38話 3人でデート④
用件は終わったし、マーガレットがいるから娼館からは早く出ないと・・・
マーガレットは俺の手を握って一緒に廊下を歩いているが、チラチラと俺を見ている。
「どうした?」
「ねぇお兄ちゃん、お兄ちゃんってやっぱり胸の大きな人が好きなの?」
「ぶほぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
マーガレットの予期せぬ言葉に思いっ切り噴き出してしまった。
「お、お前なぁ・・・、一体何を言い出すんだ?」
「だってぇ~、ここのお姉さん達ってみんなキレイでスタイル抜群でしょう?私が大人になったらあんな風になれるかな?って思ったの。それにね、アンお姉ちゃんもローズマリーお姉ちゃんもマナお姉ちゃんも胸が大きいし、羨ましいなぁ~ってね。」
「あら、何で私の名前が出てこないのかな?」
ラピスが引きつった笑顔でこちらを見ているよ。
「だってぇ~、ラピスお姉ちゃんはとっても美人だけど、みんなと比べたら胸がちょっと・・・」
ゴンッ!
「痛ったぁああああああああああああああ!」
ラピスがマーガレットの頭に拳骨を落としていた。
涙目で頭を押さえているよ。
「このぉぉぉ~、人が気にしている事を・・・」
(おいおい、子供に対して大人気ないぞ・・・)
「女はねぇ、胸の大きさで価値は決まらないのよ!」
「そうよ。」
ローズマリーさんがニコッと微笑んだ。
「マーガレットちゃん、胸は大きすぎると肩は凝るし、周りの男の視線はいやらしいし、良い事ばかりじゃないのよ。ホント、少しは小さくなって欲しいくらいよ。」
ギリギリとラピスが歯軋りしてからローズマリーさんに飛びかかった。
「アンタが言うと嫌味にしか聞こえないわよ!この無駄な脂肪!少し私に寄越しなさい!」
ラピスがローズマリーさんの大きな胸を両手でガバッ!と鷲掴みにして揉んでいる。
「ラピスさん、痛い痛い!いやぁぁぁ~~~」と言って、ローズマリーさんが顔を赤くして悶えているよ・・・
何かこの仕草が妙に色っぽい。見ていると思わずドキドキしてまった。
(はぁ~、何て光景だよ・・・)
チラッとマーガレットを見ると・・・
顔を赤くしてモジモジしているし・・・
(こんな卑猥な光景は子供の前では見せられないよ・・・)
ゴンッ!ゴンッ!
2人の頭に拳骨を落としてあげた。
「「痛ったぁあああああああああああああ!」」
涙目になった2人が俺を見ている。
「お前等、いい加減にしろ。子供の前でふざけ過ぎだぞ。それこそマーガレットの教育に悪いわ。」
「「すみませ~~~ん・・・」」
マーガレットがボソッと呟いた。
「私、普通の大きさで良いかな?大きいのは憧れるけど、ラピスお姉ちゃんに揉まれるのは嫌だなぁ・・・、でもレンヤお兄ちゃんなら・・・、えへへ・・・」
(お~い、何を言っている・・・)
何かどっと疲れが出た気がした。
「レンヤ!」
ショボンとしていたラピスが急に真剣な眼差しで俺を見る。
「どうした?」
「ナルルースから連絡よ。奴等のアジトを見つけたわ。突入の準備も既に完了しているって。」
「えっ!そ、そんなに早く・・・、あり得ないわ・・・」
ローズマリーさんが信じられない表情で俺達を見ていた。
「ふふん、エルフの暗部の力を舐めないでね。その気になれば誰にも見つからず国王の首も掻き切る事も可能な連中ばかりだからね。この500年でエルフの里は大改革を行ったのよ。今では世界最強の武闘派種族になっているわ。」
ドヤ顔で(薄い)胸を張っているが、ラピス!お前、何て事をしてくれたんだ!
