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36話 3人でデート②

「そういえば、何でローズマリーさんがここにいたの?」


この個室に案内された事も疑問だったし、いくら歓楽街の顔役のローズマリーさんでもいきなりこんな事は出来ないと思うが・・・


「実はね、このお店は私達が経営しているのよ。こんな高級店なんか人が桁違いに多い王都ではともかく、この町で個人が経営するのは無理よ。」


(マジっすか!まぁ、そう言われればそうだよな。)


「私達のお客は貴族様や裕福層が多いから、このお店ならその人達も堂々と買い物に来れるからね。さすがに昼間から歓楽街をウロウロする訳にいかないから、この場所にお店を出したのよ。おかげで大当たりよ。」

ふぅとため息をする。

「あのバカ3人がレンヤ様にちょっかいを出してボロボロになって戻って来た時は、私も冷や汗をかいたわ。昨日のギルドでの黒の暴竜の顛末も情報が入っていたし、レンヤ様達の怒りを買えば確実に歓楽街が潰されるって考えた訳よ。」


(ははは・・・、誰だってあの二の舞は勘弁だよな。フローリア様まで引っ張り出しての大騒ぎになったし・・・)


「お詫びに行こうと思って慌ててこの店でお詫びの品を持って行こうとして来たけど、肝心のレンヤ様の住んでいる場所が分からなかったわ。宿屋を転々として寝泊りしていたり野宿しているのは知っていたけど、ギルドに行けば何か情報が入るかと思って準備していたところだったの。」


「そんな時に俺達が現れたって事か?」


「そう、これはチャンスと思ったのよ。そしてお店の中からレンヤ様のお顔を見た瞬間に私の全身がガクガクと震えて、心臓のドキドキが止まらなくなったの・・・、今まで何人もの男に抱かれてきたけど、こんな気持ちになったの初めてよ。レンヤ様は特別な存在、数えきれない程の男を見てきたけど、レンヤ様程輝いている人は初めてだったわ。」


ローズマリーさんがうっとりとした目で俺を見ているよ。


「まぁまぁ、あなたからの謝罪はどうでもいいの。私達は食事に来たのだから食事をさせて欲しいのよ。」


ラピスがスパッとローズマリーさんの話を断ち切った。


「大賢者様の意地悪・・・、そうですね、みなさんがお腹を空かせているのに私の話を延々と聞かせるのは苦痛ですよね・・・」


ちょっとガックリとしているローズマリーさんだったけど、マーガレットが隣に来てポンポンと軽く叩いている。

「お姉ちゃん、頑張って!恋には駆け引きも大切なのよ。お兄ちゃんがこの町から出るまでは時間があるから、それまでにチャンスを作るの。」


「そうね、私は焦っていたのね。ありがとうねマーガレットちゃん、蛇のローズマリーと恐れられていた私の本領を発揮させるわ。ふふふ、元気が出たわ。」

優しくマーガレットを抱きしめていた。


ラピスといい、ローズマリーさんといい、マーガレットは誰とでも仲良くなるよ。

一種の才能だよな。


「マーガレットちゃんもお腹が空いたでしょう?ここの料理は美味しいから満足するまで食べても良いのよ。お代はいらないし遠慮しないで食べてね。」


「え!本当に?じゃぁ、ケーキも食べていいの?」


「もちろんよ。好きなだけ食べてね。」


「やったぁああああああああああ!楽しみ~~~」



テーブルに座ってから程なくして食事が運ばれてきたが、どれも高級品を使った豪華な食事だ。どれも美味しそうだよ。

しかし、マーガレットが神妙な顔で料理を見ていた。


「どうした?」


「お兄ちゃん・・・、私だけこんな贅沢なご飯を食べて良いのかな?みんなに悪いと思って・・・」


ポロポロと涙を流し泣き出してしまった。


ローズマリーさんがマーガレットを優しく抱きしめ微笑んでいる。

「マーガレットちゃんは本当に優しい子ね。自分の事よりも他の人の事を思うなんてね。今度、みんなを連れて食べに来たらどう?みんなにも好きなだけ食べさせてあげるわよ。もちろんお金はいらないわ。あなたの笑顔を見ていると私も幸せな気分になるのよ。だからね、あなたには笑っていて欲しいのよ。」


