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323話 獣王国上陸

「いやぁああああああああああ!」


「ぎゃはははぁあああああ!どんなに叫ぼうが無駄だよ!無駄!」


男が若い娘の腕を掴み強引に引き寄せようとしている。


「や、止めて下さい!どうか娘には手を出さないでくだ・・・」


娘の母親が男の腕に捕まり何とか娘を引き剥がそうとしているが、女が厳つい男の力に抗う事なんて無理だった。


「うるせぇえええええええ!」


ドカッ!


母親が男に足蹴にされ地面へと転がってしまう。


「お!お母さん!」


娘が男の手を思いっきり振り切り、慌てて母親へと駆け寄り抱き起こした。


「ど、どうしてこんな事に・・・」


倒れている母親を抱き起しながら、女性がギリギリと目の前にいる男達を睨んでいた。


その男達は20人は下らないだろう。

しかも!

そいつらの後ろには手枷を嵌められた女性が何人もいる。

どれも若く綺麗な女性ばかりだったが、力無く項垂れており反抗する気も無さそうだ。


「決まっているだろうが!この街は俺達が支配する事になったんだよ!かつての領主の息子、ザンギ様が治める事になってな!配下の俺達がこの街を見回る事になった訳だ。だからな、もう今までの生温い事は無くなった!俺達が法律だよ!力の無い貴様らは俺達の奴隷になるんだよ!」


「そ、そんなの・・・」


女性が力無く地面へと蹲ってしまう。


「そのザンギ様の領主就任祝いの宴に街中の若い女を寄越せとの命令だからな、大人しくザンギ様にご奉仕するんだな。」


先頭にいる男が娘を見てペロリと舌なめずりをする。


「げへへへ・・・、お前はここにいる女達の中でも特に綺麗だな。これだけの上玉をザンギ様に献上するのも勿体ない。女の1人や2人くらいならいなくなってもバレないだろし、お前は俺がもらって可愛がってやろうじゃないか。」


「親分・・・」


後ろに控えていた男達の1人がニヤニヤした顔で先頭の男の下へ近寄る。


「もちろん、飽きたら俺達へ貰えるんでしょうね?親分だけはズルいっすよ。」


2人が目を合わせ「ぐふふ・・・」と下品な笑い声を発した。


「分かっているさ。もちろん、お前達にも何人か回してやるぞ。ザンギ様が領主になってからは最高だな!こうして俺達が好き勝手出来るし女にも困らん!」


口元がにやけ欲望丸出しの視線が、娘の全身を舐めな回すように向けていた。


その視線がとても気持ち悪いのだろう、娘がガクガクと震え腰が抜け座り込んでしまっている。

娘の前に母親が立ちふさがり両手を広げた。


「お願いです!娘だけは!どうか娘はお目こぼしを!代わりに私が行きます!娘を助けてくれるなら私は何でもします!どうか!どうかぁあああああああ!」


「邪魔なんだよ!」


男が再び母親を足蹴にし蹴飛ばしたが、砂だらけになってしまった母親は男の足へと縋りつく。

その手をまたもや足蹴にし、母親は手を押さえながら呻いていた。


そんな光景も男達は興味が無い視線を母親へと向けた。



「ババアは要らないな。この娘の母親だけあって綺麗だけど、それ以上に上玉な娘がいるから貴様はいらん。若い女はごろごろいるんだし邪魔だから死んでおけ。」



男がおもむろに剣を鞘から抜き振りかぶった。


「お母さぁあああああああああああああああん!」


娘が涙を流しながら叫んだ。



ドキャ!