本に書かれているエルフは森の賢者って言われるくらい穏やかで知的な種族となっているが、ラピスの言っている事が本当なら学院などにある教本のエルフの認識は根底から崩れてしまうぞ。
まぁ、エルフ自身は滅多に人里に出てくる事はないから、このままミステリアスな種族として伝えられていくんだろうな・・・
「ローズマリーさん、今のラピスの話は聞かなかった事にしよう。」
「えぇ・・・、こんな話をしても誰も信じてくれないでしょうね。レンヤさんと私の胸の中にしまっておきましょう・・・」
慌てて外に出るとナルルースさんが待っていた。恭しく頭を下げる。
「ラピス様、お待たせしました。」
「ご苦労様、ちょっと悪いけど、私達が戻って来るまでの間、マーガレットちゃんの相手をお願い出来ないかな?さすがに一緒に連れて行く訳にはいかないからね。」
「かしこまりました。」
「ちょっと待って!私も一緒に行く!」
マーガレットがラピスの手をギュッと握ったが、キッと厳しくマーガレットを見つめた。
「ダメよ!いくらマーガレットちゃんでもこれは認めないわ。」
「な、何でよ!」
必死にしがみ付くマーガレットの頭を撫でて優しく微笑んだ。
「マーガレットちゃん、私達はね、これから大人の問題の話で行くのよ。今のあなたには見せられない世界なの・・・、行けば絶対に後悔するわ。私はあなたにそんな光景を見せたくないのよ。分かってね・・・」
「分かった・・・、ちゃんと待っているから早く帰ってきてね。」
マーガレットがスッとラピスの手を放すと、ナルルースさんが隣に立ってニッコリと微笑んだ。大人の女性のエルフだけど、マーガレットを見る目が母親みたいに優しく微笑んでいる。
「マーガレット、すぐに戻ってくるからな。」
「うん、お兄ちゃんも気を付けてね。」
「ありがとうな。」
マーガレットにサムズアップしてからラピスの手を握った。反対の手をローズマリーさんが握っている。
「一気に飛ぶわね。」
目の前の光景が変わった。
「ここは?」
周りを見渡すと森の中だった。
目の前には森が開けていて奥に2階建ての大きな屋敷が建っている。しかし、放置されてからかなりの年月が経っているのかボロボロの状態だ。
「まさか、ここが奴等の本当のアジトだったなんて・・・、道理で町中をどれだけ探しても見つからなかった訳だわ。」
「ローズマリーさん、この建物は知っているのか?」
「えぇ、この建物は先代の国王が町の隣にあるこの森で狩りをする時の休憩施設として建てられたのよ。代替わりをしてから放棄されていたけど、まさかここが・・・、王族の建物だけあって見た目はボロボロだけど、構造はシッカリとした造りだし、中を掃除すればアジトにそのまま使えるわね。」
「ラピス様」
大きな木の陰から2人の人物が現われた。
先程のアラグディアと呼ばれたエルフのマッチョな人と、同じくエルフの女性だ。
(確か、この人も緑の狩人のメンバーだよな?記憶にあるぞ。)
「アラグディア、よくやったわ。こんなに早く見つかるとは思わなかったわよ。」
ラピスが満足そうに微笑んでいる。
「いえいえ、そう大して苦労はしませんでしたよ。」
恭しくアラグディアさんが頭を下げた。
「たった指1本を切り落としただけで簡単に自白してしまいましたからねぇ~、あまりにも呆気なくて拍子抜けですよ。最近の悪党は根性が無いですな。私が若い頃の悪党はどんな拷問でも絶対に口を割らない猛者がたくさんいましたのに、嘆かわしい事です。」
(おいおい、拷問だなんて・・・)
予想はしていたがやっぱりか・・・、こんな話が出てくるんだ、マーガレットを連れてこないで正解だったよ。それに、サラッとこんな話をしているくらいだから、敵に対しては容赦はしないのだろうな。これからあの建物の中にいる連中がどうなるか?ご愁傷様・・・
「まぁ、あんな根性無しのチンピラを刺客に出したくらいですから、アイツらのレベルもたかが知れています。ここは私が先陣を切って制圧に向かいます。」
ニヤリとアラグディアさんが笑った。
精悍な顔つきだからこの表情は凄く怖い。死神がいたら多分こんな表情だろうな。
「ララノア、例のモノを。」
「はい、あなた。」
アラグディアさんの目の前が一瞬光ると大きな剣が現われた。
(デカイ!)
刃の部分だけで3mは確実にある両刃の大剣だ。こんな剣なんか振り回せるのか?
