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37話 3人でデート③

「それじゃお兄ちゃん、善は急げ!って言うくらいだから、すぐに行こうね。」


いつの間にマーガレットが仕切っているんだ?

それ以前にお前は歓楽街なんてところも行った事が無いだろうが・・・

まぁ、10歳のお子様が行くような場所でもないけどな。


「それじゃマーガレット、超高速で行くからな。ラピス、歓楽街の場所はココだ。」

念話で場所のイメージを伝える。


「分かったわ。これだけ鮮明なイメージだと転移は問題無いね。マーガレットちゃん、私の手を握ってちょうだい。

  

「うん!」


嬉しそうにマーガレットがラピスの手を握ると、ラピスの足下に魔方陣が浮かび上がる。


シュン!


一瞬にして2人姿が消えてしまった。


「さぁ、俺達も行こう。」


ローズマリーさんの手を取り抱きかかえた。いわゆるお姫様抱っこの形だ。この方がローズマリーさんが動く事も無いし、安全に転移出来るからな。


「きゃっ!」って小さな声で叫んでいた気がしたが・・・


魔法を発動させ転移を行う。景色が一瞬にして切り替わり、歓楽街の町並みが目の前に広がった。

俺のすぐ隣にはラピスがマーガレットと手を繋いで立っていた。


「お兄ちゃん・・・」


マーガレットがとても不機嫌な顔で俺を見ている。


(どうして?)


「お姉ちゃんだけズルイよ・・・」


俺の腕の中にいるローズマリーさんを見ると、真っ赤な顔でモジモジしながら俺を見ているよ・・・


「最高のご褒美です。尊くて死んでしまいそう・・・」


何か呟いているが良く聞こえない。

(あっ!しまった!)

昨日からラピスをお姫様抱っこばかりしていたから、女の人を抱きかかえるのに抵抗が無くなっていた。

普通はセクハラだよ・・・

ローズマリーさん、すみません・・・


マーガレットが俺の服をグイグイと引っ張っている。

「お兄ちゃん、次は私!早く交代してよ!」


慌ててローズマリーさんを降ろしたが、腰が砕けたようにペタンと地面にへたり込んでしまった。

まだ真っ赤な顔でブツブツとつぶやいているよ・・・


(だけど幸せそうな顔だよ。もしかして喜んでいた?)


両手を広げてマーガレットが俺の前に立っている。

「はいはい。」

抱きかかえると嬉しそうにしている。


「へへへ、お兄ちゃんは本物の勇者様だし、本当にお姫様になった気分だよ。最高・・・」


う~ん・・・、アンもラピスもそうだけど、何でみんなお姫様抱っこをしたがるのだろう?

女心はよく分からない・・・



「あ!姉御!」


あの時にボロボロにした3人組が目の前の娼館から出てきた。

真っ赤な顔でへたり込んでいるローズマリーさんを見るとみるみる目つきが鋭くなり、俺をギロッと睨んだ。

「レンヤ!いくらお前が勇者だとしても、姉御に何かあったら俺達が黙っていないぞ!姉御に何をした!」


「お黙り!」

スクッとローズマリーさんが立ち上がり3人組をキッと睨んだ。

「私の事は大丈夫だよ。ちょっとビックリしただけの事だからね。勇者様とはちゃんと話が付いたから問題ない。しかも、あの2人を助けてくれるって言われたからお連れしたんだよ。案内しな!」


3人組がビシッと姿勢を正してローズマリーさんを見ている。

「分かりました!ではこちらへ。」


案内されて娼館の中に入っていくが・・・


(これはマズイよ・・・)


今は昼間だから営業はしていないけど、中には際どい服装の娼婦達がゾロゾロといて俺達を見ているよ。

以前に仕事でここに来ていた時も目のやり場に困っていたけど、今はマーガレットがいるし・・・


「お兄ちゃん、何でここのお姉さん達はあんな服装をしているの?恥ずかしくないのかな?」


案の定、マーガレットが食い付いてきたよ。

(弱った・・・、俺から説明が出来ないよ・・・)


ラピスがそっとマーガレットに耳打ちをすると、途端に顔が真っ赤になってしまった。

真っ赤な顔で俺を見ている。

「こんなところを知っているなんて、お兄ちゃんのエッチ・・・」


(お~い、ラピスさんやぁ~、マーガレットに何を言ったのだ?)



奥の部屋に通されて扉を開けると・・・


1人の女性がベッドに縄で縛られている。舌を噛まないように猿ぐつわをされているが、血走った目で入ってきた俺達を睨みつけていた。

薬の禁断症状だろうか頬は痩せこけ、顔色もかなり悪い。しかし目はギラギラと血走り今にも俺達に飛びかかってきそうに体中をじたばた動かしている。

縄で縛っていたのは暴れるのを防ぐ為だったのか・・・


「マーガレット!見るな!」


咄嗟にマーガレットの目を塞いだ。


「お嬢ちゃん、ごめんなさい・・・、こんな場面を見せるつもりはなかったの・・・」

ローズマリーさんがマーガレットをそっと抱いた。


「大丈夫・・・、私が勝手についてきたんだから・・・、でも、もう少しこうしていて欲しい・・・」


子供には刺激が強過ぎたよな・・・

こんなところに連れてきたのは迂闊だったよ・・・


「リラックス!」


精神安定の魔法をかけると2人の体が仄かに輝いた。


「あ、何か落ち着いてくる・・・、ありがとう、お兄ちゃん・・・」


(ふぅ、これでマーガレットは落ち着いたかな?)