「本当に?」


「本当よ。私は色々と悪い事はしてきたけど、人を騙す嘘だけはつかなかったのよ。だから安心してね。」


「ありがとう、お姉ちゃん・・・」

マーガレットもギュッとローズマリーさんに抱きついた。

「ラピスお姉ちゃんと同じ匂いがする。こうしていると安心するの・・・」



「マーガレット、それじゃいただこうか?」


「うん!」


(どうやら元気になったようだな。)


「お姉ちゃんと女神様に感謝します。」

マーガレットがお祈りを始めたので、みんなでお祈りをしてから食べ始めた。


「美味しいぃいいいいいいいいいいい!」


マーガレットが一口食べた瞬間に叫んでいた。それから一心不乱に食べているよ。

確かにこれは美味しいよ。肉も柔らかく口の中で溶けるようだし、スープもあっさりとしているけど、とても奥が深い味わいだ。

しかも!一緒に添えられているパンも何て美味しいんだ!

実家がパン屋だし、パンにはうるさい俺でも満足な味だよ。こんなに柔らかく焼上げるなんて・・・

このパンは持ち帰って父さんに見せないといけないよ。

こんな時の収納魔法は便利だ。時間経過が無いからいつまでもそのままだし、乾燥して固くなる事はないからな。


それに、料理のマナーを知らないマーガレットに合わせて、フォークとスプーンだけで食べられるように料理は小分けにされているし、料理をする人の心遣いも感じる。

ただ高いだけのお店ではなかった。今度はアンも連れていかないといけないな。絶対に喜ぶと思う。


ラピスを見ると、感心した感じで食べている。


「レンヤ、この料理はすごいね。作る人の心遣いが分かるなんて・・・、アンに匹敵する腕前の料理人よ。料理も500年でここまで進化してるとは驚きだわ。」



デザートのケーキが出てきた。

キレイに扇形にカットされていて、断面が何層も分かれて見た目でも楽しめる。上にはこれでもか!という感じでフルーツが盛られていて、このケーキだけでもお腹が膨れそうだよ。

パン生地とクリームとフルーツで何層にもなっている状態にフォークを刺すのは躊躇われたけど、意を決してフォークを刺した。


「何だと・・・、ナイフでなくフォークでパン生地が切れるのか?どれだけ柔らかいのだ・・・」


ローズマリーさんがニコニコと微笑んで俺を見ているよ。

「あら、レンヤ様でも驚くのですね。これはパン生地ではありませんのよ。ケーキの生地はパンよりもっと柔らかく焼上げていてスポンジと呼ぶのです。私も初めて食した時はあまりの柔らかさに驚きましたよ。」


一口食べてみると・・・


(美味い!)


スポンジが仄かに甘く、これだけでも十分に満足出来る味だ。

クリームもしつこくなく、さっぱりとして甘過ぎる事もないが、しっかりと味を主張している。それにフルーツの甘酸っぱい酸味が絶妙なバランスを保って、スポンジとクリームの橋渡しになって1つの味わいを作っているよ。

このケーキは食べ物でなくて芸術品のレベルまでになっているのではないか?


チラッとラピスとマーガレットを見ると・・・


既にケーキの皿は空になっていて、「「お代わり!」」って叫んでいるよ。


(おいおい、ちょっとは遠慮しろよな。)



「あ~、美味しかった!お姉ちゃん、ありがとう。」

「ホント、こんなに美味しいなんて驚きだったわ。ケーキは癖になりそうよ。」

マーガレットもラピスも満足した表情で椅子に座っている。


「満足していただけて何よりですわ。」

ローズマリーさんもニコニコしていた。

パチンと指を鳴らすと2人のメイドが各々ワゴンを引いて入ってくる。

その各ワゴンの上には丸い大きなケーキが置いてあった。


(そうか、あれをカットしたものを俺達が食べた訳だ。)


「マーガレットちゃん、お土産よ。これだけあれば孤児院のみんなもお腹いっぱい食べられるわ。」


「えっ!こんなに・・・」

目を丸くしてマーガレットの視線がケーキにくぎ付けになっている。

「それに、私が孤児院にいるって何で分かったの?」


「そんなの簡単よ。食事の前にお祈りをするのは教会の関係者だし、料理に驚いて涙まで流していたからね。みんなと言えば孤児院の子供達の事でしょう?このケーキで子供達もあなたと同じように幸せな気分になってもらいたいのよ。」

