41話 3人でデート⑦
「あっ!レンヤ様達が戻って来たわよ。」
ナルルースが空を見ながらマーガレットに語りかけた。
「えっ!どこ?誰も見当たらないけど・・・」
マーガレットがキョロキョロと周りを見渡しているが、レンヤ達を見つけられないでいる。
その光景をナルルースがニコニコと微笑んで見ていた。
「マーガレットちゃん、地面を見ても見つからないわ。空を見てみなさい。」
そう言って空を指差した。
「そんな・・・、お兄ちゃん達が空を飛んでいるなんて・・・、しかも翼が生えて、まるで天使様みたいだわ。」
「ふふふ、あれも魔法の1つよ。マーガレットちゃんもいつかは使えるようになって欲しいわ。空を飛ぶのはとても気持ちが良いからね。」
マーガレットがニッコリと笑ってナルルースを見ていた。
「うん!私、絶対に魔法使いになる!どんなに難しい事も頑張って覚えるから!」
しかし、段々と近づいてくるレンヤ達の姿を見て、少しずつ目付きが鋭くなっていく。
「でも、今はローズマリーお姉ちゃんと代わって欲しいな。お姉ちゃんばっかりお兄ちゃんにお姫様抱っこされているからねぇ~、私もああやって空を飛びたいよ。絶対に代わってもらうわ。」
ラピスからマーガレット達は娼館からケーキ屋に移動して、そこでナルルースさんがマーガレットの面倒を見ていると教えてもらった。
さすがにずっと娼館にいる訳にはいかないよな。マーガレットの教育に悪いし、ナルルースさん、ナイス判断だよ。
眼下にはケーキ屋が見える。
「おっ!ナルルースさんが気が付いたみたいだ。俺達を見ているぞ。」
隣で一緒に飛んでいるラピスに話しかけたが、ちょっと苦い顔をしていた。
「そうねぇ~、でもマーガレットちゃんが不機嫌そうよ。レンヤ、ローズマリーばかり構っているからかもね?ちゃんとマーガレットちゃんにもサービスしておかないと後が怖いわよ。」
「そ、そうか・・・、そうだよな、本当はラピスとマーガレットの3人でデートだったからな。とんだデートになってしまったよ。マーガレットに悪い事したな。」
「そういう事、ちゃんと埋め合わせをしないとね。あなたの腕の中で真っ赤になって腑抜けているコレはナルルースに送ってもらう事にするわ。」
ラピスに言われてローズさんを見ると・・・
(・・・)
真っ赤な顔でとろ~んとした目で俺を見ているよ。何だろう?「はぁはぁ」と言っているし・・・
目が合うと、ローズさんが俺の首に手を回してきた。
「レンヤさん、このままベッドへ私を連れて行って・・・、体が疼いてもう我慢出来ないの・・・、早く私を抱い・・・」
カクン!とローズさんがいきなり気を失ってしまった。
もう1度ラピスを見ると・・・
とっても不機嫌な顔をしているよ・・・
「ふん!何を発情しているのこのエロい雌豚は・・・、ちょっと胸が大きいからって調子に乗らないで!」
(おいおい、まだ胸でひがんでいるのか?)
「このままじゃレンヤの貞操がヤバイ事になっていたから眠らせたわ。レンヤの初めては私がもらうのよ。ぐふふふ・・・」
(ラピスさんやぁ~い・・・、おたくもかなり危険な発言をしていると思うけど気のせい?おい!ヨダレが垂れるぞ!)
おっと、このまま通り過ぎるところだった。
さすがに表通りに着地すると大騒ぎになるから、目立たないように店の裏に着地した。同時に背中の翼も消える。
ダダダダダッ!