「げひゃぁあああああ!」


男が情けない悲鳴を上げ、上半身が地面にめり込んでしまっている。

いつの間にか男と母親の間に大柄な筋肉質の男が拳を構え立っていた。

母親も娘も状況が理解出来ず、お互いに顔を見合わせ熊耳の男を見つめていた。


「大丈夫か?」


男が心配そうに母親の顔を覗き込み、手を伸ばしゆっくりと立たせた。


「は、はい・・・」


母親の頬が少し赤くなり俯き加減で頷く。

隣の娘は手を組み母親以上に赤い顔になって男を見つめていた。



「兄貴ぃぃぃ、いくら緊急事態だからって、いきなり剣を振り下ろすタイミングで目の前に転移させる事はないんじゃないですか?ちょっとビビりましたよ。」


熊耳の男が少し泣きそうな表情で母娘の後ろへと視線を向けた。


「熊、今のお前ならそれくらい何でもないだろう?アレの成果、俺達に見せてくれな。」


そこには黒髪の人族が腕を組んでニヤリと笑って熊耳の男へ声をかけていた。


「は、はぁ~、確かに咄嗟に出た拳がこんなにも軽く感じるとは思いませんでしたよ。」


「そういう事だ。お前達はあのヴリトラの特訓を乗り越えたんだ。もっと自信を持て!」


「は!はい!」


男が姿勢を正し敬礼を黒髪の人族へ向けた。



「お怪我は大丈夫ですか?」


いつの間にか母親の隣に銀髪の女性が立っている。


「あなた様は?」


「黙ってて。ヒール!」


銀髪の女性が母親へ手をかざすと、母親の全身が仄かに白く輝いた。


「い、痛みが・・・」


母親は不思議そうな表情で全身を確認していたが、目の前にいる女性の顔を見て慌てて土下座をしてしまった。


「こ!このお姿は銀狼族の!間違いありません!どうしてここにキョウカ姫様が!」


「姫様ですって!」


娘の方も母親の言葉に驚き慌てて土下座をしてしまった。


キョウカ姫が地面に膝をつけ母親の手を取り立たせる。


「今の私は兄のクーデターを止める為に立ち上がった、何の肩書も無い銀狼族のキョウカです。」


「し、しかし!」


「いいのですよ。私の兄はそれだけの大罪を犯したのですから、私が王族に留まる訳にはいきません。だから、私の事は姫とは呼ばないで欲しいの。」


「い!いえ!」


母親が首を振りジッとキョウカ姫を見つめている。


「あなた様がやはり私達の姫様です!誰が何と言おうとも!」


「そうです!あなた様は私達の希望です!」


娘も立ち上がりキョウカ姫の手を握った。


「あ、あなた達・・・」


キョウカ姫の目にうっすらと涙が溜まる。



「ふふふ・・・、良かったですね。これがあなたの人徳ですよ。」



いつの間にか母娘の後ろにアンジェリカが立って微笑んでいる。


「あなたがこれまで行ってきた事に間違いはありませんでしたね。こうしてみなさんが認めてくれているのですから。」


「はい・・・、兄からこの国を救う思いが強くなりました。みなさまのお言葉が私の力になります。必ずこの国を救います。」



「どういう事だ?」



離れたところにいる男達がザワザワと騒ぎ始めた。


「あれはキョウカ姫じゃないか?」

「まだ海の向こうにいるって話だよな?」

「いや、俺が聞いた話だと魔導国の連中に殺されたってだぞ。」

「そうだ、ザンギ様もそう言っていたぞ。その弔いで魔導国と戦争するって親分が言っていた。」

「姫の前にいる銀髪の女って?」

「見た事があるぞ。あの空に映った勇者パーティーの魔王じゃないか?」

「げっ!そうなら、あの黒髪の人族はまさか?」


等々と騒ぎながら少しづつ後ずさりを始めた。



「クソがぁああああああああああああああ!」


ゴウキに殴られ地面に上半身を埋めていた男の意識が戻り、叫び声を上げながら起き上がった。


「この俺様に何をしてくれる!貴様のような奴は死刑だ!即刻俺が殺してやる!」


血走った目でゴウキを指差し、怒りで全身がブルブルと震えていたが・・・


「あ・・・、あなた様は・・・、もしかして、六輝星のゴウキ様でしょうか?」


いきなり態度を変え、怒りで震えていた体がガタガタと恐怖で震えだした。


「もしかしてじゃなくて、俺はゴウキだが何か?」


ポキポキと拳を鳴らしながらゴウキが男へとじわじわと近寄る。


「い、いえ・・・、領主様からの命令で女を集めてこいとの事で・・・、ゴウキ様もどうです?ここにいる女数人をあなた様に捧げますから、お目こぼしを・・・」



「クズが・・・」



ゴウキがボソッと呟く。


「俺もついこの間までこんなクズと同類だったんだよな・・・」


グッと拳を構えた。


「だが、俺は兄貴達のおかげで目が覚めた。俺は兄貴と同じ力の無い者達の為の拳となる。貴様らぁあああああああ!覚悟しろよぉおおおおおおおおおお!!」



「「「げぇえええええええええええええ!」」」



男達が一斉に後ずさる。


「くそ!こうなったら仕方ない。たった1個しかないから余程の時以外には使うなと言われていたが・・・」


しかし、親分と呼ばれていた男の卑屈になっていた表情が突然変わり、ニヤリと笑いながら服のポケットから黒い丸薬を取り出す。


「黙れ!いくら貴様が最強の六輝星だろうが、俺はなぁ!ザンギ様から六輝星をも上回る力を授かっているんだ!見ていろ!六輝星を倒し俺が最強だという事をな!」


丸薬を口に入れ飲み込んだ。



ドクン!