刃も長いが、握りの部分も異様に長い。
しかし、アラグディアさんはこんな大剣を無造作に片手で握り、まるで普通の剣のように素振りをしてから肩に担いだ。
俺に向かってニヤッと笑う。
「勇者様、驚かれました?これは斬馬刀というものですよ。騎乗している人間を馬ごと叩き切る剣です。普通の剣だと軽すぎて振り回すだけでもすぐに折れてしまうものですから、これだけの大きく丈夫な剣でないと私の力に耐えられないのです。私も剣士の端くれ、一度は勇者様と手合わせ願いたいですね。」
(嫌だぁああああああ!それは絶対に勘弁してくれ!いくら手合わせでもこんな化け物と戦いたくないよ!)
「ふふふ、レンヤ、どう?エルフの精鋭の力は?」
ラピスがドヤ顔で俺を見ている。
「正直驚いたよ。エルフの今までの概念が吹き飛んだ。それにしても、ラピス以外で転移魔法や収納魔法が使えるなんて更に驚きだよ。」
「まぁ、緑の狩人のリーダーであるナルルースはもちろんだけど、このララノアもナルルースに匹敵する魔法使いだからね。まずはアラグディアのお手並みを拝見しましょう。私も彼がどれだけの猛者になったのか楽しみにしているけどね。」
そしてアラグディアさんを見ると彼が静かに頷いた。
「ラピス様のお目に叶う働きをしましょう。」
大剣を肩に担ぎながらゆっくりと建物に向かって歩き始める。彼の後ろをララノアさんが付いていった。
「あなた、建物内に20名の反応があります。入口付近に10名程いますね。あっ!5人が入口へと動き出しました。」
「じゃぁ、まずはその5人から片づける事にしようか?」
アラグディアさんがそう呟くと建物の入り口の扉が勢いよく開き、ララノアさんの言う通りに5人の人影が出てきた。
5人全員が手に剣やナイフを握って構えている。
1人がズイッと前に出てきた。
「貴様達!何しにここに来た!」
睨みつけられてているが、アラグディアさんは涼しい顔だ。
ニヤッと笑って腰にぶら下げていた袋を彼等の方へ放り投げた。
「お前達にお土産を持って来ただけだよ。」
ゴロンと男達の間に袋が落ち、中から丸い何かが2つ転がって出てきた。
「「「!!!」」」
男達が一瞬硬直してしまう。袋の中から出てきたのは、さっきローズマリーさんを襲い返り討ちに遭った2人の刺客の生首だった。
「そう、お仲間の首だよ!」
ブオン!
男達が硬直している隙に、あっという間にアラグディアさんが男達の前まで移動し、大剣を横薙ぎに振るった。俺の目でもやっと追えるくらいの速い斬撃だ。
(あれだけの大きな剣をあの速度で振るうなんて・・・、身体能力は俺以上では?)
ズル・・・
5人の男達の上半身がずれ地面に転がった。少し遅れて下半身がバタリと倒れる。
一撃で全員を両断にするとは・・・
あの剣ならではの凄まじい斬撃だ。
ラピスがマーガレットを連れてこなかった訳が分かるよ。こんな蹂躙のような場面は見せられない。絶対にマーガレットのトラウマになってしまうだろう。
「レイ!」
ララノアさんが叫ぶと彼女の周囲に魔法陣が浮かび、何本もの白い光線が建物へと飛んで行く。
そのまま壁や窓を貫通し中へと吸い込まれていった。
「うぎゃぁあああ!」「ぐあぁあああ!」
中から男達の叫び声が聞こえたが、すぐに静かになった。
「私達がそのまま中に飛び込むと同時に、中で弓矢を持って待ち構えていた男達に撃たれていましたからね。先手を打たせていただきました。」
ニコッとララノアさんが俺達へと微笑んだ。
「これで1階の敵は全滅です。残りは9名ですから、ささっと制圧して終わらせましょう。」
開けっ放しになっている玄関から一気に中に飛び込んだ。
大きな玄関ホールで男達が倒れて死んでいる。どの死体も頭や胸を撃ち抜かれて絶命していた。
後ろから付いてきたローズマリーさんが顔を青くして目の前の光景を見ていた。
「何て強さなの・・・、あれだけの人数をあっという間に・・・、みなさんと敵対しなくて本当に良かったと心から思うわ。」
ダダダァアアア!
