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319話 獣王国へ①

「とは言ってもねぇ・・・」


アンが少し困った顔になっている。


「どうした?」


「いえね、あれだけ見栄を切ったのはいいのですが、今のこの船の現状ではまず獣王国に行くことすら無理でしょうね。私達だけならティアに頼ればいくらでも行けますが、南大陸の伝手が無いので遭難間違いないですよ。」


(確かにな・・・)


この船ははるばる南大陸から海を渡って街の近くまで航海をしてきたからな。どう考えても戻るだけの物資は足りないのは分かる。

まずは街へ上陸し物資の補給と乗組員の休息をしないと、すぐに獣王国へ行くのはまず無理だろうな。

かつての帝国を倒した時のような陸路でもないし、俺達だけ頑張って後は転移で楽に往復する手も使えないだろう。


俺達よりも水夫が頑張ってもらわないと船は動かないならな。


「この船は大きさは違えど一般的な帆船ですし、港からの距離から考えても、私達がいた港に着くまで数日はかかるでしょうね。」



「主よ、心配するな。」



ずっと黙っていたティアがアンの前にやってくる。


「海の事なら適任者がいるからな。今、呼んだぞ。」


すごく自信満々な顔で海へ視線を動かした。



ゴゴゴゴゴゴォォォォォ



「何だ!」



熊が焦った表情で海を見ている。


その視線の先の海には巨大な渦が出来ていた。

さっきまでほとんど波もない静かな海だったのに、急に渦が出来る?


「の!呑み込まれるぞ!この海の上じゃ何も出来ない!兄貴!あんた達だけでも空を飛んで逃げてくれ!」


熊が必死に叫んでいるが、ティアはニヤニヤと笑っているし、あの渦も何か分かっているのだろうな。


「おい!悪ふざけも大概にしろ!」


(やっぱりだな。)


ティアが叫ぶと渦の中心に変化が現れる。


「そんな・・・」


キョウカ姫が豹額の表情になっている。


「まさかこの目で・・・」


ミヤビさんも同様な表情だ。


「刺身にしたら何人分かな?」


タマモがペロッと舌なめずりをしていた。



「「「おいおい!」」」



みんなが一斉に突っ込んだけど、熊がとても疲れた表情で額に手を当てていた。


「あのバカ・・・、剣と食い気以外に何もないのは変わらずか・・・」



渦の中心から現れてきたものは巨大で尻尾の先が見えない度に長い胴を持ったシーサーペントだった。


(普通とは桁違いに大きいからシーサーペント・キングかな?)


そのシーサーペントの頭の上にティアに匹敵する美女が立っていた。

東大陸の更に東方にある小国家の民族衣装である『着物』に似ている服を着ている。

その美女は海よりも深いミステリアスな青い艶のある光沢を誇る髪をなびかせ、優雅に微笑みキョウカ姫達を見ていた。


熊が食い入るようにその人物を見ているよ。

どうやら熊の好みにドンピシャのストライクだったみたいだ。


(これって本当の事を言った方が良いかな?)


「リヴァイアサンよ、元気そうだな。」


ティアがにこやかに微笑み声をかけたよ。


「リヴァイアサンって・・・、海神様?」


キョウカ姫が慌てて床へ片膝を付けた、その行動に続きミヤビさんとタマモも頭を下げる。


「確かに私は場所によっては海神と呼ばれることもありますね。でも、神って言われるのはどうもむず痒くて・・・」


何かとても照れているよ。

その仕草が熊のツボに嵌ったみたいで、赤い顔が更に赤くなっている。


「マズいな・・・、言い出しにくいぞ。」



「リヴァイアサンよ、このシーサーペントはどうした?これだけ大きい『クイーン種』と一緒にいるって、まさか?お前・・・」



(ん?)



今、ちょっと聞きなれない言葉は聞こえた気がしたぞ。


あのシーサーペントはクイーン種だって?

キング種か知らなかったけど、クイーン種っていたんだ。

雄と雌を間違えてしまって悪い・・・


・・・


(まさか?)


リバイアサンが雌のシーサーペントと一緒にいるってのは?