「レンヤさん、すみません・・・、こんな時に禁断症状の発作が起きてしまうなんて・・・、薬が抜けるまでどれだけ苦しい思いをしなければいけないのか・・・、このままだと心と体が先に壊れてしまいそうで・・・」


「分かった。何とか、いや!必ず助ける!」


「スリープ!」


眠りの魔法をかけると、ベッドで暴れていた女性がぐったりとしスヤスヤと眠っている。


(ふぅ、どうやら魔法は問題なく効果がありそうだ。まずは鑑定で状態を確認してみるか?)


鑑定をすると『毒状態』『精神異常状態』と鑑定された。これなら解毒の魔法でこの状態を回復させられそうだ。この魔法なら俺は使えるからな。それと、体力もかなり落ちているから、体力も回復させないと・・・


「キュア!ヒール!」


女性の体が白く輝く。


(どうだ?)


再び鑑定すると『異常無し』となっている。もう大丈夫そうだな。


「解毒が終わったから目を覚まさせるぞ。ディスペル!」


解除の魔法をかけスリープ状態を解除すると、女性がゆっくりと目を覚ます。

キョロキョロと周りを見ていたが、ローズマリーさんの姿を見た瞬間に涙が溢れて起き上がろうとしている。

だけど、全身を縄でベッドに縛られている上に猿ぐつわもされているので、モガモガしている状態だ。

ローズマリーさんがとても優しい目で彼女を見つめ、掌をそっと額に当てると彼女は大人しくなった。

猿ぐつわを外し優しく微笑みかけた。


「もう大丈夫よ。」


「ね、姉さん・・・、私・・・」


3人組が手際よく彼女を拘束していた縄を外すとゆっくりと上半身が起き上がった。ローズマリーさんが優しく彼女を抱くと、そのまま号泣してしまった。

「あなたは悪くないわ。騙されて薬を飲んでしまっただけだからね。今はゆっくり休んでね。」

そして俺を見つめた。

「レンヤさん、お願いです。この子は今は興奮しているので少し休ませて下さい。」


「分かったよ。」


思いっ切り泣いたのか少し落ち着いたみたいだ。ローズマリーさんが離れ俺が彼女の隣にしゃがみ手を握った。

「あれ?レンヤ君、久しぶりね。また働きにきたの?でも雰囲気がこの前とは全然違うね。」


「ルーシーさん、俺の事を覚えてくれていたんだ。嬉しいよ。今日は別の用で来ただけだよ。」


ルーシーさんがニコッと微笑んだ。

「レンヤ君も私の事を覚えてくれていたんだ、嬉しいな。でも不思議・・・、こうしてレンヤ君に手を握られていると落ち着くわ・・・、まるで大きな何かに抱かれているみたいで安心するの・・・、ごめん、何か急に眠く・・・」


「疲れているんだろうな。だからおやすみ。ゆっくりと休んで元気になって欲しいな。」


「うん、ありがとう・・・」

俺の手を握ったまま眠ってしまったので、ゆっくりとベッドに横にさせた。


「お兄ちゃん、一体何をしたの?」

マーガレットが不思議そうに俺を見ている。


「気持ちを落ち着かせる魔法と眠りの魔法をかけただけだよ。魔法をかけられたと分からないようにこっそりとな。良い夢を見られるといいな。」


「大丈夫だよ。」

ニッコリとマーガレットが微笑んでくれる。

「だって、こんなに幸せそうに眠っているんだからね。絶対に良い夢に決まっているよ。私もこうやって人を幸せにするような魔法使いになりたいな。」


「大丈夫さ、お前ならなれると思うよ。」

そう言ってマーガレットの頭を撫でると、とても嬉しそうにしている。


「さて、次の女の子を案内してくれないか?」


「はい、すぐに案内します。」


部屋を出ると隣の部屋に案内された。部屋の中のベッドにはアンと同じくらいの年頃の女性が眠っている。

彼女の事はここで働いていた時から良く知っている。名前はケイトさんで、とても可愛い子だ。親から見捨てられ成人になると同時に娼婦になってしまったけど、将来は素敵な男性と巡り会って幸せになりたいと言っていた。お客の1人からアプローチを受けて恋人が出来たと言って喜んでいたよな・・・


何でこんな子が酷い目に遭わなければならないんだ・・・


顔色がとても悪く、昏睡状態だから水分もほとんど採れないだろうし、食事はまず無理だ。目が覚めないと衰弱していくしかなく、このままだと間違いなく命を落としてしまうのは確実だろう。


「どうですか?」


「ちょっと確認してみる。」

鑑定すると『毒状態』になっているが、これ以上の状態異常は見受けられない。

目を覚まさないのは精神的なものではなさそうだ。

更に細かく鑑定をしてみると脳にダメージがあるのが分かった。薬の影響だろう。


(う~ん、ヒールはあくまでも癒やしの魔法だし、壊れた脳の修復までは不可能だ・・・、体の修復の魔法はソフィアなら問題なく使える魔法だけど、練習すらしていない俺がいきなり使っても成功するのか?)


