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321話 (閑話)その頃のデミウルゴスさん

SIDE  デミウルゴス



「ありがとうございました~~~!」


(ふぅ~、疲れたわぁ~~~~~~)


今日のお客はこれで終わりね。


それにしても、このお店はとてつもなく繁盛しているわ。

朝の開店から今現在の閉店間際まで、お客が途切れないのは素直に凄いと思う。


私は空になってしまった棚を見てしみじみと思った。


「これだけ美味しいと繁盛するのも当たり前だわ。」



「お疲れ様、疲れたでしょう?そんな時は甘いものが一番よ。」


そう言ってローズマリーが私にあんパンを渡してくれる。


このお店の看板商品でもあるこの『あんパン』だけど、どれだけ食べても飽きないのよね。

食べ過ぎると太ってしまうと分かっているのに止められない。

このパンはアンジェリカが考案したと聞いているけど、あの子の料理のセンスは尋常じゃないわ。

あれだけ美味しい料理を作るから料理に目が行きがちだけど、それ以外にも普通に侍女がやるような掃除などの雑用も進んで完璧にこなしてしまうのね。

私は男を虜にする種族サキュバスだし、しかも最上級のクイーンよ。

サキュバスと言えば魅了と連想されるくらいだけど、私は魅了以外にも私自身の女子力もかなりのものだと自負しているのよ。

料理、裁縫など何でも来い!いつでもお嫁さんになっても大丈夫!

そんな自信が、あの子の前ではガラガラと崩れてしまったわ。


『パーフェクトなお嫁さん』


それが彼女なんでしょうね。


元魔王の娘とはいえ、実質はお姫様なのにどうして家事力が天元突破しているの?

普通のお姫様は家事なんて何もしなくていいものよ。

身の回りを世話をする侍女や召使がいるのが普通なんだし、その人達に任せて何もしないのが当たり前なのよ。

それなのに、全ての家事がこなせるお姫様なのよね。


(ふふふ・・・)


私のライバルとして越えなければならない壁ね。

絶対にあの子よりも完璧に家事をこなしてダーリンの1番になってあげるわ。


(負けられないから!)



それと、私のライバルがもう1人いるのよね。



「ローズマリー様!そんな体で動き回ってはいけないです!」


エミリーとか言う女が彼女へと駆け寄ってくるわ。


「大丈夫よ、エミリー、今はまだそんなにお腹が目立っていないからね。少しは運動した方が良いってラピスさんやソフィアさんも言っているでしょう?あなたは心配し過ぎよ。」


「し、しかし・・・」


そうなのよね。


ローズマリーが私達ダーリンのお嫁さんの中で1番最初に妊娠したのよ。

あの戦いの後、私はダーリンと結ばれて、晴れてお嫁さんの仲間入りになれたの。

ダーリンの子供を授かるのは私が1番になりたかったのに・・・


(でもねぇ・・・)


目の前にいるローズマリーを見ていると、不思議と嫉妬の気持ちが湧かないの。


私はサキュバス・クイーン、自慢じゃないけど全ての男をも虜に出来る存在なのよ。

魅了のスキルなど使わず、私のこの美貌だけで男を骨抜きにする自信があったわ。


そんな私の自信は彼女を見て脆くも崩れ去ってしまった。


たかが人族なのに私よりも美しいなんて・・・


彼女こそ美の女神に愛された存在ね。

そんな存在を前にして私の浅ましいプライドなんか粉々に砕けてしまったわ。


実際に・・・


今、私はダーリンの実家にあるパン屋で働いているけど、私よりもローズマリー目当てで来る客が多い事!

私目当てに来る客は男が圧倒的、いえ殆どね・・・

そんなのに、ローズマリーには私以上に男の客が来るし、しかもよ!同じくらいに女性客も滅茶苦茶多いのよ!

みんなローズマリーを見てうっとりした表情になるのよね。


(本当に敵わないわ・・・)



それと!


ローズマリーの助手として働いているエミリーもローズマリーに劣らず人気の子なのよ。


確かにかなり可愛い顔はしているけど、ダーリンのお嫁さん達に比べるとそこまでではないけどね・・・

それでも一生懸命に接客をして、少しずつ自分のファンを増やしていったみたいね。

本人は「ただ私を拾ってくれたみなさん為に頑張っているだけです。」とか言って、すごく謙虚なのよ。

本人から直接は聞いた事はないけど、かつて冒険者ギルドの受付嬢をしていた時にダーリンを虐めていたとね。

その虐めがバレてギルドを首になったけど、あのラピスがこの子は見込みがあると見抜いてこのお店に住み込みで働かせたようね。

生まれ変ったように謙虚になり頑張って、こうして実績も作り、今ではローズマリーの右腕の1人になるくらいになるなんて、ラピスの人を見る目はとてもすごいと思うわ。


神の一員である私が人を認めるなんて・・・



「私も丸くなったわね。」



思わず頬が緩んでしまったわ。


でもね、ここはそれくらいに気持ちが安らぐ場所なの。

魔神として生きていた時は、いえ、その前に起きたかつてのラグナロクの前でもこんなに心が落ち着いていた記憶は無いわね。

これがダーリン達が作ろうとしている世界、争いが無い世界なのね。




ありがとう、ダーリン・・・


それにみんな・・・



こんな私を受け入れてくれて・・・




(あれ?)


