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33話 孤児院①

あけましておめでとうございます。

「レンヤ様・・・」


サブマスターがゴブリンキングの死体を見ながら俺の名前を呼んだ。

すぐにグルンと俺の方に向き直った。


「ありがとうございます!この町は救われました!」


ガシッと俺の手を握って涙を流しながら感謝の言葉を言っている。


(いやぁ~、俺が倒した訳じゃないんだけど・・・)


ラピスがキングを収納魔法に収め、アンと一緒に俺のところに戻って来た。

サブマスターがアンに握手をしようとしたが・・・


スカッ!


サッとアンがサブマスターの手を躱してしまった。


「私に触って良い男性はレンヤさんだけだからね。セクハラで訴えるわよ。それとも、あなたの手を切り落とそうかしら?」

とても怖い顔でサブマスターを睨みつけていた。


「私も同じだからね・・・」

ラピスも冷たい視線でサブマスターを見ていた。


「あわわわぁぁぁ・・・、す、すみません・・・」


(何か気まずい空気になってしまったよ。)


2人の冷たい視線でビクビクしてしまったサブマスターの背中をポンポンと叩いた。

「すまないな、ちょっと気難しい連中ばかりで・・・」


「い、いえっ!気軽に女性の手を握ろうとした私が悪かったです!」

直立不動の姿勢でサブマスターが叫んでいた。


(はぁ~、この軍隊式の喋り方は何とかならないかな?厳つい見た目だけど根は真面目そうだしなぁ~、ホント、疲れるよ・・・)


「まぁ、キングも倒したし、取り巻きのゴブリン達もアンとラピスでキレイに片付けておいたから、もう大丈夫じゃないか?キングの死体はギルドに持ち込むから収納しておくよ。現物があればみんなも安心するだろうしな。」


「ありがとうございます。何から何までお世話になり申し訳ありません。」

ペコペコとサブマスターが頭を下げていた。



ギルドに戻って来たのだが・・・


「レンヤ君ゴメンね。まさか壁の修繕依頼でゴブリンキングに出くわすとは思っていなくて・・・、でも無事で良かったわ。」


マナさんが申し訳なさそうにしている。


「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。キングくらいならあっという間に倒せるからな。」



しかし、周りの視線が痛い。


「おい、昨日はアースドラゴンだっただろ。今日はゴブリンキングを持ち込んで来てたよ。」

「あぁ、俺も見た。よくあんな化け物を倒せるものだよ。現われたって聞いた時は、もう俺は終わったと思ったくらいだよ。」

「勇者パーティー恐るべしだよな。」

「しかもだ、アレを倒したってのは、勇者じゃなくて銀髪の可愛い子ちゃんの方だぞ。魔剣士と聞いていたけど、どれだけ強いんだよ?俺、アタックしようと思っていたけど、とてもとても・・・」

「可愛いだけじゃなくて勇者に匹敵する強さ・・・、俺もファンクラブに入ろうかな?」



(う~ん・・・、昨日よりも更にアンのファンが増えてしまった気がするが・・・、これで、昨日の夜みたいにメイド服姿で現われると、全員が興奮して鼻血だらけでぶっ倒れるんじゃないか?)


「レンヤ・・・」

ラピスがニコニコと俺を見ている。


「私達のこのメンバーで目立たない方が不思議よ。でもね、私は嬉しいんだ。」


「どうしてだ?」


「だってね、今まで散々馬鹿にされていたレンヤが認められたんだよ。それが嬉しくてね。」


「ありがとうな。俺も勇者の称号に恥じないように頑張らないと。」

ラピスの頭を撫でると嬉しそうに腕を抱いてくれた。



「レンヤ君、カードを出してちょうだい。」

マナさんに言われてカードを渡した。

「今回のゴブリンキングの討伐で、ギルドから報奨金が出たのよ。」


「あっという間に倒したから、別にいらないけど・・・、アースドラゴンの頭だけでカードの残高がとんでもない数字になっているし、これ以上は何か気が引けるよ。」


しかし、マナさんがニコッと頬笑んだ。

「遠慮しないで受け取って欲しいな。ゴブリンキングって本来は騎士団が総出で対処しなければならない程のレベルなのよ。私達からすれば災害級のモンスターなんだからね。レンヤ君達がいなかったら、町に侵入されたら被害は尋常じゃなかったからね。建物以外にも人がどれだけ亡くなったか・・・、被害額を考えれば報奨金は安い方だから安心して。」


