326話 勇者パーティー無双
「去るか素直に投降すれば命まで取らん。」
ゴウキがぶっきら棒に戦意を失った兵達へと声をかけた。
ガシャ!
生き残った兵達は手に持った武器を地面に放り投げ両手を上げる。
「これで正門の戦いは終わりましたね。」
ゴウキ達の後ろからキョウカ姫が現れ投降した兵達の前に進んだ。
「姫様!まだ終わっていません!」
ミヤビがサッとキョウカ姫の前に躍り出た。
キン!
「「「!!!!!」」」
キョウカ姫の前に出たミヤビの腕に握られていた刀が一瞬だけ一筋の光の筋を見せた。
あまりの早業にゴウキも含め男達が息を呑む。
ミヤビの前には・・・
「やはりシノビがいましたね。」
細長い漆黒の針のようなものが真っ二つに切れ転がっている。
し~んと静寂が漂い始めた瞬間!
ドサッ!
数十メートル離れた建物の影から黒くずめの男が倒れた。
上半身と下半身が真っ二つになり、すぐに建物も男の後を追うように斜めに線が走ったかと思いきや、その線から上下がずれ、建物の上部分が崩れてしまう。
「ミヤビ・・・」
キョウカ姫が心配そうにミヤビを見つめた。
「姫様、私はあなた様を一生お守りすると誓ったのですよ。その約束を守る為に私は強くなりました。この歳になっても婚約者も決めずにずっと姫様のお隣でお仕えする為に。」
そして深々とキョウカ姫に頭を下げた。
「此度の勇者パーティー様達のお力添えにはとても感謝しています。こうして姫様をお守り出来るだけの力を身に着けましたから・・・」
スッと刀を抜き正眼に構える。
「ゴウキ殿も気付いていないようですが、既に十数人のシノビに囲まれていますよ。」
「そうか・・・、俺もまだまだだな・・・、少しは兄貴達に近づいたと思ったけど、どれだけ兄貴達が凄いのか嫌でも実感するよ。」
ゴウキがグッと拳を構え街の中心へと体を向けた。
グシャ!
「げひゃぁあああああ!」
鈍い打撃音が響き、男の断末摩の声が響いた。
ドチャァァァ!
「これは?」
胸の中央が大きく陥没した男がゴウキ達の前に落ちてくる。
その男の服装はミヤビが両断した黒ずくめの男と同じだった。
「詰めが甘いわよ。」
ザッと1人の女性が建物の影から出てくる。
その女性は・・・
真っ白な修道服を纏っているが、その服には金色の豪華な刺繍が施されている。
一目で高位のシスターであると分かる程に気品が漂っている。
はずだけど・・・
パンパンと手の埃を払い、じろりと鋭い視線を周囲に向けていた。
とてもシスターが出せる雰囲気ではない!
一睨みでもされたものなら心臓が停止してしまうほどに冷たい殺気を含んだ視線だった。
「上手く気配を隠しているようだけど、私には一切通用しないわよ。出てこないなら・・・」
ダン!と右足を地面へ踏み込み、右手をクイッと上へ軽く振り上げる。
ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!
その動作だけで衝撃が右手より発生し、一直線に奥の建物へと地面を抉りながら飛んでいく。
「白狼!地走り波斬!」
ドォオオオオオオオオオオオンン!
建物が真っ二つに割れ、影から数人の黒づくめの男達が空中へ飛びだす。
「はっ!」
ソフィアが一気に空中へと駆け出し、男の1人に蹴りを放った。
「がぁあああああああああ!」
モロにソフィアの左足が男の股間へと突き刺さる。
あまりの痛さに男は一瞬で白目を剥き口から泡を噴き出し力無く地面へと落ちていく。
その光景を見てゴウキ達は自分の股間を押さえブルッと震える。
「ソフィアの姉御・・・、本当に容赦しないよ・・・、アレは男として完全に終わっている。アレだけは喰らいたくないと心から思う・・・」
ゴウキがボソッと呟く。
「まだよ!」
股間を潰した男の腹を今度は逆の右足で踏み込み、その男を足場にして再びジャンプをする。
一瞬にして別の空中にいる男の目に前まで迫る。
「ば!馬鹿な!こんな一瞬で!」
ドキャ!
「げひっ!」
ソフィアの肘が男の頭頂部に突き刺さり、頭部は陥没し首が体の中に喰い込み絶命していた。
「次!」
頭を潰した男の背に手を乗せ、その男を足場にし再び空中に飛び上がる。
すぐに別の男の横に並び体を独楽のように回転させ、右脚を男の首へと叩き込んだ。
ゴキ!