エミリーがそっとドアを開けて1人で外に出ていったわ。


気が付いたのは私だけ?


いえ、チラッとローズマリーを見ると、彼女も気付いたようで、私と目が合うとコクンと頷いたわ。


「ちょっと様子を見てくるわ。」


「頼むわね。何か思い詰めた感じだし、こっそりとお願いね。」


「分かってるわよ。」


そう言って、私は裏口に周り勝手口から外に出たわ。

ローズマリーも気付いていたようだけど、エミリーの表情はいつもと違っていたわね。

少し思い詰めていたような感じだったわ。


気配察知をするとすぐに反応があったわね。


(おや?)


エミリーの反応以外に2人の女の反応があったわ。


(どういう事?)


そう遠くないところにいるし、気配を遮断するステルスのスキルを発動させた。

これならすぐそばにいても普通の人間ならまず気付かれる事はないのよ。


私の身体能力ならすぐにエミリー達の近くまで移動出来たわ。

何か話し声が聞こえる。


(どれどれ、どんな話をしているのかな?)




「エミリー!いつになったら勇者様を私達に紹介してくれるのよ!」


「そうよ!あなたはあの勇者様の実家に住み込みで働いているのよね?私達がギルドを辞めてあそこで働きたいとどんなにお願いしても、従業員は増やせないって言われているのよ。」


「あんたはかつて勇者様を虐めていて、それでギルドをクビになったのに、どうしてそんなあんたがそこで働いているのよ!」


「ちょって可愛いからって、その体で勇者様を誘惑したの?」


「私達はあんたの先輩だったし、もちろん私達の言う事を聞いてくれるよね?」


「だから、私達を勇者様に会わせて欲しいって何度も言っているでしょう?どうしていう事を聞かないの?」



(そういう事ね・・・)



ダーリンは今では世界を救った英雄になったからね。

世界中の人がダーリンに会いたがっているのは分かるわ。

ダーリンと縁を結びたい、あわよくばダーリンのお嫁さんにでも・・・


そんな事になるのは分かっていたから、このお店はソフィアの結界で守られているのよね。

このお店はダーリンの生家だし、最初の頃はダーリン目当てでとんでもないくらいに人が殺到したわ。

こんな情報どこで仕入れてきたの?と思う程にあっという間にダーリンのお店が観光スポットと化した。


そうなると・・・


邪な気持ちで来る人も必ず出てくるのは仕方ないわ。


帝国の魔人の残党に襲われそうになった事もあるし、ダーリンの『お嫁になろうツアー』で大量の求婚者が殺到した事もあったわね。そんな企画をするのもアホらしいけど、実際にやってしまったから人間の欲ってすごいと実感したわ。


そんな状況になると事前にみんなが分かっていたから、ラピスとソフィアが共同で結界を開発したのよね。

どんな原理か分からないけど、さすがはフローリアが認めた2人ね、もう私達神の域に入っているのは間違いないわ。

私もあの2人に負けないように頑張らないとね。

その結界は普通なら誰でも気付かずに通れるけど、ダーリンや私達に対して邪な考えを持っていると結界に弾かれ、お店の中には入れなくなるのね。

あの2人もその結界でお店に入れなくてエミリーを呼び出したのかしら?

それか、エミリーがパンの配達でギルドへ行っている時にその場でしつこく言ってきたのかも?

多分、そうでしょうね。



あら、ちょっと考え事をしていたらエミリーから目を離してしまったわ。



(何よ!これ?)



エミリーがあの2人の前で土下座をしているわ。


「勘弁して下さい!レンヤさんには既に奥様が何人もいますし、どの奥様達も深く愛情で結ばれています。そんなみなさんのお邪魔をしたくありません!ですから、何度言われてもあなた方にレンヤさんがお会い出来るよう、私からの口添えをするのは無理です!何度言われようが、私はあなた方を紹介する気持ちはありません!」



「生意気よ!」



(あっ!何て事を・・・)


土下座しているエミリーの頭を足蹴にするなんて・・・

同じ女として許せないわ。

だけど、エミリーが耐えている間は私も我慢ね・・・

いま、私が飛び出してしまえばエミリーの我慢が無駄になってしまうわ。


「私達がどんなに頼んでも言う事を聞いてくれないのなら・・・」


2人が醜悪な笑みを浮かべたわ。

何かろくでもない事を思いついたようね。


「そう言えば、あんたの受付嬢時代に可愛がっていた後輩がいたわよね?」


ピクッとエミリーの肩が震えたわ。


「あの子がどうなるか?私達2人がちょっと可愛がってあげてもいいのよ。ふふふ・・・、あんたがかつて勇者様が無能と呼ばれていた頃にやっていた虐めをしてあげるだけよ。」