マーガレットが急いで俺のところまで走ってきた。後ろにはナルルースさんがニコニコした顔で歩いてくる。
「はぁはぁはぁ、お兄ちゃん、ズルいよ・・・、ローズマリーお姉ちゃんばっかり良い思いさせて・・・、私も空を飛びたいよ。」
じと~とした目でマーガレットが俺を睨んでいるよ。俺でも分かる、これは完全に嫉妬の目だ。
(はぁ~、仕方ないな。)
「ナルルースさん、ローズさんをお願いします。」
「かしこまりました。」
ナルルースさんが恭しく頭を下げると、俺の腕の中で眠っているローズさんが宙に浮いた。どうやら重力魔法でローズさんを浮かせたみたいだ。
そのままフワフワとナルルースさんの隣まで移動する。
(しかし、ローズさんは幸せそうに眠っているよ。余程、俺と一緒にいたのが嬉しかったのかな?)
「それではラピス様、私はこの方を送っていきますので、ここでお別れさせていただきます。」
ナルルースさんがペコリと頭を下げると足元に魔法陣が浮かび姿が消えた。
「お兄ちゃん、早く!早くぅううう!」
俺の前でマーガレットが万歳をして催促している。
「しばらくは3人で空中散歩でもしようか?」
「そうね、それなら誰にも邪魔されないし、ゆっくりと3人一緒にいられるわね。」
ニコッとラピスが微笑んだ。
マーガレットを抱きかかえフライの呪文を唱えると、再び背中に翼が生えてきた。
「ゆっくり飛び上がると人に見られるからマズイし、一気に飛び上がるからな、マーガレット、しっかりと掴まっていろよな。」
「うん!」
マーガレットが俺の首に両腕を回しギュッと抱きつく。にへらぁ~と顔がにやけているんだけど、何で?
翼を大きくはばたかせて一気に空へと飛び上がった。
「うわ!速い!」
目を閉じてギュッとしがみ付いてきたけど、もう少し我慢してくれよな。
グングンと上昇し空中で止まる。ラピスも一緒に付いてきてくれて、隣で浮いていた。
「マーガレット、目を開けてみな。」
恐る恐るマーガレットが目を開けたが、次の瞬間、目をキラキラさせながら周りを見渡している。
「うわぁ~~~~~、すごいよ・・・、こんな景色、初めて見た・・・」
かなりの高度まで上昇している。周りを見渡すと足下に森が広がっており、ザガンの町が下に小さく見える。
「世界ってこんなに広いんだね。どこまでも森が続いているし、遠くには大きな山も見えるよ。住んでいる町は大きく感じたけど、こうやって見ると本当にちっぽけに見えるね。」
「あっ!」
マーガレットが大きな声を出して叫び森の中を指差した。
「お兄ちゃん、あの大きな穴ってラピスお姉ちゃんのメテオの跡なの?あんな大きな穴って見た事が無いよ。」
視線の先には大きなクレーターが出来ている。
「そうだ、あれがラピスの本当の力だよ。あれでも力を抑えていると言っているけどな。ラピスの本気はあんなものじゃないから、絶対に怒らせたらダメだぞ。メテオ1発で町が無くなってしまうからな。」
「ひえぇぇぇぇぇ~~~」
青い顔でマーガレットがラピスを見ていた。
そのラピスが憮然とした顔で俺に近づくと・・・
「こら!マーガレットちゃんに変な事を吹き込むな!」
パシッと頭を叩かれてしまった。
「いくら私でもそんな事までしないわよ。まぁ、やろうと思ったら出来ない事でもないし、容赦しなくてもいい相手なら、メテオ1発どころか何発でもお見舞いするけどね。」
「やっぱり落とすんだ・・・」
「こらこら、そこはモノの例えよ。あれを見れば分かるけど、メテオを落とした跡はとんでもない状態になるからね。元に戻すのはまず不可能よ。環境破壊はあまりしたくないから、使う場所は弁えるようにしてあるわよ。」
「そうなんだ、私も魔法使いになったら使えるかな?」
「無理ね。」
バッサリとラピスが言い切った。マーガレットが泣きそうになっているよ。
「マーガレットちゃん、そんな顔をしないで。無理と言ったのは人間の種族として不可能な意味で言ったのよ。魔力が全く足りないから生命力を魔力に変換すれば放てるけど、1発放つだけで確実に死ぬわよ。」
「そ、そんなぁぁぁ~~~」
「こればっかりは仕方ないわね。でもね、極大魔法はこれ1つだけではないからね。人間には教えてはいないけど、他にもいくつかあるのよ。」
ラピスが両手を前に突き出した。掌の前に巨大な白い魔法陣が浮かび上がる。
「光の精霊よ、この身に宿いし邪を払う力を・・・、暗闇を照らす一筋の光になれ・・・」
「アトミック・レェエエエエエイッッッ!」
魔法陣が光り輝くと目の前が真っ白に輝き目を開けられていない。
ズバァアアアアアアアアアアアアアア!