俺の手をそっとラピスが握った。

「レンヤ、心配しないで。あなたは女神様に認められた勇者なのよ。絶対に成功するわ。」


ラピスが微笑むと心が軽くなった感じがする。

(そうだよな、俺には女神様が付いているんだよな。ラピスを通して女神様に見られているだろうし、情けない姿を見せる訳にはいかないな。)


鑑定で確認した脳のダメージ部分を元の姿に戻るようにイメージする。

「エクストラヒール!」


ケイトさんの体が光輝いた。


「エクストラヒールって・・・」

ローズマリーさんがワナワナと震えている。

「この魔法は伝説の聖女様しか使えない上級の回復魔法よ・・・、レンヤさん、あなたって人は・・・」


光が収まるとケイトさんの顔色が良くなり、先程とは比べものにならないくらいに艶やかになっていた。

ゆっくりとケイトさんの目が開き、ローズマリーさんを見つめていた。


「姉さん、私は?どうしてベッドに寝ていたの?変な薬を飲まされてから何も覚えていない・・・」


しかし、ローズマリーさんの視線が厳しくなっている。

「ケイト、あんたはクビよ。もうここでは働かなくてもいいからね。」


「そ、そんな・・・、姉さん、どうして?」

ケイトさんがワナワナと震えている。


バン!


部屋のドアが勢いよく開かれた。


「ケイト!」


3人組に連れられた男がはぁはぁ言いながらドアのところに立っていた。


「アンドレさん!どうしてココに?」


「最近ケイトが店にいなくて心配していたんだ。訳を聞いたら倒れたって聞いて・・・、心配で来てしまったよ・・・、ごめん・・・」

そしてローズマリーさんをジッと見つめ、手に持っていた麻袋を突き出した。

「ローズマリーさん!ケイトの身請けのお金だ。これでケイトは自由になれるんだろ?」


「アンドレさん、私の為にここまで・・・」

ケイトさんが涙を流している。


しかし、ローズマリーさんの厳しい視線は変わっていない。

「はっ!たったこれっぽっちのはした金でケイトを身請けしようなんてお笑いだよ。」


「そ、そんな!約束が違う!」


「まぁ、ケイトはたった今クビにしたから、後はアンタが好きにするんだな。クビになった後の事なんか私は知らないよ。」


「姉さん・・・」

「ローズマリーさん・・・」


「本気で男に惚れた娼婦なんてもう客は取れないからね。あんた!うちの大事な商品をダメにしたんだ!その事に関してはキッチリと責任は取ってもらうからね。」


ニヤリと笑うと3人組の1人がアンドレさんの前に立ち、アンドレさんが持っていた麻袋よりも大きな麻袋を置いた。

ジャラッとかなり重い音がする。


「あんたみたいな貧乏人が必死に貯めて持って来た金なんか貧乏臭くて受け取れないよ。あんたの本気はこれから見させてもらうわ。もしケイトを泣かすような事をしたら・・・」


そしてケイトさんの手を握り優しく微笑んだ。

「ケイト、幸せになりなりなさい。あの男なら必ずあなたを幸せにしてくれるわ。子供が出来たら私にも見せてね。」


「ね、姉さぁぁぁぁぁん・・・」


泣きながら手を握っているケイトさんの手を振り払って踵を返した。

「さぁ!お邪魔虫は退散するよ!看病はこの男に任せるからね。まぁ、ケイトが完全に回復するまでは仕方ないから、治るまではここに居させてあげるわ。治ったらさっさと出て行くのよ。」


アンドレさんが土下座をして深々と頭を下げていた。

「ローズマリーさん・・・、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません・・・」


「ふん!」

振り返らずに部屋を出ていったので、俺達も慌てて部屋を出ていった。



ラピスがニヤニヤ笑いながらローズマリーさんの隣を歩いている。

「ふふふ、あなたって意外と良い人だったのね。見直したわ。」


「ラピスさん、私はあなたが思っているような良い人ではないですよ。あの2人はこの場所では眩し過ぎるので、他の娼婦に見せつけられると悪影響がありますからね。それに先程も言いましたが、あの子はもう商品価値がありません。それでクビにしただけです。さすがに裸で追い出す訳にいきませんから、退職金を与えたのに何で感謝されるのか分かりません。」


「ふ~ん・・・、あなたも私と一緒で素直になれないひねくれ者ね。気が合いそうよ、ふふふ・・・」


嬉しそうにラピスが微笑んでいた。

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