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324話 それぞれの成長

「つまらない男を殴ってしまったな・・・」


熊がアッパーを放った後の残身でボソッと呟く。


その様子を見ていた獣人族の母娘が目をキラキラさせながら熊を見ているよ。


(まさか?)


彼女達はどうやらアライグマの獣人みたいで、そんな感じの耳だし縞々のフサフサな尻尾が特徴的だよ。

獣人は基本的に耳と尻尾で種族が分かるけど、同じ種族同士で家族になるものだが、今回は完全に熊に惚れているようだよ。


(あの熊が生意気な・・・)


しかもだ、その母娘がかなりの美人母娘なのもねぇ~


人の恋愛を見るのが大好きなアンが母娘をニコニコとした表情で見ている。


「レンヤさん!」


唐突に俺の顔を覗き込んだ。


「私達でゴウキさんを応援しましょうよ!特にあの娘さんの目は確実です!恋する乙女の目ですよ!うふふふ・・・、私達が恋のキューピット役に・・・、楽しみですね。」


「お、おぅ・・・」


アンよ・・・


俺は思うのだが、これって余計なお世話じゃないか?

こういうのは本人同士でお互いの距離を縮めて恋人に発展させるのでは?


あらら・・・


キョウカ姫もアンと同じ目で母娘を見ている。


キョウカ姫よ!あなたもアンと同じか!


ただねぇ~~~


あの熊がすっごい可愛い子をGETするなんて、何か似合わないっていうか、もっと面白いネタが降臨しないかと思っているのだが・・・


まぁね・・・、熊はどう見ても恋愛下手だろうし、俺達が手伝ってあげなくては熊には春が来そうにないだろうしな。


だけど、後で絶対にアン達にネタにされ揶揄われるのは間違いないぞ。


そんな光景を楽しみしている俺だけどな。




熊がズイッと残っている男達へ体を向けると、男達がビクンと震える。


「さてと・・・、お前達もあいつと同じように星になるか?思った以上に頑丈な体だったからバラバラにならずに吹き飛んだけど、お前達だと汚い花火になって飛んで行くかもな。」


ゆっくりと熊が死刑執行人のような雰囲気を出しながら男達へと近づく。


ガタガタと震えていた男の1人が、何かを思いついたような表情になって後ろにいる女達のところへ駆け寄る。


「お前等!この女達を人質にするんだ!これだけいれば俺達が逃げる時間を稼げるはず!」


そう言って手枷を付けられている女の1人の腕に手を伸ばした。




「何を甘い事考えているの?」




シュン!



何か空気を裂く音が聞こえる。



ゴト・・・



男の首がいきなり落ち、首の無い胴体が前のめりになって倒れた。



ドシャ!



倒れた男の後ろにはいつの間にか狐耳の獣人女性が腰に差された鞘に入ったままの剣を握っている。


「ふふふ・・・、テレサお姉さまに教えてもらった『居合切り』、ここまでの切れ味なんてビックリよ。これでお兄さまの役に立って正式にお嫁さんにしてもらうんだからね。」


その言葉で少しうっとりした表情のタマモだった。


「こら!」


ゴン!とタマモに拳骨が落ちる。


「すぐに調子に乗る癖はダメだってテレサ様に言われていたでしょう?」


拳骨を落としたミヤビがタマモに説教をしているよ。


こんな光景はいつもだったりしてな。

仲が良くて結構だよ。


「本当に良かったですね。」


アンが嬉しそうに俺に微笑んでくれた。


「そうだな・・・」


あの生体兵器に操られタマモはミヤビを死に至らしめた。

それはソフィアのおかげで生き返ったから良かったけど、タマモの心にはやはり姉を斬った事実がとても重く残っていて、最初の頃は仲良しに見えるけど、どこかよそよそしい雰囲気だったよ。

まぁ、テレサ&トワ特製地獄の特訓のおかげでそれどころじゃないくらいに追い詰められていたから、お互いに力を合わせて何とか乗り越えたみたいだった。

そのおかげでか再び姉妹が仲良くなったようだとテレサが教えてくれたよ。


しかしなぁ・・・


以前にも増してタマモのアプローチが強くなったのは気のせいか?


それだけテレサの特訓で根性が付いたかも?



「それによ!」


あらら・・・、まだミヤビさんの説教が続いているよ。


「私達の剣の腕が上がったのはクロエ殿に打ってもらった剣のおかげよ。テレサ様から教えていただいた剣術は剣でなく刀を前提とした剣技だからね。その技に合わせて最適な刀を打ってくれた事に感謝しなさい。」


「わ、分かりました・・・」


タマモの耳と尻尾が見て分かるくらいに垂れてしまっているよ。



「レンヤさん、アレ・・・」


アンがこっそりと俺に指を差して教えてくれる。


おい!