魔法陣から極太の白い光線が飛び出した。
真っ直ぐ遙か彼方まで飛んで行くと、途中にあった山の頂上を削り取った。
「あちゃぁ~、山を削っちゃったわね。もう少し上に向けて撃てば良かったわ。」
「す、すごい・・・、すご過ぎる・・・」
ワナワナとマーガレットが震えている。
「ふふふ、とても嬉しそうね。この魔法なら光の精霊が助けてくれるから人族でも使えるわよ。でもね、使いこなすまでは相当の努力が必要よ。」
「頑張る!私も絶対に使えるようになりたい!」
ガッツポーズをしながら真剣な眼差しでマーガレットがラピスを見つめていると、ラピスがニコッと微笑んだ。
「ふふふ、楽しみな子ね。」
上機嫌になったマーガレットを抱いて、ラピスと並んで大空を飛んでいる。
キレイに晴れ渡った空だから飛んでいる俺も気持ちが良いよ。
腕の中のマーガレットもとても嬉しそうだ。
「まるで鳥になった気分よ。空を飛ぶってこんなにも気持ちが良いんだね。」
ラピスも嬉しそうだ。
「レンヤとこうして一緒に飛ぶ事なんて無かったわね。あの頃は本当に殺伐してたからねぇ~、こうしてレンヤが生まれ変わって一緒にいられる日をどれだけ待ち望んだか・・・、こうして再び出会えて本当に嬉しいし、ソフィアも待っているから早く会いたいわ。」
「え・・・」
マーガレットがキョトンとした目で俺を見つめていた。
「お、お兄ちゃんって・・・、本当は伝説の勇者の生まれ変わりなの?だから勇者の称号を持っているのかな?それにソフィアって、伝説に出ていたソフィア様の事?ずっと昔の人に何で会えるの?」
(あちゃ~~~)
ラピス、迂闊だったぞ。
チラッと見ると大量に汗をダラダラと流していた。
「マ、マ、マ、マーガレットちゃん、これはね・・・」
「そうだよね。」
マーガレットがニッコリと微笑んだ。
「はい?」
「だって、伝説の勇者様ってラピスお姉ちゃんと結婚して幸せに暮らしていたんだよね。さっきナルルースお姉さんから聞いた禁忌の魔法って生まれ変わりに関係しているんじゃないのかな?好きな人とはずっと一緒にいたいよね。分かるよ、ラピスお姉ちゃんの気持ちは・・・」
(マーガレット!す、鋭いぞ!)
「ラピスお姉ちゃんは何をしても不思議じゃないし、ソフィア様も何かしたんでしょうね。だって、私が一番尊敬している人だからね。レンヤお兄ちゃんは一番好きな人だけどね。えへへ・・・」
嬉しそうに俺の頬にスリスリしてくる。
【ラピス、そういう事にしておこう。】
【そうね、マーガレットちゃんは私が思っている以上に勘が鋭いし頭も良い子よ。余計な事を言ってボロを出すよりも、レンヤの言う通りにした方が余計な詮索をされないかもね。】
ラピスと念話で話がまとまった。
「マーガレット、お前の言う通りだよ。だからな、これは俺達だけの内緒にして欲しい。俺が伝説の勇者の生まれ変わりってバレたら大変な事になるからな。約束だぞ。」
「うん!分かったよ。約束はちゃんと守るから、レンヤお兄ちゃんも私との約束をちゃんと守ってね。」
(ん?マーガレットとの約束?そんな約束ってしたっけ?思い出せん・・・、まぁ、今はマーガレットに合わせておくか。)
「分かったよ。これは2人だけの約束だ。俺も必ず守るからな。」
「ありがとう!お兄ちゃん!」
嬉しそうにギュッとマーガレットが抱きついてきたけど、やっぱり思い出せん・・・
「バカ・・・、ちゃんと責任を取りなさいよ・・・」
ボソッとラピスが呟いたけど、何で機嫌が悪いのだ?