「分かったよ、受け取らせてもらうよ。」


カードを受け取り残高を見たけど・・・


(おいおい、500万ゴールドって・・・、これだけで数年は遊んで暮らせるだけの金額だぞ・・・)


ニコニコしていたマナさんが真剣な表情になった。

「それとね、レンヤ君、ギルドの予想よりも早かったけど、この町の領主様がレンヤ君とラピスさんに会いたいってコンタクトを取ってきたわ。レンヤ君が出かけていた時に領主様の使いの人が訪ねて来たのよ。」


「もう来たのか?」


「ええ、レンヤ君だけならここまで早く伝わらなかったと思うけど、ラピスさんもいるからねぇ~、勇者に大賢者、この2人の組み合わせで噂にならない方がおかしいわ。今はギルドの方で断っているけど、どこまで断り続けられるか・・・」


「確かに、ここの領主様は特別だからなぁ~」


「そうね、この町の領主様は辺境伯様だからね。しかも、辺境伯様の姉が国王様の2番目の妻だし、何とかしてこの国に取り込もうと必死になるのは目に見えて分かるわ。」


「はぁ~」っとマナさんがため息をついている。


「マナさん、心配するな。ギルドは国に属していない組織だし、国も俺とギルドを敵に回してまでちょっかいを出してくる事は無いと思うよ。しかも、今の国王はアレックス賢王の再来と言われているくらいの国王だからな。そんなに無理な要求はしてこないと思う。」


「そうね、いくらこの国が大国でも、レンヤ君とラピスさんを敵に回せば国が滅ぶって分かるでしょうね。」

クスクスとマナさんが笑っている。


マナさんやぁ~い・・・、俺はそんな意味で言った訳でないし、ここまでする事はないよ。

そんな事をしたら、俺が魔王になってしまう。


「まっ、数日後にまた来るって言っていたから、それまでに対処を考えておきましょう。ラピスさんもいるから、ギルドの方針もすぐに出るからね。」



「姉様、そろそろ・・・」


「アン、ごめんね。ゴブリンキングの事でバタバタしていたから、こんな時間になっていたなんて気が付かなかったわ。すぐに後片付けをして終わらせるね。」



俺とアン、ラピスでギルドの待機所のテーブルで待っていると、マナさんがバタバタと走ってきた。


「みんな、ごめんね。じゃあ行きましょう。」




「ところで、お昼はどうする?」


道を歩きながらみんなに聞いてみた。


「レンヤさん、私、またあの串焼き肉を食べたいな。昨日、レンヤさんが頂いたものを夕食で食べたでしょう。とっても美味しかったから、また食べたいなって思ってね。」


「レンヤ、それ、私も賛成ね。エルフってあんまり肉は食べないけど、昨日の肉は格別だったわ。アンに言われたら、私もまた食べたくなっちゃった。」


「私も賛成よ。マリーさんの串焼き肉は最高だからね。それなら、たくさん買って孤児院のみんなで一緒に食べたらどう?みんなも喜ぶと思うわ。」


マリーさんの串焼き肉は俺も大好きだ。この国一番の美味しさだと思う。無能と呼ばれていた頃の生活は厳しかったけど、お金に余裕があった時は自分のご褒美として買っていたなぁ~、昨日、もらった串を夕食でみんなで食べたけど、初めて食べたアンもラピスも大絶賛だった。


(あっ!俺もよだれが・・・)