ローズマリーさんがパチッとウインクをする。


「ローズマリーさん、いくら何でもサービスし過ぎでは?お金なら俺が払うよ。」


「レンヤ様、お金はいらないわ。私が彼女を気に入ったからね。それにね、こんなしっかりした子を育てた教会にもお礼をしたかったのよ。歓楽街にいるとお互いに腹の探り合いばかりして精神的に疲れる事が多いけど、この子と話すと私も素直になれるの。」

そっと俺の手を握ってきた。

「ふふふ、あの子を私の味方にすれば、あなた様へのアプローチもしやすいでしょう?あなた様は私が初めて本気になった男ですから、色んな手を使ってでもあなた様に取り入りますよ。今回の食事とお土産はその先行投資だからね。」


とても妖艶な笑みで俺に微笑みかけてくるよ・・・

完全に俺をロックオンした目だ。


「気持ち良いくらいの恋人になりたい宣言ね。あなたがレンヤにふさわしいかは私が見極める事にするわ。もし、レンヤを利用しようと考えているのなら私は容赦しないわよ。」


ニヤッとラピスが笑っている。


「もちろん、大賢者様を謀ろうなんて思っていませんよ。そんな事をすれば歓楽街が確実に滅ぼされますからね。部下や娼婦達を路頭に迷わす訳にはいきません。」


「分かったわ。今はあなたの言葉を信じるわ。マーガレットちゃんがあなたに懐いているって事は、あなたは悪人ではない証拠でしょうね。今後のあなたの行動を見させてもらうわ。」


「はい、大賢者様、これからもよろしくお願いします。」


深々とローズマリーさんがラピスに深々と頭を下げた。


「それと、私の事は大賢者と呼ばなくても良いわよ。ラピスって呼んで。レンヤも私も様付けで呼ばなくても良いからね。堅苦しいのは苦手なのよ。」


「だ、大賢者様・・・」

ワナワナと震えている。

「ラピス様・・・、いえ、ラピスさん・・・、ありがとうございます。」

再び深々と頭を下げた。


(何だかんだ言っても、ラピスも認めているみたいだな。ホント素直じゃないよ。まぁ、ラピスらしいな。)


