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318話 戦いが終わって

「その名も虚空閃・・・、存在そのものを無かった事にする剣・・・、もう永遠にあなたの存在は無くなったわ。」


アンがデスペラードを下げつい今までハヤテが存在していた場所から背を向ける。



「すごい・・・」


いまだに2人に耳を引っ張られていたタマモだったが、我を忘れたかのようにアンの姿を凝視していた。

俺に接していた時のように耳や尻尾がプルプルと震えていなく、ただ我を忘れたかのように呆然としている。

アンの技に心を奪われたようだな。


豹獣人やハヤテが消滅し船上には沈黙が訪れている。

六輝星以外の獣人達はこれ以上俺達と対立しても無駄だと分かったのだろう、誰も動こうとせず棒立ちになっていた。


(これでやっと終わりか?)


グルッと周りを見渡し状況を確認する。


さっきチラッと見たけど、ラピスは狸のような獣人と戦っていたんだよな。


改めてラピスがいた方へ眼を向けると、ラピス1人が立って俺へVサインを送っていた。


どうやら狸もちゃんとラピスが倒したようだ。


(六輝星は確か6人だよな?)


俺が助けた『タマモ』

俺が倒した『豹獣人』

アンが消滅させた『ハヤテ』

ラピスが倒しただろう『狸獣人』

テレサが倒した『ゾラ』


残りはソフィアが相手をしていた『熊獣人』



周りを見ると・・・



いた!



ソフィアがグッと親指を立てて、俺にサムズアップしているよ。


(どうやら完勝だったようだな。)


聖女とは真逆のバトルジャンキーのソフィアだから、あの熊程度では相手にもならないだろう。


熊よ、戦う相手を間違えたな。



フワリ・・・



「げっ!」


いつの間にかソフィアが俺の隣に立っている!

しかもだ!

拳をポキポキと鳴らしながらジト目で見ているよ!


「レンヤさん・・・」


すっげぇドスの効いた声がソフィアから発せられる。

聖女としてみんなから崇められている彼女がこんなのだと知ったらどう思うか?


それくらいの凶暴な殺気がソフィアから放たれている。


「何かとぉおおおおおおおおおおおおっても失礼な事、考えていた?」


俺は死を覚悟した。


しかし、ソフィアからの殺気が掻き消える。


「ま、今は許してあげるわ。後でちゃんと埋め合わせをしてね。」


パチンとウインクをしてくるが、ソフィアのおねだりは正直怖い。何を要求されるのか?


「兄さん、遊んでいる場合じゃないわよ。この流れからだと六星輝は全員が例のヤツに寄生されているのは確実なんだから、さっさと調べるわよ。」


そう、なぜか六輝星の気配を感じる。

強者独特の気配がな!


グルッと周りをもう1度見渡すと・・・



(いたぁあああああああああああああああ!)



さっきまでソフィアが立っていた場所にあいつが!



「先手必勝!」



ダン!



奴とはかなりの距離が離れていたが、俺もこの規格外メンバーの1人だ!

一瞬にして距離を詰め、奴のすぐ目の前に立ってグッと拳を握った。


「この熊ぁあああああああああああああ!くたばれぇえええええええええええ!」



ドォオオオオオオオオオオオン!



「ぐはぁああああああああああああああああああああ!」


熊が悲鳴を上げながら錐揉み回転で上空へ打ち上がった。


(ふっ・・・、決まったな・・・)



ドシャァアアアアアアアアアアアア!



「げひゃぁあああ!」


どこかの『〇ン〇にか〇〇』や超人的な破壊力を誇る拳闘士達が戦うような吹き飛ばされ方で、熊が頭から床へ「ドチャ!」という効果音が聞こえるかのように叩きつけられる。


「こいつが残っていたな。まだ浸食はされていないようだけど、どうかな?」


しかし、あの熊はヨロヨロと立ち上がり俺へと土下座をする。


(はい?)


あれだけ厚顔無恥な態度の熊が!

何があって180度も違う態度になったのだ?


「兄貴・・・、信用されないのは分かるが、俺は目が覚めた。姉御の強さと優しさで本当の強者はどんなものか?俺は思い知った・・・」


ガン!と土下座していた頭を床に打ち付ける。



(どういう事?)