男から禍々しいオーラが沸き上がる。


「ぐふふふ・・・、何て素晴らしい気分なんだ・・・、力が!力が溢れてくるぅうううううううううううううううううううう!俺は最強!誰にも負けないんだよぉおおおおおおおおおおおお!」


口から涎を垂らし血走った目でゴウキを見ていた。


「そうかい?」


しかし、ゴウキは薄く笑みを浮かべ男を見つめている。


「だったら、俺にその力が通用するか試してみな!」


人差し指を立てクイクイと挑発している。


「ふざけるなぁああああああ!いくら六輝星だろうが!今のこの俺には敵わないはずなんだよ!」


剣を抜き、切っ先をゴウキに向けた。


「死ねぇえええええええええええええええ!」


人の目には見えない程に常人を遥かに超えた男の剣がゴウキに迫る。



ビタァアアアアア!



「何ぃいいいいいいいいいいいいいい!」


男の驚愕の声が響いた。


「そ、そんなぁぁぁ・・・、俺の剣を素手で受け止める?避けるでもなく・・・」


ゴウキの左手が男の剣を掴んでいた。

真剣を素手で掴むのは普通ではまず不可能だ。

左手の人差し指と中指で剣を挟むように掴んでいる。


男が剣を引こうが左右に揺らそうが、剣を掴んだゴウキの左手はビクともしない。


「く!クソがぁあああ!」


「断念だったな。さっきは俺をどうするって言っていた?」


パキィイイイ!


クイッと左拳を軽く捻じると、剣が半ばより折れてしまう。


「そんな・・・、信じられん・・・、化け物か?」


信じられない表情で男が剣を見つめ、ゴウキに視線を戻したが顔面は冷や汗がダラダラと流れていた。


しかし、そんな表情が突然ニヤリとした笑い顔に変化する。

折れてしまった剣を捨て、懐から1本の鋭いナイフを取り出した。


「げへへへ・・・、運は俺に向いていたな。」



スッ!



「きゃあああああああああああ!」


男が尋常でない運動能力を発揮し、娘の背後に回り込みナイフを首に当てた。


「ぎゃはははぁあああああ!これで形勢逆転だぁあああ!」


「く!」


ゴウキが眉間に皺を寄せ厳しい表情をしている。


「残念だったなぁあああ!貴様が変な動きをすればこの娘の命は無い!娘を助けて欲しかったら抵抗せずに両手を上に挙げるんだな!」


「卑怯な・・・、貴様は武人として、いや、獣人の誇りすら無くしたのか!」


「黙れ!勝てばいいんだよ!どんな手を使ってでもな!勝てば正義なんだよ!」


男がニヤニヤしながら首に当てたナイフを更に喰い込ませる。


「私はどうなっても構いません!この悪党を倒すならば!」


娘が叫ぶと、男子が更にナイフを娘の首に喰い込ませる。

皮膚が少し切れて血が流れ始めた。


「うるせぇえええええええええ!そんなに死にたいのならすぐ殺してやる!」


グッと男がナイフに力を込めた。



「待て!」



ゴウキが叫ぶと両手を高々と頭上に掲げた。


「これでいいんだな?」


ゴウキが呟くと男が醜悪な笑みを浮かべた。


「ぎゃはははぁあああああ!本当に降参するってなぁあああああああ!天下の六輝星が甘くなったものだ!今の状態なら強化された俺だったら簡単に殺せるぞぉおおおおおおおおお!」


娘を手放し、ナイフをゴウキに向け一気に駆け出す。



ドスッ!



「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」



娘の悲鳴が響いた。


男のナイフがゴウキの腹に深々と刺さっている。


「げひゃひゃひゃぁああああああああ!俺は最強なんだよ!六輝星も俺の足元にも及ばないんだ!」


下品な笑いが辺りに響く。








「それで?」








「へっ?」






ゴウキの冷めた声と間抜けな男の声が響いた。



「ど、どうして平気なんだよ?」


男がブルブルとナイフを握った手を見ている。


「闘気も纏っていないナマクラなナイフが俺に通用するはずがないだろうが。よく見てみろ、ナイフなんか1ミリも刺さっていないからな。」


ゴウキの言った通りナイフはゴウキの強靭な体を突き刺す事が出来ずにいた。

男がナイフを手放しガクガクと震えている。


「さて、ここまでやってくれたからな。覚悟は出来ているよな?」


ポキポキと拳を鳴らし嬉しそうな表情でゴウキが男の前に立った。


「あひゃひゃひゃぁぁぁぁぁ・・・・」


男が恐怖からか訳の分からない声を出し半ば放心状態で震えている。



「もう一回!人生!やり直せぇええええええええええええええええええ!」




ドキャァアアアアアアアアアアア!



ゴウキが男の顎に下から掬い上げるような豪快なアッパーを叩き込んだ。



「あばぁああああああああああああああああああああああああああ!」



キラッ!



長い悲鳴を上げながら男は大空へ打ち上げられ星となった。




「つまらない男を殴ってしまったな・・・」


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