「それでは、このケーキは後ほど教会に届けさせますね。ケーキは温まるとダメになりますので、保冷の魔導具の箱に入れて運ばなくてなりませんからね。」


「いや、そんな事をしなくても大丈夫だよ。運ぶ経費が勿体ないからな。」


ケーキの上に手をかざすとフッと消えた。


「「き、消えた!」」


ローズマリーさんとマーガレットがとても驚いた顔でワゴンの上を見ている。

メイドの2人も声は出さなかったが、彼女達と同じように目を見開いてワゴンの上を見ていた。


「な、何をしたのですか?」


「収納魔法でケーキを収納しておいたよ。この魔法で収納すれば時間経過は無いから、いつまでも冷たいままで持ち運び出来るし、手ぶらだからとても楽だしな。」


「これが伝説の収納魔法ですか・・・、この目で見る事が出来るなんて・・・」


同じようにもう1つのケーキも収納しておいた。


「お兄ちゃん、凄い・・・、物語の魔法を使えるなんて、本当に勇者様なんだ・・・」

マーガレットがキラキラ、ウルウルの目で俺を見ているよ。ちょっと恥ずかしいな。



「ローズマリーさん、ごちそうさまでした。」


「いえいえ、喜んでいただければ私も嬉しいわ。」

そう言って、彼女が俺の腕を組んでくる。

「今度は顔役の私ではなくて、1人の女のローズマリーとして会いに行くわね。」


俺から離れマーガレットを抱きかかえた。

「本当にマーガレットちゃんは可愛いわ。時々でもいいから孤児院に遊びに行っても良いかな?」


「うん!お姉さんなら大歓迎だよ!みんなも喜ぶと思うよ。」


「ふふふ、私がこんな気持ちになるなんてね。あなたは私の天使ね。じゃぁ、今度はもっと美味しいお菓子を持って行くから楽しみにしていて頂戴。」


「本当に?嬉しい!」

マーガレットがニコニコしながらローズマリーさんにスリスリしているよ。

ローズマリーさんもとても嬉しそうだ。こうやって見ると、仲の良い歳の離れた姉妹に見える。



「レンヤ・・・」

ラピスがそっと俺の隣に来た。


「あぁ、分かっている。」

店にいる時からサーチに反応があった。多分・・・



ローズマリーさんとマーガレットが仲良く手を繋いで店の外に出ると・・・


店の両側の影からスッと男が現われる。人混みに紛れて少しづつ2人へと目がけて歩いてきた。

楽しそうな彼女達は男達に気付いてないみたいだ。


【ラピス!間違いない!】


【えぇ、彼女を狙っているわ。】


俺とラピスは念話で会話が出来るから、お互いに状況は確認出来ている。

男2人が彼女達を挟み込むような位置まで近づくと、懐からナイフを取り出したのが見えた。


「スタンボルト!」

「パラライズ!」


上空から青白い光が1人の男に落ちる。ラピスの掌から放たれた紫色の光が、もう1人の男に命中した。

光を浴びた男達はナイフを握りながらピクピクと痙攣し、地面に横たわっていた。


「なっ!」

ローズマリーさんがマーガレットを抱きかかえ身構える。

倒れている男達をジッと見ていた。


「この男達は・・・」


「知っている顔か?」


「えぇ、この前潰した組織の男達です。どうやら仕返しで私を狙ったみたいですね。私が護衛を付けずに1人でいるタイミングを狙ってくるなんて・・・」

視線が険しくなる。

「この組織は薬を流していたのです。この町ではご法度で絶対に手を出してはいけない非合法の麻薬を・・・、私達の組織とは敵対していましたし、うちの若い子が2人、客としてやってきたこの組織の男達に騙されて薬に手を出してしまったの・・・、1人は今でも薬の禁断症状で苦しんでいるし、もう1人は無理やり大量に薬を飲まされショックを起して意識不明になっているのです。」


「組織は潰したけど、肝心のボスが寸前のところで逃げられてしまって、今もこの町のどこかに隠れているみたいだけど、まだ捕まえられていなのです。どうやら、この2人はボスの命令で私を襲ったようです。この2人を尋問すればボスに辿り着くかもしれません。」


ギュッと唇を噛んで男達を見ていた。


ラピスが倒れている男達の前に立った。

「分かったわ。私ならすぐにカタを付けてあげるわよ。アラグディア、出番よ。」


「はっ!ここに!」


いつの間にか俺達の後ろに屈強な姿のエルフの男性が立っていた。


こんな筋肉モリモリのマッチョなエルフなんて見た事がないぞ!しかもかなりの歳の感じはするが、全く衰えの雰囲気は出ていない。一目で分かる、俺と同じくらいのレベルの強さだ。

隣には昨日ギルドで見た緑の狩人のメンバーの1人が一緒に立っていた。


(確か、あの人はナルルースさん?)


ラピスが2人を見てニヤッと笑った。

「さすがナルルースね。転移魔法で一瞬にして連れてくるなんて見事だわ。アラグディアの1番の妻だけあるわね。」


ナルルースさんが片膝を地面に付け頭を下げた。

「勿体ないお言葉です。念話でお聞きした通り、この者達から情報を得て残党を処分してきます。」


「アラグディア、頼んだわよ。私の知り合いに喧嘩を売ったらどうなるか、骨の髄まで恐怖を染み込ませてあげて。」


「はっ!かしこまりました!」


アラグディアと呼ばれたマッチョエルフの男が、倒れている男2人の頭を鷲掴みにしてズルズルと引っ張っていく。

「ナルルース、こんな往来の場所では満足した尋問も出来ないな。例の場所で徹底的に尋問するとしよう。久しぶりの尋問だ、腕が鳴るよ。」

にやぁ~っと笑いながら男達を見ている。


(うわぁ~、どうなるか想像出来ないが、少なくともまともな尋問ではなさそうだよ。ご愁傷様・・・)


彼らの足元に魔法陣が浮かんだと思ったら姿が消えた。


「レンヤ・・・」

ラピスが俺を見ている。


「分かっているよ。ソフィア程ではないけど俺も回復魔法を使えるからな。被害者の女の子達を治療しに行こう。」


「レンヤさん、私達の為にそこまで・・・」

ローズマリーさんが涙を流している。


「困った時はお互い様だよ。困った人を助ける、それが勇者の務めだしな。マーガレット、折角のデートなのに悪いな。」

マーガレットの頭を撫でると嬉しそうに俺を見ている。

「ううん、大丈夫だよ。お兄ちゃんのカッコイイところを見られるんだからね。お姉ちゃんが困っているなら助けるのは当然だよ。」


「みなさん・・・、本当にありがとうございます。」


ローズマリーさんが涙を流しながら深々と頭を何度も下げていた。

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