも嬉しく思うなんてね。ここをもっと応援したくなってきたわ。」


さすがにアンとラピスにあれだけ釘を刺されていたから、今のローズさんは本当に大人しいよ。今日はこのまま大人しくしている事を祈る!


アン達が料理を運んでくれているが、目の前に並べられていくうちに、ローズさんが目を見開いて出された料理を見ている。

「な、何なの、この料理は?どれも貴族が食べるようなものばかりじゃないの!」


しかし、アンはニコニコと微笑んでいる。


「ローズマリーさん、そんな贅沢な料理は出来ませんよ。ここにある材料で似たような料理を作っただけですからね。材料費はとても安いから心配しないで下さいね。」


「ありきたりの材料でこんなご馳走を作るなんて・・・、アンジェリカさん、どんな料理の腕前なのよ?うちの店のシェフになって欲しいくらいだわ。可愛くて料理が上手いなんて、私には真似出来ないわよ。はぁ~、女として憧れるわ。」


ホント、アンの料理の腕は神業だと実感するよ。

子供達もご馳走を目の前にして涎がダラダラと流れているし、早く食べさせないと暴動が起きそうなくらい目が血走っている。


「それじゃ、みんなお祈りをしてからいただく事にしよう。」


司祭様がお祈りを始めると子供達も一緒にお祈りを始めた。


「それではいただきます。」


「「「いっただきまぁあああああああああああああああああああああっす!」」」


子供達が一斉に料理を食べ始めると・・・


「「「うっまぁああああああああああああああああああああ!」」」


いやはや、とんでもないくらいの食べ方だよ。それだけアンの料理が美味しいのだろうな。

俺も一口食べると・・・


(美味い!)


ローズさんと3人組を見ると、揃って黙々と食べている。本当に美味しいものを食べるときは無言になるって本当だよな。子供達はガツガツと食べているけど、無駄口を全く叩かずに食べる事に集中している。


その光景をアンが嬉しそうに見ていた。



「ふぅ、食べ過ぎたよ~~~」


マーガレットがお腹をさすりながら満足そうに椅子に座っている。


「あのお店の料理も美味しかったけど、アンお姉ちゃんの料理はもっと美味しい感じがしたよ。美味しいっていうか、何か安心する感じの料理だよ。」


ローズさんも微笑んでいる。

「そうね、私もマーガレットちゃんと同じように思ったわ。アンジェリカさんの料理は美味しいだけでなくて、食べる人の事も考えてあるのでしょうね。あなた達子供にも美味しく食べられるように材料は柔らかく煮込んであるし、野菜は青臭さを感じないように下ごしらえも味付けも完璧だったわ。」


「お粗末様でした。」

アンがペコリと頭を下げた。


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