「きゃはははぁあああああああああ!あの勇者様ですらあの時はあんたの虐めに耐えきれずにこの街から出ていったわよね?それと同じくらい、いえ、それ以上に虐め抜いてあげようかしら?いくらあんたが心を入れ替え真面目に頑張ったと周りが言ってもね、あんたがやった過去は消えないのよ。」


「や!止めて下さい!彼女には何の関係もありません!やるなら私を!どんな事をされても私はどうなってもいいので!彼女には手を出さないで下さい!」


「何を今更いい子ぶっているのよ。ギルド一の悪女がねぇえええええええええええ!」


エミリーの頭を踏みつけている女が更にエミリーの頭をグリグリと地面へ押しつけている。


(もう無理ね・・・)


ステルスを解除し彼女達の前に姿を現したわ。


「な!何よ!」

「いきなり現れて!私達をどうするの?」


キャンキャンと犬のように吠えるし煩いわね。


「黙って頂戴!」


ジッと私は2人と目を合わせた。


すぐさま2人はピクンピクンと小刻みに震え、頭を掻きむしりながら涙を流し始めた。


「止めて!止めてぇええええええええ!」

「許してぇえええええええええ!」


ふふふ・・・


いい夢を見れたかしら?


ガクガクと震えながら膝から崩れ落ち、股間には粗相をしたのだろう、びっしょりと濡れている。


恐る恐るエミリーが頭を上げ、発狂状態となった2人を見つめていた。


「な、何が?」


すぐに私に気付いたようね。


「デミウルゴスさん!何があったのですか?」


「さぁ?いきなり大声が聞こえたから駆け付けたけど、私にも何が何だかサッパリよ。」


「そうですか・・・」


多分だけど、エミリーは私の仕業だと感づいているようね。

でもそれは言わないでおくわ。


「エミリー、大丈夫?」


今度はローズマリーが現れてエミリーに声をかけているわ。


「ローズマリー様!」


泣きながらエミリーがローズマリーに抱きついているわね。

私と違うのはちょっとショックだけど、それだけエミリーはローズマリーの事を心酔しているのね。


「私・・・、ここにいてはみなさんの迷惑ですか?」


「そんな事はないわよ。あなたは本当に頑張っているからね。それはみんな認めているし、あなたに害するものは私達が全て排除してあげるわ。だから安心してここにいてね。」


ローズマリーはニッコリと微笑むと、またしてもエミリーは泣き出してしまったけど、その表情はとても嬉しそうだったわ。

どうやら安心したようね。


すぐ後に、ただならぬ気配を感じてか、ダーリンの母親が出てきてエミリーを家の中へ連れていった。


私とローズマリーが残って廃人と化してしまった2人を見ている。


「これが魔神が使う邪眼・・・、ラピスさんに聞いたけど私の邪眼とは比べものにならないわ。エミリーを助けてくれてありがとうね。」


パチンとローズマリーがウインクをしてくれたけど、それが様になっているのよね。

私でもここまでカッコ良く出来ないわ。


「いい夢を見させてあげただけよ。本人の心の中で一番嫌だと思う事を永遠にね。それを引き出せるのが私の邪眼よ。一瞬だけど永遠とも思える程に続く地獄、これで心が壊れない人間はいないわ。」


「私達の家族に手を出すとどうなるか?私はレンヤさんみたいに甘くないわ。やるなら徹底的にね。」


ローズマリーがとても冷たい目で地面で頭を抱え震えている2人を見ている。

その気持ちは私も同感よ。


このままお店の前に放置していても面倒なので、ローズマリーの提案でギルド内に転移で送ってあげたわ。

誰か見つけてくれるだろうし、死ぬ事はないからローズマリーもああやって言う割には意外と優しいわね。感謝しなさい。まぁ、もう2度とお店に近づけないように、近くに来るとあの恐怖が蘇るようにしておいたからね。うふふ・・・



次の日


あれだけの事があったのにエミリーはまるで何も無かったかのように元気に働いていたわ。

おでこの絆創膏が少し痛々しいけど、後でソフィアが治癒魔法をかけてくれる予定なので、傷も残らないから安心して。



エミリー・・・


あなたはダーリンに酷い事をしたと後悔して、その償いの為だと思って頑張っているみたいね。


大丈夫、あなたの頑張りはみんな認めているわ。

そう遠くないうちにあなたも私達の家族になれると思う。

ローズマリーはもう認めているみたいだしね。





私のように幸せになりなさい。


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