首の骨が折れる鈍い音が響き、ソフィアに蹴られた男は勢いよく地面に叩き付けられ、上半身は地面に埋まってしまった。
スタッ!
まるで重さを感じないように軽やかに音も立てずにソフィアが地面へと降りた。
「す、すげぇ・・・、さすがソフィアの姉御だ・・・」
ゴウキ達がソフィアの圧倒的な強さに見惚れて呆けてしまっている。
「こら!敵はまだいるのよ。安心するのはまだ早い!」
「「「は!はい!」」」
ソフィアがクルッと体を翻し、目の前にあるいくつかの建物へと視線を移す。
「隙を突けるように上手く隠れているみたいだけど、この私の気配察知は誤魔化せないわよ。このまま隠れて建物ごと潰されるか?正々堂々と戦って私達に潰されるか?どっちにする?ここまで好き放題にこの街を荒らしたんだから許してもらえる選択肢はないから。あんた達も獣人なら潔く戦いで散りなさい!」
グッと腰を屈め右拳を軽く前に突き出す。
ザザザッ!
直後に十人ほどの男達が建物の裏から飛び出てくる。
相手の方はどうやら覚悟が出来たようだ。
両手に漆黒の小太刀を握りしめ、ジリジリと摺り足でソフィア達へ距離を縮めてきた。
顔まで黒ずくめの布で覆われていので男達の表情は見えないが、数人が目配せをしたようで小さく頷いてる。
ザッ!
男達が3人一組づつに別れ一組一組がソフィアの周囲に散開し、一斉にソフィアへと駆け出した。
「へぇ~、一対一ではまず勝てないと分かったからか考えたわね。」
ソフィアがニヤリと口角を上げる。
男達は無言でソフィアへと切りかかる。
先頭にいる男が下からソフィアの足元を狙って小太刀を切りつける。
その刀をソフィアは軽くジャンプをして躱す。
しかし!
空中にいるソフィアを狙い先頭の男の後ろからもう一人の男が跳躍し、袈裟懸けで刀を振り下ろした。
ソフィア自身は空中にいる為に身動きが取れない。
そのま彼女の肩口に刀が迫るが、その迫りくる刀を彼女は裏拳で刀身の横っ面を叩き強引に軌道を変えた。
2人目の斬撃を躱したが、先頭の男が軽く跳躍すると、その下から3人目の男が現れ1人目の男と同時に、左右から切り上げを行いソフィアへと切りかかった。
「姉御ぉおおおおおおおお!」
態勢が崩されている状態ではいくらソフィアでもこれはマズいと思ったのか、ゴウキが叫んだ。
「まだまだ甘いわね。」
ソフィアがニヤリと笑いながら呟く。
ビタァアアアアアア!
下からソフィアの胴へ左右同時に迫る斬撃を、ソフィアはその剣を難なく素手で受け止めている。
迫り来る刃を両手の親指と人差し指で軽く摘まむような仕草でだ!
パキィイイイイイイン!
甲高い音が直後に響く。
「しっ!」
受け止めた刀身を軽く手首を捻るだけで半ばから折れてしまい、その折れた刀身を男達へと投げつける。
「「がっ!」」
男達の額に深々とソフィアが投げた刀身が突き刺さった。
2人目のまだ空中にいる男に対し、ソフィアは軽く膝を突き上げる。
「がはぁああああああああああああ!」
彼女の膝が男の顎に炸裂しクルクルと回転をしながら後ろに吹き飛び、地面を何度もバウンドし止まったがピクリとも動かない。
ソフィアが優雅に地面へと着地すると、額に刀身が突き刺さった男達は、ソフィアの後ろに落ち同様にピクリとも動かなくなった。
あまりの光景に残りの男達が慌てて止まり、ソフィアの周りを囲むようにしている。
「す、すげぇ・・・」
ゴウキの感嘆の声が響いた。
「三位一体の同時攻撃、あなた達にしては考えた戦い方だったわね。」
ソフィアがじろりと周りに殺気を放ちながら呟く。
「でもね、私相手にはまだまだ戦略が足りないわね。」
グッと右足を踏み出し、右拳も軽く前に突き出して構え、軽く首を捻った。
ソフィアの首を捻る動作と同時に、周りの残っていた男達が再び3人一組となって、3組がソフィアの周りをグルグルと回っている。
「今の私の戦いを見て少しは学習したようね。だけど、それだけでは『私達』の相手になるにはまだまだ足りないわ。」
「我らモモチ流の奥義、それを見てもその余裕の顔がいつまでいられるかな?」
男の一人がソフィアへと言葉をかける。
「へぇ~、ちゃんと話せるんだ。でもね、その言葉が最後の言葉になるかもね?」
「ふざけるな!いくら勇者パーティーだろうが、我ら刹那の誤差すら無い同時攻撃を躱せるはずがない!さっきのは貴様の力量を測る為の捨て石だ。おかげで貴様の力量は把握した。3人一組の3組同時なら必ずや我らが勝てる!泣き叫ぶ方は貴様だ!」
「そうなの?だったら頑張って頂戴。まぁ、無駄な努力だと思うけどね。うふふ・・・」
男達を挑発するかのようにソフィアが口に手を当て笑う。
「黙れぇええええええ!