(陽も傾き始めてきたな。)
「そろそろマリーさんのところで買い物しないと夕食に間に合わなくなるぞ。」
そんなに長く空の旅は出来なかったけど、腕の中のマーガレットはとても嬉しそうにしている。
「そうだね、ずっとお兄ちゃんと一緒に飛んでいたかったけど仕方ないね。また空に連れていってよ。」
「分かったよ。また今度な。」
「うん!約束だよ!」
(う~ん、何かマーガレットと約束ばかりしている気がするが・・・)
マリーさんの屋台の近くにある人目につきにくい場所にそっと着地する。
「よし、誰にも見られなかったな。」
「大丈夫よ。着地する前に『インジブル』の魔法で姿を消していたから、誰も気が付く事はないわ。安心して。」
「さすがはラピスだよ。頼りになるな。」
そう言うと、とても嬉しそうにしてくれた。
マーガレットを降ろし手を繋いで一緒にマリーさんの店まで歩いていく。
店の前まで来たけど、マリーさんは相変わらず忙しそうに肉を焼いていた。
「よっ!マリーさん!」
「おや?レンヤ、また来たのか?」
「あぁ、昼前の肉が全然足りなかったから、また買いに来たよ。」
マリーさんが苦笑している。
「はぁ?あれだけあって足りなかったのかい?あんた達、どれだけの大食いなんだい?」
「ごめんなさい・・・、あんまりにも美味しくて食べ過ぎちゃったの・・・」
マーガレットが申し訳なさそうに頭を下げていた。
「ははは、そうかい!レンヤ、あんた孤児院に行っていたのかい。あそこの育ち盛りのガキンチョ共がいれば足りないね。お嬢ちゃん、ちょっと待ってな。すぐに焼いてあげるからね。」
マリーさんが大量の肉を焼いているので、出来上がるまで待っていると、おもむろにマリーさんが焼けた串を2本差し出してくれた。
「もう少し時間がかかるから、その間これでも食べていきな。」
(3人いるのに何で2本?)
「レンヤ、あんたは昨日食べたからね。エルフの姉ちゃんとお嬢ちゃんは食べていないからサービスだよ。」
(あっ!そういう事ね。)
2人が焼きたての串焼き肉をハフハフしながら食べ始めた。
「何コレ!昨日の肉と全然違う!一体、何の肉を使っているの?」
「美味しいぃいいいいいいいいいい!こんなお肉、初めて食べるよ!」
そりゃそうだ、ここの串焼き肉の肉は普段はホーンラビットの肉だけど、この肉はさっき渡したドラゴンの肉を焼いているからな。マリーさんの神業焼きで極上の焼き上がりの肉だ。最高に美味しいに決まっている。
あまりの美味しさに頬が緩んでいたラピスだったが、急に真面目な顔になって俺を見てきた。
「レンヤ、この肉を昨日食べたの?アンと2人っきりで?私がギルドで淋しい思いをしていた時に・・・、ズルいわ・・・、絶対に埋め合わせをしてもらうからね!」
(へっ!何でこうなるの?うわぁ~、マリーさん、余計な事を言わないでくれよぉぉぉ~~~)
「あっ!そういえば・・・」
突然、マリーさんが叫んだ。
「レンヤ、さっき地面が揺れてどこかで大きな爆発音がしたんだけどさ、一体何があったか分かるかい?私もここに住んで長いこと経つけど、こんな事は初めてだよ。何か悪い事が起きなければいいけど・・・」
チラッとラピスを見ると・・・
冷や汗をダラダラと流しながら挙動不審な目つきをしていた。
「ふふふ、やっぱりあんた達かい。そうかと思ったよ。まぁ、何かするときは程々に頼むよ。」
ニタニタとマリーさんが俺達を見つめていた。