ミヤビさんがタマモに説教をしている内に男共が逃げようとしているぞ!

捕まえた女性達を置き去りにして我先に駆け出していた。



「逃がす訳ないでしょう!」



ミヤビさんは最初から分かっていたようだった。


腰を落とし鞘に収まったままの刀の柄を握る。



シュパァアアアアア!



目にも止まらぬ速さで刀を抜き、横に薙ぎ払った。




斬!




「「「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!」」」





男達の断末魔の声が響いた。


男達全員の胴体が真っ二つに分かれ、上半身がすぐに地面に落ち、下半身だけがしばらく走っていたが、すぐに倒れ全ての男達がミヤビさんの手によって倒されてしまっていた。


「テレサ様直伝の必殺剣!これぞ裂空斬!真空の刃が貴様達を断ち切る。この技なら下衆な血でこの大切な刀が汚れないから良いわね。」


ミヤビさんが抜いた刀をゆっくりと鞘に戻し、俺に向かってニッコリと微笑む。

いや!

俺じゃなくて俺の後ろにいるテレサへと微笑んでいた。


「あの剣技をちゃんとモノにしたようね。あの2人はホント教え甲斐があったわ。」


テレサが嬉しそうに2人を見ていた。


「タマモは元々が天才肌だったしすぐに色々と覚えてくれたけど、ミヤビさんの潜在能力はタマモ以上だったわ。もっと時間があれば無蒼流の基本技まで覚えられたかもね。」


「そんなすごい才能だったのか?」


テレサが呆れた感じで両手を広げている。


「マジで凄いわ。鑑定はしていないけど、彼女は間違いなく剣聖の称号持ちだと思う。多分だけど、一度死を経験してから目覚めたんじゃないのかな?人間って臨死体験をすると色々と目覚める事があるって聞いたからね。」



それにしても・・・


熊もそうだけど、ミヤビさんもタマモもこの1ヵ月での成長が著しかった。

キョウカ姫も回復魔法を覚えてしまったしな。



「兄貴、囚われていた女達は無事に解放出来ましたぜ。それにしても・・・、新しくなった領主のザンギはとんでもない男ですな。あちこちの街から女を集めてハーレムを作るなんて・・・、旦那や恋人がいようがお構いなしに集めて、逆らえば殺す。いくら俺でもここまで酷い事は考えませんでしたよ。」


「それは仕方ないんじゃないのかな?」


ラピスが冷たい視線で死体になってしまった領主の兵たちを見ている。


「あの領主は獅子族の獣人らしいしね。ライオンのオスはハーレムを作るのは当たり前、そんな習性が思いっきり出てしまったのかな?例のアレは潜在欲望をも掘り起こすみたいだしね。多分だけど、領主クラスにはアレをばら撒いている可能性があるわ。上陸してから情報を集めているけど、いきなり領主が代替わりして圧政を始めたり、凶暴な暴君になって領民を弾圧している情報があちこちから入っているしね。」


本当に厄介な兵器をばら撒いてくれるよ。

上の立場にいる領主たちがこんな状態なら、間違いなくまともな統治も出来ない。

街がまるで無法地帯になったような光景を見てきた。


一帯を治めている領主を倒すか元に戻し、ならず者さえ倒せば周りの街も平和になるのは分かつている。

俺達が上陸する前からでも一部の獣人達は平和を取り戻す戦いを始めていたが、ジャキがばら撒いた身体強化の薬で強化された兵には太刀打ち出来なかった。

あの兵器に憑りつかれてしまった者や薬で強化された者の戦闘力はかなりのものだ。

潜在能力を100%発揮し、しかも痛覚が無くなるから、戦いを挑んでも相手が動けなくなるまで戦い続けなくてならない。

最初の頃は力のある獣人が圧政に対してゲリラ的に反抗していたが、ならず者の介入もあり次々と殺されてしまい、今では 各街がならず者に統治されてしまう状態になっていた。


この街もそんな街の1つだった。



スタタタ!