「よっ!マリーさん。」

マリーさんの屋台の前まで行ったけど、マリーさんは忙しそうに串を焼いている。

お昼時だから飛ぶように売れているな。


「レンヤかい!聞いたよ!あんた本当に勇者になったんだね。朝からその噂で凄い事になっているよ。大出世だねぇ~」

マリーさんが嬉しそうに俺を見ている。

しかし、俺の後ろの方に視線を移して、『はぁ?』とした表情になっていた。

「昨日の可愛い子ちゃんは覚えているけど、何か増えてないか?しかも、マナ、あんたまで一緒に?」


マナさんがにっこりとマリーさんに微笑むと、マリーさんが驚いている。


「マ、マナ・・・、あんた、まさか?」


「マリーさん、そうよ。私、レンヤ君と結婚する事になったの。その報告で孤児院に行く途中なのよ。」


「はぁあああああああああ!まさか、あんたが・・・、それじゃ、もう1人の可愛いエルフの姉ちゃんもかい?」


「そうよ、私もね。」

ラピスもニコッと微笑んだ。


「はぁぁぁ~~~、レンヤ・・・、あんた、どれだけモテモテなんだよ・・・」


「正直、俺も何でモテるのかよく分からん。だけど、必ずみんなを幸せにするよ。」


「ふふふ、頼もしい事を言うようになったねぇ~、お祝いだぁあああああああああ!全部持ってけぇえええええええええええ!」


「ちょ、ちょ、ちょっと!マリーさん、それはやり過ぎだよ。」

いくら何でも大判振る舞いし過ぎだよ。

「ちゃんと収入も入るようになったから、今回はしっかりお金を払うよ。彼女達の前でカッコ悪いところを見せられないからな。」


「分かったよ。お金でも良いけど、残っていたらドラゴンの肉と交換してくれたら嬉しいんだけど、まだ残っているかい?」


「あぁ、大丈夫だ。」

そう言って、収納魔法から昨日と同じくらいの大きさのドラゴンの肉を取り出した。


「おっ!あるのかい。嬉しいね。」

マリーさんがニコニコしている。

「昨日な、旦那達に振る舞ったけど、本当に涙を流しながら喜んでくれてねぇ~、また食べさせてあげたいと思っていたんだよ。さすがにこんな肉を売ってしまうのは勿体なくて無理だけど、家族で食べる分には最高に幸せを感じる肉だったからね。ありがたいよ。」


ドラゴンの肉と交換で大量の串焼き肉を包んでもらった。

これだけあれば孤児院のみんなもお腹いっぱいになるだろう。




マリーさんと別れ、町の教会の前に来た。

ここは教会だけど孤児院も隣に併設している。


「レンヤ君は初めてじゃないわね。」


「そうだよ。ギルドの依頼で子供達の遊び相手を何度かしているよ。みんな元気だよな。」


「そうね、私は久しぶりに顔を出すから、みんなに会えるのが楽しみね。」

嬉しそうなマナさんを先頭にして、教会の中に入っていった。


中に入っていくと、聖堂の中で司祭様が祈りを捧げていた。


黙って見ていたが、祈り終わったタイミングを見計らってマナさんが声をかける。

「司祭様、お久しぶりです。」


司祭様が振り返り俺達に微笑んだ。見た感じだと40代後半に見える。

「おぉ、マナ、久しぶりだね、元気にしているかい?」


マナさんもニコッと微笑む。

「はい、おかげさまで元気ですよ。」


司祭様がニコニコした表情でマナさんを見ていた。

「ふむふむ・・・、どうやら単に挨拶だけで私達に会いに来た訳では無さそうだね。いつもよりもとても嬉しそうだよ。もしかして、後ろの方々に関係しているのかな?」


「さすが司祭様ですね。お見通しですか・・・」


「それはそうだよ。いつになく嬉しそうだからね。しかも、マナが人を連れて来るのは初めてだし、すぐに分かったよ。勇者に大賢者、それに魔族なのに称号持ちとは珍しい組み合わせだしね。」