「ティアマット様のご想像通りです。ティアマット様のイチャイチャぶりに彼女が感化され、グイグイと迫られてしまって私達も結婚しまた。まぁ彼女なら私も悪くないと思いまして・・・、そして彼女はまだ人化の練習中ですので、きちんと人化が出来た暁にはちゃんと夫婦揃って挨拶をしに行きたいと思っていますよ。今はマーメイドまでしか人化が出来ていませんが、もう少しで完璧に人型に変化が出来る段階まで進んでいますから、そう遠くないうちにですね。」


やっぱりか!


そして、リヴァイアサンが男と分かった熊はどうか?



(あらら・・・)


完全に硬直してピクリとも動いていないよ。

石化魔法をかけられ石化の状態異常になった時と一緒だな。


「あ、あ、あ、あ、あ、あんなに華麗で美の女神にしか見えないお方が・・・、男・・・、しかも結婚・・・、俺は何を信じて生きていけば・・・」


うわぁぁぁぁぁ~~~~~、リバイアサンも罪作りな人だよ。

性別は男なのに見た目は超絶美人だからな。


まぁ、熊が勝手に勘違いしただけだったし、リヴァイアサンが悪い訳でもないし・・・



もう一度熊を見てみると・・・


全身が完全に石化して細かいヒビが入り始めているよ。

心のショックが体にも出てきたようだ。


バシ・・・、パシ・・・、パリィィイイイイイイイイイイイ!


(あぁぁぁ、粉々に砕けてしまったな。再起不能にならなければ良いが・・・」


あらら・・・、部下が元熊の瓦礫を掃除しているよ。

ここに置いていても邪魔なだけだし、隅っこの置いてもらえば助かる。

気が付けば復活しているだろう。



スタッ!



リバイアサンが優雅に甲板に降りた。


熊は完全に再起不能っぽいけど、他の獣人の男達は頬を赤らめていたりと、まだ女性扱いにしているようだな。


どう見ても魔性の女としか見えない。



「レンヤ・・・」



(ん?)


トワが呼んでいる。


テレサとトワは1つの体を共有している。

見た目の違いは髪と瞳の色と、額に角があるか無いかだけなんだよな。

声も一緒でアンやソフィア達は違いが分からないと言っていたよ。違いがあるとすれば口調だけだし、普通に会話しているだけでは全く分からないみたいだ。


しかし俺は・・・


「トワ、どうした?」


俺の言葉にトワがとても嬉しそうだよ。


「レンヤだけよ。私の事をちゃんと見分けられるのはね。絶対に間違える事はないのはとても嬉しいのよ。テレサがあなたにべた惚れなのも分かるわ。」


「たまたまだよ。それ以前に、テレサが俺の事を『レンヤ』と呼ばないしな。すぐに分かるよ。」


「何を言っているのよ。前に私とテレサで悪戯をした時でも、すぐに気が付いていたじゃない。」


「そうか?」


「私達はそんな細かいところが嬉しいの。テレサがちゃんとレンヤの特別な妹に見られていると思えるからね。テレサはそんなところが気に入って・・・」


「トワ、お前も俺の大切な妹だと思っているぞ。テレサだけじゃない、お前も俺の家族だからな。」


「レンヤ・・・」


トワがギュッと俺の腕を握ってくる。


「レンヤと巡り会えた第二の人生も悪くないと思う・・・、ありがとう・・・」



あらら・・・


今回のトワはえらく素直だな。


これはこれで可愛いトワが見られて良かったよ。


でも不思議なんだよな。

さっきの話じゃないけど、テレサとトワの違いはすぐに分かる。

目隠しをされてもな。

どこかで違いを感じ取っているのだろう。


今までは間違えた事は無いからいけど、万が一間違えたらどうなるか?


(想像するとかなり怖い・・・)



「話は戻すけど、かつての鬼神族の後始末を任せてしまうけど本当に大丈夫なの?」


「何を言っているんだ。あれだけヤバい物が出回ったらそれこそ世界中が争いに包まれるよ。アンが願っている世界の平和どころの話ではなくなるからな。」


アンやラピス達に視線を向けると、みんなが頷く。



「私もやり返すわ!」


タマモがズイッと俺達の前に飛び出してくる。


「私はアレのおかげで取り返しのつかない事をしてしまうところだったわ。いえ、お兄さま達がいなかったら私もおねえちゃんも今頃は死んでいたに間違いないわ。私の大好きなおねえちゃんにしてしまった事はもう事実・・・、だから、いくらキョウヤ様だろうが私はアイツを斬る!」