状況が分からないし、ソフィアへと助けを求めたけど、そのソフィアも両手で大きく✕印を作った。


「私だってよく分からないのよ!ちょっとやり過ぎて大怪我をさせてしまって、不憫だから治したら懐かれてちゃってねぇ・・・」


う~~~ん、これは確かに弱った事態だよな。



ズズズ・・・



隣のテレサの雰囲気が急に変わった。


慌てて横を見ると、テレサでなく黒髪のトワが立っている。

どうやらこいつもトワ絡みの案件になるのだろうな。


「レンヤ・・・」


トワが金色の瞳で俺を見上げる。


「こいつは浸食されていないようだわ。アレは時間が経過すると発症するけど、それ以外でも寄生された宿主の生命に危機が及んだり、生命活動が停止すると自動的に強制発動するの。」


「そうなんだ。」


「だけど、コイツはソフィアにボコボコにされようが、レンヤに叩きのめされようが、発動する兆候は見られれないわ。信じられない事だけど、コイツだけアレを体に宿していないようね。」


「熊・・・」


「は!はい!」


「お前達六輝星の6人だけに何か特別な物を渡された事があるのかしら?」


トワが熊の前に出て質問をぶつけた。

今回の一連の騒動に関してはトワが一番話が分かるのだろう。


「は!はい!」


あらまぁ、素直に答えてくれたよ。


「おい!アレを!」


熊がソフィアの後ろに立っている部下だろう獣人に声をかけると、その獣人はトワへと走り寄って小さな透明なガラス瓶を差し出した。


「コレなの?」


「そうです!」


熊がブンブンと首を縦に振っている。


あの瓶の中には小さな黒い丸薬が入っているのが見えた。


「これは我等の主であるキョウヤ様からいただいた物です。魔導国は魔王が治める国だから一筋縄ではいかないだろうと・・・、コレを飲めば身体能力が大幅に上がると言われました。」


「でも、あなたは飲んでいなかったのね。」


「はい!この丸薬からは説明は難しいですが、何か得体の知れない雰囲気を感じ取ったもので・・・、それと、自分は強さには自信がありましたので、そんなのに頼らなくても、国の1つや2つ簡単に制圧出来るものと思っていたものですから・・・」



「だけど私にボコボコにされてしまった訳ね。」



スッと音も立てずにソフィアが近づいてきた。


「そ、それは・・・、申し訳ありません。白狼の名を受け継ぐお方に失礼な態度を・・・」


熊が恭しく床に片膝をつき深々と頭を下げる。



「白狼ですって!」



キョウカ姫が叫ぶと、獣人族全員が熊と同じような姿勢をとり深々と頭を下げる。


「な!何が起きたのよ!」


ソフィアがビックリしてキョロキョロと周りを見ているよ。


「キョウカさん、白狼ってどういう事なんです?」


アンがキョウカ姫の隣に移動し質問をしているよ。


「はい、白狼は私達獣人の先祖の一種族です、私達金狼族や銀狼族の祖先であると言われています。獣人族の中でも最強の力を持ち、かつてこの南大陸を恐怖に陥れた鬼を封じたとも言われています。その白狼様の縁のお方がいらっしゃったとは・・・」


そう言ってうっとりとした目でソフィアを見ているよ。


だけど、獣人全員からそんな目で見られているんものだから・・・


「ふぇ~~~~~ん!レンヤさん!助けてぇええええええ!」


少し涙目で俺に抱きついてくる。


「ふふふ・・・、無敵のソフィアさんも苦手なものがあったのね。」


マナさんがクスクス笑っていると、ラピスやシャル達もクスクスと笑っていた。


「もぉおおおおおおお!絶対に師匠を連れてこないとね、師匠が来たらどうなるか?国を挙げての歓迎会は間違いないでしょうね。師匠はそんなのは苦手そうだし・・・、ぐふふふ・・・、修行と称してどれだけ地獄を見せてくれたか・・・、絶対にお返ししてあげるわ。」


ソフィアが黒い笑みでケタケタと笑っているよ。


(見なかった事にしよう・・・)



「鬼・・・」



トワが難しい顔をしながら顎に手をあてている。


「鬼を封じたと言っていたわね?」


少し怖い顔のトワがキョウカ姫に視線を送る。


「そうです。」


キョウカ姫がトワに深々と頭を下げる。


「我々銀狼族は代々封じられていた鬼のいる社を守護する一族の末裔です。金狼族は万が一鬼が放たれてしまった時、再び封印を行う使命を持った一族であります。」



「そう・・・」



トワが鋭い視線でキョウカ姫を睨んだ。


「これで話が繋がったわ。」


いきなりトワがキョウカ姫へ深々と頭を下げた。


(どういう事だ?)