キョウカ姫の後ろに何人もの黒づくめの獣人達が突然現れ、一斉に膝をつき頭を下げている。


彼らは熊と一緒にヴリトラに鍛えてもらった獣人達だ。

1ヵ月間、誰も脱落する事なく全員が訓練を乗り切ったんだよな。

そのおかげか、全員の戦闘力が向上し、最低でも俺達が倒した六輝星並みの実力になってしまったよ。

その中でも特に優秀な連中を姫の影として抜擢し、諜報活動などをしてもらっている。

それが何とも優秀過ぎて、エルフの暗部を組織しているラピスもスカウトしたいくらいに凄い連中になってしまった。

彼らがこの街に捕らえられていた女性達を探し出し救出した訳だ。


「ご苦労様でした。」


姫が振り返り男達へと微笑んだ。

男達が黙って頷く。

彼らの後ろには数十人の女性達が立っていて、信じられない表情で姫を見ていたが、一斉に涙を流しながらお互いに抱き合っていた。


「これでシモダの街も解放出来ましたね。」


解放された女性達の方に向け再び微笑んでいる。


「このイズ地方の領都であるアタミにいる現領主を倒せば、この地域は元に戻るのでしょう。この国を元に戻す・・・、必ず兄の野望を阻止します。」


すぐにキリッとした表情になりアンへと顔を向けると、アンも同じ表情で頷いた。


「この地方の元々の領主は人格者だったようですね。さすがに彼を殺して領主に成り代わるには無理があったみたいですよ。ラピスさんの情報では、父親を殺してしまえば一気に反対勢力に反抗されてしまうので、彼を人質にして反抗勢力の力を抑えていたようです。それならば、彼さえ救出出来れば戦いもキョウカさんにとって有利になるでしょうね。」



バッと右手を前に掲げた。



「みなさん!次の戦いがこのイズ地方の未来が決まるでしょう!現領主のザンギを倒すのはもちろんですが、リボク様を救出するのも忘れてはなりません!彼がいなければこの地方をまとめる事が出来なくなるでしょう。戦いは相手を倒す事だけが全てではないのです!まずは彼を救出する事を優先して下さい!」


全員が頷いた。


「それと!最重要の命令です!これはお願いではありません!必ず守ってもらう命令です!」





「絶対に死なないで下さい!必ず私達のところに戻ってくる!これだけは必ず守って下さい!」





「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


全員が雄叫びを上げるように声を出していた。




「兄貴、俺達は先行してアタミの街へ行きますよ。」


熊が俺に挨拶をしてから影の連中へと歩き始めた。



ダッ!



いきなり母親が駆け出しガバッと熊に抱きついた。


「行かないで下さい!」


(おい!どうした?)


いきなりの事で熊も照れているのかかなり困惑した表情になっている。


(しかしなぁ・・・)


そんな光景を女性陣達がニマニマした表情で見てるよ。

これはこの展開を完全に楽しんでいるな。


「ちょ、ちょ、いきなりどうした?」


熊が照れくさそうに母親の顔を見ているけど、その母親の顔から涙が流れている。


「あの街は・・・、アタミの街は今や魔境と呼ばれるくらいに危険な街です。そんな街にあなた様を行かせる訳に行きません。主人に先立たれて16年・・・、あなた様の姿に主人の面影を見ました。あなた様のお姿が私の中から離れなくなってしまったのです。だけどもう嫌なのです。私が好きになった人がいなくなるのが・・・、だから・・・」


「心配するな・・・」


熊が優しく母親の頭を撫でる。


「俺は死なんよ。絶対にな・・・、それが兄貴と交わした約束だ。だから安心して待っていろ。」


「はい・・・」


ゆっくりと母親が頷いた。

どうやら熊の言葉に安心したようだな。


しかしなぁ・・・


こんなところでラブロマンスが始まるとは想像もしていなかったよ。

それにしても彼女は凄く積極的だよな。

それだけ熊に惚れてしまったのか?


あの熊が?


いきなりモテ期に突入?


(信じられない!!)


何かのドッキリでないかと思うくらいの唐突な出来事だった。



「シズ・・・」



ボソッと母親が呟いた。


「私の名前です。こんなおばちゃんですが・・、迷惑じゃなければ・・・」


「俺も男だ。ここまで好意を寄せられて黙っていては男が廃る。」


熊が母親、シズさんを抱きかかえた。


「俺はそんなに立派な男じゃないが、あんたに嫌われないように頑張るよ。この戦いが終わるまで待っていてくれないか?終わったら正式に一緒になろう。」


「はい・・・、嬉しいです。」



(お~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!)



あまりの展開に俺の頭がついていけない!



だけどな・・・



一つだけ分かっている。



熊よ!


これはフラグだぞ!


しかも!


『戦いが終わってから』なんて、絶対に死亡フラグに間違いないよ!


俺も精一杯のフォローはする。


だから、絶対に死ぬなよ!


本当にシャレにならんからな!


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