2階へと続く階段の上から剣を持った男達が降りてきた。
「てめぇら!死にやがれぇえええ!」
人差し指を男達に向けた。
「ライトニング!」
指先から稲妻が飛び、男達を貫通する。
「「ぎゃぁあああああああああああ!」」
全員が叫び声を上げ、黒焦げになって階段から転げ落ちてきた。
今の人生では人を殺した事は無かったが、前世の記憶が甦った今では悪人なら躊躇なく俺も人を殺す事が出来る。こんな姿はマーガレットには見せられないな・・・
アラグディアさんが俺を見てニコッと笑った。
厳つい顔で微笑まれても正直怖いだけだけど・・・
「これが勇者様にしか使えない雷魔法ですか・・・、見事な魔法です。増々お手合わせをしたくなりましたよ。」
背中に大量の冷や汗が流れる。
(絶対に勘弁してくれ!)
「レンヤ、2階の奥の部屋に残りの3人が集まっているわ。そこにお目当てのボスがいるんじゃない?」
ラピスが状況を説明してくれた。
「分かった!一気に行くぞ!」
階段を駆け上がり2階の奥の部屋の前に辿り着いた。
途中で誰とも遭遇しない。俺もサーチで確認しているが、部屋の入り口の脇に2人が待ち構えているのが分かった。俺達が部屋に入った瞬間に横から襲うつもりだろう。
(甘いよ・・・)
アラグディアさんもその事に気付いているみたいで、俺と一緒に扉の前に立ってから呼吸を整えている。
「勇者様、馬鹿正直に扉から入る必要はありませんね。」
そう言って、扉の横に立った。壁を隔てて刺客が丁度目の前にいる場所だ。
「ふっ、俺もそうしようと思っていたんだよ。」
俺も壁の前に立つ。
「では、いきます。」
俺とアラグディアさんが拳を振り上げ壁に叩きつけた。
ドォオオオオオオオオン!
「「うぎゃぁあああああああああああ!」」
男2人が壁のがれきと一緒になって部屋の奥に吹っ飛んでいった。数回床にバウンドしてピクピクとしている。
まだ生きているみたいだな。このボスは懸賞金がかかっているから、全員は殺さずボスも含めてギルドに突き出すつもりだからな。
壁に空いた穴から部屋の中に入った。
部屋の隅ででっぷりと太った男がガタガタと震え丸まっている。
「儂の・・・、儂の精鋭があっという間に・・・、お前達は何者だ・・・」
ローズマリーさんがズイッと前に出て男を睨む。
「アックーダ!もう終わりよ。アンタは決して手を出してはいけないものに手を出した。そのおかげでどれだけの人が苦しんだと思って・・・」
「だ、黙れ!この売女め!貴様も悪党だろうが!何で儂が責められなければならんのだ!」
「五月蠅いわね、このデブ!アンタは貧乏人を騙して散々搾り取ってから捨てる事を繰り返していたじゃない。いくら私でもここまで悪どい事は出来ないよ。悪党にも悪党なりの矜恃があるんだよ!アンタにはそれが無い!だから潰す、それだけだよ。」
「黙れ!貧乏人から搾り取って何が悪い!負け犬どもがどうなろうが知った事じゃないわ。騙される方が悪いんじゃ!馬鹿共はそれくらいしか使い道が無い!貧乏人なんていくらでもいるし、多少死んでも知った事ではないわ!」
あ~、コイツの話を聞いているとムカムカしてくる・・・
根っから腐っている奴だよ・・・
「黙れ・・・」
ズイッとデブの前に立った。
左腕で奴の胸ぐらを掴み持ち上げる。
「お前と押し問答する気は無い・・・」
「ひぃいいい!」
デブが顔を青くしてブルブルと震えている。
「お前は許されない事をした。俺の大切な人を殺そうとした。だから俺に倒される。ただそれだけだよ。」
グッと右腕の拳を振り上げる。
「殺しはしないが、歯を食いしばれよ・・・」
ドキャッ!
思いっきり顔面に拳を叩き込んだ。
「ぶひゃぁああああああああああああああああ!」
豚が鳴いたような悲鳴を上げて吹き飛んでいき、壁に激突してピクピクと痙攣しながら失神していた。
「ふぅ、スッキリ!」