「次元の狭間に落ちて死んだと思っていたけど、この世界へと生き延びてきたみたいね。そして、あなた達の先祖は多分・・・、フェンリル族の戦士よ。アイツを逃がさないように一緒に次元の狭間に落ちたの。彼の尊い犠牲で神界には平和が訪れたけど・・・」


「テレサ様?そのお姿は?」


キョウカ姫が不思議そうな表示でトワを見つめていた。

タマモもジッと黙って見ている。


「私はテレサの体を借りた過去の亡霊よ。我が一族が迷惑をかけた事を心からお詫びするわ。」


「もしかして、そうなのか?」


そっと俺はトワ以外に聞こえないように囁くと、トワは俺の声が聞こえたのだろう。」


「レンヤの想像通りよ。」


そう呟いたのが聞こえた。


「テレサには伝えたけど、今回の黒幕は私の兄である『ジャキ』の仕業に間違いないわ。鬼と呼ばれているのはアイツが鬼神族だからよ。」


だけど、一つ疑問が出てきた。


遥か昔の神の世界での出来事がこの世界に影響を及ぼしたって事だと思うけど、いくら神だからって封印されてもそこまで長生きは出来るか?

そして、そのキョウヤという存在、守護者の一族が使命を捨てて世界統一を目指したって?



「私も合点がいきました。兄が無謀にも世界を相手に戦おうとしてしまった理由が・・・」


いきなりキョウカ姫がアンの前で土下座をした。


「アンジェリカ様!我が一族が申し訳ありません!薄々感じていたのです。兄が封印に手を出すだろうと・・・、それを止められなかったのは私達の責任です!」


「キョウカさん!」


アンが慌ててキョウカ姫に駆け寄り抱き起した。

しかし、キョウカ姫の瞳から涙が止めどなく流れている。


「あなたの責任ではありません!」


「し、しかし!」


今度はトワがキョウカ姫へと寄り添う。


「元々は私達一族の問題だったのよ。滅ぼしきれずにこの世界へと逃してしまった私達の責任。あなたが気にする事はないの。本来ならヤツの魂まで消滅させなくていけなかったのにね・・・、あなた達の世界に迷惑をかけてしまったわね。」


「いえ・・・」


今度はキョウカ姫がトワをジッと見つめる。


「決してあなた方達の責任ではありません。強大な力を手に入れた兄が力に溺れてしまった結果です。力は使う人により善にも悪にもなります。」


「そう言ってもらえると、私も少しだけ気が楽になるわ。」


そう言って、手に持ったビンを握り潰すと、掌の上には黒い小さな丸薬が乗っていた。


「これがあの寄生兵器の正体。」



「げっ!あんなのが私の体の中に・・・」


タマモが心底嫌そうな表情でトワの掌を見ていた。



黒い丸薬が少しプルプル震えると、液体のようにトワの掌の上で広がり波打っている。


「トワ、大丈夫か?」


俺の心配をよそにトワが微笑んでくれた。


「心配してくれてありがとう。油断さえしなければ大丈夫よ。」


すぐに視線を自分の掌に戻すと、例の黒い物体が激しく波打った。



シュゥゥゥゥゥ・・・



激しく蠢いていたが塵となって消え去ってしまう。


「これで終わりよ。この場はね・・・」


「そうだな・・・」


周りを見ると熊も含めて獣人達全員が呆然としていた。

今回の戦いはあまりにも無意味だったと理解したのだろう。



ザッ!



ミヤビさんとタマモ以外の獣人達がキョウカ姫の前に整列し土下座をした。


「あなた達・・・」


熊が頭を上げる。


「姫様・・・、ここにいる我ら全員が姫に付き従います!」


熊の視線をキョウカ姫が受け止めた。


「ゴウキ・・・」


2人が頷くと、今度は俺達の方へと向き直り、再び深々と土下座をする。

同時にキョウカ姫もミヤビさんもタマモも土下座をしてしまった。


今度はキョウカ姫が頭を上げる。


「勇者パーティーの皆様!散々の無礼、誤っても済む事ではありません!ですが、何卒お願い申し上げます!悪しき者から我が国をお救い下さい!どうか!」




「「「どうかぁあああああああああああああ!」」」




アン達全員が俺をジッと見つめている。


俺が頷くとみんなが頷いた。


だけど、ここは俺の出番じゃない。

俺よりも相応しい者がいるんだ。


俺がジッと見つめるとアンがゆっくり頷いてくれた。


アンがゆっくりとキョウカ姫達の前に立つ。


「魔王であるこの私アンジェリカが!我ら魔導国の盟友である獣王国の窮地に馳せ参じます!必ずや獣王国を救う事を約束しましょう!」


アンの凛とした声が響いた。


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