俺達の間に一気に緊張が走る。

アンとラピスから殺気がブワッと溢れ出す。

(何だと!もしかして、この司祭様は鑑定持ちか?しかも、かなり高レベルの・・・)


「そんなに殺気を出さないでくれないか。私は敵対する気は全く無いからね。マナが君達を信頼しているんだ、私も君達を信じているよ。」

相変わらず司祭様はニコニコとしているが隙が無い佇まいだ。

依頼で何度か会った事はあるけど、こんな司祭様の姿は見たことが無い。俺が強くなったから分かったのか、司祭様の強さもかなりのものだと理解出来た。


「レンヤ君、安心して。司祭様は信頼出来る方だし、決してみんなの事は言わないからね。」



「あら、お客さん?」


奥の扉の方から声が聞こえる。


「この気配はマナね。久しぶりね。」


司祭様と同じくらいの年齢の女性がニコニコしながら近づいて来た。


「レンヤ君は知っているけど、彼女達は初めてだから君達に紹介しよう。私の妻でヘレンだよ。」


「初めまして。とても大きな波動を感じたものだから、一体誰が来たのかと思ったわ。しかも3つも・・・」


(波動?この人はもしかして?)


ヘレンさんは目が見えない事は知っていたが、気配や人の波動を察知するなんて知らなかったよ。


しかし、ヘレンさんはニコニコしている。


「10年前の流行病の後遺症で目が見えなくなったけど、おかげでそれ以上のものが見えるようになったわ。その人の気配や雰囲気が分かるようになったからね。あなた達はとても大きな存在ね。レンヤ君も初めて会った時は小さな光だったけど、今はとても大きな光を感じるわ。しかも、全てを包み込むような優しさを持っている。まるで女神様が近くにいるような感じよ。マナが好きになったのも分かるわよ。」


「ヘレンさん・・・」

マナさんが真っ赤な顔でモジモジしている。


「マナ、ゴメンね。最初から聞こえていたのよ。しかも、あなたからとても幸せな波動を感じるわ。黙っていても分かるわよ。どうやらレンヤ君と良い事があったのかな?」


「は、はい・・・、実は、レンヤ君と結婚する事になりまして・・・」


「ふふふ、やっぱりね。そうなるんじゃないかと思っていたのよ。」


「そうなんですか・・・」


「そりゃそうよ!マナからレンヤ君に対する波動がヒシヒシと伝わっているからね。これは間違いなく恋の波動よ。初めてレンヤ君に会ったのはギルドの依頼だったけど、あなたがレンヤ君を案内で連れて来ていたわよね。その時からあなたからレンヤ君に波動が向けられていたのは感じていたのよ。」


ははは・・・、その時からって・・・

その後、何回かここに来たけど、ヘレンさんにずっとどうなるか見られていたのか。


「そうなると、マナ、君はいつかはこの町を離れる事になるんだね?私は嬉しいよ、この孤児院で育った者が幸せになるのを見られてね。」

司祭様が俺をジッと見つめた。

「レンヤ君、君は苦労したと聞いているよ。だけど、こうして勇者になったのだな。その挫けない心をずっと持ち続けて欲しい。マナを頼むよ。必ず幸せにしてくれ。」


「はい、分かりました。必ず幸せにします。」

俺は力強く頷いた。


「しかしなぁ・・・」

ニヤッと司祭様が笑った。

「結婚するのはマナだけではないんだろう?この2人もだよな?」


「そうですが・・・」


ブワッと司祭様から強烈なオーラが噴き出した。

る気満々の殺気だ!

「マナ以外の奥さんの相手ばかりしてマナを蔑ろにするんじゃないぞ。絶対にだからな。確かに私はマナの本当の父親ではないが、娘と思って大切に育てていたのだよ。マナを悲しませる事があったらどうなるか・・・、私の全身全霊をもってレンヤ君、君を地獄に落とすからな。」


「は、はい・・・、分かりました。」


(怖い、怖いよ・・・、いつもニコニコしているイメージの司祭様がこんな過激な人とは思っていなかったよ・・・)

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