一糸乱れぬ動きで一斉に男達がソフィアへと飛びかかった。
「誰が私一人で戦うと言ったの?」
「サンダー!ブレイク!」
ドガガガァアアアアアア!
「「「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!」」」
突然、空より巨大な稲妻が男達へと落ち、絶叫が辺りに響いた。
「ば、馬鹿な・・・」
半数の男達が黒焦げになりピクリとも動かない。
残った男達もピクピクと体を振るわせ、やっとの状態で息をしていた。
声を発していた男が上空を見上げ息を呑む。
「なぜ人族が空を飛んでいる?そんなのあり得ない・・・」
ガタガタと震え信じられないように上空に浮かんでいる人物を見上げていた。
「言ったでしょう?『私達』だってね。あまりにも隙があり過ぎだったわよ。」
ソフィアが微笑みながら上へと視線を向ける。
「シャルにフラン、上手くいったわね。」
その視線の先には白い大きな翼を生やしたシャルロットと、漆黒の翼を生やしたフランが浮いていた。
「ソフィアお姉様、ここまで油断してくるとは思いませんでしよ。おかげで確実に当てられましたね。取り敢えず予定通り半分は生かしておきましたよ。」
「そういう事!」
ソフィアが男へとパチンとウインクをする。
「我らモモチ流がこんな小娘達に・・・、だが!」
残った男達が懐に手を伸ばし黒い丸薬を口に入れ飲み込む。
次の瞬間!
「「「がぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
男達の額から漆黒の大きな角が生え、体もみるみると肥大化し立ち上がった。
「ぐへへへ・・・、これなら貴様達には負けん・・・、本気の力を見せてやる・・・」
「そうはさせないわ!」
スタッ!
フランが漆黒の翼を広げ地面へと降り立つ。
その手には赤黒い巨大な大剣が握られていた。
「き!貴様は!」
男が叫ぶがフランは優しく微笑んで男に視線を送る。
「あなたのようなクズに名乗る名前は無いの。それに聞いてもあなた達はもう終わりだからね。いくらジャキの角を取り込んでもね。」
「な、何だとぉおおおおおおおお!」
パキィイイイイイイ!
男が叫んだ瞬間、ガラスが割れるような音がいくつも聞こえてくる。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
男達が叫び額の角が粉々に砕け、全身が砂となって崩れ始めた。
「ど!どいうい事だ!」
「もうあんた達の弱点は分かっているし、どれだけパワーアップしようが無駄よ。それ以前に多少のパワーアップくらいじゃ私達との絶望的な実力差は埋められないからね。グールになろうが、今の私の動きが見えないならお話にならないわよ。」
パチンとフランが男へとウインクをする。
「今のは貴様の仕業か?いつの間に・・・、だが!」
残った男の全身が大きく膨らむ。
「俺は他の奴と違うんだ!俺は負けん!俺こそが最強なんだよぉおおおおおおおおおお!」
先ほどよりも遥かに素早い動きでフランとの距離を縮め、フランを両手で掴もうとしてくる。
斬!
フランと男の間に銀色の一筋の光が走る。
「悪いですが、あなた達にはこの世から退場してもらいます。」
いつの間にかミヤビが剣を鞘に納めた残身の姿勢で2人の間に立っていた。
パキィイイイイイイ!
男の角が粉々に砕け、直後に体が頭頂部から縦に左右に分かれ始めた。
「い、嫌だ・・・、死にたくない・・・、死にたくなぁあああああああああああああああああああ!」
バサッ!
真っ二つに左右に分かれた瞬間、全身が粉々に砕け砂となって消滅した。
「これが外道の力を手に入れた者の末路よ・・・、私達はそんな存在を許さない・・・」
静かにミヤビが呟いた。