「タマモ・・・、私の兄のせいで・・・」


タマモの言葉にキョウカ姫がとても辛そうな表情だ。


それはそうだろう。

アレのおかげで仲の良い姉妹が殺し合いをしてしまったからな。

いくら当事者ではなくても、自分の家族がやらかしたのだから責任を感じない訳がない。


どのような形でトワの兄が蘇ったのかは分からない。


だけど、こうして獣王国との繋がりが出来てしまったのだ。


獣王国に巣食う悪意と戦う。

これはもうアンの中では確定になっているし、全員がアンと一緒に戦うつもりだ。

これが俺達の新しい戦い、そして、アンの望む平和な世界に続く戦いになるだろう。



「タマモ、そのキョウヤはどんな奴だ?」


フンスンと鼻息を荒くしてやる気になっているタマモには悪いけど、いろいろと教えてもらわなくてはいけない事が山ほどあるな。



「奴は俺が説明する。」


いつの間にか熊が復活している。

出番を盗られたタマモがブーブー言っているけど、ミヤビさんになだめられているよ。

これがあの姉妹の本当の姿だったのだな。

元に戻すことが出来て何よりだよ。


「奴は俺の憧れであり目標でもあった。間違いなく獣王国では最強だったよ。そして、鬼の封印を解いたのも奴だろうな。元々が銀狼族は鬼の封印を司る一族だったしな。それを何で奴が・・・」


熊の言葉にキョウカ姫がギリッと唇を噛んでいる。


「勇者様、先ほども言いましたが、兄は世界を手に入れる事を考えています。従わない国は武力での侵略もためらわないでしょう。何でそこまで無謀な事を考えたのか・・・、ですが、今の状態を見て分かりました。兄は鬼と手を組んだのに間違いありません。人を強制的に鬼にする外道の技までも使って世界の覇者になりたいなんて・・・」


「「姫様・・・」」


ミヤビさんとタマモがキョウカ姫に寄り添い抱きしめている。



「姫の言う通りジャキは死んではいないわ。正確にはジャキの魂がね。今の私のように魂だけが復活しているのでしょうね。私がテレサの体を共有しているのと一緒で、奴もキョウヤという男の肉体を乗っ取ったと思うわ。」


俺もそう思うな。


(それか・・・)


お互いの欲望が一致し肉体を共有しているかだと思う。


ジャキは争いが絶えない世界を望んだ。

キョウヤは覇道の為に争いを選んだ。


一族の使命を捨ててまで・・・




「みなさん、湿っぽい話はここで一旦打ち切りますよ。」


アンがパンパンと手を叩き全員の意識を自分の方へ向けた。


「ここであれこれと考えても堂々巡りになるだけでしょうから、この船は一旦港に入ります。みなさんも陸が恋しいでしょうし、休まれてリフレッシュしてから考えれば前向きな話が出来ると思いますよ。」


「し、しかし・・・、我々はあんた達の国に攻めようと・・・」


熊がとても恐縮した態度でアンに頭を下げているよ。

粗暴な奴だと思っていたが、一度気持ちを許せば案外話が分かる男のようだな。

周りの獣人も熊に対しては嫌々じゃなくてきちんと従っているから、熊も意外と部下からも人気があるようだ。


「では、今はどうなのでしょうか?」


「そ・・・、それは・・・」


部下の獣人達がジッと熊を見ている。

しばらくして1人が熊の前に膝まづいた。


「ゴウキ様、我々一同全員、ゴウキ様の指示に従います。」



「そうか・・・、お前達、後悔はしないな。国に戻れば反逆者の汚名を着せられても構わないのか?」



熊の言葉に全員が深く頷いた。



「分かった・・・」



熊が頷いた瞬間、熊がアンへ土下座をした。


「魔王、どうかお願いだ!我々獣王国を救ってくれ!あんな物を戦いに持ち込むなんて正気の沙汰じゃない!アレは全てを滅ぼす為の道具だ!もう奴は正気じゃないだろう。だから!頼む!俺達も一緒に戦わせてくれ!俺達の国を守る為にも!」






「分かりました。あなた方の意思、この私、アンジェリカが見届けました。」




「魔王・・・」

「「「魔王様・・・」」」



「さぁ!さっさと帰って歓迎会をしましょうね。新しい私達の仲間を歓迎しなくちゃね!ふふふ・・・、腕がなりますよ!」


とっても楽しそうにアンが微笑んでいた。


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